ロートケプシェン、こっちにおいで (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488423124

感想・レビュー・書評

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  • ○ 総合評価 ★★★★☆
     相沢沙呼お得意のスクールカースト,学校世界でのいじめをテーマにしたミステリ。日常の謎系のミステリではあるが,明るいテーマではなく,やや重いテーマの作品。トモという少女がユカという少女のことが好きでありながら,集団から孤立しないようにユカのことを裏切る。構成としては,プロローグと各章のRed Backの部分の視点人物,ユカという人物に好意を持っていながら,集団から孤立しないように振舞っているこの人物(トモ)が誰なのかについて,叙述トリックが仕込まれている。普通に読んでいると,この視点人物が,文芸部の冊子「十字路」に「霧の向こうのロートケプシェン」やネット上での小説の作者であり,学校に来なくなっている「井上さん」であるように思える。しかし,読み進んでいくと,この視点人物は明らかに井上さん以外の人物であることが分かってきて,混乱が生じる。実は,この視点人物は,アウトオブサイトじゃ伝わらないで主役級の役割を当てられてる人物であり,織田さんがトモであると予想することは難しいと思う。。そう分かってみるといろいろと伏線がある。織田さんの名前を文芸部の部長の谷口さんが知っていること(44ページ),少し前からぽつりぽつりと欠席しているという部分(287ページ),最後に酉乃初も指摘しているが,エスティメーション(原稿用紙の枚数が30枚であることを指摘したこと)など。とはいえ,織田さんがトモだと予測することは困難。ここは純粋に驚くことができる。なかなか優れた呪術トリックといえる。
     しかし,その明かし方が,そこまでサプライズを演出するものになっていない。最後のひびくリンキング・リングで,学校に来ていない井上さんが,トモではないことが少しずつ分かる。これまで視点人物=トモ=井上さんだと思っていたが,視点人物=トモ=?となり,井上さん=ユカという図式になる。ではトモは誰か?そのミスディレクションがない。最後のひびくリンキング・リングを読んでも,一読では分かりにくかった。えっ?織田さんがトモ?どういうこと,それはおかしいのでは?と感じてしまった。それほど,Red Backの登場人物=織田さんというのがしっくりこない。外での振舞いと内面は違いすぎるというのもあるが,「ユカリが言うには、1年生が書いているらしいけれど…たしか井上って子」という香坂という人物の発言も,登場人物の発言なのでアンフェアではないのだが,うまいミスディレクションとは思えなかった。織田さんの名前は「アカリ」だが,燈と書いてトモと読めるから,トモというあだ名になっているという部分や,井上友子は「ユーコ」で,織田さんからは「ユカ」と呼ばれているなど,伏線というよりこじつけ感を感じる。これに対して,Red backの視点人物が,井上さんであるようにも読める仕掛は巧妙。「霧の中のロートケプシェン」という小説の悪口を言われているときの視点人物の対応・感情が,自分が書いた小説を悪く言われている反応なのだが,井上さんのプロフサイトからのリンクでバレており,井上さんが作者と思わせるミスディレクションになっている。
     評価としては,やられたと感じるほどの傑作ではないが,玄人っぽい叙述トリックを楽しめる,ちょっと重めの日常の謎系ミステリとして秀作。評価としては★4で。

    ○ アウトオブサイトじゃ伝わらない
     カラオケ帰りに寄ったマクドナルドで,急に不機嫌になtった織田さんが帰宅する。真相は,織田さんが好きだった城山先輩が香坂先輩が机の下で手をつないでいるのを見てしまった織田さんが,自分が失恋したことで不機嫌になったとう話

    ○ ひとりよがりのデリュ―ジョン
     須川が三好から預かった写真集を入れた封筒が笹本さんという女子が持っている封筒と入れ替わる。しかし,その封筒がどこかに行ってしまった。
     真相は,笹本さんが恥じを書かないように柿木園さんが封筒を入れ替えていた。

    ○ 恋のおまじないのチンク・ア・チンク
     バレンタインデーでもらったチョコが教室の机に集められる。なぜこんなことが起こったのか。真相は,転校していく小岩井君が,自分にチョコレートを贈ったのは誰かを調べるために行っていた。

    ○ スペルバウンドに気をつけて
     須川の友達である児玉がバイト先で知り合った「上条茜」という女性の連絡先などを知ろうとする。実は上条茜は偽名。児玉とバイト先で一緒だったのは笹本さん。笹本さんは,井上さんが書いたと思われていた小説の登場人物の上条茜に憧れていた。書いていたのが井上だと思い,落胆して,井上さんの携帯から全てのアドレスを消して,アドレスを代えたという偽のメールを送っていた。

