ピエタ

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591122679

作品紹介・あらすじ

18世紀、爛熟の時を迎えた水の都ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児たちを養育するピエタ慈善院で"合奏・合唱の娘たち"を指導していた。ある日、教え子のエミーリアのもとに、恩師の訃報が届く。一枚の楽譜の謎に導かれ、物語の扉が開かれる-聖と俗、生と死、男と女、真実と虚構、絶望と希望、名声と孤独…あらゆる対比がたくみに溶け合った、"調和の霊感"。今最も注目すべき書き手が、史実を基に豊かに紡ぎだした傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • よりよく生きよ、むすめたち。
    よろこびはここにある。

    司祭という肩書から自由になりたかったヴィヴァルディ先生が
    宗教ではなく、音楽というかたちで、ピエタの娘たちに与えた祝福。

    本を閉じても、ゴンドラの上でロドヴィーゴが口ずさむ歌や
    光あふれるピエタ慈善院の庭で、少女たちが奏でる弦楽の調べが
    いつまでも胸の中で鳴り響いて、心ごとヴェネツィアへ連れ去られそう。
    音楽を愛するすべての人に読んでもらいたくなる、素敵な本です!

    超絶技巧で音楽を征服するかのようなヴィルトゥオーゾの演奏も素晴らしいけれど
    母から娘へ、父から息子へ、親方から弟子へと、口づてで伝えられる歌や
    「ここを大きな音で弾きたいの!」と、ピアノの椅子の上で飛び跳ねるように
    小さな子が全身を使って弾くフォルテッシモや
    テクニックが追いつかなくても、その曲が好き、という気持ちだけを溢れさせて
    アマチュア楽団が一生懸命に奏でる音楽が、どうしようもなく尊くて
    かなわないなぁ、と思う瞬間があります。

    この物語も、『四季』で有名なアントニオ・ヴィヴァルディが
    捨て子たちに弦楽を教えたピエタ慈善院を舞台にした物語なのですが、

    天賦の才能でヴァイオリンの名手として名を馳せるようになるアンナ・マリーアも
    奏者としては大成できないと気付き、ピエタを経営面で支え続けるエミーリアも
    小さいうちに音楽を諦め、薬草の知識を生かして薬剤師となったジーナも
    裕福な貴族の娘の教養として音楽に触れ、寄付でピエタを支えたヴェロニカも
    高級娼婦の身分ながらヴィヴァルディ先生を愛し、寄り添い続けたクラウディアも

    才能のあるなしや、生れ育ちに関わらず、
    音楽を愛すること、ヴィヴァルディ先生を慕い、崇拝することにかけては
    眩しいほどに平等なのです。

    ヴェネツィアを離れ、遠いウィーンで亡くなって
    父親に押し付けられた司祭というくびきからやっと自由になったヴィヴァルディ先生。
    その温かい祝福を天から浴びて、ピエタの庭で和やかに合奏する
    もうおばあさんになったエミーリア達の姿が
    いつしか、音楽の美しさに初めて触れた頃のあどけない少女の姿に変わって
    心に焼き付いてしまう、美しくいとおしい物語でした。

    • だいさん
      ヴィヴァルディその人のような影を感じ、それぞれの対比が良かったと思っています。
      修道院の厳格な日常と、カーニバルでの非日常的な出会い。ヴェネ...
      ヴィヴァルディその人のような影を感じ、それぞれの対比が良かったと思っています。
      修道院の厳格な日常と、カーニバルでの非日常的な出会い。ヴェネツィアの繁栄とその後は、ヴィヴァルディとも重なる。
      コルティジャーナが物語の影になっているのかもしれない。

      最後に
      >ゴンドラの上でロドヴィーゴが口ずさむ歌
      読んだ人それぞれの、想いの歌が聞けるのではないかと思います。
      2013/02/10
    • まろんさん
      円軌道の外さん☆

      ヴィヴァルディが亡くなったことから動き出す物語なのですけれど
      クラシック音楽の世界を描いた、というよりは
      ヴィヴァルディ...
      円軌道の外さん☆

