放射線医が語る被ばくと発がんの真実 (ベスト新書 358)

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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784584123584

感想・レビュー・書評

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  • 東大医学部の放射線科の准教授・放射線医による。
    非常に分かりやすい。
    信頼できるデータを使い、論理的に展開されているので、安心感がある。
    低線量被ばくへの、今の反応があまりにも過剰だということがよく分かる。
    チェルノブイリの報告書には、放射線の被害より、社会的・精神的要因による被害のほうが大きかったとのこと。

    このままでは、同じ道をたどってしまいそうだ。
    危機感を煽るデマ学者やマスメディアの罪は大きい。

    被ばくによる懸念は発がんリスクだが、今の状況であれば、喫煙や飲酒や生活習慣による原因のほうが発がんリスクが高い。

    被ばくへの過剰反応で、ストレスを抱え、喫煙や飲酒の量が増える方がこわいのだ。

    一度、この本を読んで、冷静に考えてみるべきだと思う。

  • 解りやすく丁寧に書いてあってとても参考になった。きちんとデータに基づく考察なので信頼性がある。

  • なんだか、どのレビューも長くて御用学者って多いんだなと思うレビューばかりです。僕はこれを読んでさらに日本の現状を悲観しました。

  • 原発事故による放射性物質の拡散で健康被害が心配なのは当然であるが、ではどのくらい恐れるべきなのかについては大から小まで極論がマスコミに喧伝されていることから、一向にコンセンサスが得られる方向性が見られない。

    著者は広島・長崎、そしてチェルノブイリのデータ分析を通じて勤めて冷静に対応するように訴えている。基本的には国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に従って、年間100ミリシーベルトの被曝で発癌率が0.5%の上昇が認められるが、それ以下の被曝での疫学的影響は見られないという立場を貫いている。其れ以下の放射線量についてはどこかに閾値があるとは想像するがデータが得られないし、政府が定めた年間20ミリシーベルトで有ればデータ的には「影響無し」と結論できるというものだ。また主として今般の福島原発で飛来した放射性物質がセシウム(チェルノブイリでの幼児の発癌は主としてヨウ素による甲状腺癌)であるとの前提では体内に取り込まれたとしても排出されるので内部被曝と外部被曝はその影響度において本質的に何も変わりはないという説明をしている。ここの部分は特に目新しい話題はない。

    放射線被害は当然出来得る限り回避するのは当然としても、より注目したいのは本書が指摘するロシア政府が2011年に出した報告書の中で述べている平均寿命の著しい低下問題だ。1986年の事故当時のロシア・ベラルーシでの平均寿命は65歳だったのが、1994年には58歳と7年も下がっているという。直接的な死者やその影響とみられる発癌による死者を考慮しても理解できないような変化で、これについてロシア政府は「原発事故が及ぼした社会的、経済的、精神的な影響を何倍も大きくしてしまったのは、”汚染区域”を必要以上に厳格に規定して法律によるところが大きい」と述べている。つまり避難に伴う「精神的ストレス、慣れ親しんだ生活様式の破壊、経済活動の制限という事故に伴う副次的な影響のほうが、放射線被曝よりも遥かに大きな損害をもたらしたことが明らか」と言うのだ。

    何とも皮肉な話ではないか。福島の現状を見ても避難した人達、そして避難が出来ない人たちも含めてこうした生活の不自由さに伴うストレスは決して見過ごすことができないし、軽視してはならないという事だ。一刻も早く、新しい生活が始められるように改めて十分な支援が必要ということだろう。また、その関係で言うと、徒に極端な「白か、黒か」議論を展開し、放射性物質は1ベクレルたりとも許容しない、というような生き方も相当ストレスを溜め、ひいては寿命を縮めることになるだろう。

  •   FBの経産をやめた古賀さん批判をしていたら、時間が無駄になった。こんな人にかかずらわっている暇はない。

     自分は、放射線が人体に与える影響について論点になっていることは知っているし、自分の専門ではないので、判断もできない。

     ただ、みなさん共通なのは、年間100ミリシーベルトを超えると発ガン性があがるが、それ以下については、科学的なデータはないこと。このそれ以下の対応策について議論になっている。

     いろいろな意見を幅広く勉強したいが、中川先生の指摘で、改めて考えさせられた点。

    (1)チェルノブイリ避難は、年間5ミリシーベルトを基準に行ったため、過大な避難が行われ、高齢者などを中心に避難による生活様式の変更、経済活動の制限が放射能の影響よりも大きな影響を与えたと、ロシア政府報告書で書かれていること。(p108)

     p113からp121までその要約が和訳してのっているので、立ち読みしたらいいと思う。できればそのURLものせてほしいなと思う。

    (2)大胆に、放射線被害に関する国際機関の評価をしてくれたこと。国連科学委員会、国際放射線茫乎委員会(ICRP)は、まあまともだが、欧州放射リスク委員会(ECRR)は、委員長があやしいサプリメントの販売に関与しているなど、あやしい。(p129)

     そもそも、話題によるあがるICRPでも民間団体なんだけど、海外の団体の話だとなんだか信じやすくなるわれわれに対して、勇気をもって裏話をおしえてもらえるのは助かる。

