ブエノスアイレス食堂 (エクス・リブリス)

  • 白水社
3.71
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感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090183

作品紹介・あらすじ

故郷喪失者のイタリア人移民の苦難の歴史と、アルゼンチン軍事政権下の悲劇が交錯し、双子の料理人が残した『指南書』の驚嘆の運命、多彩な絶品料理、猟奇的事件を濃密に物語る。「アルゼンチン・ノワール」の旗手による異色作。

感想・レビュー・書評

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  • アルゼンチンの人気ビストロを舞台とした暗黒小説。
    こってりしたアルゼンチン・ノワールの肉の中に、とりどりの素材がブレンドされたフィリングが詰まっている。個人的にはフィリングの方が好きだった。

    本書の第1章が数ページだが、これがいわば、試金石である。この部分を読んで受け付けなかったら、読むのを止めた方がよいと思う。
    裏表紙のなんだかとっちらかった雰囲気の解説を参考にするのもよいだろう。一読しただけでは何を言っているかよくわからないくらいなのだが、ある意味、本書の怒濤のような感じがよく出ているとも言える。

    本書の一番の主役は若き料理人、セサル・ロンブローソである。冒頭を読み、タイトルを見れば、最後はどうなるのか、まぁ予想の範囲で、このストーリーラインには、個人的には恐怖を感じるというよりはうんざりした。この辺は個々人の好みで左右されるのかもしれない。

    ただ、第2章以降、ブエノスアイレス食堂の成り立ちからセサルが再登場するまでが、多世代に渡る大河小説となっていて、これが抜群におもしろい。年代的にも行きつ戻りつする語りは理路整然からはほど遠いのだが、時代の奔流にあらがいつつ、あるいは流されつつ、それぞれがそれぞれの濃い人生を生きていく物語が心地よい。時折ちりばめられる極上の料理たちが彩りを添えている。
    楽しい話ばかりではないのに、うねるような勢いに気持ちよく流されるカタルシスがある。
    自分としてはセサルの部分がない、真ん中だけの本が読みたかった。それじゃ今ひとつパンチに欠けたのかなぁ・・・。

    いずれにしろ、こうした物語が生まれる土地に住むのは体力がいりそうだ。
    本書の料理もたまにはいいけど、毎日は食べられそうもない、薄味好きの自分であった(^^;)。


    *肉の部分→昔見た映画『コックと泥棒、妻とその愛人』も「げー、そこまでやるかよー」とうんざりしたんだよなぁ・・・。久しぶりに思い出しちゃった。

    *フィリングの部分→ガルシア・マルケスも久しぶりに読んでみたいなぁ。

  • ネタバレを恐れるわけではありませんが、内容について具体的に何か書いたら興醒め。

    アルゼンチンの「ブエノスアイレス食堂」における数十年を舞台とした、イタリア人移民を祖とする長大な家族(といっていいだろう)の物語。
    ではあるが……。
    原題が、ものすごい(各自ご確認ください)。
    第1章が、これまたすごい!
    食堂で供されるなんとも美味しそうな料理の数々(詳細な描写)に食欲を刺激されながら、しかしそれでは終わらないということを、原題と冒頭がはっきり示している。
    その予感に動かされて最後まで読む手が止まらない。
    けれど、最後の章を、私はひたすら「哀しい」と感じた。
    その哀しさがどこから来ているのか、それは自身に問われていることのように感じる。
    「訳者あとがき」にあるとおり、邦題は意訳といってよいのだけれど、これは正解だと思う。

    そこここの場面描写は、イタリアのフィルム・ノワールを観ているようだった。

  • しょっぱなから飛ばすな…。ネズミって死骸にマジでああやって食らいついてくっての、他の何かでも読んだ気がするんだけど、ほんとにそうなんかな…怖いよ…。

  • 最高しかない。濃厚な湿度、重さ、悲しみ。少しの救い。忘れられない。初版だから宝にする。

  • 始まりと終わりの恐怖の肉の饗宴に挟まるように、淡々と綴られる食堂の年代記。代々、引出しの中に収まっていた料理指南書を巡る料理人の物語といえる。そのクロニクルの終わりに指南書に巡り合った若者がどえらいことをしでかしてしまった。
    感情をなるべく排除した書き方が、最後の悪夢に至るまでのクロニクルを冷静に描く。
    一方、料理小説ともいえ、出てくる料理やレシピが、どんな料理なのか、頭の中で想像するのも楽しい。

  • 文学

  • 時間軸の往来と、人物名(特に女子)に苦戦はしたけど、胃にズキュゥゥゥンきたわ!食材、スパイス、調理器具が胃を刺激し、胃がせり上がるようなグロテスクな描写も。ふたつの意味の「肉欲」は罪深く……んでもって「悪魔の書」"二重構造。

  • 後書きでピーター・グリーナウェイの「コックと泥棒、その妻と愛人」に言及しているが、言いえて妙。「人食い」も、それをめぐる表現の美しさ豊かさも。ノワール文学は文章が端正で美しくあってこそ、より毒が利き、文学としての完成度も増すというものだ。昔、フランス語の先生に「サドは原語で読むと大変文章が端正だ」と聞いたが、それを確かめるまでにフランス語能力が及ばなかったなあ。
    閑話休題。
    そう、テーマは人食いだ。冒頭でいきなり乳児が母の乳房を噛みちぎり、母の死肉を食べて生き延びる場面が出てくる。しかしグロテスクな小説ではない。ビストロをめぐる年代記、人物絵巻は饒舌な南米風クロニクルとなって繰り広げられ、料理(人肉ではないまっとうなグルメ)の描写は素晴しくおいしそうで、すごく魅力的だ。しかし冒頭のシーンを知っているがゆえに、「美味しそう」と思う気持ちに背徳感が忍び寄る。そして怒涛のラストへなだれ込む。
    「ブエノスアイレス食堂」というタイトルもうまい。日本が生んだのは「かもめ食堂」と「食堂かたつむり」なのだから、その両極端な「食堂」のあり方は、狩猟肉食文化と農耕装飾文化の違いなのか、と思いを巡らすほどだ。

  • [ 内容 ]
    故郷喪失者のイタリア人移民の苦難の歴史と、アルゼンチン軍事政権下の悲劇が交錯し、双子の料理人が残した『指南書』の驚嘆の運命、多彩な絶品料理、猟奇的事件を濃密に物語る。
    「アルゼンチン・ノワール」の旗手による異色作。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


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