きみはいい子 (一般書)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591129388

感想・レビュー・書評

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  • ごはんを作ってもらえなくて、献立表を暗記するくらい給食を楽しみにしている子。

    母にされた虐待をなぞるように、公園から戻って玄関のドアを閉めた途端
    貼りつけていた笑顔を剥がし、娘を執拗に叩かずにいられない母親。

    継母によるネグレクトを知ってこれ見よがしな同情を寄せる人の前では虚勢を張り
    「ほんとにうそつきだなあ」と屈託なく笑うおっとりした友達の家に入り浸る子。

    障碍を抱えた子に思いが伝わらないことに疲れ果て、思わず手をあげてしまう母親。

    惚けて我が子を虐待したことなど丸ごと忘れ、こどもに還ってしまった母を
    電車の中に置き去りにしてしまいたいと、ホームで逡巡する娘。

    みんな、あまりにも苦しくて、せつない。

    それでも、「きみはいい子だよ」と不器用に抱きしめる先生がいて
    「べっぴんさん」と呼びかけてホットケーキを焼いてくれるママ友達がいて
    虐待を嘘にしてしまいたいこどもの気持ちを静かに受け入れ、
    我が子と穏やかに遊ぶひとときの幸せを、祈りをこめて提供する父親がいて
    惚けて万引きする困ったおばあさん扱いされても、
    障碍を抱えるこどもに悩む母親に「またおいで」と言ってあげられる人がいて
    虐待を繰り返した母が、目に入った砂を舌でぺろんと舐めてくれた
    たった一度のやさしい記憶を公園のブランコが呼び醒まして

    全ての物語に、ささやかだけど温かい救いの手を差し伸べた中脇さんに
    深い尊敬をこめて、ありがとうと伝えたい。

    家を閉め出されて公園で途方にくれている子に迎えが来るまで
    コップ酒を片手に素知らぬ顔で見守り続けたおじさんのように
    誰かが心細い思いに震えているとき、
    小さくても自分にできる何かを、ちゃんと探すことのできる人でありたい、
    そう思わせてくれる名作です。

    • HNGSKさん
      ああ、この作品を読んだ後で、まろんさんのレビューを読むと、私、マジで泣けてきました。
      そうだよそうだよって。
      ああ、この作品を読んだ後で、まろんさんのレビューを読むと、私、マジで泣けてきました。
      そうだよそうだよって。
      2012/12/25
    • まろんさん
      あやこさん、コメントありがとうございます。
      泣いて、考えて、また泣いて、の繰り返しのうちに読んだ本でした。
      続きは、あやこさんのレビューのほ...
      あやこさん、コメントありがとうございます。
      泣いて、考えて、また泣いて、の繰り返しのうちに読んだ本でした。
      続きは、あやこさんのレビューのほうに描きますね!
      2012/12/26
  • 新興住宅街の同じ町を舞台に、連鎖する虐待や学級崩壊、介護などをとりあげた連作短編集。
    深刻な題材の割にはさらりと読める切り口で、さまざまな角度から見えるために風通しがいい感覚があります。

    「サンタさんの来ない家」
    桜が丘小学校の教師になって2年目の岡野。
    1年目に学級崩壊させてしまい、何とかそうはならないように必死で食い止める日々だった。
    クラスの中で給食をいつもおかわりするカンダという子の異変に気づき、この子だけは助けようとする‥
    今の教師の大変さを知らない人には、読んでみてもらいたい気がします。
    従妹が教師で、似たような話を聞いたことがあるので。

    「べっぴんさん」
    公園に集まるママ友といる間だけは、娘のあやねを怒鳴らないでいられる母親。
    他のママたちだって、家では虐待しているに違いないと疑っていた。
    はなちゃんママの家に遊びに行ったとき‥

    「うそつき」
    自営業15年、子供の学校のPTA会長をしている杉山。
    長男の優介は4月1日生まれでクラスの中で遅れがちだが、だいちゃんという友達が出来た。
    だいちゃんは家で世話してもらえないらしい‥
    幸せなひとときがあった記憶が、だいちゃんを救ってくれるようにと思う。

    「こんにちは、さようなら」
    老いてから戦争中のことなどをいろいろ思い出す女性。
    小学校の通学路にあるため、1年生は毎年春に玄関ベルを鳴らしていく。
    いつも道で会うと挨拶をしてくれる可愛い子に、じつは障碍があると知るが‥
    謝りに来た若い母親に、とても良い子だと話すのだった。

    「うばすて山」
    子供の頃に虐待された母を一時だけ預かる女性・かよ。
    虐待されなかった妹がいつもは世話をしているのだ。
    母は認知症で子供に戻ってしまい、娘を育てた記憶も失って、自分の母のもとへ帰りたい様子なのを、ずるいと思う。
    高校の頃、母を愛せない自分が悪い子なんだと思っていたときに、担任の先生が「そんなにひどいお母さんなら、嫌いでいいんだよ。無理に好きになる必要はないんだよ」と言ってくれたこと。
    母親に優しくされた遠い記憶を一つだけ、思い出す‥

