なでし子物語

著者 :
  • ポプラ社
4.13
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本棚登録 : 849
感想 : 159
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591131428

感想・レビュー・書評

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  • 読んでいる間、自分が本を読んでいるのを忘れているぐらい、「なでしこ物語」の中にいた。
    毎晩就寝前に読書をしていますが、続きを読むというよりは、「常夏荘」に行く、といった感じでした。
    小説っぽいというか、上手く言葉で表せない上に、どこがどうでどう感じたとかいう感想が思い付かないのですが、理想とする小説はこういう作品だと感じた。設定されている年代が、昭和の自分も幼少の頃のお話で、主役である耀子や立海と同年代で懐かしさがあったからだろうか?
    最初から最後まで『なでしこ物語』の世界にはまったような、凄く好きな話でした。

  • ★4.5

    間宮耀子は、父を早くに亡くし、母から捨てられ…父の故郷で祖父の住む峰生の常夏荘にやって来た。
    祖父は代々林業で栄えてきた遠藤家の山の管理人…常夏荘の長屋に住む。
    耀子は、学校でからかわれたり、嫌な事を言われたりされたら目を閉じて俯く事にしている。無かった事になるから…。
    常夏荘は遠藤家の跡継ぎだった夫を若くして亡くした『おあんさん』こと照子が管理している。
    常夏荘に、病弱で学校を休み療養にお坊ちゃま立海と家庭教師青井が預けられる。
    照子は、義父とも息子ともそりが合わずただ古びてゆく家の様に「しょうがないのやわ…」と、夫の思い出とともに静かに暮らしていた。

    苛めを受けていた耀子と、人の感情を敏感に感じ取り過ぎて吐いてしまう立海
    立海もまた、友達も出来ず苛められていた。
    そんな同じ様な苦しみを抱えた二人は、次第に仲良くなりお互いが無くてはならない
    存在になっていった。
    青井先生の導きもあり、二人は少しずつ成長していきます。
    子供達が大人の理不尽さに振り回され、苦しむ様子は本当に切なくなります。
    大人達にも色々なしがらみがあって…。
    照子も、そんな二人に触れるうち、変わってゆく。
    それは、遠藤家に仕える人々の心もゆっくりと温かみを帯びて変化していく。

    青井先生の言葉が本当に素敵
    自立--かおを上げて生きること
    自律--うつくしく生きること。あたらしいじぶんをつくること。

    立海も耀子も青井先生に巡り会えて本当に良かった。

    ハム兄弟も可愛い…『やらまいか』…良いね。

    照子の亡くなった夫・龍一郎もとても素敵な人だった。
    素敵な言葉を沢山照子に送ってる…。

    耀子の祖父の言葉も武骨だけど、優しさに溢れてる。
    不器用だけど、とても深い愛

    人と人との心が繋がって行く事で愛は深く伝わっていくんだな…。
    強く生きる事の勇気の大切さを感じました。
    とっても、温かい気持ちになれた物語でした。

    耀子と立海の大きくなった未来を知りたいな(❁´ω`❁)


    【撫子】
    花屋にはないちっぽけで、風が吹けばすぐ揺れる
    だけど折れない。いつも懸命に天に仰いでいる。
    天女のご加護

  • 以前から評判を聞きながら読んでいなかったことを後悔する位、夢中で読んだ。
    今まで読んだ伊吹作品の中で一番感動した。

    血の繋がりもなく年齢も立場も違う耀子・立海・照子の3人は一時を常夏荘で共に過ごす。
    特に耀子は私と同じ歳。自分の小学4年の頃と照らし合わせて読んだ。ドリフの髭ダンスや漫才ブーム等とても懐かしい。

    幼い頃から家族の縁が薄く、人付き合いが苦手で周りから孤立し、いつも下ばかり向いていた。
    家庭教師の青井先生の教え「自立:かおをあげていきること、自律:うつくしくいきること」により、耀子は徐々に新しい自分をつくっていく。
    耀子の成長していく姿が生き生きと描かれていて、自分のことのように嬉しい。
    新しい自分をつくる喜びを知った耀子は、もう、うつむかない。
    両足に力を込めて前を向く。
    「やらまいか」
    勇気の出る言葉を貰えて、私もとても嬉しい。
    何度も泣けたけれど、何度も励まされた清々しい素敵な物語だった。
    耀子のその後がとても気になるので、続編も必ず読む!

