哲学者とオオカミ: 愛・死・幸福についてのレッスン

  • 白水社
3.96
  • (25)
  • (35)
  • (15)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 495
感想 : 46
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560080566

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  若いころから哲学の教授として、アメリカのみならず方々を転々としてきた作者はある日、一頭のオオカミ犬(狼率98%)と出会い、まだ幼かった彼を飼うことにする。
     力強いが、賢い彼は、しかし、家の中に置いておくとあらゆる家具を引きちぎるため、著者と一緒に「講義」に出た。生徒のお弁当にさえ気を付ければ、たまに遠吠えをするものの、大人しく、あっというまに教室の人気者となった。
     オオカミとの生活を通して、究極の「サル」である人間を考える。


     「サル」の本質は取引である。ひいてはそれから発生する利益を失わないように弄する策の数々、そしてそれを支える「詐欺師」の要素である。人間の「賢さ」とされるものはすべてここから発する。
     それにさらに拍車をかけるのは「暴力」と「セックス」である。
     特に、後者は快楽のために行われることが多く、さらなる異性への所有欲は「詐欺」を洗練させる。
     人間は快楽を…感情を崇拝する生き物である。

     同時に、人間は「時間の矢」にもとらえられている。
     人間にとっての未来は、「要求を満たすために時間がかかる」ことと同時に「ヴィジョンのために方向付けや計画をする」。特に後者が大事とされるが、この「時間の矢」のいきつく先は「死」である。

     動物の行動を通して、人間の行動を鑑みる、という思考のトレーニングだが本職の哲学教授がやっているので深い。
     

  • 著者がオオカミと10年にわたり共同生活をしたことが中心に書かれています。その中で、オオカミがイヌといかに違うのかということが詳細に書かれており、まず興味をそそります。また文章から、最初は愛くるしい仔オオカミだったブレニンが、精悍で野生を秘めた雄オオカミとして成長していく過程をつぶさに読み取れ、文章に引き込まれます。著者は、オオカミと暮らす中で人にとって愛とは、死とは、幸福とは何かということを考察していきます。机上の考察ではなく、著者がオオカミと暮らす中で実際に体験したことを元に書かれているので、とても分かりやすいです。また、哲学者がどのようにして思考を展開しているのか、その過程が分かり、とても興味深い本です。著者は、サルの持つ欺き・謀略性の邪悪な面がそのまま人間にも生まれつきあり、それが為に人間の知性は進化を遂げたという性悪説とも捉えられる考えを展開しており、性善説的な幻想の上に立つ現代文化の限界に対するアンチテーゼとしても面白く読めます。さらには、神話や、ニーチェやハイデガー、クンデラ(存在の絶えられない軽さ)らの哲学的思考を取り入れ、愛、死、幸福、人生の意味を考察している点は、人生を半分以上終えた私には、とても感じ入り通ずるところがあり、一気に読めました。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:489.56||R
    資料ID:51600452

    気鋭の哲学者が仔オオカミと出会い、共に生活しその死を看取るまでの物語です。著者は、野生に触発されて愛とは何か、幸せとは何か、死とはどういうことか思考を深め、人間についての見方を一変させる思想を結実させます。特に「愛情」とは何かを強く考えさせられる本です。
    (生化学研究室 大塚先生推薦)

  • 読むのに非常に骨が折れたが何とか読了。
    我々の義務として道徳的義務と認識的義務が存在するというところが特に印象に残った。

  • オオカミとの生活から、自身の倫理や哲学を更新していくあたり、学者だなあと思いつつ、ボロ泣き。

  • 知識という知識は未来の予測を目指す。農耕という文明は食糧を蓄えるところに目的があったのだろう。人間と動物の差異に注目するのは欧米の文化だろう。我が国の場合はむしろ日本人と外国人の違いを巡る議論が多い。
    http://sessendo.blogspot.jp/2014/03/blog-post_12.html

