組織は合理的に失敗する: 日本陸軍に学ぶ不条理のメカニズム

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  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532195113

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  • <目次>
    プロローグ 不条理な日本陸軍から何を学ぶか
    第?部 組織の不条理解明に向けて
     第1章 組織の新しい見方 新制度派経済学入門
     第2章 組織はなぜ不条理に陥るか 不条理な組織行動を説明する理論
    第?部 組織の不条理と条理の事例
     第3章 大東亜戦争における日本軍の攻防 日本軍はどのように戦ったか
     第4章 不条理なガタルカナル戦 なぜ組織はあともどりできなかったのか
     第5章 不条理なインパール作戦 なぜ組織は最悪の作戦を阻止できなかったのか
     第6章 不条理を回避したジャワ軍政 なぜ組織は大量虐殺を回避できたのか
     第7章 不条理を回避した硫黄島戦と沖縄戦 
         なぜ組織は大量の無駄死にを回避できたのか
    第?部 組織の不条理を超えて
     第8章 組織の本質 軍事組織と企業組織
     第9章 組織の不条理と条理 進化か淘汰か
     第10章 組織の不条理を肥えて 不条理と戦う企業戦士たち
    エピローグ

    <メモ>
    「新制度派経済学」ー人間は限定された情報獲得能力のもとに意図的に合理的にしか行動できないと考える点に、このアプローチの特徴がある。(中略)限定合理的な世界では、人間の合理性と効率性と倫理性が一致しないような不条理な現象が発生する。人間が頭の中で合理的だと思って行動したとしても、実際にはその行動は非効率になってしまったり、不正行為になってしまうこともありうる。(6)

    新制度派経済学の骨子
    ・取引コスト理論と歴史的経路依存性
    ・エージェンシー理論とモラル・ハザード現象・逆淘汰現象
    ・所有権理論
    3つの理論に共通する前提:すべての人間は完全合理的ではなく、限定合理的であること。

    限定合理的で機会主義的な人間からなる世界では、合理性と効率性と倫理性(正当性)は必ずしも一致しない。個人的には合理的ではあるが、社会全体として非効率で非倫理的(不正)であるという不条理が発生する。つまり、合理的非効率や合理的不正と呼びうる現象が起こりうる(39)

    ガタルカナル戦と取引コスト理論
    なぜ日本軍は白兵突撃戦術を変更できなかったのか:白兵突撃戦術はデファクト・スタンダードになっていた。白兵突撃戦術を放棄し、より効率的な戦術へと変更するには、巨額のコストを負担しなければならなかった。よって、白兵突撃戦術に固執することが最も合理的で、三度突撃し、三度とも失敗した。

    インパール作戦と逆淘汰現象
    なぜ最悪の作戦だったインパール作戦を阻止できなかったのか:独断専行やモラル・ハザード現象を抑制するために大本営によって出されたあいまいで柔軟で中間的な「作戦実地準備命令」のもとに、一方で資源配分の効率性を重視する作戦参謀たちは、この作戦の実行はあまりに高いコストを伴うので、この作戦準備命令によってインパール作戦は少なくとも実地されることはないと考え、合理的に沈黙した。
    他方、この作戦の勝利に様々な個人的政治的利益をもっていた司令官たちは、この作戦の成功率がゼロでない限り、この作戦を中止したり何もしないでいることは、いたずらにコストを増加させることになると考えた。それゆえ、この作戦準備命令を作戦実効命令に変えるべきだとあkんがえて、合理的に結集してきたのである。つまり、逆と歌現象が日本軍に発生したのである。(138)

    なぜジャワ占領地統治は効率的だったのか
    今村均中将の統率スタイル:一方で自分の考えを示しながら、他方で可能な限り部下の意見を汲み上げようとする、いわゆる民主的な統率方式をとった。

    なぜ戦争末期の日本陸軍は自主的に組織変革できたのか
    大本営に対して深い疑念と不信感
    希少な人的物的資源を効率的に利用しようとする問題意識の高まり

    組織が不条理に陥るケース:
    ・新しい制度形成のコスト>新しい制度形成のメリット
    ・閉ざされた組織:限定的合理性を無自覚→正当化議論

    組織が不条理を回避するケース:
    ・新しい制度形成のコスト<新しい制度形成のメリット
    ・開かれた組織 :限定的合理性を自覚 →批判的議論

    人間が誤って完全合理性の妄想に陥りやすい3つの思想:
    勝利主義:
    どんな戦いも勝つことが最も重要である
    勝たなければ意味がない、勝つためには犠牲を厭わないという考え方
    勝利主義者は、人間の完全合理性の妄想と結びつきやすく、しかも負けてはならないという新年から、意識的に誤りを隠そうとする「閉ざされた組織」を形成することになる。(247)

