七つの海を照らす星 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488428112

作品紹介・あらすじ

家庭では暮らせない子どもたちの養護施設「七海学園」で起きるささやかな事件――繊細な短編群が大きな物語を創り上げる、第18回鮎川哲也賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 児童養護施設「七海学園」で働く春菜が七海学園で伝えられている七不思議を解き明かす短編集。
    7つ目の話で、そうだったのか!そう繋がっていたのか!と青天の霹靂だった。

    海王さんがいつも「あの子は本当にいい子ですね」と言っていたが、海王さんのように心から子供の事を考え、内面をちゃんと見て子供と向き合っていると、本当は世の中悪い子なんていないんだろうなぁと。

  • 家庭では暮らせない子どもたちの施設・七海学園で起きる、不可思議な事件の数々。そこで働く保育士2年目の春菜と謎解きを大きく助けてくれた児童福祉司海王。

    第18回鮎川哲也賞受賞作にしてデビュー作ですが、プロ作家の別ペンネームなのでは――?そう疑われたという程の完成度。
    構成から登場人物からミステリまで、すべての完成度が高い。児童福祉に造詣が深くて、かといって子どもたちにも寄り過ぎず、絶妙なバランスで描かれたこの世界、本当に素晴らしかったです。

    扱っている題材は重たいものです。
    それが、海に近い田舎を舞台に、心地いい風を自然を感じつつ繰り広げられ、暗くなり過ぎない。思わず夢中になって読みました。暗くなり過ぎないのは、希望も同時に散りばめられていたから。

    殺人事件とは違う日常ミステリ。
    「いつも全部の謎が解けるとは限らない。不思議なことは不思議のまま残しておいてもいいんじゃない?」という言葉も好きでした。日常において、その感覚は大事な気がする。

    ミステリであると同時に、保育士2年目の春菜の成長物語でもあります。当初は「児相なんて」と抱いていたマイナスの感情、学習より前に1番基本の『生活』を落ち着いてできる力をつける方がずっと大事だと信じて疑わなかった純粋さ、人との関わりや目の前の現実と向き合う中で少しずつ変わっていく考え。そこもまたすごくよくて。

    それから天才的なまでに美しい回文。
    文字遊び、というんでしょうか。上から読んでも下から読んでも同じ、という言葉作り。私はせいぜい5文字程度のものしか作れないかもしれない…こんな美しく、状況に合わせたものを作り出せるなんて、と何度感動したかわからない。

    空に輝く星みたいに、一見わからなくても、名前がないように思えても、その1つ1つがきちんと輝く星。
    それらが繋がり星座になる。
    最後まで読み終わってまたこの作品の全体としての素晴らしさに気づかされる。余韻も残り、この本のおかげで、いい休日が過ごせました。続編があって嬉しい。読むのが楽しみ。

  • 鮮やか。最後の章を読むとパーッと明るくなった感じでした。そうきたかーって。
    タイトルに表紙絵に作者名だけ見るとラノベっぽいけど、全然そんなことはなく(まあ、ラノベの定義もよくわかりませんが)。流行り言葉で言うなら、人が死なない日常ミステリ系とでも言うのでしょうか。
    この作品、中身的には「和菓子のアン」に雰囲気が似ていますね。主人公はるのんがアンちゃんみたいな感じで。女性ですが、なかなかサバサバした性格で、おかんとのやり取りとか面白く。また、子供たちそれぞれの境遇は明るいものではないけど、はるのんの表現が暗くなることなく話に入り込める感じです。
    舞台は児童養護施設、七海学園。様々な事情により家庭では暮らせない子供たち。学園7不思議になぞらえた事件というか出来事。ただ謎解きされるだけではなく、謎解きが子供たちを救うというか希望みたいなモノが感じられます。そしてただ謎を解くのではなく、敢えて不思議は不思議のままにしておくとか。ここら辺も「和菓子のアン」と同じだなーと思って。「解かれなくてもいい謎」の椿店長とか。


