- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620108223
感想・レビュー・書評
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東京會舘が見詰めてきた人々の物語、下巻。
第六章は亡くなった夫との想い出の場所、東京會舘にやって来た老婦人の話。
新館に建て替えられて夫との想い出はどこにもないかもと思っていたが、意外にもあちこちに旧館の面影が残されていた。(昭和五十一年)
第七章は裏方からイベントやショーなどを担当する営業事務所部門に配置替えされたホテルボーイの話。
仕事が丁寧なかわりに遅く人見知りな彼が部門の副支配人にまで昇格出来たきっかけは、あの大スターの意外な姿を見たからだった。(昭和五十二年)
第八章は東日本大震災で帰れない夜、東京會舘で避難している女性の話。
不安な夜に思い出すのは、料理を習うために東京會舘に通った青春と言える日々のこと。(平成二十三年)
第九章は四度目の候補でついに直木賞を受賞した男性作家の話。
娯楽小説や作家を見下す両親と縁を切り、ひたすら小説を書いてきた彼が思い出すのは東京會舘で両親と食事をしたものの喧嘩をした苦い時間だった。(平成二十四年)
第十章は二度目の建て替えを前に結婚式を挙げる女性とその曾祖母の話。(平成二十七年)
新館に建て替えられて以後の下巻も上巻と同じく、晴れやかな物語が続く。
震災の日の話など、恐怖と不安の中で東京會舘の社員たちが懸命に避難者たちを励ましもてなす話にしても良いのだが、敢えて過去の青春時代を振り返る話にしている。しかしそのことが結末でいかに主人公とその夫が緊張と不安の一夜を過ごしたかに繋がる辺り、上手いなと思う。
東京會舘の長い歴史だけに、上巻で出てきた人が大きく成長していたり、更にその下の世代に繋がっていたりという話もある。チラッと出てきたあのシーンがここに繋がるかというのも楽しい。
芥川賞・直木賞をはじめとする数々の文学賞受賞の舞台になっていたのを初めて知った。
受賞者にとっては晴れやかな舞台だが、何度も受賞を逃した作家にとっては、角田光代さんのように『東京會舘って本当にあるのか』と言いたいほど遠い場所なのだろう。
上下巻を通して素晴らしいプロフェッショナルたちが沢山出てくる。裏方に徹し、客が気持ち良く晴れやかな気分で過ごせるように目配り気配りをしている。
三世代、四世代にも渡って長く愛される東京會舘の魅力はその建物の佇まいだけではないことが分かる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2017年3月に読んだお話。
東京會舘の歴史を連作短編の形で綴って
いる。そこには様々な人々が登場する。
下巻では、建て替えられ新館になった。
それぞれの話に、温もりを感じることができました。
私もいつか行ってみたいと、思わずには
いられないお話でした。-
2021/04/29
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ゆうママさん、こんばんは。
前にコメントへのお返事をした時に、いっぱい書いたのに初めの2行しか表示されていなくてヘンだなあと思って事務局に...ゆうママさん、こんばんは。
前にコメントへのお返事をした時に、いっぱい書いたのに初めの2行しか表示されていなくてヘンだなあと思って事務局に質問してみたら、わたしが絵文字を使ったために、そこから先が表示されなかったことが判明、たいへん失礼しました。こんな初歩的なこともわからないアナログ人間で、たぶんゆうママさんよりだいぶ年上です。このGWは辻村深月さんを読了。すごく良かったです!辻村さんはこの『東京會舘』とエッセイ幾つかしか読んでいないので、これからゆうママさんのレビューを参考にどんどん読んでいきたいと思います。こんな私ですが今後ともどうぞよろしく。2021/05/06
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恥ずかしながらこの本を読むまで東京會舘そのものを知らなかった私ですが、現実との境目がわからないくらいの筆力でさすが辻村さんでした。すごい取材したんだろうな。もうすっかり大衆作家さんだなあ…しみじみ。。
ひとつひとつが丁寧であたたかいお話ばかりでとてもよかった。直木賞のくだりはきっと辻村さんが体験してきたことなんだろうなと思うと本当に良かったねえ…とデビュー時からのファンは思ってしまいます。連作短編なのが惜しいくらい、どれももっと書いてほしいと思ってしまうから私は長編が好きなんだよ~~~~。いつか東京會舘でお茶くらいしてみたいなあ。改装する前に出会いたかったなー。。 -
下巻は時代の変化が緩やかで、上巻のほうが面白いと思った。
「金環のお祝い」
ちょっとうるっときた。
実際に同じ状況で同じように接客されたらどう感じるかは分からないけど、他人事として見ていると泣ける。
「あの日の一夜に寄せて」
梅崎先生の教えに激しく頷いた。
「煉瓦の壁を背に」
想像通りのラストは全体の雰囲気からして納得なのだけど、なんだかその雰囲気に飽きてしまった。 -
レストランや宴会場などを備えた歴史ある「東京會舘」を舞台に、建設当初の大正時代から平成まで、會舘の人々と訪れる人々の温かな話を紡いだ連作短編集です。
時代の移り変わりとともに少しずつ役割を変えながらももてなす心という「芯」を変えずにありつづける東京會舘という存在のありがたみ、そして登場人物たちが會舘とかわすさりげなくも素敵なエピソードが合わさって、良い余韻を残すお話になっています。
あまりにも素晴らしい、良い側面ばかりを描いているという感じは否めませんが、モデルそのままの名前を使っている以上は仕方がないのかも、と思ったりもします。
ひととき流行りのように「おもてなし」という言葉が乱発されましたが、相手の立場と気持ちを思い遣って、最大限の行動を行うということで、その相手や関わる人々の心をほぐしてくれるものだな、と感じました。そういう気持ちを常に持てる人になりたいものです。 -
建て替えが来年完成予定というタイミングでこの本に出会ったから、機会があったら東京會舘へ行ってみたい。お土産にパピヨンを買おう。
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上巻である旧館から時代が現代にうつる。知っている名前や出来事が出てきて、東京会館という場所の日記のようだ。建物の持つ力やそこに続く伝統の力はすごいと思う。
2017/6/28 -
昭和46年、新館への建て替えを経た東京会館。緊張で肩を震わす舞台女優、東日本大震災の日、直木賞授賞を知らされた父子…。東京会館の歴史を下敷きとした、優しさと慈しみに満ちた物語。
ハートウォーミングな話ばかりのがやや鼻についたものの、上巻と違って舞台が現代になったため、親近感が得られた。いま東京會舘は改修中のため、本作で描かれた建築様式などを目視できないのが残念。
(C) -
あまりの予定調和、
あまりの東京会館万歳、で
下巻は少し飽きたけれど、
それでも二カ所くらい泣く寸前のところまで行った物語があった。
幸せな人達の幸せな物語。
毒もほしかったな -
「金環のお祝い」が1番印象に残った。涙線を突いて来るのでとても困った。
姿・形が変わっても違う形で残っていれば思い出は一気によみがえって来る。その時どうしてたかどんな会話をしてたか。その会話が脳内で再生される。
もう戻れない、けれど確かにあったその思い出。
あぁ、思い出すのは哀しい、でも楽しい。
1番切ない話だった。
上巻の感想でも書いたけれど辻村さんの「東京會舘」に対する想いがぎゅうっと詰まった本だと思う。