- Amazon.co.jp ・本 (536ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622040965
感想・レビュー・書評
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意識に対する謎を解き明かすというのが本書の目標なのだが、その意識の謎を扱っているのが最後の2章程度で残りは数学、物理学に対する説明となっている。しかし、この種の「意識とはつまるところ何なのか」という難問に対して哲学者が行うような相手を煙にまくような議論を避けて、真剣にこの問題を科学的、客観的に解明しようとする強い意志を感ずることができた。
おそらく我々の脳を構成するシナプスの配線は量子力学における状態ベクトルの複素線形重ね合わせの状態にあって、たまたまある状態ベクトルの収縮によって我々の意識が構成されるのではないか、そう考えれば、様々な思いが我々の意識に同時的に浮かんでは消えていくような常識的に考えてありえないことも説明がつくのではないかとも思えた。作曲の天才が一瞬で名曲を完全な形で作曲できたりするのも説明がつく。このように刹那に全体を構成できるというのも、常識的にはありえなくても量子力学的にはありえそうだと思える。ある考えが「浮かぶ」というのは言いえて妙だというのはそういうところにある。一つ一つ組み上げるのではなく全体として存在している。そういう全体を発見するという現象をプラトン的実在と兼ね合わせることで、深淵な哲学的思想も同時に展開している。意識というものが単にアルゴリズム的なものでないだけでなく、物理的にこのような量子力学的な複雑なプロセスが関与していることを考え合わせると、「技術的特異点」などというものはあり得ないように思える。
私としては、自由意志なんて存在していなくて我々の思考はすべてある物理学の方程式によって完全に決定されているのだが、その方程式が複雑すぎて予測できないから、そのことをもって「自由意志」と言っているにすぎないのではないかと思う。要するに原理的な問題を取り上げても、実地で計算できないなら考えてもしょうがないと思う。そういう、「実地」の問題に還元して議論に手打ちをしたいという誘惑が浅学の私につきまとうのだが、やはりペンローズは一流の学者であり、そのあたりについても真剣な考察をしている。ちなみにハイゼンベルクの不確定性原理もそういった「実地」の問題として取り上げる書物があるようだが、ペンローズは明確に否定している。
数学や物理学に対する著者の思い入れが強いのか、意識とはさほど関係ないように思える説明も多々見受けられる。しかし宇宙論などは読んでいても面白いと思うのでそういった「この世界の仕組みはどうなっているのか」ということに関心を持つ意識高い系(中二病的?)には読んでみると別の気づきもあるかもしれない。そういうわけでサイエンスの読書はこれで最後にしたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
サイエンスファン必読。と言うか当たり前か?
これと出会ったのは中学の頃だが、まだまだ読みきれないところがある。年を経る毎に、新しい発見がある。扱う分野は人工知能から量子力学、数論、私に剥離不可能な世界そのものについて、大変幅広い。
この本は青年期の私に大きな影響を残した。死ぬまでにこの領域から先に進めるかは、私の大きな課題である。
フーリエ変換のネジネジは他の本では中々お目にかかれない。ファイマンくらいか?物性を考える上で、私の非常に勝手のいい道具の一つ -
《目次》
・ プロローグ
1 コンピュータは心をもちうるか?
2 アルゴリズムとテューリング機械
3 数学と実在
4 真理、証明と洞察
5 古典的世界
6 量子マジックと量子ミステリー
7 宇宙論と時間の矢
8 量子重力を求めて
9 実際の脳とモデル脳
10 心の物理学はどこにあるのか?
