六の宮の姫君 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M き 3-4)

著者 :
  • 東京創元社
3.61
  • (229)
  • (286)
  • (501)
  • (55)
  • (14)
本棚登録 : 2807
感想 : 280
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413040

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 芥川龍之介にまつわる書誌学的ミステリー。
    文学部の学生でない私には難しくて、「私」が正ちゃんにドライブ中に熱く語る内容が頭に入ってこず、お恥ずかしい限り…
    でも結局このシリーズに共通の日常の謎、というか人生のあれこれが鮮やかに描かれる。
    今回も見方によっては、円紫さんの掌の上という感じがしてしまうけれど、あくまでも「私」が自分で試行錯誤し、卒論執筆や謎解きを通して、成長していく。将来への期待と不安に満ちたエンディングだと思った。

  • こちらは、北村薫さんに詳しい人ならご存知、
    いわゆる「円紫さんとわたし」シリーズの4作目です。
    1作目の「空飛ぶ馬」も、
    名作と名高い「秋の花」も、
    もちろん大好きなんですが、
    この作品で北村薫さんにハマり、
    ミステリの沼に片足を突っ込んでしまったと言っても過言ではありません。
    
    内容は、主人公「わたし」が卒論テーマとして選んだ「芥川龍之介」について調べていくうちに知ったとあるエピソードから「菊池寛」との謎のやりとりについて探偵していくというもの。
    北村薫さんが実際に卒論テーマとして書いていたものを下敷きにしているらしく、
    初読の時は
    「こんなミステリがあったのか!」
    と驚きました。

    あらすじだけ書いていたらめちゃくちゃ不思議なんですが、私、何度読んでももれなく号泣します。

  • 私が芥川作品であまり苦痛なく読むことができた作品を題名に据えていたから、なんとなく親近感を持って読んでいました。
    文学者たちの考えはやっぱりいまの私にはわからないけれど、それがすごく貴重なことだけはひしひしと感じますし、それってそそられる人にとってはとっても興味をそそられるなものなのだろうとも。ぶわっといろんなことが思い浮かんで、色々と考えさせられる作品でしたし、私の肌には合ったのかな、と思います。
    他人にお勧めするには少しテーマの入りが難解かな、とも思いました。

  • 遠い昔、北村薫を初めて知った作品。久しぶりに読んだが情報量に圧倒されながらも、言葉が綺麗で心地良く、磨き込まれた多面体の様にあらゆる角度から様々な色に心地良さを感じる。

  • シリーズを高校生の時分に知って気に入って、本書まで読み進めた時には、悲しいかな挫折してしまったのだけれど、時が経って作中で言及される作家の半分くらいは名前がわかるようにようやくなって、しみじみと「作家のこだわり、書かねば気が済まないこの」などを読後に想えるようになったことが嬉しい。
    芥川の「往生絵巻」と「六の宮の姫君」は岩波文庫の「地獄変」などが入っているやつに共に収められているので手に入りやすい。この2篇、予習してから読むべきかと思います。

  • 考證芥川為何會寫出六の宮の姫君,究竟是在回應誰?後來一路循線找到菊池寬,也兼談這些文豪之間的往來。這真的是我閱讀生涯裡極度奇特的一本書,令我更好奇的是送這本書給我的法文老師當初是為何會選擇這本書的。

  • ステリーが文学上の興味、探求だけ。そんなことで長編を一冊書いてしまうなんて北村薫という作家はすごい。もちろんシリーズお約束のほのぼの感はあふれていて、なお文学の話題が豊富満載、あきさせない。

    「六の宮の姫君」とは芥川龍之介の短編。主人公「私」が卒論のテーマに選んだ「芥川龍之介」をめぐってアルバイト先や旅先で関連したことに出会って、「六の宮の姫君」はなぜ書かれたかという謎解きが繰り出されるのである。

    私は筑摩書房の芥川龍之介全集(この本にも出てくる解説が吉田精一のもの)を持っている。が2巻までしか読んでいなかった。3巻から先は「トロッコ」とか「或阿呆の一生」など有名なものだけ。

    だから「六の宮の姫君」「文放古」「点鬼簿」を本文が進むに並行して読み、忘れていた「往生絵巻」を読み返した。このことも本好きにはたまらない喜びになる。

    文学謎解きから花開いていく華麗な相関関係「キャッチボール&玉突き」ほんとにほんとに面白かった!最後には相関図まである。(けっして色っぽいものではないけれど)

    この本を読んで思い出すのは松本清張の「或る『小倉日記』伝」。こちらは文学上現実の資料は後年に出現、清張は想像を膨らませて切々たる物語に仕上げて芥川賞(しかもご本人は直木賞と思っていたので当惑した)をもらった文学もの。

    その清張も「この人(謎の人物)」に憧れのまなざし色濃いんだよなー。この因縁!