      ヴィヴァルディが亡くなったことから動き出す物語なのですけれど
      クラシック音楽の世界を描いた、というよりは
      ヴィヴァルディをいろんな形で愛した女性たちの人生を丁寧に描いているので
      読書家で音楽好きな円軌道の外さんに理解できないことなんて、ひとつもありませんよ~♪
      ヴェネツィアの冬のカーニバルの雰囲気や
      おばあちゃんになっても少女のような、ピエタ慈善院の女性たちがとても素敵な本です♪
      お時間があったら、ぜひぜひ(*'-')フフ♪
      2013/02/11
    • まろんさん
      だいさん☆

      亡くなるところから始まるのに、いろんな女性の視点で描かれるヴィヴァルディが
      とても魅力的に感じられる作品ですよね。

      ピエタの...
      だいさん☆

      亡くなるところから始まるのに、いろんな女性の視点で描かれるヴィヴァルディが
      とても魅力的に感じられる作品ですよね。

      ピエタの捨て子たちや、音楽を習いに通っていたヴェロニカにとっては
      眩しい太陽のような父であったヴィヴァルディが
      唯一、自分を曝け出して自由に振舞える
      母のような存在がクラウディアだったんだなぁ、と思いました。
      余韻のある、とても素敵なおはなしでしたね♪
      2013/02/11
  • この本が話題になっていた当時は、全く食指が動かなかった。
    18世紀?ヴィヴァルディ?ヴェネツィア?
    それを日本人の作家が書いちゃうのか・・・。
    変なのー、と。

    あー、自分の浅はかさに腹が立つ。
    もうね、最初のページからずっぽりタイムトリップ。
    私もピエタの娘になった気分。
    華やかな音楽がそこかしこに流れる都。
    行った事もないヴェネツィアに思いを馳せ、仮面をかぶりカーニバルに紛れ込む私。なんて素敵。

    それに登場する女性達の名前が良いんですよ。
    エミーリア、アンネッタ、ヴェロニカ、クラウディア・・・。
    イタリア人の名前っていいなぁ。
    ロシアの小説に出てくる名前より断然ロマンチックな響き。
    個人的な見解だけど。

    それはさておき、この作品で最も私の心に響いたのは女性たちの姿勢。
    孤児、娼婦、貴族。
    どんな境遇にあろうともそれに折れることのない心の強さ。
    まっすぐ前を向いて自分のあるべき場所で最善を尽くすその姿に共感を感じる。

    この小説はファンタジーなのかもしれない。
    巷で話題の“養護施設”の裏の部分も、血なまぐさい権力闘争も、汚い部分には蓋をされているのかもしれない。
    仮面で隠された顔のように。でも、いいじゃないか。
    仮面で隠しているうちにいつかはそれが真実になる日がくるかもしれない。そうありたい。

    大島作品を読むのはこれが二作目。
    舞台も設定もまるで違うが、前回読んだ「三月」とこの作品は本質的には変わらないと思う。
    女性の生きる姿と、絆の強さ。
    「むすめたち、よりよく生きよ」 
    やっぱり、これで決まりですね!

    • メイプルマフィンさん
      私も、話題になっていた当時は、全く食指が動かなかったのですよ(あまのじゃくだから)。
      でも、vilureefさんのレビューを読んで、私も絶...
      私も、話題になっていた当時は、全く食指が動かなかったのですよ(あまのじゃくだから)。
      でも、vilureefさんのレビューを読んで、私も絶対読もう!と思いました♪
      初期の大島作品は割とふんわりした作風だったけど、
      最近は深みを増してきて、読み応えありますね。この作品も楽しみです。
      2014/02/07
    • vilureefさん
      メイプルマフィンさん、こんにちは!

      コメントありがとうございます♪
      是非是非読んでください!
      私にはど真ん中の作品でした。

      ...
      メイプルマフィンさん、こんにちは!

