イエメンで鮭釣りを (EXLIBRIS)

  • 白水社
3.52
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090022

作品紹介・あらすじ

アルフレッド(フレッド)・ジョーンズ博士は、研究一筋の真面目な学者。水産資源の保護を担当する政府機関、国立水産研究所(NCFE)に勤めている。ある日、イエメン人の富豪シャイフ・ムハンマドから、母国の川に鮭を導入するため力を貸してもらえまいかという依頼がNCFEに届く。フレッドは、およそ不可能とけんもほろろの返事を出すが、この計画になんと首相官邸が興味を示す。次第にプロジェクトに巻き込まれていくフレッドたちを待ち受けていたものは?手紙、eメール、日記、新聞・雑誌、議事録、未刊行の自伝などさまざまな文書から、奇想天外な計画の顛末が除々に明らかにされていく。前代未聞の計画に翻弄される人々の夢と挫折を描く、ほろ苦い笑いに満ちた快作。ボランジェ・エブリマン・ウッドハウス賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • イギリスの国立研究所に勤務する、ごくごく堅実な水産学者、アルフレッド・ジョーンズ博士のもとに、ある日突然、途方もない案件が飛び込んでくる。「砂漠の国、イエメンの川に鮭を導入し、鮭釣りが出来るようにしたい。ついてはぜひご協力いただきたい」。ジョーンズは、およそ成功するとは思えないこの依頼を一度は強く拒絶する。だが、この件に官邸が興味を示したことから、話がどんどん大きくなって、引き受けざるを得なくなる。
    自身の結婚生活にも問題を抱える中、渋々引き受けたジョーンズだが、依頼人であるシャイフ・ムハンマドの魅力に触れ、次第に彼の熱意に感染していく。
    わからずやの上司、シャイフのもとで働く美女、合理的だが温かみに欠ける妻、軽薄な首相広報官といった人物と渡り合いながら、イエメン鮭プロジェクトに邁進するジョーンズ。
    プロジェクトの成否や如何に。

    寓話的で独特の魅力のある1冊である。
    冒頭は、ジョーンズ博士への電子メールで始まる。以後、およそ荒唐無稽なこの計画の顛末が、手紙や日記、新聞記事、事情聴取、未刊行の書籍などの様々な文書を通じて、徐々に明らかになっていくという仕掛けは、まるでノンフィクションを読んでいるようでもあり、小気味よい。

    最初はまったく関心を示さなかったジョーンズが、プロジェクトに巻き込まれていく描写は、何だかリアリティを感じる。物事が始まるときというのは、自分の手に負えないところで、小石のように小さなものが動くのがきっかけになるのかもしれない。そして物事が終わるときもまた、些細なことの積み重ねで、どちらに転ぶのかが決まるのだろう。
    ありえない話なのに、よくある話を聞いているような気がしてくる。それは多分、このお話がきれいな大団円で完結していないことも大きいだろう。

    語り口はシニカルだがブラックではない。ずっしりくる重さではなく、軽いペーソスが漂う悲喜劇である。
    ハッピーエンドとはいいにくいが、不思議な爽快感のある1冊である。


    *広報官、ピーター・マクスウェルの造形が絶妙。

    *アラブの大人物、シャイフの語りもまた素晴らしい。啓示的で象徴的。目の前で話をされたら、私もこの人について行ってしまうかもしれない。

    • diver0620さん
      こんにちは、ず~っと気になっていた1冊です。やっぱり面白そうですね。読んでみよ。
      こんにちは、ず~っと気になっていた1冊です。やっぱり面白そうですね。読んでみよ。
      2011/09/08
    • 羊さんさん
      おじゃまします。おもしろそうですね。読んでみたいリストに入れてみました。
      おじゃまします。おもしろそうですね。読んでみたいリストに入れてみました。
      2011/09/09
    • ぽんきちさん
      diver0620さん、羊さん
      よろしければぜひ(^^)。
      独特の味があります。
      diver0620さん、羊さん
      よろしければぜひ(^^)。
      独特の味があります。
      2011/09/09
  • タイトル通り、砂漠に鮭を泳がせようという突拍子もない設定の小説である。
    気楽に読める類の小説で、確かに面白くはあるのだが、どうも物足りない。話を面白くする要素を色々盛り込んでいるが、どの要素も中途半端な印象。