  • 常夏荘をとりまく人々、しきたり、地域の風習などが
    あまりにも昔のもののように感じていたら、
    1980年とそれほど前ではなかった。
    前時代的な雰囲気と、
    都会から持ち込まれる現代的なものとの違和感を感じた。

    複雑な家庭の事情を持ち、
    子どもたちからはいじめの対象となっている燿子と立海。
    2人が出会い、
    お互いの中に自分の安らげる居場所を見つけていくのが
    ほっとすると同時に、
    この状態がいつまでも続くとは思えないという気持ちで、
    ずっとドキドキしながら読んだ。
    突然の別れは、とても悲しくやりきれなかったが、
    立海のたくましさに救われた。
    次作もあるようだが、2人が再会できているといいなと思った。

  • とても良い!
    後半は涙を止められなかった。

    舞台は林業を営む遠藤家の別宅、常夏荘。
    父が亡くなり、母からは放棄された少女耀子は、遠藤家の林で働く祖父の元で暮らすことになる。
    遠藤家の当主の息子立海は、体が弱く、療養もかねて家庭教師青井とともに常夏荘に預けられる。
    遠藤家当主の息子の妻照子は、夫を亡くし、人付き合いが好きではないため、常夏荘で夫の思い出を抱きながら暮らしており、おあんさんと呼ばれ、常夏荘の周辺の人たちからは慕われている。

    まず、照子と夫との思い出がとても美しい。
    背が高い照子に対して、背が低く体の弱い夫。
    セミの夫婦と呼ばれ、大木(照子)にとまるセミ(夫)と嘲笑されたふたり。
    小さくちぢこまるように歩く照子に、ヒールのある美しい靴を履いて、堂々としていてくれと言う夫。
    そんな夫に心を開いていく中で、セミは長く生きられない、と新婚旅行で告げられた照子の絶望を思う。撫子組の話にも涙。
    夫の異母兄弟である立海に、夫のおもかげを見て、でも立海を救ってあげられない、これも悲しい。
    この時代、この遠藤家で、決定権のないものたちの絶望を思った。

    燿子が学校に行かなくなり、立海とともにお勉強をするようになってからの物語に、特に引き込まれる。
    耀子は、その生育歴から、どうして嫌われるのだろう、どうして私のもとからいなくなるのだろう、という絶望を抱いている。
    そんな耀子に、大人たちが伝える言葉たち。
    自立(かおをあげて生きること)と自律(うつくしく生きること)。
    どうして、ではなく、どうすれば、と考えること。

    自分をきらいなら、好きな自分になるのだと、自分を律して自分が好きな自分、こうありたい自分でいるのだというのが、自律。
    わたしは大人になっても、自分のことはまだよく分からない。わたしの中に、すごく嫌な自分がいる。
    子どもの時、わがままなことをすると、大人たちからは呆れられ、怒鳴られ、無視されたりしていて、こういうことを教えてくれる人はいなかった。
    当たり前のようなことだけど、恥ずかしながら初めて教えてもらえた気がした。
    大人になったからこそ、青井の言葉を理解できるようになったけど、子どもの時ならわからなかったと思う。耀子も、全部は理解できてない。でも、変わりたい、理解したいと頑張っている。

    そして立海の話し方が可愛い。
    日系アメリカ人のシッターに育てられたために、立海は「〜なのよ」などの、小学生男子は使わないであろう妙に女性的に言葉を使う。
    文章だけなのに、立海がとても可愛くて、愛しくなる。

    立海と耀子の交流、友情。
    ずっと孤独だったふたり、ずっと色んなことを諦めていたふたりが、はじめて互いを「この子に嫌われたくない、離れたくない」と思ったこと。
    耀子のお誕生日をやらまいかと、約束した翌日に、立海は東京の親父様の元に連れ帰られ、引き離されてしまった運命。
    これから先の2人の人生がどうなるのか気になるけど、きっとこの子たちなら逞しく生きていくはずだと思える。
    著者の伊吹さんが、誰よりもこの登場人物たちを大切に、愛しているとわかるから、きっと不幸にはならないはずだと思えるのだ。

