シュルツ全小説 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (488ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582765571

作品紹介・あらすじ

シュルツの生涯は二十世紀に翻弄されつづけた。ナチスの銃弾に斃れるその最期まで、彼が遺した小説は多くない。自身「現実の神話化」と呼んだ作品群は、特異かつグロテスク、ときに荒唐無稽に近い。だが、そこに真実がないと言えるだろうか。『肉桂色の店』『砂時計サナトリウム』の両短篇集から洩れた四篇を加えた全三十二作品を収録。元本は第五十回読売文学賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 短編32作品。
    作者についての予備知識がほとんどない状態で、作品にゆっくりじっくり浸った。
    本のカバーの著者紹介から想像していたほどには、陰鬱なばかりでもないという印象だ。

    私小説なのだろう。
    これを正気で表現しているのではなく本当にこうやって世界を見ていたのだとしたら、こんなに感じやすくて大丈夫か、と心配になるほど現実と幻が融け合って膨らんでいく。
    だけど題材にされている作者の日常は、父親のことは別にして、実際は外から見たら特異なことなどない日々のようにも思う。

    感性が溢れ出ている空想の世界の、その表現が好きだ。荒唐無稽であっても、映像だけでなく空気感まで鮮やかに浮かび上がってきた。
    しかし物思いが過ぎるのではと感じるところもあって、そういう話は繊細過ぎて過剰な妄想に少し息苦しくもなった。

    「大鰐通り」、「春」、「父の消防入り」の、賑やかでちょっと滑稽さもある感じが気に入っている。
    「砂時計サナトリウム」もよかった。
    眠る様子を、「天井までいっぱいにその鼾の層を積み上げている」と表現するのが面白いなと思った。

  • ここまで徹底して過剰で狂っている小説は初めてかもしれない。「八月」の強烈な美文から始まり、幻想というよりも幻視に近いメモリを正確にひとつずつ刻むような(そのひとメモリの間を顕微鏡で覗くととんでもなく色彩豊かで豊穣)描写に引きずられる。たった一言でも読み逃したら迷子になる。ポーランド・アヴァンギャルド三銃士とか言われているらしいが、アヴァンギャルドとかいう次元超えてます。
    「マネキン人形」「疾風」ではヘーゲルのようなことを言っていると感じた(でも狂ってる。そして私はヘーゲル読んでないからアガンベンからの孫引き)。
    とにかく衝撃的な読書。「春」とか本当、読んでいるうちに気がどうにかなるんじゃないかと思った。
    「八月」「肉桂色の店」「疾風」「あぶら虫」「大いなる季節の一夜」「書物」「父の最後の逃亡」が特に気に入った。「八月」は読んですぐ再読した。衝撃の出会い。

  • 「肉桂色の店」「大鰐通り」がとても好きで時折読み返してはいたけど、今回久しぶりに通読しました。時間と空間が変化自在に歪んでは揺蕩い溢れる芳醇なイマジネーションが素晴らしいです。資本主義社会への皮肉も垣間見れますが、それよりなにより頭に目に浮かぶ幻想的で奇怪な映像に身を委ねるのがいいでしょう。極上の世界が広がります。

  • 文体が好き。美しい。

    中でも『肉桂色の店』は良作小品。
    個人的には読み進むのがもったいないくらい、一文一文感心しながら読めた。また時間見つけて再読しよう。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      シュルツは、今年の1月1日でパブリックドメインになったので、紹介が遅れている絵画についての本が出ないかと密かに願っている。
      先ずは加藤有子の...
      シュルツは、今年の1月1日でパブリックドメインになったので、紹介が遅れている絵画についての本が出ないかと密かに願っている。
      先ずは加藤有子の「ブルーノ・シュルツ―目から手へ」を読みます。。。
      2013/01/10
  • 稀にみる美しさが異彩を放つBrothers Quay "Street of Crocodiles"と原作の大鰐通り、一見途方もなく違っているようでいて、セピア色の静謐に調和が。シュルツの独特の雰囲気、時々戻ってきて読みたくなる。

  • 耽美なカフカ

  • もう絶版だと思っていたシュルツの全集がいつのまにか(2016年12月)復刊してた!「大鰐通り」を原作にしたブラザーズ・クエイの人形アニメーション『ストリート・オブ・クロコダイル』は1999年に今はなきBOX東中野(今のポレポレ東中野)の特集上映で見て以来、元ネタのシュルツをずっと読みたかったので嬉しい。しかし読んでると意識が朦朧としてきて寝落ち・・・というのを連日繰り返していたので読み終えるのに大変時間がかかってしまった。

    けして難しい言葉を使ってあるわけじゃないのだけれど、濃度が濃いというか集中して読まないとすぐ何かしら読み漏らしてしまうみたいで何度も戻って読み直したり、見ているときは鮮明なのに起きると忘れてしまう夢みたいに、読み終わったときにどういうわけか内容を覚えていない・・・ということも多々あり。(単に私の記憶力の衰えか・・・?)

    私小説というと語弊があるのかもしれないけれど、とくに第一短篇集『肉桂色の店』のほうは家族、とりわけお父さん中心のエピソードが多かった。全体的にもとにかくこのキテレツなお父さんの存在感というか著者に与えた影響が大きかったのだろうなと思われる。あげくお父さんは、あぶら虫(※日本でいわゆるGで始まるあいつ)になったり蠅になったり、ザリガニになったり、何回死んでも蘇ってくるしで、なんだろう、笙野頼子における『母の発達』的な、とにかくシュルツはこのお父さんの呪縛から逃れられなかったのだろうな。

    第二短篇集『砂時計サナトリウム』のほうが、まだしもストーリー的なものが読み取れるものもあって読み易かった。表題作の「砂時計サナトリウム」や「年金暮らし」は相変わらずお父さんものながら不条理幻想小説として十分面白い。

    ユダヤ人ゆえにゲシュタポに射殺され非業の死をとげたシュルツ。実は作家以前に画家をめざしていたという自身の絵が表紙に使われている。

    ※収録作品
    「肉桂色の店」(第一短篇集)
    八月/憑き物/鳥/マネキン人形/マネキン人形論あるいは創世紀第二の書/マネキン人形論(続)/マネキン人形論(完)/ネムロド/牧羊神/カロル叔父さん/肉桂色の店/大鰐通り/あぶら虫/疾風/大いなる季節の一夜

    「砂時計(クレプスイドラ)サナトリウム」(第二短篇集)
    書物/天才的な時代/春/七月の夜/父の消防入り/第二の秋/死んだ季節/砂時計サナトリウム/ドド/エヂオ/年金暮らし/孤独/父の最後の逃亡

    秋/夢の共和国/彗星/祖国

  • 現実の神話化

  • 足フェチで宝くじに執心しゲシュタポの銃弾に倒れた田舎の美術教師、シュルツの作品集。

    父が突然あぶら虫になったり、アデラの指に襲われたり。

    暗い夜の舞台に、極彩色に浮かび上がる幻想的なお話たち。
    因果は意図的にぼかされ、誰も掴み得ることはない。
    とにかく変ってる。
    これ読んだ後暫くは淡い話読めないかも、てくらい厚くて濃い。

    『大鰐通り』はブラザーズ・クエイの名アニメ、ストリートオブクロコダイルの原作。
    何も直接的でないけどグロテスク要素を感じるのはStreet of Crocodilesの影響?

  • 色彩の氾濫
    精緻な情景描写
    比喩に次ぐ比喩
    狂った宗教と哲学
    精神病
    グロテスク

    まさに現実の神話化。
    言葉で感想を表現しづらい小説です。

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