- Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591130216
感想・レビュー・書評
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「誰の痛みもわからなかった。何も知らなかった。
今はすこしだけ、わかるよ。ひとが生きることの、軽さも、重さも、弱さも、おかしさも、いとしさも。」
この本を一言で表すとすれば、「難」だろう。
難病、困難、難民、難難難…
それを「困ってるひと」というやさしい言葉に置き換えたことで、著者のユーモアとやさしさが伝わってくる。弱者ではなく困ってるひと。
これは世にも稀な難病にかかってしまった難民おしり女子の、時に切なく悲しく、でもユーモラスに語られる壮絶闘病記である。
発症当時大学院生だった著者が、なぜ大学時代からビルマに関心を抱き現地に何度も飛び難民支援をするに至ったか、などなど著者の略歴からはじまる。
そしてどうしてこうなった!?な難病闘病記へ。
難病は本当に診断されるまでがまず長く、著者も診断がおりるまで一年かかっている。
そして九ヶ月の入院生活。
その中で起こるさまざまな困ったことや苦しいこと、ロマンス。
壮絶なまでに大変だったろうに著者の軽やかな文章で、時折くすりと笑わせてもらえる。
でも共感してというか、つらくて泣けてしまうところも。
「わたし、死にたい」の章で書かれている、著者が当時一度だけ書いた日記がそのまま転載されている。
「"何が食べたいとか、何か読みたいとか、何かしたいとか、何か知りたいとか、どこかに行きたいとか、今感じない。自信も、意欲も、かつて自分がどうやって生活し、生きていたのか思い出せない。自分は何が好きとか、これをやっているときが幸せとか、わからなくなってしまった"」
「"逃げていること、甘いことは、自分でもよくわかる。なぜ心はつらいのだろう。同じところをぐるぐるとまわる"」
「"病気に苦しんで、疲れているのか。それとも、自分はもともとこういう人間だったのかな、と怖くなることもある"」
「"経済的不安、治療の不安、心身を脅かされている不安、自分が変わってしまった不安………すべてが不安に感じる"」
「"苦しい"」
引用した後、著者はアレマア、なんと暗いことか!と語っているが、全部に同意すぎて私は泣けてしまった。暗いけど、その気持ちは事実で、勝手ながらそう思ってしまっていた当時の自分の気持ちを大事にしてあげてほしいと思ってしまった。
たしかに何度も繰り返し読むものではないが、病状や状態は違えど、あまりにも私と同じことを著者も考えていたのだ、苦しみに耐えていたのだと泣きそうになり、共感した。
不安、あまりにもわかりすぎる。
いつ働けるようになるのか?病気は治るのか?本当の自分ってなんなのか?
不安を上げ始めればキリがない。
病気により孤独になるのも恐ろしいことだ。
著者も実感しているが、あまり他人に頼りすぎると他人も人間なので限界が来て、距離ができてしまう。
病床の、それも難病の孤独はひとりで耐えるしかないのだ。
この事実にもまた、共感して泣けてしまう。
どうしようもなく孤独なのだ。他人に依存してはやっていけない。依存しすぎると大事なものを失ってしまうから。
だからこそ、頼れる制度には、心置きなく頼るのだ。
制度には狭間もあり、このヤロー!と言いたくなるような時もあるが、頼れる時には頼れるものだ。
それでも、それらの事実を受け止めたうえで著者は生きていこうとする。
何度も死にたいと思う。でも、生きている。
著者はそんな心情を、
「なにがあっても。悲観も、楽観もしない。ただ、絶望は、しない。」
という言葉で綴っている。
この言葉を大事に胸に留めておきたいと思う。
今まさに困ってるひとにも、周りに困ってるひとがいる人もいない人にも、困ってないひとにも、全ての人に読んでほしい本だ。
とくに、すべての困ってるひとに届け。
私には届きました。それもとてもいいタイミングで。苦しいけど、見通しのたたない怖いし不安だらけの毎日だけど、絶望しないで生きていきたい。死にたくなる時もあるけど、そういう時には自分を励まして、なんとかやっていきたい。
後日談の本も出されているとのことで、そちらもいずれ読みたいです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ちょっとした身体の不調に弱音を吐く自分に喝‼︎
病気のしんどさ、辛さと闘っている人達。
毎日がインフルエンザにかかっているような感じだと聞くだけでズシーンと、気力が無くなりそうです。
行動力のある著者 更紗さんの明るさ、治療に関わったお医者さん 色々な人に助けてもらい感謝ですね。動きたくても思うように動けない本人しかわからない辛さがある事に気付かされました。
近い将来 他人に優しく、私でも何か役に立つことができるかも知れない、そういう思いが芽生えた一冊になりました。 -
難病に犯され、とにかく辛い、何度も諦めそうだけど、それでも絶望はしない。作者は明るく前向きに困難に立ち向かって行く。作者の感じた困ったこと、例えば書類の手続き、病の為に簡単な生活行動も困難なこと、などなどが正直に赤裸々にときおりギャグなんかも入って語られている。彼女の言うことは決して一時的な苦しさや困難から出たものではなく、他の人も頷くであろう共通の困ってること、不便さだ。根本的な解決は簡単には出来ない。絶対に。分かっているだけにこの理不尽さが悔しい。大学時代福祉を勉強してきたので、彼女の言うことはひとつひとつが全くその通りで正直で、それでも彼女のニーズがそう簡単に満たされるはずもないのがわかり、とにかくそういうことが胸に突き刺さりました。
