- Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488542023
作品紹介・あらすじ
天使へと解体される少女に、独白する書家の屍に、絵画を写す園に溺れゆく男たちに垣間見える風景への畏怖、至上の美。生者と死者、残酷と無垢、喪失と郷愁、日常と異界が瞬時に入れ替わる。-綺の字は優美なさま、巧みな言葉を指し、譚の字は語られし物を意味する。本書収録の十五篇は、小説技巧を極限まで磨き上げた孤高の職人による、まさに綺譚であり、小説の精髄である。
感想・レビュー・書評
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例えばこういった感想のようなものを書いていると、自分の文才の無さに絶望的な気持ちに陥ってしまうのですが、津原泰水は文章を綴ることが楽しくて仕方がなかったのだろうなと思わせるような多様な文体で楽しませてくれます。
幻想小説というのは、ストーリーよりも、その文体が持つアトモスフィアによって成り立つものだと常々思っていたのですが、まさにその通り。どの作品も作品の中に溢れる空気がもう違います。
ただ、興味深く読んだのは、「赤仮面傳」「玄い森の底から」「ドービニィの庭で」。僕自身はストーリー重視のようです。
津原泰水は川上未映子の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」が本書収録の「黄昏抜歯」からアイデアを盗用していると指摘していたそうです。真偽は判りませんが両作品とも面白かったです。 -
氏の逝去の報に接して再読、やはり素晴らしい。綺羅を尽くした文体で紡がれた15の短編。「小説は天帝に捧げる果物、一行でも腐っていてはならない。」と言ったのは中井英夫だったか、その言葉そのものの一冊。作者自身は「一冊だけ残せるなら、これ」と言ったそうだが、「一冊だけ無人島に持て行くとするなら、これ」かもしれない。もっと書いてほしかった。ご冥福を。
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15つのお話からなる短編集
日常に潜む狂気みたいなものが、色々な話の中に隠れている。
「いや、こんなのなんでもないですよ、普通です普通」みたいな感じで書かれているから、こっちも「そうなのか」と思ってしまうけど、読んだ後に得体の知れないものが、じわじわとにじり寄ってくる。そんな感じ。
私は「夜のジャミラ」「赤假面傳」「玄い森の底から」「脛骨」「ドービニィの庭で」が特に好き
もし、グロテスクな表現が平気な人だったら、読んでみることをおすすめします。 -
大傑作。
幻想文学に惹かれる人は残酷さの中にある美しさを探している人だと思うのだが、本著にはそんな残酷さの中の美に溢れている。
その残酷さも即物的なもの(それはそれで好きなのだが)とは違って美学がある。腐臭があっても、どこか目を離すことができない。
更にその美しさを然るべき文章で記すことが出来る作家である。
津原泰水さんの記す文章をもっと読みたかった。 -
どの作品にも惹き付けられるが、一際美しく思ったのは「脛骨」だった。舞台となった場所が近いので、たまに行く。ここでね…と水辺につい目をやる。
津原氏が亡くなられたことを、悲しく、悔しく思う。 -
短編集。
面白かった。
人ではないものと人であるものの、それぞれのこわさが味わえる良作。
高評価のルピナス探偵団が、まったく楽しめなかったので、同じ作者の作品を手に取るのが不安だったが杞憂。
(短編集好きなので)
各話の扉絵(なのかな)のデザインがそれぞれ違って、それがまた凝ってて素敵。 -
津原泰水の短編はどれも素晴らしいのだけど、どの作品も読み始めはややうんざりする。自分の中の見たくない自分や忘れかけていたものなど、なんというかそういう朽ち果てようとしていたものに不意に出くわしてしまう感じ。ダメージが大きい。綺譚集では、自分の残酷さと薄さに向き合わされた。「聖戦の記録」、血が滾った。