  • 今回のは難しい!というもの登場人物が多く、史実に基づいている分、時系列と背景が理解できないと混乱していまい、何度もページを戻っては読み直しを繰り返した。
    卒論を作る過程を読んでるみたいだなと思ったら、まさかの北村先生の実際の卒論がモチーフだったとは驚いた。

    今回は円紫さんはヒントのみで、私が謎を明らかにするお話。
    本作のテーマは「価値観と許せないこと」

    芥川龍之介と友人菊池寛を中心とした当時の著名人たちの作品がたくさん引用されており、似非読書家な身分としては、ヘェ〜そんな作品もあるんだなー、、、みたいな感想が多かったが、出てくる作品は全部読みたくなるのは流石北村薫先生。

    純文学を読むときは、当時の時代背景や作者の考え方に、想いを馳せながら読みたいと思わせてくれた作品でした。

  • ■文壇の長老、田崎信はかつて芥川龍之介本人がこう語ったのを直接聞いたことがあるという。「あれ(「六の宮の姫君」)は玉突きだね。……いや、というよりはキャッチボールだ」。田崎信は架空の人物で芥川の言葉というのもフィクションなのだが、この謎めいた言葉がきっかけとなって、近代文学史の裏に隠された謎を解く冒険が始まる。端緒はフィクションだが追いかける謎は確固たる史実というのがとってもいい。今回はまさに知的で上質な歴史ミステリーなのだ。
    ■はい、ぼくは前回のレビューで『秋の花』を「シリーズ最高傑作」などと書きましたが、本書『六の宮の姫君』の方が上でした。お詫びして訂正しておきます。
    ■①1920年代――近代文学史を彩った、綺羅星のような偉大な作家たち。彼らの心の交流、確執、敵対心。とりわけ芥川龍之介と菊池寛との友情、因縁。
    ②197?年――学生時代の北村薫が芥川「六の宮の姫君」をテーマに卒論を書く。
    ③1992年――作家デビューした北村薫が自分の卒論をもとに傑作ミステリー『六の宮の姫君』を書く。この作品では主人公の”私”が探偵役として、芥川の「六の宮の姫君」に秘められた、芥川と菊池との意思のやり取りを明らかにする。
    ④199?年――ぼくが『六の宮の姫君』を読む。まるで学術論文みたいな形式のミステリーにびっくりする。
    ⑤2020年――ぼくが『六の宮の姫君』を再読する。ぼくは、芥川と菊池をはじめ文学に青春を捧げた作家たちの生き様、”私”の知的で軽やかで説得力がある推理、ぼく自身が卒論を書いていた頃の遠い遠い思い出に感動して胸がいっぱいになる。

  • この「私」シリーズでは推理作家協会賞を受けた「夜の蝉」の評判がいい。姉妹の心のふれあいが感動的だし《私》の周りの人たちも生き生きと魅力的だ。
    それでもこの「六の宮の姫君」が一押しだと感じた。多分読み方の姿勢がちょっと変わってきたからだろう。

    《私》は出版社でアルバイトを始めていて、4年生になって「芥川」についての卒論に本腰を入れ始めた。
    切っ掛けは、芥川が「あれは玉突きだね。……いや、キャッチボールだ」と芥川は言ったという。
    素材になった「今昔物語」を読んで今風のその言葉は謎だった。
    《私》はそれが気になった。その疑問を解くため円紫師匠に相談し、全集を出すことになった現在の文壇の長老と知り合い話を聞く、そして古書店で評論や、芥川の周辺に人物の生活を知り芥川の日常を推理する。芥川が「六の宮の姫君」を書く切っ掛けを探す。

    《私》のこのあたりの話は、実際に北村さんが書こうとした卒論の体験だそうだ。だから当時のそうそうたる文豪の作品や交流について詳しい。関係のある作品についても語っている。

    特に「往生絵巻」が興味深い、悪事を尽くした五位の入道が、阿弥陀様を慕って「阿弥陀仏をや おおい、おおい」と叫びながら西に進み、ついに松の枯れ枝の上で死ね」それを芥川が書き、死人の口に白蓮華が咲いたとした、それを正宗白鳥はありえないという感想を書いた。それに芥川は手紙を書いたが、白鳥は譲らなかった。
    《私》は芥川は遊びだったかもしれないが白蓮華が咲くと信じたい人だったと思う、がその小説についての吉田精一、宮本顕治の意見を紹介している部分は読みごたえがある。
    「姫君」については、芥川が「私の英雄」と慕っていた菊池寛が「首縊り上人」を書いた。菊池は手を切られても足を切られても生に固執する三浦右衛門の最後をかいた。それが人というものだと。
    芥川のは自分が創造した五位の入道の最後を菊池は、心のうちの美しいものを足蹴にしたと思った。そして「六の宮の姫君」を書いた。狂った姫は死にぎわに仏の名を呼ぶことさえ出来なかったという話だった。「上人」の話は芥川の表の顔「姫君」は裏の顔だった。
    そして菊池と芥川は次第に疎遠になっていった。
    菊池寛についても、文藝春秋創設当時から直木三十五とのつながりで、芥川賞、直木賞を作ろうと菊池寛が言うところもある。
    今、文豪と呼ばれる 谷崎、川端、佐藤春夫、萩原朔太郎、」山本有三、志賀直哉などなど。多くの人たちが芥川とかかわり、死後も当時の様子を書き残している。《私》の調べる道筋に同行して推理するのは面白かった。

    小説や評伝など参考資料にしたとある書名だけでも、読み甲斐があったと思う。

著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

北村薫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×