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大野さんの頭の回転の速さ、センスの良さ、キレが好き。
難病にならなければ見えなかっただろう、手助けがなければ死に至るかもしれない当事者の気持ち。
そして当事者ではなく、何かしてあげたいと感じる、助ける側の気持ち。
ビルマ難民の研究をしていたからこそ、
双方の視点を持つことになった。
病気そのものだけではなく、それらに向き合った人の心理状況を、描き出している。 -
大学院在学中に自己免疫疾患系の難病を発病した女性の手記。
「絶望」以外に言葉を思いつけないようなものすごく辛い状況を、面白おかしく読みやすい文章で綴っている。本当に恐ろしい病です。
月並みだけれど、あたりまえに健康に暮らしている今がどれほど奇跡的に素晴らしいことなのかが、改めて身にしみました。
人生に疲れてしまった人や悩んでいる人は、この本から学べることが沢山あんじゃないかと思います。僕はこの本を読んで、人生の尊さや残酷さを再認識し、毎日毎時間を大切に生きようと思いました。
著者の大野さんが少しでも回復されることを、切に願います。 -
自己免疫疾患を抱える難病患者の目線から日本の社会福祉制度は複雑怪奇であると言わしめ、難病患者は制度の網から漏れ落ちる存在であると語る。2010年の著書であるため障害者自立支援法の頃である。2013年に施行された障害者総合支援法では制度の谷間を埋めるべく、障害者の範囲に難病等を加えている。「日本は経済大国であり、難病患者となればそれなりの保護が受けられるのではないかと期待していた。」とあるように障害者の範囲に難病が加わったことで、著者のような難病患者の生きづらさは解消されたのか。国民皆保険の負の部分にも目を向けた学習を意識したい。
死を免れる人間はいない。いつも心について考えたり、自分がどんな病気になるか、どんな災難に襲われるかそんなことばかり考えていたら人間は不安で不安で何もできなくなる。そういうことばっかり考えてると鬱々として太宰治みたいになっちゃうんだろうな。世の中みんなが太宰治だったらとてもじゃないが社会は動かない。
だから人間は死をできるだけ意識せず遠ざけて日々の日常を送っている。
語り口が面白い。
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文庫版なのでこちらに。
年齢が近く環境も似ていた著者の書くとても軽妙でユーモア溢れる文章に、
本当に毎日死にそうになってる人の日常なのかわからないほど
笑ったり泣いたりしました。ムーミンとかおしりとか…!
それでも必死に(きっと文字以上に必死に)日々を迎えて
生きること(デート)を選択するそのタフネスには脱帽。
人がひとり生活する、生活していくということ。
それは社会と共存するということ。ときには書類になって。
人を絶望の底に追いやるのは人だということ。
人を絶望の底から救ってくれるのもやっぱり人だということ。
感情があるから人はまだ生きられるということ。
私も一時期「難」のつく病気になったときのことを思い出しました。
まあ難聴だったんですけど。
この本に書かれるようなことは全くなく、それでも結構困った。
そして完治はしてないけどまあ「治った」範囲なんだろうけど。
プレドニンも飲んでたけどこんなに覚悟しなかったけど、とか思いながら。
著者はすごく頭のいい人だと思うし、いつか症状が緩和して
ビルマに関わるお仕事をしてほしいと応援せざるを得ない。
けど平和な普通の毎日も過ごして欲しい。
もうなんでもいい。幸せになって欲しい。
幸せってなんだろう。って打ったら幸せって難だろうって変換された。
やっぱり難だらけかもしれない。けど、彼女なら乗り越えてくれるはず。 -
これはキタ…。間違いなく(去年ですが)2012年必読の一冊。ある日突然、「筋膜炎脂肪織炎症候群」という難病を抱えた著者が、発症から入院、退院するまでをユーモアのある文章で綴った作品。能町みね子さんのイラストなど、全体として暗くなり過ぎず、明るくポップな、しかし、日本の医療、介護、行政が抱える問題点にも踏み込んでいて、考えさせられる内容にもなっている。
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ポプラビーチに連載をしているころから読んでいたが、あらためて一気読みしてみた。
書いてある内容は壮絶なのだが、タッチはあくまで明るく、ユーモアに富んでいる。
闘病記とみなされるのは作者にとっては不本意なのかもしれないが、明るい闘病記という新しいジャンルを作りあげたような気がする。 -
壮絶な経験なのになんと軽妙な言葉運び。読みやすかった。
医療業界でごはん食べてる者として、ほんとに読んでよかった。患者さん情報をデータでしか見ないのでこんな想いなんだ、こんなに大変なんだって知ることによって見方が変わる。
それにしても医療制度は難易度高すぎる。これには私共も苦労してます。