- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622076513
作品紹介・あらすじ
2019年10月14日ノーベル経済学賞を受賞
貧困研究は、ここまで進んだ。単純な図式(市場vs政府)を越えて、現場での精緻な実証実験が明かす解決策。
感想・レビュー・書評
-
2019年にノーベル経済学賞を受賞した、インドの経済学者アビジット・バナジーとフランス人経済学者エスター・デュフロ(二人はご夫婦だそうです)の共著のこの本を頑張って読んでみました。
この本では経済、教育、農業、政治を通し、人間の心理まで考えます。
言葉が非常に丁寧で、貧乏な国や地域の問題を読者の多くがいるであろう先進国の人たちも身近に感じることができるような説明になっています。
そもそも「貧乏な国、家庭はずっと貧乏である」、つまり貧困の罠に囚われるということはあるのかということは、長年議論されています。
貧しいことに対して他者(他国)からの援助は必要なのか。この問題は「貧困に囚われているなら、一つの世代に“どん!”と後押しをするべきだ」という意見もあるし、「そのようなおせっかいはその国の自由市場を奪う」という意見もあります。
それぞれ調査結果により勘案されてはいますが、数字だけではわからないその国や人の事情があり、それを現地調査しなければいけません。
例えば「マラリアを予防すれば医療費はかからないし将来的に働き手にもなり、経済的に向上する」と分かっていても、蚊を避けるための蚊帳をお金を出して買う人が少ないとする。この結果をどう読み取るか。「蚊帳を買わない人は貧乏な人だ。将来的に良いことだと分かっていてもお金がない」と言う場合もあれば、「蚊帳を買わない人はお金持ちだ。コネで無料で回してもらえるから」という場合もあるというわけです。
こちらの本では、例えば2つの地域に別々のアプローチをして効果を確認したり、数字だけでは見えない実情を現地で調査したりしています。
私自身は世界情勢政治経済がとても苦手なので根本が分かっていなかったり理解できないことも相当ありますが、
しかしこの本を読んで貧しいことへの問題について非常に身近だと感じたことは多々あります。
❐食よりも大切なもの。
・1日1食しか食べられない家庭があったとして、収入が上がった(または補助する)としても、1日2食になるのではなくて、その1食が少し良いものになるということ。
人間は味気のないものをたくさん食べるよりも、ちょっといいものを(高いもの)買いたがる。
⇒私達が「安月給だけどスマホは必需品」と思うのなら貧困の人たちも「1日1食しか食べられないけれどカラーテレビは必需品」と同じように思うのです。
❐教育支援のこと
・子供が複数いる家では、収入が上がったとしても全部の子供を学校に行かせるのではなく、一番できる子供をより上の教育(高価な学校)により高度な教育を与えたがる。
・学校を作っても、子供自身が行きたがらない。
・学校を作っても教師がいない、またはやる気がなければ意味がない。
・「この学校に入りこの技術を身につけたらこの会社で雇い、給料はどのくらいです」と現実的に示せば就学率は上がる。しかし「そこまでおせっかいするのか。その国が精神的に独立しない」ということもある。
❐貯蓄の難しさ
・全員が先の見えない大成功のために努力をしたいわけではない。自分の知っている範囲での成功で良いという考えもあるとなると、貯蓄や融資を利用するほどでもない。
・家庭内で夫のほうが妻より決定権があると、女性の意見は取り入れられづらい。
・融資を受けた場合、返却する、しない、は地域ごとになる。たとえば一つの村はほぼ全員が返し、一つの村はほぼ全員が返さない。人間は周りと同じ行動になる。
・人は、明日の自分は今日よりも立派になっていると錯覚する。
⇒「今日はケーキを食べて、ダイエットは明日から★」が実行できない私たちにも心当たりがありすぎますねorz
・1年間肥料を無料配布し、現実的に収益が上がった。しかしその村で翌年の肥料を買う人は少なかった。現実的に成功を体験したし、収穫直後は「翌年も肥料を買います!」と言ったにも関わらず。調査したら「肥料がある店が遠すぎて行けなかった」「肥料を買いに行くまでに、別のものが必要になり、肥料代がなくなった」
⇒似たような心当たりはありすぎますねorz
ではなぜ「分かっているけれど教育を受けない」「分かっているけれど貯蓄できない」「人は堅実な医療行為を受けるため貯蓄や保険を利用せず、呪いや即効性のある注射を信用する」のか。
それは、教育や貯蓄や保険によった良い結果が現れるのは長い先であり、成功するかもわからないので「賭け」になります。そのため「大変だけれど将来のため勉強しよう」「目の前のお酒を我慢して貯蓄しよう」ということが難しいわけです。…いや、これまさに自分orz
さらには途上国では「安心できる」「強制的な」社会システムが構築されておらず、確実性がないということもあります。
そして先進国では、教育、医療、保険、法律などの「後押し」「おせっかい」を知らず知らずのうちに受けて生きているのです。(同じ国の中での貧富の差も、根本はその「おせっかい」に手が届かないということ??)