  • 自然がのどかで豊かな常夏荘での、夏から秋の物語。
    山を管理する祖父に引き取られ使用人長屋で暮らす耀子と
    本家の嫡男で療養に訪れた立海の、小さな恋未満の物語。
    二人とも母親の愛情に恵まれずに育って、吐き出せない思いを小さな体にため込んで痛々しい。
    普通なら、他の誰にも邪魔されない二人だけの世界に逃げ込んでしまいそうだけど、そうならなかったのは峰生の土地のせいなのか。
    常夏荘の人たちが、みんなあたたかくて素朴で、ノスタルジックな味わいがありました。

    旧時代的な名家は、神秘的な別世界の様相ですが
    体を丈夫にするために女の子して育てるだとか
    一生分の肌着を用意しておくだとか。
    でも凛としたおあんさんはとても素敵。
    彼女の母として女としての目線が、愛おしくて切ない。
    青井先生も、最初やな感じの女?と思ったけど、かっこいい。
    ゆっくりじっくり、噛みしめて読みたい本です。

    劣等感に脅えていたヨウヨが、自分を認めて顔をあげて生きていこうとする。
    この世の理不尽を乗り越えて、やらまいか、というラストが好き。

  • あぁ 良かったなぁ 
    その心地よい余韻が続く
    そして、
    その作品がずいぶん前に
    世に出されたものであり、
    なんと 
    その続編が出ている
    そのことを 知った時には
    あぁ また あの「場所」に行くことができる
    その思いが また嬉しい

    イギリスの児童小説を
    専門にしている知人がいるのですが
    彼(彼女)たちは 至上のモノは
    サトクリフさんであり、フュージョンさんであり
    ランサムさん、アトリーさん
    むろん それはそれでよいのでしょうが

    この「なでしこ物語」の紹介をしても
    まず 「日本のものでしょ」と木で鼻をくくったような
    表情になり 話が拡がっていかない

    本当に残念なことである

  • 家族に恵まれず、自分の寂しさや悲しみをすべて葬って生きながらえてきた主人公の少女燿子と、引き取られ先で出会った御曹司の少年立海を中心として、取り囲む大人たちの気持ちも含めて再生されていく物語。私自身の中にもスイッチを切って普段は通電しないようにしてきた心の底の澱がある。少女の哀しみと似ているのだが、芯の部分がちょっと違うんだよなあという違和感が最後まで拭えず。多分これは私が作品に求めているものとのミスマッチ。相性かなあ。多めの登場人物も何故か私の中で融合せず、焦点が絞り切れず読了。

  • とても良い話だった。先が気になり一気読み。子供が元気な姿を見るのは気持ちがいい。ネグレクト・いじめを受けている小4の耀子と病弱な地方の名家の年下の坊ちゃん・立海。そんな彼らを取り巻く大人たちも互いに影響しあって『新しい自分』になって行く。耀子と立海が子供の約束を忘れることなく繋がっていってくれたらと願う。彼らはどんな青春期を迎えるのだろう。読み終えても余韻が残ってる。

  • 一気に読んでしまった。世界に引き込まれた。
    大人の都合で切ない想いをいっぱい抱えた子ども二人の出会いと、その二人を受け入れた大人たちの想い。
    すごく丁寧に描かれていた。
    「自立」と「自律」「やらまいか」がとてもいい。

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。第二作『四十九日のレシピ』が大きな話題となり、テレビドラマ・映画化。『ミッドナイト・バス』が第27回山本周五郎賞、第151回直木三十五賞候補になる。このほかの作品に『なでし子物語』『Bar追分』『今はちょっと、ついてないだけ』『カンパニー』など。あたたかな眼差しと、映像がありありと浮かぶような描写力で多くのファンを持つ。

「2020年 『文庫 彼方の友へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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