- Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560721315
作品紹介・あらすじ
過去・現在・未来、繰り返す哀しい愛の物語
ウィーン近郊の楽園のような島に軍需産業王の夫によって閉じ込められた世界一の美女。映画スターの彼女には出生にまつわる秘密があった。死者との契約により、30歳になった時から他人の思考が読めるようになるというのだ……。地軸変動により気候が激変、多くの土地が水没した未来の地球。性的治療部で働く女性W218はある日理想の男と出会う。隣国からやってきたその男と、彼女は夢のような一夜を過ごすが、男にはある目的があった……。1975年のメキシコシティ、病院のベッドでアナは語る。アルゼンチンでの過去の生活、政治について、男性至上主義(マチスモ)について、愛について……。過去・現在・未来で繰り返される、女たちの哀しい愛と数奇な運命の物語を、メロドラマやスパイ小説、SFなど、さまざまなスタイルと声を駆使して描き、新境地を切り開いたプイグの傑作。改訳決定版。
感想・レビュー・書評
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アニータ(アナ)という美しい女性がいる。故郷アルゼンチンからメキシコに単身やってきて手術を受け入院中。日記やお見舞いに来てくれる友人ベアトリスとの会話などから少しずつ彼女の過去が明かされる。元・夫のフィトとは離婚済。彼との間にクラリータという娘がいるが、実母に預けたまま放置、この母親ともアナはうまくいっていない。フィトと離婚後、妻子あり左翼活動家で弁護士のポッシと交際していたが、牧場主アレハンドロにも言い寄られ、このアレハンドロのことを彼女は生理的に嫌っているにも関わらず、裕福な彼の高価なプレゼントに目がくらみ、気があるような態度をとってきた。政治的なもめごとなどもあり彼女はメキシコに逃げてきたが、後を追ってきたポッシは…。
このアナの日常と交互に、「世界一美しい女性」と呼ばれる若い女性の数奇な物語が展開する。もともと女優をしていたが兵器製造業の大富豪に見初められ結婚、彼が所有する大邸宅でボディガード付の生活をしているが、夫は嫉妬深く自由がない。彼女は30歳になると人の心が読める能力に目覚めることになっており、彼女を狙っている人間があちこちにいる。やがて彼女は女装してメイドに成りすましていた某国諜報員テオという男と駆け落ちするが、船の中で彼の嘘に気づき睡眠薬を飲ませて海へ落とす。それを目撃したハリウッドの映画プロデューサーに半ば脅され女優としてハリウッドへ。再びスターになった彼女はライバルにも嫉妬され、休養していたリゾート地で恋に落ちた男とデート中にライバル女優の車に撥ねられ…。
三人目の女性「W218」は、「世界一美しい女性」と入れ代わりに登場する。世界が一度滅びたあとの未来。彼女は老人や病人に性的サービスを施す仕事をしている。ある日彼女は、理想の男LKJSに出逢い、一目で恋に落ちるが、彼はスパイで、30歳になったら人の心が読める能力に目覚めるはずの彼女を監視する目的で近づいてきたのだった。しかし彼女は予定外に、21歳でその能力に目覚めてしまい…。
交互に描かれる三人の女性の物語。彼女らの関係性はわからないが、共通するエピソードは、イケメンの教授のもとで働いていた召使の女性(乳母)がその家の幼い娘を誕生日に毒殺しようとするも失敗、精神病院に送られるが自殺する、という事件の古い新聞記事。そして三人ともとても美しい女性であり、なおかつ、イケメンに弱いところは共通。軸になっているのはアナの物語で、アナだけが現実、あとの二人はアナが見ている夢か、妄想か、過去(前世)と未来(後世)の姿なのか、それとも不仲の母と娘の代替物か、明確な答えはない。
解説によると、「世界一美しい女性」は表紙にもなっている実在の女優ヘディ・ラマーがモデルになっているそうだ。読後にWikiをチェックしてみたけれど、ほぼ小説通りの数奇な運命で驚いた。こんな女性が実在したとは。そして本当に世界一なんじゃないかと思うくらい美しい。W218の部分は未来なのでちょっとしたディストピアSFみたいな設定。アナの部分は、アルゼンチンの政治的状況に詳しくないとちょっとチンプンカンプン。
