失われた景観 (PHP新書 227)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569622705

作品紹介・あらすじ

視界を遮る電線、けばけばしい看板、全国均質なロードサイド・ショップ群…生活圏における景観が、これほど貧しく醜い国もない。その荒廃こそ経済発展を全てに優先させた戦後日本の姿ではないか。同時に、歴史・風土と断絶した景観は、人間から過去の記憶を抹殺し、「豊かさ」を奪ってきたのではないか。四つの事例(郊外、神戸市、真鶴町、電線地中化問題)を通して、日常景観を汚しても省みない日本社会の実像を映し出す。景観保全が活力ある未来を生むと説く、異色の社会経済論。

感想・レビュー・書評

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  •  ちょっと調べてみたのだが、東京都の「都民生活に関する世論調査」で、東京のまちなみや風景に関心があると応えた人は、回答者の約80%にもなり、非常に関心があると答えた人は25%強と、都市景観に対する関心が高まっているようだ。都市景観に「悪い」印象を与えるものの上位3つは、電線・電柱、屋外広告、まち全体の色づかい、逆に、「良い」印象を与えるものは、橋の景観、まちの夜景だそうだ。

     それは前ふりとして、これは、以前、NPO法人東京ランポ(現まちぽっと)の研究会に参加していた時に題材として取り上げられた本で、久しぶりにもう一度読んでみた。

     今までの景観問題は、例えば、京都のような歴史的建造物・街並みの保存、眺望を阻害するようなマンションなどに対する規制など、歴史的・文化的価値のある建築物、それが集合する建築郡の保存が主たるものであった。本書で扱っている景観問題は、前述のものとは異なる「生活圏の景観」であり、「自分の家の回りの景色」のことだ。

     本書では、神戸の「住吉川景観訴訟」が例に出ているが、この訴訟は日常景観がテーマとなって争われた日本で始めての訴訟だそうだ。神戸というと、一般的なイメージとして、異国情緒にあふれ、海に向かって近代的な建物があり、夜景もきれい。市としても、景観条例の制定など景観に対する取組みに先進的に取り組んでいるが、その一方、「公共ディベロッパー」として、埋め立て事業など自転車操業的な公共事業を長年にわたって行っている自治体という側面もある。そして、新しく作り出される公共物は景観条例に基づいて景観に配慮されているはものの、それは新しい景観の「創出」であって、地域住民は今まで見慣れてきた日常景観の断絶に異を唱える。

     景観の「創出」か「保全」か。

     これは、都市景観問題にとって、これからの時代になってもついて廻るものであろう。都市の更新に伴って、新しいものが作られると、良しも悪しも変化が生ずる。その1つの表象が景観とも言える。

     そして、「自分の家の回りの景色」をどのように改善していくか。

     前述した世論調査で都市景観で「悪い」印象を与えている電線・電柱、屋外広告をどうしていくか。どれだけそのまちに住んでいる住民の身の回りの景観に対してどう取り組んでいくか、その取組みをどのように支援していくか。その思いを喚起させるきっかけづくりなどが必要だと思う。そう「きっかけづくり」。見慣れた景観に対して、粗悪な景観だと感じる人もいればそうではない人もいるものだ。前述の世論調査のように聞かれれば、電柱や電線、屋外広告が景観に悪い印象を与えるとは思うだろうが、普段の営みの中で、どれほどの人が気づいているのだろうか。実際に無電柱化を実施するとなると、工事中は周辺住民の理解と協力が必要となってくる。「総論賛成、各論反対」ような状態になってくる。

     久しぶり読んだが、単に良い・悪いという簡単な物差しだけで計りきれない難しい問題だけれども、これが取り組むべき都市景観問題なのだと思う。

  • 経済成長の犠牲となったもの。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    視界を遮る電線、けばけばしい看板、全国均質なロードサイド・ショップ群…生活圏における景観が、これほど貧しく醜い国もない。その荒廃こそ経済発展を全てに優先させた戦後日本の姿ではないか。同時に、歴史・風土と断絶した景観は、人間から過去の記憶を抹殺し、「豊かさ」を奪ってきたのではないか。四つの事例(郊外、神戸市、真鶴町、電線地中化問題)を通して、日常景観を汚しても省みない日本社会の実像を映し出す。景観保全が活力ある未来を生むと説く、異色の社会経済論。