・ エピローグ -
日比谷
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強いAI,すなわち操作主義、機能主義。
量子はパターンであり配置であり、量子間に個別性はない。 -
アバター倫理学・シンギュラリティ
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17.9.30
トナメ〜ル
●受講生から
to:戸並さん
〇〇です。
ご無沙汰しております。
本トナメ〜ルを頂いた日から間が空いてしまいましたが、
興味ある話題ですので少し返信を。
AIブームの流れもアリ、巷間で量子コンピュータの話題が出るように
なってきました。こういった基礎研究に投資を維持することはもちろん
Welcomeですが、ハテ?と思う記事もありAI同様に過剰な期待とその揺り
戻しで廃れるという事が無いように祈りたいです。
汎用用途の量子コンピュータ(ショアのアルゴリズム等を実施できるモノ)
は0と1の状態の重ね合せが出来る「量子ビット」を制御し、最後は観測して
結果を得る事がポイントですが、
・量子状態の重ねあわせ(30%は0だが、70%は1など)の特性から超並列計算
が出来る
・反面、アルゴリズム実行後の最終的な量子状態も重ねあわせ状態
(5%は0だが95%は1など)という事で、最後観測によって答えを
得ようとすると、100%の確率では正しい回答が得られません。
(↑の例だと100回実施して0の回答が5回、1の回答が95回手に入る)
このことから、
超並列で計算処理は出来るが、正答の取得が確率的、なのでいずれ
にせよ複数回の実施が必要となります。
(最後に、確率的に一番もっともらしい答えを、通常のコンピュータで
検算する)
今回の例では1つの回路で複数回の実施相当(多数の光子を流す)が
出来るうえ、量子ビット(光子)の制御もループバックで同一回路で
繰り返し実施できるという事なので、驚きました。
量子物理学の描く世界は、慣れるとまあそんなものかと思う反面、
観測するとなぜ状態が(確率的に)決まってしまうのか、という事
自体が未解明の部分もあります。
(観測理論と呼ばれる領域で、物理学でもかなりマニアックな範囲です。
最近のニュースで、時間の不可逆性を導けた、という話も出ていました。)
量子コンピュータを作ることが、量子物理学の基礎の基礎や、哲学的
な領域までと関わってくるというのも興味深いですが、AIとの兼ね合い
で言うとペンローズの「皇帝の新しい心」という本もあったなー…と、
久々にリトライしてみようかと思います。
(大著でとっつきづらく、なかなか読むところまで至れず。。)
以上、ご確認のほどよろしくお願いいたします。 -
『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』松尾豊 著 KADOKAWA:参考文献
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「皇帝の新しい心」ロジャー・ペンローズ
体調崩して、GEBに取り組んだのだけども、GEBがそもそも人工知能(知能がどう創発されるか)の本だとも知らずに読んだので、その次は期せずして山積みしてた本からこれの順番がきた。
この本はGEBから10年後だという。
ホフスタッターにしろペンローズにしろ、知能への想像を膨らましていくときには、直感を頼りに想像のうえに想像を重ねていくことになるので、どうもつまらない。読む気がおきない。
ちょっと後にくるユーザーイリュージョンの衝撃のほうが世界観を永遠に変えてくれる。
ホフスタッターの本が、不完全性定理とバッハとエッシャーに自己言及的な環状構造をみて、、、というのは面白い知的興奮だったけど、知性が結局どこから創発されるといいたいのか、はうやむやなので、これは何の本だったんだ、ということの誤解が大量に溢れることになった
のに対して、ペンローズは、量子力学的、不確実性な世界を用いる。
最初は数学の世界から、不完全性定理や、現実的な計算可能性問題などから、アルゴリズムの方法論の限界をみせる。
次に物理の世界から、古典的な決定論的世界でも、未来は現実には計算不可能であることや、量子の観測による非アルゴリズム的な振る舞いを通して、これまたアルゴリズム的な方法の限界をみせる。
脳の構造、意識の振る舞いを通して、意識は非アルゴリズム的、無意識はアルゴリズム的だ、といく。(このあたりからちょっとペンローズの専門外だから、直感は鋭いのに論理はあやしくよれる。)
結論としては、意識、知能は非アルゴリズム的なので、今の人工知能研究がどんなにアルゴリズムを改善し、マシンスペックをあげてっても、そこでは強いAIは実現しない、ということ。非アルゴリズム的な振る舞いが期待できるのは、完成した量子重力理論であって、その完成なくして意識は理解できないだろう、ということ。
数学や物理学を通してプラトン的世界を感じてるペンローズに、極東からものすごい距離を感じつつ読む。
GEBと同じで、途中まではいいんだけどなぁ。
どちらも、「ここに可能性を凄く感じる。俺の数学的審美眼が、ここにビンビン反応してる」というようなことを言いたい本で、何に反応してるかはわからないけど、ここに美的に反応するのはわかるでしょ?ということを説明するために世界観を構築していく。その構築過程は面白いのに、最後のところになると、審美眼的なビンビンでしかないのに、論理は組みあがらないから、よれる。
はぐらかさざるをえなくなってる。
2人とも引用してるバッハのフーガの技法みたいに、いっそ、そこで突然終われればいいのに。 -
皇帝の新しい心―コンピュータ・心・物理法則