単純に「世界一美しい女性」の変転はドラマチックで面白かったけれど、全体としてはどういうジャンルの、何を伝えたい物語なのか読み終えても把握しきれずモヤモヤ…。30歳になったら心が読める設定に何か意味はあるのだろうか。自分が誰かに監視され命を脅かされているというアナの強迫観念の現れ? それにともなう乳母のエピソードも、疑問解決のキーワードになるようでならない。
アナの友人ベアトリスはフェミニストとして登場するが、全体としてはフェミニズムなのかアンチフェミニズムなのか不分明なエピソードやセリフが多く、それも大変もやもやした。三人の女性は全員イケメンに惚れっぽく、「股間にある弱点」をみつかってしまうとダメらしいが、まるですべての女性がそうであるように言うのはやめてほしいなあ。アレハンドロを嫌いながら彼の高価なプレゼントに執着するアナの言動も気持ち悪かった。タイトルの「天使の恥部」は、W218が終盤で出会う女囚が語る話の中に出てくる。天使には性器がなくつるつる。そうなりたい、股間の弱点とやらを捨て去りたいというそれは彼女らの願望なのだろうか? よくわからない。うまくいえないけど、なんだかとっても女性をバカにしている作品だったような気がしなくもない。複雑。 -
とても不思議な読み心地の作品でした。感想を書くのが難しい。実在の女優ヘディ・ラマーの半生と同様の生き方をする世界一の女優と地殻変動のせいで氷河期に入った地球で男の欲望の処理をする任務に就いているW218、不治の病となってメキシコの病院で治療を受けているアナという3人の登場人物のエピソードが重なり合って物語が進んでいきます。本書に書かれているアルゼンチンの政治やペロニズムについて知識がほぼなかったのでよく理解できませんでした。初めてマヌエル・プイグを読んだので、他の作品も読んでみたい。
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原題:Pubis Angelical (1979)
著者:Manuel Puig (1932-1990)
訳者:安藤哲行(1948-)
ブックデザイン:田中光一/片山真佐志
カバー図版:ヘディ・ラマー(『カスバの恋』より)
【書誌情報+内容紹介】
シリーズ:白水Uブックス 永遠の本棚
出版年月日:2017/01/18
ISBN:9784560721315
判型:新書
頁数:362
定価:本体1,900円+税
アナは語り続ける、愛について、生について
過去・現在・未來、繰り返す哀しい愛の物語
ウィーン近郊の楽園のような島に軍需産業王の夫によって閉じ込められた世界一の美女。映画スターの彼女には出生にまつわる秘密があった。死者との契約により、30歳になった時から他人の思考が読めるようになるというのだ……。地軸変動により気候が激変、多くの土地が水没した未来の地球。性的治療部で働く女性W218はある日理想の男と出会う。隣国からやってきたその男と、彼女は夢のような一夜を過ごすが、男にはある目的があった……。1975年のメキシコシティ、病院のベッドでアナは語る。アルゼンチンでの過去の生活、政治について、男性至上主義(マチスモ)について、愛について……。過去・現在・未来で繰り返される、女たちの哀しい愛と数奇な運命の物語を、メロドラマやスパイ小説、SFなど、さまざまなスタイルと声を駆使して描き、新境地を切り開いたプイグの傑作。改訳決定版。
[著者略歴]
マヌエル・プイグ(1932-1990)
アルゼンチンの作家。ブエノスアイレスの大学を卒業後、イタリアへ留学し、映画監督・脚本家を目指すが挫折。ニューヨークで書きあげた長篇『リタ・ヘイワースの背信』を1968年に出版、帰国後発表した『赤い唇』(69)はベストセラーとなるが、『ブエノスアイレス事件』(73)は発禁処分、極右勢力の脅迫もあってメキシコへ亡命。世界各地を転々としながら、『蜘蛛女のキス』(76)、『天使の恥部』(79)などの話題作を発表。巧妙なプロットと流麗な語り、現代的な主題で幅広い人気を博した。
[訳者略歴]