  • 以前、多摩市が企画した連続セミナーに参加したことがある。景観という概念は地理学でも主要な概念だが、そのセミナーは「〈景観〉を再考する」というタイトルで、有料のセミナーだったが、参加した。というのも、そのセミナーの初回は確か「メディア」がテーマだったと思うが、吉見俊哉、若林幹夫、大澤真幸といった東大社会学の面々が登壇した魅力的なもので、参加していたのだ。
    「〈景観〉を再考する」には地理学者の荒山正彦氏も登壇していた。その第一回目の登壇者が松原隆一郎だった。その内容はよく覚えていないが、このセミナーの内容は青弓社ライブラリーとして出版されるようになっている。それ以来、私にとって松原氏の景観論は胡散臭いという印象を与えていて、本書が出版された時も読む気も起こらなかったが、景観をテーマにした講義で学生に読ませるレポート課題図書として設定することとし、読むことにした。

    序章 生活圏における景観荒廃
    第一章 郊外景観の興亡
    第二章 神戸の市政と景観
    第三章 真鶴町「美の条例」の理想と現実
    第四章 電線地中化問題
    終章 世紀末的景観のはじまり

    まあ,予想通りというか,著者は日本における日常景観に不満たらたらで,その原因と解決法を突き詰めようとする。事例として挙げられているのが第二章から第四章までの三つで,一つ目が著者の故郷だという神戸。震災復興から高架のモノレール,六甲アイランド線の建設をめぐる論争。二つ目は,神奈川県真鶴町の景観条例の事例。真鶴町では,突然建ち始めた斜面に建つマンションを食い止めるために,独自の条例を作ったという話。三つ目はタイトル通り,電線地中化をめぐる現状と課題。
    一応,レポート課題にしているのであまり詳しいことは書けません。私は著者の本業の文章を読んだことはないが,一応経済学者らしい。でも,不思議なことに本書の結論は日本は経済性を優先させたために景観が荒廃したのだという。なんかそこにつきるんですよね。
    確かに,きちんとした根拠に基づいて,整然と論を進めているところは研究者なのだが,どうにも結論ありきの感が否めない。景観概念についてもさほど深く議論するつもりはさらさらないし,根拠とされているデータも場合によってはスケール感などが適していないような箇所もいくつかある。やはり予想通りというか,否定的な私の印象を覆すほどの説得力はなかった。

  • 日本の(アジアの)都市の汚さは、不潔というよりも乱立する看板と電柱電線にある。本著はdue process や倫理、所有の問題等々、なるべく多くの視点から都市景観の「美しさ」とは何かについて語ろうとする。それが、著者の個人的な感傷や憤怒から来ていることが、実はこのような堅実かつ多様な視点を生み出している。チャールズ皇太子のポストモダニズム(の根源にある進歩主義)への怒りとイギリス伝統の根強さなども興味深く読んだ。「公共デベロッパー方式」による都市開発と公共機関のconstructivismがフィードバック的に機能し日本の都市をどこもかしこも同じような味わいの無いものにしてしまった。ハイエクの設計主義という概念を持ち出し、我が国の日常景観が歴史的に断絶を重ね、断片化と凡庸化・均質化に至った背景を叙述する。つまり、社会主義と資本主義の談合という日本的なシステムは政治だけの問題ではなかったということだ。また電線類の地中化に関する論もきわめて示唆に富むもので、ロンドン・パリが100%、NY70%、千代田区35%、東京都3%、大阪市1.4%という現状に慨嘆するだけでなく、他国の都市の歴史的背景から日本の「大衆的エゴ」にまで言及している。地中化には道路1キロ当たり年間5000万円の収益事業が必要とのこと。道は遠し、である。

  • 真鶴町についてのところ読むのが楽しみ。
    小さな町で、景観をどのように守っていくのか。

  • 電線や派手な看板、ロードサイド・ショップなど、高度経済成長期以降の日本に蔓延した景観とその背景にある豊かさや経済効率性重視の社会のあり方を問う。

  • 2011/5/13読了。
    守られるべき”景観”を定義づける難しさや、その実現方法について4つの例を丁寧に考察していく内容。
    個人的には固有名詞と法律や条例の引用が多すぎて、おそらくシンプルであろう言いたい事がぼやけてしまっているように感じた。具体的な部分を省いて、もっと抽象的な議論をしてほしかった。

  • 歴史的景観でも文化的景観でもないけれど、住民にとって崩されてはならないものが日常的景観。郊外景観、神戸市の都市政策、真鶴町「美の条例」、電線地中化などの問題を解説。

  • 電柱・電線嫌いの人の本。

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著者プロフィール

松原隆一郎(まつばら・りゅういちろう)
昭和31(1956)年神戸市出身、放送大学教授、東京大学名誉教授。灘高校・東京大学工学部都市工学科卒、同大学院経済学研究科単位取得退学。専攻は社会経済学・経済思想。著書は『頼介伝』(苦楽堂)、『経済政策』(放送大学教育振興会)、『ケインズとハイエク』(講談社現代新書)、『経済思想入門』(ちくま学芸文庫)、堀部安嗣との共著『書庫を建てる』(新潮社)他、多数。

「2020年 『荘直温伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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