    いい記憶を一つだけ、大事に抱きしめて。
    その愛おしさが希望になりますね。
    ほのかにあたたかい余韻が残りました。

  • 読んでいて、これは自分のごく身近で起こっていることなのではないか・・・・

    そんな錯覚すら覚えた本。

    学校に勤めているということ。

    そして小さな子どもを持っているということ。

    家を持ち、ローンを抱え、自分の人生がある程度見通せるようになってきたこと。



    専業主婦ではない奥さんにとって公園づき合いだったり

    ママ友づき合いはけっこうドライにできている。

    そこは何かホッとした面でもあった。

    家に子どもと過ごす時間の長さってこれほど

    視野を狭めていくものかと、この本を読んであらためて実感した。



    そして学校に勤めているからこそ

    とってもリアルに感じたのは

    親から虐待を受けたり、ネグレクトな状態

    この本に書かれていることは決して大げさでも何でもないということだ。

    活字にするとここまで残酷だと思うことが

    学校という現場では当たり前のように語られている。

    だから、決して遠い話だとは思わなかった。

    明日のあの子の話でもおかしくはない。



    自分にとってはリアルな本だ。

    そしてここまで書いたかというすごい本でもある。

  • 桜ケ丘という地域を舞台にした5編の短編集。
    全て“虐待”という重い内容がテーマなので好き嫌いが分かれるだろうと思う。
    私も読み始めは気分が重かった。
    読み進めるにつれ 痛々しくて胸がえぐられるような思いがする。
    だからといって登場人物達には「絶対に共感できない!」と
    胸を張って言い切れる自分でもないと思った。
    自分も育児をする中で似たような思いに駆られることがあったし、今も何が正解かは分からない。
    もしくは身近な誰かがこういう思いに沈んでいるかもしれない。
    難しいテーマなのに読み終えてどこか静かな穏やかな気持ちでいられるのはきっとどの短編でも最後に明るい兆しが見えるからだろう。
    『こんにちは、さようなら』で障碍のあるひろやくんが語る“しあわせ”にウルウル(T_T)
    そうだよね、私たちはきっと必要以上に求めすぎるから辛いと思ってしまうんだ。

    昨年8月から図書館の順番待ちしてやっと読めた。
    読んで良かったと思える1冊。

  • 【サンタさんの来ない家】
    『一枚のTシャツだって、一本の鉛筆だって、この子のためにだれかが用意してくれた。そのひとたちの思いが、この子たちひとりひとりにつまっている。
    そのだれかは、昨日はこの子たちにごはんを食べさせ、風呂に入れ、ふとんで寝かせ、今朝は朝ごはんを食べさせ、髪をくくったりなでつけたりして、ランドセルをしょわせ、学校に送り出してくれたのだ。
    そんなあたりまえのことに、ぼくはやっと気づいた。』

    『たしかに、こどもは親をえらべない。住むところも、通う学校もえらべない。偶然によせあつめられて、ここにいる。ここで、揚げパンを食べている。
    だからこそ。
    みんな、こどもなりに、ここで、ふんばっているんだ。
    ぼくは揚げパンをかじりながら、泣きそうになるのを、必死でこらえていた。』

    【べっぴんさん】
    『あたしもそうだった。
    たたかれるようなわるいことは、なんにもしていないのに。
    今になってわかる。
    そのときはあたしも、あたしは世界で一番わるい子だと思っていた。』

    『冬はいい。寒いから着込んで、肌の露出が少なくなる。たたいた跡も、けった跡も、おして家具にぶつけた跡も、積み木を投げつけた跡も、みんなあたたかい服がかくしてくれる。着せれば着せるほど、いいママになれる。』

    『なんであんなことしたのよ。なんであたしを怒らせたのよ。なんであんなことして、あたしにたたかせたのよ。あたしは、いいママでいたかったのに。たたかせたのは、あんた。みんなあんたのせいなんだから。』

    『あたしもそうだった。なにもかもがくりかえされる。
    はじめからなにもしなければ、きっと、こんな気持にならなくてすむのに。
    こどもを、生なければよかったのに。
    そう。ママは、生まれなければよかったのに。
    あたしなんか。』

    『わらっている。でもその笑顔をいつ貼りつけたのか、あたしにはわかっていた。あたしもついさっき、扉の前で貼りつけたばかりだったから。』

    『「たばこでしょ。おんなじ。」
    はなちゃんママは、知っていた。そのときの痛みを。消えない親の怒りの跡を。自分の体に刻まれたそのしるしを見るたびに、自分は、親に嫌われている、世界で一番わるい子だと思い知る。いくつになっても消えない、世界で一番わるい子のしるし。』