安藤哲行(あんどう・てつゆき)
1948年岐阜県生まれ。神戸市外国語大学外国語研究科修士課程修了。ラテンアメリカ文学研究者。著書に『現代ラテンアメリカ文学併走』(松籟社)、訳書にエルネスト・サバト『英雄たちと墓』(集英社)、カルロス・フエンテス『老いぼれグリンゴ』(河出書房新社)、レイナルド・アレナス『夜明け前のセレスティーノ』『夜になるまえに』(以上、国書刊行会)、ホルヘ・ボルピ『クリングゾールをさがして』(河出書房新社)などがある。
〈https://www.hakusuisha.co.jp/book/b269907.html〉 -
友人の勧めで読んだ、初マヌエル・プイグ。ちょっと読みづらい、アルゼンチンの社会について予備知識が無いからか、それとも時代を行ったり来たりする重層構造のせいか。他の著作も読んでみないと判断は下せないかな。
解説で知ったが、ヘディー・ラマーがモデルらしい。映画探してみよう。 -
どうやら婆さん、娘、孫の三代記らしい。この作者ゲイらしい。「馬鹿な」女への悪意ある攻撃がいやらしい。丁度訴えるにはギリギリ材料足りないみたいな痒い所に手が届かないイライラ感が気分悪ッ。しかし読んでて確かに腹立つのよーこの女ども。自分が十分美しくちやほやされることは当然。自分が心ときめく人にはしっかりときめき、キモイおっさんには「だって高い洋服買ってくれんだもん」とうまく利用している。もーおばちゃん今日はイライラしたから茶巾絞り作っちゃうわ!(←意味がわからない人はお母さんに聞いてみよう!)
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病に冒された現実の女性、絶世の美女、未来社会の3つのパートが入り混じりドラマチックで面白い。表紙の美女は、モデルとなった女優のヘディ・ラマー、メロドラマだが事実は小説より奇なりというところか。
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書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記は控えさせていただきます。
http://www.rockfield.net/wordpress/?p=9010 -
『蜘蛛女のキス』で有名なプイグの長編。
幻想というか、SFとしても読めるのが特徴。登場人物が延々と語り続けるという意味では『らしさ』は薄めだが、映画的な構成や手法は如何にもプイグらしい。
巻末の解説によると、本書のヒロインには珍しくモデルとなる女優がいるらしい。カバーにも写真が載っているが、如何にも銀幕の大スターといった色っぽい美女だった
いつか機会があったら見...
いつか機会があったら見てみたいです。
https://www.shiki.jp/applause/evita/
べるばらでフランス革命を勉強したように、これを見れば少しはアルゼンチン近代史もわかるかしら…?
うまくいえないのですが、プイグ自身はゲイはさておき男性であることが、この作品の趣旨を複雑化しているような気がします。書いたのが女性作家なら、自虐ネタとして受け入れられたかも、なんて(^_^;)こちらの先入観の問題ですね、改めなければ…。
映画版はどこかで観られるかな?
マドンナはさすがです。アントニオ・バンデラスは歌もうたえたのね。
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映画版はどこかで観られるかな?
マドンナはさすがです。アントニオ・バンデラスは歌もうたえたのね。
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A8%E3%83%93%E3%83%BC%E3%82%BF-DVD-%E3%83%9E%E3%83%89%E3%83%B3%E3%83%8A/dp/B000VXXNAK
amazon primeで見れないなあと思って検索してみましたが対象外でしょん...
amazon primeで見れないなあと思って検索してみましたが対象外でしょんぼり。
どこかで見れないか探してみます(^o^)