テキサコ (下) (新しい世界文学シリーズ)

  • 平凡社
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本棚登録 : 19
感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582302301

作品紹介・あらすじ

クレオールの金字塔!この10年で最も注目すべき作品と評価されたフランス語/クレオール語小説、ついに偉業の邦訳なる。

感想・レビュー・書評

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  • フォール=ド=フランスのスラムであるテキサコ地区の創始者、マリー=ソフィーとその父エステルノームの人生を通じて語られる、マルティニークの歴史。まったく知識がない国の話だったけれど、最初に年表が付いていて助かった。

    奴隷が自由になること、自分の才覚で立つこと、恋をすること、捨てられること、祖先の歴史、都市と周辺、などなどが熱い渦になって流れ込んでくるような、マリー=ソフィーの語りに圧倒される600ページだった。ところどころ意味がとれない単語や文章がある。マリー=ソフィーの個人的な語りなんだから、もしかしたらお父さんがそう言っていたまましゃべってるのかもしれないから、わからなくてもしょうがないやと思ってどんどん読んでしまった。話し言葉だと、読むほうも同じペースになってしまう。

    マリー=ソフィーの人生もタフなんだけれど、エステルノームの後半生は大変辛かった。働きものがボロボロになっていくのは悲しい。こんなに自分で考えて動ける人が、女に捨てられたからってこんなにぐだぐだに、母を求める幼児のようになれるものなんだろうか?(さらに再会した彼女はゾンビと化し... なんという鬼展開)そしてマリー=ソフィーの奉公先も発狂する人が3人も。「えっそれだけで頭のネジがとんじゃうの?」とびっくりする。

    しかし、色んな尺度が違い過ぎるのだ。貧乏人同士の助け合い以外にセーフティネットがなくて、自分の属する集団に敵意を持つ集団がいて、圧倒的にお金がなかったり圧倒的に少数派だったり、そういう世界でもっとしぶとくあれというのは無理な話なのかも。自分が判断してよい立場にないのは良くわかった。そしてそんな世界でクレオール性というものを提唱し語る当地の強靭な思考力を持つ人たちに敬服する。

    さすが中米で、魔術師やゾンビや魔物が、脇役と言うにはあまりに強い存在感で登場する。そして料理がとてもおいしそう。マリー=ソフィーがドゴールに用意した晩餐が特に。

  • 読み始めは何の物語がよくわからず、最後まで読めるか自信もなかった。しかし、読み終えた今、感動で胸が熱くなった。テキサコの名の意味がわかった。ある日やって来たキリストが何だったのかもわかった。マリーの長い長い語り、混沌とした物語、それが何だったのかがわかった。

    年表や歴史書では描ききれない真の歴史、歴史のただなかを生きたひとりの女性が語った西インド諸島のウィンドワード諸島に属するフランス海外県マルティニック島の歴史。三角貿易のためにアフリカから奴隷として連れてこられた人々の子孫、クレオールのアイデンティティを高らかにうたう。アフリカに根を持ちながらもアフリカの文化も歴史も持たず、フランス国籍でありながらもフランスの文化や歴史に同化しきれない、かつての植民地の支配構造を色濃く残した社会の底辺で生きるクレオールのアイデンティティとは何かを、力強く打ち出した叙事文学。

    クレオールという言葉は、もともと植民地性を表す負の意味合いを持っていたが、シャモワゾーら新進の作家らは、クレオールを自分たちのアイデンティティを確立する新たな武器に変えた。

    訳者後書きより、
    「クレオール」…それは「起源」ではなく「」「生成」、「純粋性」ではなく「混血性」、「普遍性」ではなく「多様性」に基づく世界観を担っているという意味で、いたるところで「起源」、「純粋性」、「普遍性」が隘路に陥り、悲劇をもたらしている現代の世界全体へと開かれているのだ。
    大事な視点だ。さらに訳者は、クレオール文学の課題も提示していて興味深い。現代のマルティニックの現実はさらに複雑さを増していると。

  • 上巻参照。

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著者プロフィール

パトリック・シャモワゾー(Patrick Chamoiseau)
カリブ海マルティニック島出身のフランス語作家(1953年生まれ)。日本語訳に『素晴らしきソリボ』(河出書房新社)、『クレオール礼賛』(共著)、『クレオールとは何か』(共著)、『テキサコ』(以上,平凡社)。『幼い頃のむかし』、『カリブ海偽典』(以上,紀伊國屋書店)、『クレオールの民話』(青土社)がある。

「2024年 『マニフェスト 政治の詩学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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