東アジア共同体: 強大化する中国と日本の戦略
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2005年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532351755
作品紹介・あらすじ
どのような共同体をどのように実現するか?問われているのは日本のリーダーシップだ!俗説を排し、安全保障問題、中国の位置づけ、共同体意識の醸成などの課題を直視し、歴史的・文化的背景の解説を交えながら、実現の条件と方策を明らかにする。日本の命運を左右する国家課題。
感想・レビュー・書評
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東アジア共同体について
国家間の取り決めはいろいろと問題が多い
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本書は、東アジアの経済一体化の動きを踏まえ、東アジアの統合に向けた明と暗を明らかにしつつ、「東アジア共同体」を構想し、その実現に向けての条件と方策を探るもの
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以下の3点を明らかにしている。
(1)問題意識=論議(共同体に関する)の核心と5つの論点
(2)日本が目指すべき「共同体」
(3)共同体論の視点
以上より、上記の3点に関して説明していく。
(1)論議の核心と5つの論点
1-1 共同体論の萌芽
共同体の萌芽=経済的相互依存の高まりや地域主義の流れ
契機→1997年のアジア通貨危機
東アジア諸国は相互依存のたかまりと地域協力の必要性を認識→東アジア協力の枠組みが模索されるようになる
1-2 5つの論点
共同体論の俗説=5つの論点
① 多様性
経済の規模や発展段階、政治体制、宗教や言語などにおける多様な東アジアにおいて共同体など実現するはずがとの議論
→多様性は、グローバル化する世界においては、プラス価値を生み出す要素であり、東アジアの強みとして受け止めることさえ可能である。EUの「多様性の中の統合」(欧州憲法条約)を見習い、活力のある共同体を実現すべきである。
② 経済的相互依存
経済の相互依存の高まりが「東アジア共同体」の実現につながるとの経済的楽観論
→「東アジア共同体」は、日本や中国という東アジアの大国が政治意思をもって、具体的な制度化を積み上げていくことによって実現可能となるのであって、単なる相互依存の高まりだけで共同体へのプロセスが進展するものではない。
③ 不透明・不安定な安全保障環境
経済の相互依存は進展しても、政治や安全保障の分野では、互譲の難しい領土や主権の問題、高揚するナショナリズム、歴史に根ざす相互の不信感などが障害となって、共同体構想は、しょせん夢でしかないとの政治的悲観論
→経済と政治の相互作用が「東アジア共同体」の成否を大きく左右するのは間違いない。しかし、悲観論は、現実を見据えつつも理想を目指して知恵を絞り、汗をかくという未来志向の意志と行動が欠如している。
④ 中国の台頭
中国の台頭を懸念する懐疑論
軍事大国化する中国が東アジア諸国の安全にとっての脅威となるとの見解や「東アジア共同体」は「中華帝国」の形成と支配につながるとの見解である。
→台頭する中国を脅威とみなさず、むしろ積極的に中国の変化を促し、変化する中国を機会と捉えて、日本の再生と東アジアの平和と繁栄に活かすといった発想の転換が必要
⑤ 米国の役割
「東アジア共同体」における米国の位置づけを巡る議論
東アジアの安定にとって、米国の存在は不可欠であり、米国抜きの共同体構想は笑止千万との議論や日本は米国を気にし過ぎであり、EUやNAFTAのような地域共同体の形成は時代の流れであるという議論
→領土問題、歴史問題の克服と自由、民主主義という価値や原則の共有をするまでは米国の存在と関与が必要
1-3 日米中三角関係
上記の5つの論点を現実主義的国際関係論に立ってさらに単純化してしまえば、「東アジア共同体」の行方は日本、米国、中国の三カ国の動向にかかっている=論議の核心
日中関係
日本と中国が平和に共存・提携し得るのか、このことは両国のみならず、東アジアひいては世界の平和と繁栄に大きな影響を与える。しかし、歴史や領土といった国民感情を煽りやすい問題を抱えており、しばらくは新たな着地点を見出す努力が続けられることになろう。
米中関係
覇権安定論や勢力均衡論を持ち出すまでもなく、米中の力関係の変化は東アジアの政治と安全保障に重大な変化をもたらす。
(2)日本が目指すべき共同体
日本が目指すべき共同体とは
第一
共同体の基本理念であり、それは世界に「開かれた地域主義」であるべきである。
理由:日本や東アジアの経済的復権は文化や文明を柔軟に吸収した「開放性」にあったから
第二
共同体の推進力となるインセンティブが必要であり、それはメンバー国が利益を共有できる「利益共有体」である必要がある。
理由:各国の国益を維持、増進できるものでなければ、共同体は掛け声にしかならないから
第三
共同体の目標であり、それは経済のみならず政治や安全保障をも視野に入れた「包括的コミュニティ」を目指すものでなければならない。
理由:さもなければ、共同体は、政治的対立や軍事的緊張によって揺さぶられ、その意義も機能も大きく損なわれる可能性があるから
第四
地理的概念を超えて、「機能的概念」として発展させていくべきである。
理由:ヨーロッパや東南アジアの共同体の地理的概念としての共同体ではなく、豪州、ニュージーランド、インド、アメリカの参加も視野に入れた機能的概念としての共同体であれば、協力ネットワークが重層的、複合的に張り巡らされて、東アジアの平和と繁栄に資するからである。
以上の四点である。
(3)共同体論の視点
東アジア共同体論を展開する上で陥ってはならない陥穽
=歴史と文明を巡る自己中心的な視点
西洋中心の歴史観にとらわれず、東アジアを東アジアの視点から眺め、世界史的視点に広げていくことで東アジアの本質が見えてくる。
以上のことを踏まえて、「東アジア共同体」は、かつての「華夷秩序」でも「東亜新秩序」でもない、世界に「開かれた共同体」を示さなければならない=共同体論の視点。 -
「東アジア共同体―経済統合のゆくえと日本」よりはより(政治)科学的な検証がなされていて、より現実的。