    集積主義:
    強力なリーダーシップ、権力の集中した指導者が必要だという考え方
    明治時代の山県有朋や桂太郎のように、軍のリーダーと国家のリーダーが一致し、権力が集中しているような人物がいる時代には、軍の利益よりも国家の利益が常に優先され、組織は完全に統制され調整されうるので、日本は戦争を手段とするような非効率な方向に向かうことはなかったとされる。(260)
     
    全体主義:
    全体主義思想は消滅することなく、現在でもなお脈々と存在し続けている。
    たとえば、いまあなたが有名会社の社員である、あるいは有名大学の学生であるとしよう。もしあなたがその会社を辞めた場合、あるいはその大学を退学した場合、自分の存在価値あるいは存在感がほとんどなくなるかもしれないという不安や恐怖に駆られるならば、あなたは全体主義に侵されているといえる。(272)
    漸次的に社会や組織を改善し改革していくような方法のことを、K・R・ポパーは、「漸次工学」と呼んだ。(277)

    「なぜ日本は負けたのか」という問いは、実は「なぜ日本は勝てる見込みの少ない戦争をはじめたのか」という問題に還元されることになる。(290)
    開戦時における日本の指導者の誤断や愚かさや、政策決定プロセスの硬直性が指摘され、人間の非合理性にその原因が求められることが覆い。そして、このようなアプローチから導かれる帰結のほとんどは、今後、人間はより完全合理的になって、二度と戦争を起こすべきでないということになる。(290)
    「敵情が100%クリアで錯誤がなかったら戦争は起こりませんよ」(瀬島龍三)(291)

    ハル・ノートを突きつけられたとき(294)
    ・現状を維持しようとすると、石油を輸入できない日本軍は確実に自滅し、コスト無限大となる。
    ・米国の要求を受け入れれば、大陸に投資してきたこれまでの膨大な投資は巨大な埋没コストになる。
    ・米国と戦えば、不確実ではあるが、短期的に米国に対抗できる可能性がある。

    批判的合理的議論の欠如とユートピア(296)
    独ソ開戦後わずか10日後の7月2日の御前会議で、満州終結、南部仏印進駐を決定
    対日資産凍結、対日前面禁輸を予想していなかった。

    カルロス・ゴーンの改革や社外取締役は、取引コストが低い。

    2014.04.07 池上さんから借りる

  • そりゃ、秀才が集まっているのに失敗するのはシステムが悪いんだろうな、と、腑に落ちた。

  • 2020年2月④

  • ビジネス
    歴史
    経済

  • 本書は、第二次世界大戦の日本陸軍を例に取り、「組織がいかに合理的に失敗するのか」を検証する。「合理的に失敗する」と聞いて、多くの人は首を傾げるだろうが、ここでいう「合理的」とは、「盗人にも三分の理」とか「局所最適」を指しいるのだから、納得できる。要は、近視眼的にや、組織内合理的にものを考えると、そのロジック展開で組織が自己崩壊を起こす、ということを警告している。当たり前の提言だが、これを避け、大局的に考えることはなかなか難しい。

  • ガダルカナル戦で白兵戦術を変えなかったことやインパール作戦の実行は日本軍が非合理的だったからではなく、限定合理的だったからであることを、新制度派経済学の取引コスト理論で説明する。
    ガダルカナル戦と取引コスト理論。デファクトスタンダードだった白兵突撃戦術、これを変えるには多大なコストを必要とした。
    インパール作戦とエージェンシー理論。ジャワ軍政と所有権理論。硫黄島戦と沖縄戦。
    最後に、組織が不条理を回避するにはカント的な自律的人間となり、限定合理的であることを認識し批判的議論をすることが重要。

  • WBS西條先生が取り上げていた本。WWⅡの日本軍の敗戦を例に「取引コスト理論」、「エージェンシー理論」、「所有権理論」などといった人間の限定合理性に基づく新制度派経済学が理解できる一冊。日本軍の上層部ですら、「開戦=敗戦」と考えていたのに、なぜ勝てる見込みの少ない戦争を始めたのかを、人間が限定合理的であるという観点から説明してくれる。

  • 組織論として歴史を振り返るには面白い本です。

    無理やり”合理的”という言葉を使いすぎている感じはするのですが、コンサイスにまとめっているので読みやすく、組織を主導する立場になったら読んでもらいたい本の1さつです。

  • 理解できない失敗への理解を試みることで、失敗を未然に防ぐというあれ

  • 組織経済学の手法を用いて、戦史を深堀りした野心作
    http://www.amazon.co.jp/review/R15R8ZJAUMEUPN/ref=cm_cr_rdp_perm

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2016年 『組織の経済学入門〔改訂版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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