…とこのように、貧乏な国の問題と言われると、戦争が〜旱魃が〜などの事情に原因があると思ったり、どうして蚊帳を買わないの?などと考えてしまいますが、
貯蓄や保険や教育などまさに私達と同じ考え方であり、人間の考え方は変わらないのだなと思います。
この本では、どうすればよいというような解決はないし、私自身も自分がすぐできる効果的な行動もわかりませんが、
「貧乏人の経済学」を身近なものとして感じ、そして今自分が所属している社会のシステムを見回してみよう、という気持ちになります。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本はノーベル経済学賞を受賞した本です。
この本は、「貧乏な人を救うにはどのような方法がいいのか?」という問題について、様々な研究や検証を行い答えを探していきます。
「援助は無駄である❕」という考え方や「どーんと援助しないと効果がないよ❕」など、様々な意見もあるなか、本当に必要なものは何か?を探していくという内容です。
とてもいい本なので、ぜひぜひ読んでみてください -
Twitter(現X)で見かけて気になったので図書館で借りてきた。共著者のE. デュフロという人は2019年のノーベル経済学賞を受賞した人とのこと。
貧乏な人(1日99セント以下で暮らす人)を十把一絡げに論じるのではなく、現地に赴きランダム化対照試行という手法で、実際に施策をしてみた場合としなかった場合を比較している。
机上の空論でなく、実際に足を運んで個別の問題について実証的にやっているので説得力もあり好感も持てた。
そして読んでいる最中、本書で扱っている「貧乏な人」のみならずこれらの問題は今の日本の問題にも当てはまるなぁ、と思ったりもした。
貧乏な人・貧乏な国はなぜ貧乏なままなのか、ということについて私自身の偏見にも気付かされたし、もっとこの分野について知りたくなった。また、貧困の問題についてもどこかにあっと驚くような解決法があるわけではなく、一つ一つの個別の問題を絡まった糸をほどくように個別に解決していくのが早道だと思ったりもした。 -
貧困問題に取り組むにあたってランダム化対照試行を用いた行動経済学のレポートと論考。極めて興味深く、刺激的な本でした。
購買力平価で1日99セント以下で暮らす極貧の人達の生活。それをとりまく社会問題は様々で、ここでは食糧・健康・教育・家族計画・保険・金融・仕事・政府の問題が扱われています。
問題を解決したいんだったら、とにかく先進国から金と人を投入すれば良い。極貧の人達でもアクセス出来る安価な食糧(カロリーベースで)や予防接種を提供して、学校を作り、コンドームを渡し、人口抑制・AIDS防止の教育プログラムを提供すれば良い。実際に現状を知らないとまずはこういう解決方法を思い浮かべます。しかし現実には上手くいくとは限りません。支援や制度が善のイデオロギーによるものであれば、その結果も善となる、というのは幻想だということです。
本書では、最終目的に適うインセンティブを明らかにするために、様々なランダム化対照試行を実地で行ない、それによって因子を見つけ出し、解決プログラムに反映させるプロセスを多数紹介しています。そのどれもが新地平であり示唆に富むものであり、大いに読む価値があります。
加えて、本の最後に付いている訳者解説がとても良かったです。解説で指摘されている通り、この本に書かれていることは貧困世界だけに留まらず、私達の身近な生活や社会にも通じます。合理的期待等に関する極貧の人達の思考パターンや行動パターンは、誰しも自分が苦手に思う分野に対するアクションの取り方に自ずと重ね合わせてしまい時には苦笑してしまうことでしょう。つまり、自分の目の前にある諸問題の解決に当たっても有益なことがこの本で語られているといえます。 -
タイトルの通り経済学についての本だが、人間の行動心理について書かれている部分も多くあり、そこが私にとってはとても興味深かった。
特に「時間不整合性」や「豊かな国に住む者は眼に見えないあと押しに囲まれて生活している」という二つの事実は、今後もずっと覚えておきたいと思った。
まず一つ目の時間不整合性は単純に言うと「今チョコレートを食べるのを我慢できないのに、来年にはダイエットに成功しているはずと思っている」ようなことで、これはとても身に覚えがある!いつも将来に過大な目標を立ててしまい、一方で現実は全く努力ができていない。いつもそう。
