- Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492371343
作品紹介・あらすじ
セドラチェク×斎藤幸平激論!
ズボフ、ミラノヴィッチが警鐘
格差や気候変動などの問題は、資本主義の枠内で解決可能なのか?
中国の「政治的資本主義」はどう変化し、国際社会にどのような影響を与えるのか?
「監視資本主義」とは何か? データ主導の資本主義にどう立ち向かうべきか?
減速から回復へと舵を切ろうとする中、「共産主義も経験した奇才アナリスト」セドラチェク、「気鋭の経済思想家」斎藤幸平、「格差研究の世界的権威」ミラノヴィッチ、「監視資本主義の提唱者」ズボフと共に、社会・政治・文化などの関わりから資本主義を再考し、社会構造全体を捉え直す。
大人気シリーズ! 緊急「特別編」も再編
NHK「欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを越えて」「欲望の資本主義 特別編 『生き残るための倫理』が問われる時」未公開部分も多数収録
[主な内容]
はじめに 「成長至上」と「脱成長」の狭間にある問い
第1章 「脱成長」を可能にするのは、脱成長コミュニズムか緑の資本主義か
気鋭の経済思想家・斎藤幸平×共産主義も経験した奇才アナリスト・セドラチェク
第2章 資本主義だけが残った世界
格差研究の世界的権威・ミラノヴィッチ
第3章 民主主義を支配する監視資本主義
デジタル革命の罪を問う社会心理学者・ズボフ
おわりに 資本主義と民主主義の「脱構築」
感想・レビュー・書評
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一気に読了できました。最初にチェコ人のセドラチェクと「人新世の資本論」で有名な斎藤幸平氏の対談がありますが、「ある意味」この対談は面白い。というのも二人の議論が平行線をたどっていて、特に後半は「嚙み合っていない感」がすごいことになっているのです。
私はチェコ人の友人・知人が何人かいるのですが、ソ連の支配を直に体験している彼らは、コミュニズムという概念の「実態としての」醜悪さを肌で感じているわけです。チェコ人の知人数人と東京の居酒屋に行ったところ、彼らがお酒を飲みながら歌っているので何の歌?と聞いたらソ連(ロシア)を揶揄している歌だと言っていたのが印象的。
それに対して斎藤氏は、これまでに実在したコミュニズムではない、別のコミュニズムを模索するのだ、と主張しますが、セドラチェクからすると、「コミュニズム」を標榜する思想は何にせよ堕落する、という信念があるような印象も受けました。私もセドラチェクに賛成で、仮に斎藤氏に賛同する人が集まって、彼のいう「脱成長コミュニズム」が構築されたとしても、おそらく短期間の間に離脱者が別の流派を立ち上げる(例:俺の方が真の意味での脱成長コミュニズムなんだと主張する)、あるいは脱成長コミュニズムの中で権力を得ようとする人物が出るなど、あっという間に理想からかけ離れた状態になるのではないでしょうか。そのあたりの人間洞察力はセドラチェクの方が圧倒的に高い印象を持ちました。
中盤と後半はエレファントカーブで有名なミラノヴィッチと、監視資本主義を書いたズボフへのインタビュー記事ですが、こちらは想定内という感じでした。ミラノヴィッチは「中国は資本主義社会だ」と言って驚かれたということですが、そんなことは多くの日本人にとって当たり前のことだったのでは。いつも思うのですが、中国という国の理解については、欧米の知識人よりも日本の一般人の方が優れている気がします。
ズボフは、要するにGAFA批判をし続けているだけなのですが、彼女は視野が狭い気がしてなりません。AIが進化した先には、GAFAすらもAIをコントロールできない、AIが自律的に監視をする社会も(SF的ですが)ありえて、私は個人的にはそのような社会の可能性についてより関心があります(GAFA批判モノは食傷気味だからです)。
個人的には最後の丸山氏の解説が一番面白かったかもしれません。特に丸山氏が「脱成長」というよりも「脱構築」ではないか、という主張には共感できました。私も個人的には「脱成長」ではなく何の成長なのか、成長という概念を脱構築することの方が重要だと感じています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
資本主義に対して、脱成長か、資本主義が形を変えて現状の課題に対応していくのか、さまざまな意見があり、多角的に考えることができて面白い。
セドラチェクの共産主義社会での体験から出てくる、個人が選択できる自由、所有や言論の自由、どこに重きを置くか選択できる世の中への思いに、言葉の重みを感じた。 -
"緊急ブレーキ"
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トーマス・セドラチェクと斎藤幸平の対談がエキサイティングだった。二人のイデオロギーの定義が微妙に噛み合わず互いに何度か確認し合う。チェコ出身のセドラチェクは、コミュニズムに生理的嫌悪感がありそうだ。
この討論で気になったのは、共産主義、社会主義、資本主義が税率で規定されるかの論。9割税率は共産主義、社会主義は5割未満だと。一義的に言い当てているかは微妙だが、分かりやすい整理。共産主義イコールソ連の失敗例と捉えるのは誤りと斎藤幸平は言うが、税率が高いという事は、それだけ中央の権力が強いという事。集権的な体制が膠着され易く、ファシズムを生みやすいだろう。勿論、低い税率で一党独裁を成し得る国もあるから、その逆は言えないが、高税率は税金の使い道の決定権が強大化するのだから、強権的になるはずだ。
対して、資本主義は基本的にコモンを解体し、富を独占することで人為的に不足を生む。これが金儲けを可能にする。私有の富の増加は共有の富の減少を伴う。これがローダーデールのパラドックス。すなわち、資本主義は、権力を国家ではなく、資本家に言い換えているだけだと。GAFAMのようなプラットフォーマーを見ると、その言い分もわかる。
人間が絶えず富を求め欲望が生まれる一因は社会システムにあると、ブランコ・ミラノヴィッチ。脱商品化、過剰な広告の禁止、行き過ぎた所得制限の禁止など、ガチガチの共産主義者ではない、マイルドな提案を斎藤幸平。セドラチェクの発言。欲望を仮想空間にエクスポートする。学びや物質も。持続的成長、平等化の鍵になるだろうと。そうなれば面白いと思う。
もっと、競争は緩やかに、弱者に優しい社会は作れるはずだ。しかし、それには、国と国の利害対立を調整する装置機構が必要。オンラインに理想国家を実現しても、最後は、肉体に限界あり。難しい…。