    【うそつき】
    『ぼくは知っている。
    たとえ別れても、二度と会わなくても、一緒にいた場所がなくなってしまったとしても、幸せなひとときがあった記憶が、それからの一生を支えてくれる。どんなに不幸なことがあったとしても、その記憶が自分を救ってくれる。
    雨に振りこめられた家の中。
    このひとときの記憶が、いつか、優介とだいちゃんを救ってくれますように。
    ぼくは祈った。』

    【こんにちは、さようなら】
    「ね、ひろや。しあわせってなんだっけ。しあわせは?」
    「しあわせは、晩ごはんを食べておふろに入ってふとんに入っておかあさんにおやすみを言ってもらうときの気持です。」

    『たしかに、それほど仕合わせなことがあるだろうか。
    たたかれたって、おとうさんに捨てられたって、おかあさんに殺されそうになったって、この子は仕合わせの意味をよくわかっている。』

  • おとなって、時に残酷ですよね。
    こどもも、時に残酷ですよね。

    いじめとか虐待とか
    大昔から存在していて
    もしかしたら人間がこの世に誕生した時からあったものかも。

    親になる年齢に達してこの本を読んだわけですが

    誰も我が子をいじめっ子に育てたいとは思わないし
    いじめられてほしくないと思うだろうし

    はなから虐待しようだなんて思わないであろうし(これは難しい問題だけども)

    自分に子供ができる日が来たならば
    その子がどうあろうと
    ただただ抱きしめてあげたい、と

    なんなら、他人の子でも抱きしめてあげたい、と

    じんわりと温かく、切ない気持ちが溢れる一冊でした。

  • 泣きました。
    そして一気読み。
    ページをめくる手が止まらなかった。
    読み終わると「きみはいい子」というタイトルの持つ重要性がわかる。
    子どもは祝福されて生まれ、愛されて育つべきだと、常常思っている。
    それが叶わない現実があることも知っているけど。
    誰かに「いい子」だといって抱きしめて貰った記憶があれば。
    人間、そんなに間違わないのではないか、と思わせてくれる1冊だった。
    いろんな角度から「虐待」という状況を描いているのが、また良い。
    シビアな状況の中にも、必ず救いの手がある。
    そこが逆にリアルに感じられた。
    ま、その手からも漏れてしまう子もいるんだけどね。

  • これ、かなりおもしろかったなあ。
    テーマとして、おもに虐待を扱っているのだけれども、その親や子どもの心情の描写がめちゃくちゃリアル、な気がする。
    虐待をやめたくてもやめられなくてもがいたり、虐待されている子どもに向き合う教師の姿やったり、昔虐待されていた親を介護するときの複雑な気持ちやったり。
    一行一行が重くて、はっとさせられることがある。
    全体的に好きな話でおもしろかったけど、なかでも「べっぴんさん」と「うばすて山」が特に好きです。

  • 自分以外の人の体温を感じたのはいつの頃だっただろう。家族とは違う、友達や仲間や恋人のそれを通じて改めて知ることが出来た、ほのあたたかなもの。

    足りないのは誰のせい? 与えられなかったのは私のせい?
    「ココニイテハイケナイノ?」
    口に出してはいけないことば。

    心についた傷は時間をかけて表面上の治癒を施す。ただしそのカサブタは事ある度にほころび、かきむしりたくなるのだ。自らを戒めるように。

    肉親だから言えなかった「拒絶」「恨み」そして「後悔」。抱きしめる勇気と差し出された手を振り払わない勇気。何度も叫び出しそうだったあの想い。

    この作品全ての根幹にある思い。ここにいるよ、ここで見ているよ、だから気付いて。「ワタシ」に気付いて。

  • 子ども虐待の話。
    最初の2つ目くらいまでの話は
    読んでいても辛くて辛くて・・・
    救いようのない話に、いったい作者は何が言いたいのかと。。。

    しかし、読み進めるうち
    物語の先に、かすかなかすかな希望の灯が見えて来るのです。
    たとえ親が愛してくれなくても
    その子の手をそっと握ってくれる人がいれば・・・
    自分は悪い子だと思い込んでいる子に
    『きみはいい子なんだよ』と笑顔でささやいてくれる人がいれば・・・
    きっとその子は生きていける。

    だからこそ大人は
    もっと周りの子どもたちに目と心を注いであげなくてはいけないんだと改めて思いました。
    第28回坪田譲治文学賞受賞作品。
    いい本です。

著者プロフィール

徳島県に生まれ高知県で育つ。高校在学中に坊っちゃん文学賞を受賞。筑波大学で民俗学を学ぶ。創作、昔話を再話し語る。昔話集に『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』『ちゃあちゃんのむかしばなし』(産経児童出版文化賞JR賞)、絵本に「女の子の昔話えほん」シリーズ、『つるかめつるかめ』など。小説に『きみはいい子』(坪田譲治文学賞)『わたしをみつけて』『世界の果てのこどもたち』『神の島のこどもたち』などがある。

「2023年 『世界の女の子の昔話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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