  • オオカミとの生活を通して、「人間」について考えた本。自分は、犬との生活をとして、同じような感覚を持ちました。人間ではない生き物と人生をともにすることは、同じ人間同士の付き合いでは味わえない、人間としてのあり方や背景にある価値観そのものを考えさせられるとても充実したできごとになります。その経験を改めて思い起こされました。

  • 瞬間に生きるオオカミと、偶然にも「哲学者」だった詐欺師のサル(人間)が出会ったおかげ?で出来上がった本なのだが、とても面白い。
    オオカミ(またエゲつなくデカいし強烈!これを飼おうと思い、しかも飼えてしまえた著者を尊敬します!!自分には到底無理だがでもちょっと飼ってみたいと思えるほど魅力的!)との生活エッセイとしてもかなり面白いが、そこから深淵な哲学的思考へと深めていく様が、体感が伴っているだけに、ほんとにワクワクするほど面白い。
    瞬間に生きるオオカミに、散々たら振り回されたせい(おかげで?)で、“サル”の実態に向き合うことになるあたりがいいです。
    人間っていうサルがほざく“文明”とは、所詮、不快な動物のみに可能という、この視点が秀逸です。
    この本は、欲しい。買う。

  • 著者は大学で教壇に立つ哲学者です。子供のオオカミを手に入れ、犬のように躾けた結果、リードを付けずに散歩ができるほどになりました。ブレニンと名付け、彼を独りぼっちにしないよう、四六時中一緒にいることを誓い、寝食を共にし、ジョギングをするのも、ドライブするのも、スポーツやパーティーに参加するのも、大学へ講義に出掛けるときも常に一緒です。授業中は教室の隅でおとなしく居眠りしているブレニンですが、授業の内容が退屈な時は遠吠えをしたりします。著者はアメリカ、アイルランド、イギリス、フランスと何度か住まいを変えますが、ブレニンはいつも一緒です。
    本に掲載されているブレニンの写真を見ると、とても巨大なオオカミであることに驚かされます。でもブレニンは、自分にとって脅威となる相手には果敢に挑みますが、普段の社会生活の中で、子供や自分より弱い者を襲うことはけっしてありませんでした。牛や羊に対してでさえ、優しく友好的に接するオオカミでした。
    とはいえ、やはり犬とオオカミでは性格が異なります。犬好きの著者も、オオカミを育てるとなると、思いもよらぬ苦労があったようです。
    本書は人間とペットの愛情物語ではありません。哲学者である著者は、オオカミと暮らした10年に及ぶ日々の中で、ブレニンという野性を秘めた存在を通して、人間とは何か?文明とは何か?愛とは?死とは?時間とは何か?という思考を深めていきます。従来の哲学にみられるような人間観を覆す、思索の過程がとても刺激的です。我々人間が、人生に意味を見出せないでいる理由もわかったような気がします。ですが、本書は哲学書のように堅苦しくもなく、ユーモアとアイロニーを交えた文章は読みやすいものとなっています。もちろん行間からは、著者のブレニンに対する愛情が、これでもかってくらい滲み出ています。ときおり垣間見られる、哲学者でありながらセンチメンタルでロマンチストな著者の一面も、読者が共感できる一因となっていると思われます。

  • 一頭のオオカミと暮らした哲学者が、そのブレニンと名付けたオオカミとの生活の中から学んだことを哲学的に思索する。最初はその「哲学的」な部分が煩わしかったのだが、後半、ブレニンが病を得てからはなんとなくその哲学的な部分に熱がこもり、心に沁みるものがあった。
    しかし、オオカミにはとても興味があるが、オオカミと暮らすということは本当に大変なんだな…としみじみ。オオカミと暮らす生活についての記述は、その部分だけ拾い読みしてもおもしろい。
    この本はまたしばらくしてから再読したいと思う。

全46件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1962年ウェールズ生まれ。哲学者。著書に「哲学者とオオカミ」など。

「2013年 『哲学者が走る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マーク・ローランズの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
冲方 丁
ケン・オーレッタ
ウンベルト エー...
セオドア・グレイ
コーマック・マッ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×