    以下ネタバレ。未読の方は絶対に見ないように。
    とにかく最後の7章がもう、ホーッて感じ、まさか野中佳音が小松崎直とは。あー、そんな展開持ってきたんだー、と感心。そして本人自らのタネ明かし。まさか7人の姫、すべてだったとは。佳音の心情の吐露がつらい。でも、そこで良い保育士さんに巡り合えて、なんとか立ち直って、主人公北沢春菜と共に過ごすやり取りに明るさが灯ります。

    解説にもありますが、児童養護施設が舞台ということで、社会派のような括りに見えたり、ミステリミステリに見えたり、不思議≒ファンタジーなような、いろんな側面を有したお話だと思います。なんにしても、子供の素直さを大事にし、そしてそれを温かく見守れる大人がいること、そんなごく当たり前の世の中が良いよな、と心がホッと落ち着くような温まるような読後感でした。2章の最後は棘があるというか、すこし恐怖感がありましたけど。

    回文がさらさら出てくるのはすごいというか、ふつう無理だろーとか思いますけどね(笑)にしても長文回文すごい。しかも言葉が綺麗なんだな。これはこれで唸らされてしまう

    児童福祉とか養護施設とか、ちゃんと理解できたわけではないけど、こういう世界があるのだな、と少しわかりました。児童虐待とかのニュースがなくならない昨今、何かと生きづらい世の中、子供たちにはいらんこと心配せず育つことができる環境を整えないとね。

    続巻があるということで早速注文しようと思ったらまだ文庫されていないなんて・・・早く文庫化してー

  •  児童養護施設七海学園で起こる様々な謎を、保育士の北沢春奈と児童福祉司の海王が解決していく連作短編。

     それぞれの短編で起こる謎というものは七海の七不思議と呼ばれる物だけあってどれも不可思議なオカルト的のものが多いのですが、それをきっちりと各短編、伏線を活かしての論理的な解決を示してくれます。各短編独立してみても、完成度の高いものがそろっていると思います。

     舞台が児童養護施設ということもあり、話の背景はシリアスなものが多いのですが、そういうところもきっちりと包み込んでくれる優しさも感じられます。保育士の春奈も海王さんの人柄もとてもよく顕れていることがそう感じる理由であるように思います。

     子どもたちの描写もまたいいです。各短編に出てくる子どもたちにはそれぞれの事情があり、そのため彼らの背景の説明だけでなく、性格や個性もしっかり出さないと、この物語を成立させるのは難しいと思うのですが、どの子たちもしっかりと描けていたように思います。架空の人物たちとは分かっていながらも、みんな幸せになってほしいと思ってしまいました。

     そして連作のラストを結ぶ第七話はまさかの展開でした。さすがにそれはやりすぎだろう、と初めは思ったのですが、読み終えてみると、そうなるべくしてそうなった物語だったのではないか、とも思えてきました。運命は信じていない自分ですが、この本を読み終えたときは運命の美しさに思いを馳せてしまいました。

     また回文が一つの要素として絡んでくる短編があるのですが、その回文の巧さ、美しさにびっくり! こういう言葉のセンスの良さも著者である七河さんの実力を示しているように思います。

    第18回鮎川哲也賞受賞

    • 沙都さん
      kwosaさん
      コメント、リフォロー、そしてたくさんの「いいね!」ありがとうございます。

      自分の偉そうなレビューをこうしてほめていただくと...
      kwosaさん
      コメント、リフォロー、そしてたくさんの「いいね!」ありがとうございます。

      自分の偉そうなレビューをこうしてほめていただくと何だかうれしいやら恥ずかしいやら(笑)こちらこそ改めましてよろしくおねがいします。

      上田早夕里さんいいですね!
      上田さんの代表作となると『華竜の宮』だと思うのですが、個人的には『獣舟・魚舟』という短編を読まれてからの『華竜の宮』をおススメします。

      その方が作品の世界観にスムーズに入れると思うので。もちろんこの順番を無視して読んでも十分面白いと思いますよ!

