母なる夜 (白水Uブックス 56)

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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560070567

感想・レビュー・書評

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  • ナチスドイツの対米宣伝放送をやりながらアメリカのスパイとして情報を送り出していた男が、イスラエルの牢獄で裁判を受ける前に、今までの人生を振り返る。
    愛する者が誰一人いなくなった時に、生きる目的は何なのか?どこにも帰属しない(できない)、誰も信じられなくなった時、死ぬタイミングを逃したことを悟り、死刑宣告を期待して送り込まれたイスラエルでも、どんでん返しの手紙が舞い込む皮肉。
    Auf wiedersehen?

  • 本棚に積んだまま、いずれ、いずれ、と3年近くほっぽらかしていた。

    正確に言うとほっぽらかしていたのではなく、「構えて」しまっていたのだ。彼の代表作だと知らなければ、きちんと読まなければなどと気負うことなく気楽に読めたかもしれない。

    読み始めてからもしばらくは「構えて」いた。ぼくは第1章と第2章(といってもたったの9ページ)を3度読み返している。最初に中断したのはコーヒーを淹れるためで、二度目の中断は風呂に入るためだ。落ち着きのない男と思われるかもしれないが、これは大事な人の手紙を読むときにいつもする儀式であって、筆者への礼儀の深さと本書への期待の高さを表現しているだけのことだ。もっともその「儀式」のあとはとくに気負うこともなく読み進めた。ちりばめられたユーモアとアイロニー、おかしなおかしな小説なのに、読み終わるころには、なにやら重たく黒い塊りで胸が締め付けられるような気がするのだ。その「重たく黒い塊り」としか表現できないものが何なのか、説明できるとよいのだが、、、ムズカシイ。

    『母なる夜』は第2次世界大戦中にナチス・ドイツの対米宣伝放送をやりながら、一方でアメリカのスパイとして情報を送り出していた男の波瀾に満ちた戦後を描いた1961年の小説である。訳者の池澤夏樹は「現代という分裂症的な時代にいかなるモラルが通用するかが主題ということになるだろうか。」と書いている。第2次世界大戦を題材にしているという点では1969年の『スローターハウス5』と好対照をなしている。

    カート・ヴォネガットの小説を読むときにいつも気づかされるのは、相対的な視点ということだ。冷笑的で何ものからも距離を置いているかのような彼の文体は、しかし、すべてに疑いの目を向けながら、よりたしかなものを追求しようという視座に支えられている。それがいいすぎならば、少なくともそのように読者に感想を書かせる力に満ちている。人間のおろかさや滑稽さ、かくも偏見に満ち、妥協という形でしか変化を示さぬかたくなさ、見ようとするものしか見えない狭隘さ、それを小説家はどのように表現するか。人間とは偏見に満ちたものだ、と書いてしまわずに、小説を通じてそれを読者に気づかせる、それがすぐれた作家というものであり、本物の文学というものだ。いうまでもなくカート・ヴォネガットは本物だ。ユーモアやアイロニーだと思えた章句がいつしか箴言とも啓示ともなって跳ね返ってくることをぼくたちは体験するのだ。

  • ヴォネガットらしくないっちゃらしくない。池澤夏樹は傑作というけれど私にはあまりささらなかったな。

  • 物語において一貫しているのは、残酷なくらいまでの、帰属の不安。国家という最も基本的な帰属は第二次世界大戦における任務によって失われ、家族・愛情という人間性の面での帰属も失ってしまった男が見事にえがかれていた。社会からも追放された不条理さと、ふわふわとして実体のない不安な状況のなか、様々な事件や陰謀が繰り広げられて、ストーリー性も秀逸。現代アメリカ文学がえがく不安定な状況のなかの人間心理は本当に面白い。ウォガネットにますます興味が出たので、これから違う作品もよんでみます。

  • カート・ヴォネガットの作品を読んだのは2冊目でした。主題はスローター・ハウスと同じように戦争時の非人間性を扱ったものでした。主人公のハワード・キャンベル・ジュニアはナチスドイツの英国圏への宣伝放送とアメリカのスパイ活動を並行して行っていました。そうした矛盾を抱えながら生きた彼の回想を綴ったお話です。短い章で構成されているので読み易いものの、その章毎にお話が飛ぶのとヴォネガット特有のメタファーに満ちた表現に苦戦。映画を見た後誰かにこの話って結局のところどうだったの?と聞くような按配に似ています。善と悪を合わせ持つ人間の哀しい情景を抑えた筆致で書くのはカート・ヴォネガットの真髄でありますが、女性からすると何だか分かりにくい世界かもしれません。

  • (2011/09/18購入)(2011/10/04読了)

    熊本 橙書店にて購入。

  • ナチスドイツの広報マンを務めながら同時にアメリカのスパイとして働き、妻と築いた愛の王国をも失った男の、空虚な戦後。傑作とは思わないが、ヴォネガットらしい冷めたスラップスティック風文体を堪能できる。

  • ハワード・キャンベル・ジュニアというナチスドイツで宣伝放送を行っていた(実際は連合国側のスパイだった)人を題材にした小説です。 自分に対して正直とは何か、良心とは何かというようなことが表裏でねじれて表現されていて面白いと思います。 カート・ボネガットはファンタジーSFを中心に書く人で他にも面白い小説がありますが、私の一番のおすすめはこの小説になります。

  • たしか、爆笑問題の太田光が、このヴォネガットっていう作家を好きだって、どっかで言ってた気がする。時は、第二次大戦前後、主人公はナチスの中枢に上り詰めるスパイ。

    戦後、彼を待っているはずの平穏も長くは続かない。どこに行っても「よそ者」の孤独。
    練り上げられたストーリーが展開する。

    男はこういう話、好きなんすよね。

  • 主人公の始終ドライな目線が最後、
    とても吠える。
    「さらば、残酷な世界よ!
     アウフ・ヴィーダーゼーン?」
    ドラマチックだったり滑稽だったりそんなことの連続で翻弄される。
    残酷なのかもしれない。

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著者プロフィール

1922-2007年。インディアナ州インディアナポリス生まれ。現代アメリカ文学を代表する作家。代表作に『タイタンの妖女』『母なる夜』『猫のゆりかご』『スローターハウス5』『チャンピオンたちの朝食』他。

「2018年 『人みな眠りて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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