      コメントありがとうございます♪
      是非是非読んでください!
      私にはど真ん中の作品でした。

      そうなんですね、段々作風が変わってきているのですね!
      私は最新作から読んでしまいましたから(^_^;)

      お勧めあったら是非教えてくださいませ♪
      次は「ゼラニウムの庭」を読みたいなと思っています。
      2014/02/07
  • 再読

    18世紀、ヴェネツィア。ピエタ慈善院で運営にまつわる仕事をするエミーリアのもとに、恩師ヴィヴァルディ先生の訃報が届くー


    ピエタで育ったエミーリア、コルティジャーナのクラウディア、貴族のヴェロニカ。生まれ育った環境が全く違う3人が過ごしたある雪の夜。親密で思いやりに満ちた時間が描かれていて、、じいんとした。

    見つからなかった探しものが、思いがけない形であらわれる。音楽にのせた思いが人から人へと受け継がれて、日常の中に溶け込んでいることに感動した。

    ヴィヴァルディについて偉大な音楽家というイメージしかなく、ほとんど何も、司祭だったことも知らなかった。彼の最後は、縛りから解き放たれて自由だったのだろうか。そう願いたい。

  • ウィーンに行った時にヴィヴァルディの碑を見かけましたが、おそらく国立歌劇場の近く、ケルントナー通りから少し入ったホテルザッハーの辺りにあった気がします。さすが音楽の都だとテンションを上げながらザッハトルテを食べたのを思い出しました。
    霧に包まれたようなぼんやりとした輪郭の18世紀のベネツィア。一生懸命生きる立場の異なる女性たち。この見事に表現された空気感の中、幸せに読み進めることができました。ハッピーエンドとは言えないかも知れませんが、エンディングの感動は悲しいものではなく、余韻にも長く浸ることができました。とても良い小説だと思います。
    読みながらは聴くことが出来なかった調和の霊感をこれから聴きます。

    • りまのさん
      いいですね!…生活感が、まるで違うわ。…羨ましい〜!りまの。
      いいですね!…生活感が、まるで違うわ。…羨ましい〜!りまの。
      2020/08/30
  •  2019年の一月の直木賞だったでしょうか、「渦  妹背山婦女庭訓 魂結び」という作品で受賞した大島真寿美という作家を全く知りませんでした。市民図書館で検索すると受賞作にはたくさんの予約が入っていました。仕方がないので、同じ作家の一覧リストの中から、「ピエタ」という題名だけに興味をもってこの本を借り出しました。新コロちゃん騒ぎの最中のことです。
     18世紀のヴェネチア。「四季」の音楽家ヴィヴァルディ。「ピエタ」という名前の捨て子や孤児の世話をする慈善院。音楽と出会うことで結びついた少女たち。
     小憎らしいほどの設定で、登場人物一人一人の「生」を浮き彫りにしながら「よりよく生きる」希望へと、物語を着地させる結末は、まあ、ちょっとしたものでした。
     水の都ヴェネチアといえば、塩野七生の傑作『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年』を思い浮かべます。大島真寿美という人もイタリアの?と思って本を閉じましたが、直木賞は「江戸」でした。そういうタイプらしいですね。
     ブログにも感想を書きました。よろしければクリックしてください。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202009140000/

     
     

  • ピエタというと、バチカンの聖ピエトロ寺院にあるミケランジェロ作のピエタ像しか浮かばない。
    ピエタとは、十字架から降ろされたイエスの亡骸を聖母マリアが抱く様子を描いた聖母子像のことなのですが、このミケランジェロの像は、本当に美しくなんというかほんと後光が差しているかのごとく神々しく慈悲深いのです。

    この話はピエタ像は無関係で、18世紀ヴェネツィアにある孤児院・ピエタ慈善院で育った少女たちのお話なのですが、このピエタ像のイメージが離れず、悲しみの中にも美しさと強さを感じるお話でした。

    ピエタ慈善院にある音楽院の教師だったヴィヴァルディ先生。
    「四季」くらいしか存じ上げないのですが、何ともドラマチックな人生です。
    出てくる女性がみんないざという時に凛としてて素敵。