      『アルバトロス』についてですが、これもかなり評価が高いですよね。
      実はこの間中古で『空耳の森』が売られていたので思わず買ってしまったのですが、これってアルバトロスを読んでから読むほうがいいんですよね?
      そのためまだ積読中です。

      本棚見ていただいたら分かる通りかなりの文庫派なので、アルバトロスをハードカバーで買おうかどうかかなり迷っているところです…
      2013/06/27
    • kwosaさん
      とし長さん

      またまたコメント失礼します。

      上田早夕里さんのおすすめありがとうございます。
      チェックしてみますね。

      そして、なにより『ア...
      とし長さん

      またまたコメント失礼します。

      上田早夕里さんのおすすめありがとうございます。
      チェックしてみますね。

      そして、なにより『アルバトロス』!
      もう『空耳の森』をお買いになったと目にして、あわててコメントを!

      滑り込みセーフ!
      絶対『アルバトロス』から読んでください!

      ハードカバーの購入って悩みますよね。
      特に七河さんの本は中古に出回りにくそうで。
      できることなら僕の本を差し上げたいくらいです。
      図書館にあるといいですね。
      (あっ、でも外で読むには文庫がいいですよね。)
      2013/06/28
    • 沙都さん
      kwosaさん
      アドバイスありがとうございます!

      やっぱり『アルバトロス』から読むべきなんですね。 早く読んでみたいのですが、近所の図書館...
      kwosaさん
      アドバイスありがとうございます!

      やっぱり『アルバトロス』から読むべきなんですね。 早く読んでみたいのですが、近所の図書館には置いてないんですよね…

      とりあえず『空耳の森』は、まだ読まずにおこうと思います。
      2013/06/28
  • 家庭で暮らせない子供たちの施設、七海学園。そこに勤める春菜がちょっとした謎や学園に伝わる不思議を読み解いていく、ライトミステリ。学園の性質上、つらい境遇の子供が登場するので重く固くなりそうな話だけど、のどかな町や自然の描写が随所に表れてやわらげてくれる。文章もとがっていなくてとことん優しい。謎解き役の男性と淡い恋に発展するのが定石かと思うけど、すごくいい人なのにまったくそうならないところがちょっと目新しい感じ。

  • 日常の謎系は好きだが、北村薫さん、はやみねかおるさん、米澤穂信さん等々の、キャラクターと文体とミステリのバランスが絶妙にとれた傑作が出るジャンルなので、読者としてもハードルが高いなと思うことがある。
    今作は、やや走っていると思う部分もあるが、読みやすく、読後には温かみがある。海王さんの口ぐせも、じわじわと考えさせられ、本当に良い台詞だ。仕掛けも面白く、これまでの優れた日常の謎の系譜に連なるものだと思う。
    読んで良かった。次作が楽しみだ。

  • 第18回鮎川哲也賞を受賞した
    児童養護施設を舞台に展開される
    保育士、児童福祉司、そして施設に暮らす子供たちの物語。

    複雑な事情を抱える子供たちが出てきますが
    重いだけの話にならず、どこか救いというか
    未来を照らす明るさのようなものが随所に感じられ
    品の良い丁寧な筆致と相まって
    一歩引いた視点からずっと登場人物たちを見守るような
    感じで最後まで読むことができました。

    細かい仕掛けがいろいろと仕掛けられていて
    それを読み解くのも楽しみの一つで、
    作中貫かれている温かさというか優しい視点が
    最終話の第7話で伏線の回収と合わせて昇華され
    驚きとともにある種のハッピーエンドのような
    爽やかな終わり方でした。

  • 児童養護施設を舞台に展開されるミステリー。短編の中に出てくる人物が実は主人公の近くにいる人間であると言いうのはとても驚いた。途中まで、海王さんは悪い人だと思っていたがそんなことも無くいい人である事が分かり、良かった。

  • 短編にそれぞれ答えを出したあと、最終章で再解釈された時の心地よさ。たまらない。

  • 続編にあたる『アルバトロスは羽ばたかない』が文庫になり購入したのでそちらを読む前に久しぶりに再読。初読の時にも思いましたが、やはり素晴らしい作品ですね。楽しく読みました。

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