     あと、扱われていないが、国の役人として気になること。

    (3)やはり命にかかあることで、お金の問題はつきもの。除洗は徹底的にやるにこしたことはないが、その費用は東電など電力会社の料金、つぶれれば国民の税金で面倒をみることになる。その試算もちゃんと情報公開して、政策判断をする必要がある。

     いずれにしても、今、この論争の中で中庸な意見をはくと、「御用学者」とか罵倒されそうなのを気にせず、情報提供していただいた著者に感謝する。

     もっと、放射線被害については勉強を続けたい。

  • ほとんどの内容はネットで個別に見かけるものばかりだが、適切な順番で並べられている分、総合的に判断し易い。また、事前にリスク管理に関する書籍<「環境リスク学(中西準子)」>で読んだ内容や、もともと持っていた医療に関する知見とも矛盾せするところがないため、いちいち納得しながら読むことができた。
    (原発事故に原因があると断ったうえで)「がんのリスクを高めない"低線量被曝"を恐れて、生活習慣を悪くすれば、確実にがんは増える。」と語るところから著者の姿勢が分かる。

  • 正しい知識が、みんなを救う。福島で、今後ガンはふえない!

  • 東京大学医学部の放射線医である中川恵一氏が、福島第一原発からの放射線被曝の影響についてまとめたもの。

    放射線の話になるとエキセントリックな反応を示す人が増えるが、以下のいくつかの点を忘れてはいけないと思う。

    1.原発からある程度(避難を考えなくていい程度)離れたところに住む人間にとっては、放射線はなければないほどいいものであること(したがって、判断も1次元的になりがちである)
    2.原発の近くに住む人間にとっては、避難をすることによるリスクの増大や、経済的なことなどを含む生活すべてへの影響との勘案が必要であること

    この前提に立った上で本書を読むと、筆者が医者としてガンになるリスク全体を考えていることがよく分かる。議論の争点になりがちな100ミリシーベルト以下の被曝による影響が、「100ミリシーベルトでがん死亡率が0.5%増加」という影響と線形な関係にあるかどうかという問題であるが、科学的に見れば、影響はない、あるいは影響は検出不可能と考えられる。

    このときに「放射線防護のポリシー」として100ミリシーベルト以下でも避難すべきとするのは、上記で言うと1の考え方に近いと思う。一方、本書の筆者の考え方は2の基準に立っている。避難による生活ストレスの方が放射線の影響よりも大きい可能性が高く、実際チェルノブイリの報告書でもそのように記されているという。

    発がん性を高めるものとしては例えばアルコールもその一つである。1日日本酒2合以上3合以下飲む人の場合、ガンにかかる確率が1.4倍になるという。かなりの増加である。だからといって、飲酒はすべてやめるべきと考える人は少ないだろう。飲酒には娯楽的な側面もあるわけであり、それをすべてなくしてしまうデメリットと、アルコールによるガン増加のデメリットを勘案すれば、少量なら飲んでもいいと思う人の方が多いのではないだろうか(そもそもアルコールの場合も直線的なデータになるという証拠はないのではあるが)。

    放射線だ、ということでエキセントリックにならずに考えれば、何が福島の人たちにとってベストなのか、また新たな見方ができてくるのではないかと思った。まずは本書を読んで、きちんと科学的な知識を持つべきだろう。

  • これを読んで納得できなかったら、西日本でも国外でも逃げられた方がよいと思います。

    基本的には中川教授が言い続けていることをまとめた本であり、これはというのはないのですが、ICRPの基準値の考え方だったり、どのようなことが問題なのかということであったり、実際どうすべきかということが丁寧に書いてあります。

    放射線の被害については不明なところも多く、ICRPの基準があくまで「ほぼ大丈夫だろうという合意の基準」であるというのは留意すべき点だと思います。

    また、放射線による発がんリスクの上昇が他の要因と比べてどうなのかという説明もあり、非常に丁寧です。
    ICRPやロシアのチェルノブイリに関する報告をうのみにし過ぎという話もありますが、ICRPに関しては前述の通りですし、チェルノブイリに関しては、信じられないなら反論を出してほしいという感じです(本や映画の題名しか引っかからないチェルノブイリハートは信用できません)。

    こういう本はきちんと放射線の恐怖を煽る本と並べて置いてほしいです。
    3つの書店に行ってようやく見つけたぐらいですから。

  • 福島以来、放射線内部被曝についていろいろ不正確な情報が飛び交っているので、その本とのことを知りたいと読んだ。
    期待に応えたところもあるが、やや期待外れもある。結局、問題の低線量被ばくの影響について、筆者はほとんど影響がないと言い切っているが、その根拠についてICRPとか、国基準とか、外部の権威にに頼っているようなところもあり、本とのところはどうなんだという不安に答えきれるのかがやや問題。
    被ばくの問題はなかなか奥が深いというのが実感。

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著者プロフィール

1960年生まれ。東京大学医学部卒業。東大医学部付属病院放射線科准教授兼放射線治療部門長。厚生労働省がん対策推進企業アクション議長。

「2023年 『人生を変える健康学 がんを学んで元気に100歳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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