  • ヴェネツィアが舞台。孤児院ピエタで育った女性とそこに関わる人の話。
    美しく静かに流れる話だが、ややパンチに欠ける。

  • タイトルが『ピエタ』であるものの、ピエタと言うよりもヴェネツィアの話だなーと思った。

    この少ない登場人物の中で、限られた空間を表しながら、その時代の雰囲気、ヴェネツィアの雰囲気を感じさせる筆力は素晴らしいと思う。

    わたし自身、ヨーロッパとその歴史に疎く、なかなか想像できないのが…

  • 「魂が震える」という言葉がある。何をもって心が響きを感じるのかは正直わからないのだけれど、それを体感したひとは昨日より少しだけ変わっているのかもしれない。

    音楽室の壁に飾られた名作曲家たちが活躍していた時代。ご婦人方の華やかで眩しく着飾り、文章のあちこちから香水や化粧品の香りを感じる。美しい世界があればその対岸のうら寂しく深い闇がまた存在している。

    同じような境遇であった2人の少女はやがて大人になり環境も生き方にも差が現れたが、崇拝する偉大な音楽家ヴィヴァルディの逝去と共に手にした1枚の楽譜をきっかけに師の人生を調べることに。

    ひとが生きていくには清濁合わせ飲み込み、咀嚼し、望む方へ歩いて行くしかない。まばゆいばかりの輝きには相応の暗い影が潜んでいるのだから。だからこそ放たれた光は他者の心を打つ。
    『ピエタ』にはそれが詰まっていた。
    ゴンドラの唄がきっとあなたにも聞こえてくるだろう。河の流れはいつまでも変わらず人々を見守っているのだから。

  • それぞれの人生には決して外からは見えない様々な顔がある、とも、1人の人間の生は、幾多の他の人生と、それがたとえつかの間であっても混じり合うことで次々創り出されていく、とも…とにもかくにも、人生の不可思議さや奥深さをしみじみ堪能し、色々なことを思いながら読み終えました。

    舞台は爛熟した17世紀のヴェネツィア。
    ピエタという、合奏団を抱えた教会兼児童養護施設のようなところで捨て子として育ったエミーリアという中年女性が、ふとしたきっかけからピエタの音楽指導員でもあった有名作曲家ヴィヴァルディの喪われた楽譜を、長い長い年月をかけて巡ることから紡ぎ出される静謐な物語です。

    孤児だったけど幸せだった子供時代のこと、かけがえのない親友であるアンナ・マリーアのこと、不思議な友情で結ばれた貴族の娘ヴェロニカのこと、自分を捨てて一度も顧みなかった両親とのこと、在りし日の魂で結びついた儚い恋、壊れた縁談、ヴィヴァルディ先生を取り巻くたくさんの人々のこと、先生の秘密を追う先で出会った彼女や友の心を導く高級娼婦のクラウディアのこと、生まれ育ったヴェネツィアという国のこと…。

    実に多くのことがこの本には詰められていますが、それをあちこち追うことが少しも苦にならないどころか、エミーリアの静かで透明な語り口に導かれるように、まるで寄り添うように彼女や周囲の人々の人生を辿りながら、いつの間にか私自身のこれまでの人生にも思いを馳せ、少し感傷的にはなりましたが、最後はとても穏やかな気持ちで読み終えることができました。

    晩年のエミーリアがしたように、いつの日か、自分の人生や過去に出会った人々とのかけがえのない時間に静かに思いを馳せられるようになれたらいいな、と思いました。いえ、そうなれるように、生きていかなきゃな、としみじみ思いました。

    ヴィヴァルディの<l'estro armonico>という、この物語の中で挙げられている音楽を聴きながら読み終えたのですが、物語の最後の鍵を開ける「…むすめたち、よりよく生きよ。むすめたち、よりよく生きよ。…」という節を持つ詩が、旋律にのって流れてきそうな濃密な時間でした。

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著者プロフィール

1962年名古屋市生まれ。92年「春の手品師」で文学界新人賞を受賞し同年『宙の家』で単行本デビュー。『三人姉妹』は2009年上半期本の雑誌ベスト2、2011年10月より『ビターシュガー』がNHKにて連続ドラマ化、2012年『ピエタ』で本屋大賞第3位。主な著作に『水の繭』『チョコリエッタ』『やがて目覚めない朝が来る』『戦友の恋』『空に牡丹』『ツタよ、ツタ』など。2019年『妹背山婦女庭 魂結び』で直木賞を受賞。

「2021年 『モモコとうさぎ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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