それは私がとんでもなく怠け者のせいなのかと思っていたが、人間すべてに共通する傾向であると分かり、安心した。「そういうもの」なのだとわかれば、それに即した対策が立てやすい。
二つ目のことについては、私は先進国に生まれた幸運への実感が足りなかったと反省した。蛇口をひねれば水が出てきて、娘の予防接種もすべてお膳立てされていて、医療機関への信頼も高い。この恵まれた環境が私の履いている下駄であることに気づくことができた。
今までは正直に思えば「貧乏人は何かしらの原因(低栄養、低IQ、教養の低さなど)で合理的な判断ができないのだ」と思っていた。しかし本書を読んで、それが事実ではないことが分かった。
そもそも貧乏人はそれぞれ「そのとき・その環境において合理的な判断」をしているし、私が自分で言う「合理的な判断」ができるのは、私が大きな下駄を履いているからなのだ。優れた人間であるからではない。もしこの本の中にあるような貧困の中にいたら、私も結局「合理的でないように見える」判断をし、行動しているのだろう。
このことは、「その人はいまの精一杯をやっている」という知見を与えてくれる。一見不可解な言動でも、その人の選択肢の中ではベストかもしれない、ということ。これは日常のいたるところで役に立つ考えだと思う。「その人は精一杯やっている」と思うことで、相手を慮ることができるし、「じゃあなぜそれが精一杯なのか?」と相手の背景に関心を持つ源流にもなる。
ほかにも様々な人間の心理が確かな実験データを用いながら説明されており、経済学に縁遠くても最後まで興味をもって読むことができた。
一つの包括的で普遍的な答えはないということ。
塊のように思えるものも実態は多様な問題の束であり、一つ一つ観察して調べ、内実を把握し、それに適した解決法を充てていくのが必要だということ。
本書を通じて主張されていることで、著者は最後に「静かな革命」という表現をしているが、それがとても大切なことで、真実だなと思った。一つ一つの取り組みは小さいものだし、その効果も地味に見えるかもしれないが、確かに意味があり、前進している。オールオアナッシングの誘惑に打ち勝たねばならない。
自分の人生に必要なのも、この「静かな革命」ではないのか?と感じた。
ただ、最後の第十章は読むのに苦労したし、たぶん理解できていない。自分の知識の不足を感じた。
. -
貧困問題について、こうだろうと思っていた先入観をバッサリ切ってくれる本。データ付きなのでぐうの音も出ないほど、論がスッキリと述べられていて面白い。
-
収益を得るにはある程度まとまった投資をする必要があるため,それ以下の投資では逆に貧しくなってゆく貧困の罠について,その有無を机上で論じるのは無意味でで,調査してどちらの場合になるのかRCTで確かめなくては問題は解決できない.この方針で,様々な調査結果が示される.
防接種率を,豆のオマケを付けることで向上させる著名な例の紹介.イデオロギーでは,右派からは無駄,左派からは不道理と言われる政策だが,それよりも実効性が重要と主張している.
イデオロギー ideology,無知 ignorance,惰性 inertia の3I問題のため,実効性のない政策が行われる.インドで親が学校の運営に関わる政策で,人々に権限を与えるイデオロギーに基づいて,人々の要求を知ること無く政策が立案され,それの結果が評価されずに惰性で維持される例など.
ドグマ・ルール指向の施策より,現実に有効なのはシステム指向であるという主張を支持する内容で,よく同意できる内容だった. -
すごく面白い
6章まで読んだが、残念ながら返却期限が来たので、返却。
7/27 読了
重要な教訓
1.貧乏な人は重要な情報を持っていないことが多く、間違ったことを信じていることがある。
2.貧乏な人は、人生についてリスクを背負いすぎている。
3.一部の市場が貧乏な人に提供されないのは、やむを得ない場合もある。技術的なイノベーションが、この問題を解決または緩和することもある。
4.貧乏な国は社会制度がうまく機能していない場合が多いが、それは運命ではなく、政策の欠陥によるものであり、3つのi 無知ignorance, イデオロギーideology, 惰性inertiaのせいである。しかし、社会制度全体を改革しなくても、部分的制度改革で効果が上がることもある。
5.人の能力に対する期待(ないし期待の欠如)は、自己実現的予言になることがある。どうせできないというような考え方は、できないという結果を生む。成功例を提示してみせることが有効。