    まず本作のメインでもある鮭にまつわるあれこれだが、専門知識があまり出てこないのが物足りない。読者が読んでいて「何言ってるんだかわからねえ」と思うくらい専門知識をぶち込んでくれないと、主人公が水産学者と言われても説得力ないし、このプロジェクトの突拍子もなさもあまり伝わらない。
    恋愛の要素もパッとしない。あからさまに主人公の奥さんに魅力がなさすぎるし、途中からやりとりの大半がメールになるせいか心境の変化も伝わりにくい。
    政治の要素も中途半端である。ドロドロさ、狡猾さに欠ける。ピーター・マクスウェルなんかは単なる阿呆にしか見えない(案外現実はこんなもんかもしれないけど)。
    そのほか、宗教問題やらメディアの問題やらを絡めて見たり、中盤にはテロリストを登場させたりして盛り上げようとするもあまり効果が上がらない。

    これら全ての要素を「浅い」と感じさせている主因は、文体にあるように思う。前衛を意識しているのか、本書は新聞記事、メール、回顧録、テレビ番組の脚本など、様々なかたちの地の文を用いているが、これがまるっきり効果的でない(そもそも既に目新しい手法でもないが)。上述した文体のどれも、感情や知識や情報を「詳細に」伝えるものではないことが分かると思う。これらの文体を用いることで、本作は底が浅くなってしまっている感がある。
    リョサの『パンタレオン大尉と女たち』とはえらい違いだ。

    ただ、本書のテーマ、「信念を貫くこと」についてはシンプルに、なかなか爽やかに描き切れていると思う。テーマとしてはいささか陳腐だが、読後感は爽快である。

    • mizutetsuさん
      とても正確に読めているレビューだと思いました。
      ただ、僕は感情を優先して「言われなかったかもしれない台詞」ですら文書に登録されていく、そうい...
      とても正確に読めているレビューだと思いました。
      ただ、僕は感情を優先して「言われなかったかもしれない台詞」ですら文書に登録されていく、そういう仕草と詳細さを天秤にかけて詳細さが捨てられたものかと思って読みました。
      まぁ、底は浅くてもフライパンにはフライパンなりの使い方があると思うし。
      2010/08/23
    • ジャミラさん
      >mizutetsuさん
      「フライパンにはフライパンなりの使い方」、
      とても気のきいたコメントありがとうございます。
      個人的な好みとして、ど...
      >mizutetsuさん
      「フライパンにはフライパンなりの使い方」、
      とても気のきいたコメントありがとうございます。
      個人的な好みとして、どちらかとういう深鍋にこれでもかと盛りだくさんに素材を詰め込んで、胸が焼けつくほどにこってり味付けされた小説のほうが好みなので、このようなレビューになっております。
      そのようなスタイルでの表現が向かない小説やテーマがあるのは勿論で、仰る通りだと思います。
      今度本作が映画化されるようですが、映画化するにはこのような小説が向いているかもしれませんね。
      2010/08/24
  • 現代の書簡体文学ってこんな感じなのかな…
    eメールもまじえて…すごい…

  • 2012/12/12 映画を見ました。 面白かった!

     → 「URLはこちら http://sea.ap.teacup.com/pasobo/1488.html 『映画「砂漠でサーモン・フィッシング」を見る』 : 」 〜 パそぼとベルルのあれこれフリーク

       原作を読んでみたくなりました。

    読んでみると、驚き。 
    文章が メールやインタビューや回顧録やらのツギハギで、一応映画で筋がわかっていたからいいけれど、そうでなかったら読みづらかったかも・・・。
    反面、そんな文章が新鮮で、ストーリーも映画以上に深く心にしみます。
     ハリエットとフレッドが砂漠で貧しい少女に水を貰うシーン。
     フレッドが、シャイフの「信じる心」という言葉の意味を悟るシーン。
    素晴らしかったです。 

