湖底のまつり (創元推理文庫) (創元推理文庫 M あ 1-3)
- 東京創元社 (1994年6月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488402136
作品紹介・あらすじ
●綾辻行人氏推薦──「最高のミステリ作家が命を削って書き上げた最高の作品」
傷ついた心を癒す旅に出た香島紀子は、山間の村で急に増水した川に流されてしまう。ロープを投げ、救いあげてくれた埴田晃二とその夜結ばれるが、翌朝晃二の姿は消えていた。村祭で賑わう神社に赴いた紀子は、晃二がひと月前に殺されたと教えられ愕然とする。では、私を愛してくれたあの人は誰なの……。読者に強烈な眩暈感を与えずにはおかない、泡坂妻夫の華麗な騙し絵の世界。解説=綾辻行人
感想・レビュー・書評
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読み始めると官能的な表現があり、単なる推理小説ではないと感じながらページを捲る。ここで既に泡坂妻夫のトリックに嵌っていたようだ。小説の紹介文にあるような、まさしく騙し絵の世界でした。著者の他の作品も読んでみたい。(本屋さんでなかなか見つからないのが残念)
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これは面白いミステリーでした。
ミステリーらしいミステリー。古典。
幻影小説なのかと思いきや…
時系列トリックかと思いきや…
紀子、晃二、粧子、緋紗子そして終章
各所に散りばめられた付箋はちゃんと掬い上げられて一つの線になっていく。しかもちっとも無理がない。
過疎化の進む村…怪しくも哀しい風習を受け継がれた祭り。
人は一瞬で恋に落ちる。
人は何度でも恋をする。
という大前提のもとがあってこそのヒューマンミステリー
2019.1.9
今年の2冊目 -
『妖女のねむり』と同じく、幻想的な雰囲気たっぷりのミステリです。
一晩を共にした人が、実は1カ月前に死んでいたという魅力的な謎とともに、自身の記憶と一致する部分もあれば、齟齬を感じるといった主人公の不安もこちらに伝わってくるようでした。
途中、明らかに意図的なデジャヴを誘う記述も、読者の目を廻す役割を担っています。
物語も後半に差し掛かると、怪しげな女性の目撃などで、より妖しい雰囲気が漂い始めます。
そして明かされる真相は、やっぱり妖しいものでした。トリックというよりは、イリュージョンを見せられた気分。右手に注目を集めておいて、左手で小細工をするような、まさにマジシャン泡坂妻夫らしい仕掛けです。
『妖女のねむり』に勝るとも劣らぬ傑作です。 -
幻想的で甘美な世界へ。死んだはずの人間に命を救われたという女性。導入部から心を掴んで離さない卓越した筆致に酔いしれる。紀子とは違い、あえて川の流れに身を任せて読んでいった。
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まんまと騙された!
新造のダムによって、湖に沈みゆく村を舞台にした本格ミステリ。
この村の景色や川や滝の描写が素晴らしい。
本当に有りそうにも思えるし、どこか幽玄な雰囲気も併せ持って、まるで旅しているような気にさせられた。
ダム誘致派の優良議員や反対派の運動とそこに飛び交う金。そんな政治的なかけひきを背景に、男と女の妖しくも濃密な情念が、この作品を立体的なものにしている。
そして、まさにその男女の交わりのシーンが、官能小説さながら!
エロい!!
そして、その目眩でくらくらする物語にはまっていると、作者の思う壺だ。
まんまとひっかかってしまうのだった。
日本にはこんなにも優れたミステリがあるんですね。
これがしばらく絶版だったとは。 -
失恋を機にある山奥の村を一人訪れた紀子は、川で溺れそうになった所を一人の若者に助けられ、彼の持ち家である空き家で一夜を共にする。
翌朝姿を消したその人・晃二を探すが、彼は一月前に毒殺されていた。
紀子が出会ったのは誰なのか。晃二は何故死んだのか。恋い慕う人を求めて突き進んだ先に何があるのか。
全般に散りばめられた官能的な描写が、眩暈と共に作者が描く騙し絵の中へと誘ってくれる。
今読むとどうしても時代の差を感じるけれど、お陰で閉鎖的な雰囲気と狂気の香りが増している。
章が変わる毎に驚き慌てて前章を読み返すのを繰り返し、まさかないだろうと早々に否定した予測をまさかの力技で実現されてしまった…。
古典の再販とは言え、結末に本気で驚くミステリーに出会ったのは久しぶり。