    ○ ひびくリンキング・リング
     これまでの作品でRed Backとして書かれていた部分の視点人物が織田さんであることが分かる。織田さんは,トモというあだ名があり,ユカが井上さん。あかずきんこというペンネームで小説を書いていたのも織田さん。井上さんは,織田さんの友達で織田さんの小説が好きだった。これまで小説の中では織田さんは無邪気にふるまっていたが,実は心中では井上さんが学校に来なくなったことで悩んでいたというサプライズがある。
     

  • 読み終えて、まだ、誰が誰のことなのか掴み切れていないが、一つ一つの短編は面白くて、心地よい読後感がある。
    意地悪な気持ちから生じる不幸な出来事もあるが、須川君や初の前向きな姿勢が、それを振り払う。
    後半、初のギャグが減ってきたのが残念。
    ユニークな登場人物が、さらに活躍するところが見たい。

  • 【あらすじ】
    せっかくの冬休みなのに、酉乃初と会えずに悶々と過ごす僕を、クラスメイトの織田さんはカラオケへと誘う。当日、急に泣きながら立ち去ってしまった彼女にいったい何があったの?学内では「赤ずきんは、狼に食べられた」と書き残して不登校となった少女を巡る謎が…。僕は酉乃に力を借りるべく『サンドリヨン』へと向かう。女子高生マジシャン・酉乃初の鮮やかな推理、第二集。

    【感想】

  • 高校を舞台にしてマジックを絡めたコージーミステリーのような作品ですが、この年代ならではの感情の機微が丁寧に、かつ研ぎ澄まされた言葉で綴られている。
    読んでいて苦しくなる箇所と、心が温かくなる箇所の落差とバランスが魅力です。

  • (内容)
    せっかくの冬休みなのに、酉乃初と会えずに悶々と過ごす僕を、クラスメイトの織田さんはカラオケへと誘う。当日、急に泣きながら立ち去ってしまった彼女にいったい何があったの?学内では「赤ずきんは、狼に食べられた」と書き残して不登校となった少女を巡る謎が…。僕は酉乃に力を借りるべく『サンドリヨン』へと向かう。女子高生マジシャン・酉乃初の鮮やかな推理、第二集。

  • 冴えない男子高校生と、探偵役の美少女マジシャンの二人の関係を中心とした、高校生活舞台の青春ミステリ続編。主人公はすごく焦れったくてもやもやするけれど、着実に成長している感じはうれしい。
    連作短編で、一つ一つの話のミステリ要素は軽めですが、毎回奇術の話題が出てくるのが面白い。一冊通しての大掛かりな仕掛けもあり伏線は丁寧でよかったですが、ラストの繋げ方が少しだけ強引に感じました。
    一冊を通していじめをテーマにした物語があり、いじめを周りで見ている側の気持ちにすごく共感するところがあってしんどかったですね。
    恋愛も友人関係も、心のすれ違いをきちんと自分で縮めていかないとダメなんだなあ。重いところもありながら暖かいいい話でした。

  • 酉乃さんシリーズの2作目。綺麗にまとまってました。良かったです。次回も期待。

  • 《酉野の魔法にかけられたい。続》

    〇〇トリックなんだろうなとわかっていながら騙された。
    短編ごとの謎。
    大きな謎がひとつにまとまるカタルシス。
    最後まで読みまた1から読むとすごい!

    周りにいる楽しそうな人悲しそうな人つまらなそうな人、人ひとひと。
    表面ではわからないことっていうのはどの年代でもあるけど、顕著なのはこのくらいのころなのかな。
    いつまで同じことで悩んでるんだと思わないでもないけど、悩むのは考えている証拠で、誠実な人柄で、問題尽きない世代なんだなぁ。

    そして、須川くん、いつまで恋愛パートにいかないつもりなんだぁぁぁあああ。

  • すべてが作中に書かれている作品なので、特に語ることがありません。須川くんは他力本願なことろが減って、順調に人間性が育まれている様子で安心しました。
    次は、男として成長した姿を見せてくれることを期待したい。

  • AKBの高橋朱里がヒロインのイメージに合う気がする

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著者プロフィール

1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。『小説の神様』(講談社タイガ)は、読書家たちの心を震わせる青春小説として絶大な支持を受け、実写映画化された。本作で第20回本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい!」2020年版国内編第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング第1位、「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリー、2019年「SRの会ミステリーベスト10」第1位、の5冠を獲得。さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補となった。本作の続編となる『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社)も発売中。

「2022年 『medium 霊媒探偵城塚翡翠(1)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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