    が、読んだあと いつまでも どうも胃のあたりが落ち着かない・・・。
    やはり映画のようなエンディングになって欲しかったのだろうか と自問??
     そういう意味では、映画の力!「皆んなに受けるストーリー」に、脳が染まっているのかも。 o(*'o'*)o

    2012/12/13 予約 2013/1/5 借りて読み始める。1/29 読み終わる。

    内容と著者は

    内容 :
    研究一筋の真面目な学者フレッドは、砂漠の国イエメンの富豪から、母国の川に鮭を導入するため力を貸してほしいと依頼される。
    およそ不可能と返事を出すものの、なんと首相官邸が興味を示し…。
    奇想天外な計画の顛末やいかに?

    著者 :
    1946年生まれ。オックスフォード大学ペンブルック・カレッジで英語英文学を学ぶ。

  • どうやらこの話は‥どうも #nonfiction #novelize(事実に基づいた小説と言う意味)らしいのですが…読み進んで入ると‥結構笑える内容も多いですよ。

    無理には申しませんが、一読の一考(一読の価値)は有りますので、購入がキツイならば…民間及び公共の施設を問わずに、貸借から御薦め致します(ただし期限厳守)ので…是非真摯な態度で御一考(二考以上なので再考)を…。

    (って再読し始めましたので…)
    追記を挿せて戴きます。本当に取り組んでたとしたら…実行しようとしてた国は内戦状態も、地震による影響で…場外戦(他国にも、攪拌化し始めている状態)になって来始めてますので…是非早期の休戦締結に伴う終戦を心より御祈り申し上げます。

  • 出た時話題になった記憶はあるけど何となく買わなくて、大和郡山のとほんさんで見かけたので買ってみた。
    いわゆるコミックノベルなのかな、ディヴィット・ロッジとかの系譜。目のつけどころはオモロイし、キャラ立ってるし、お話も破綻せんとようまとまってる。けど、それだけな感じ。キャラにしてもストーリーにしても、上手いけどありがち、予定調和の域を出てないかな。もうちょっとかき回して予想外な方向に振り回してくれてもいいのに。

  • 映画の原作を読んでみるシリーズ。文学作品ならぬエンタメ鵜読み物系だった。凡作だった映画よりは面白いが小説としては普通以下。
    ○小説の方のいいところ
    ・イエメン&鮭という突拍子もなさが、想像の余地の大きい小説の方が説得力がある
    ・メール、記事、手紙など多種類のテキストを綴って話を進めるのが今っぽくてユニーク。しかし詰めは甘く、仕事メアドで告白したりメディアのインタビューで恋愛を語ったりするなと言いたい。
    ○映画の方のいいところ
    ・キャスティングの勝利。博士=ユアンはぴったり。広報官がクリスティン・スコット・トーマスで、原作のバカ男からキャラを変えたのは正解。
    ・ラストは、この手のエンタメ小説ならハッピーエンドがちょうどいいのでは。

  • [ 内容 ]
    アルフレッド(フレッド)・ジョーンズ博士は、研究一筋の真面目な学者。
    水産資源の保護を担当する政府機関、国立水産研究所(NCFE)に勤めている。
    ある日、イエメン人の富豪シャイフ・ムハンマドから、母国の川に鮭を導入するため力を貸してもらえまいかという依頼がNCFEに届く。
    フレッドは、およそ不可能とけんもほろろの返事を出すが、この計画になんと首相官邸が興味を示す。
    次第にプロジェクトに巻き込まれていくフレッドたちを待ち受けていたものは?
    手紙、eメール、日記、新聞・雑誌、議事録、未刊行の自伝などさまざまな文書から、奇想天外な計画の顛末が除々に明らかにされていく。
    前代未聞の計画に翻弄される人々の夢と挫折を描く、ほろ苦い笑いに満ちた快作。
    ボランジェ・エブリマン・ウッドハウス賞受賞作。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • (後で書きます。面白く、かつ身につまされる)

  • イエメンでなぜ鮭釣り?と、ぐいぐい読めました。
    嫌なやつの描写がとことん嫌なやつでした。

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