ヤマケイ文庫 定本 黒部の山賊

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  • 山と渓谷社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635048651

感想・レビュー・書評

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  • 毎年アルプスのどこかに山籠りする登山好きとしては、当然読みたい本ラストにランクインしていたのだが、とうとう今年はこの本の舞台辺りに行くことになったので、急いで読むことに…

    舞台となる中心地は北アルプスの最奥地である
    日本最後の秘境と言われる「雲ノ平」や黒部源流があり、長野県、岐阜県、富山県の三県の境をなす「三俣蓮華」も有名であろう
    標高3000M近くの別天地
    真夏に凍死するほどの強風(雨に濡れて、暴風が吹いたら気化熱でイチコロである)はもちろん、濃霧による道迷い、黒部の増水や鉄砲水など、恐ろしい場所である
    (行くと決めても、やめようかと悩んでしまう場所だ)
    そして、なぜ秘境かといえば、それはもうただただ2日程かけないと行けないような奥地なのだ
    (今回この奥地を縦走するにあたり、5日間の行程を組んだ)

    戦後昭和20年頃
    著者の伊藤正一氏は三俣蓮華小屋、水晶小屋を譲り受け、山賊らの協力を得て、この辺りを発展させていった
    また最短ルートの登山道を独力で完成させたり、と雲ノ平一体の魅力を多くの人に広めた功績者である

    そんな北アルプスの奥地を誰よりも知る人の本が面白くないわけがない!

    まず、盗難や殺害など恐ろしい噂ばかりがあった得体の知れない山賊達との出会いがある
    情報量がただでさえ少ない時代、ましてや人跡未踏の奥地での話である
    噂が噂を読んで真相を知る術もない中、ポケットに短剣を忍ばせ伊藤氏は山小屋にいる山賊に会いに行くのだ
    本当は自分が買い取った山小屋なのに、主の如く、その山賊がいる
    意外な彼の風采はポマードをつけた恰幅の良い紳士
    しかし天井には拳銃、猟銃、たくさんのはいだ獣の皮や丸ごと薫製されたグロテスクな兎が吊るしてある
    そこらのサスペンス以上の恐ろしさだ
    どんな展開になるのか、恐ろしさと好奇心ではちきれそうになる(笑)

    山賊達は、手製のワラジを1日4足履き潰し、常人が4日かかるところを1日で歩く
    岩魚、熊、カモシカ、兎などの猟をし、もちろんそれらは食される
    巻末には彼らの写真とプロフィールもあり、大変興味深い
    こんな調子でとても読みやすく、ワクワク、ゾクゾク、ハラハラ、ドキドキ楽しめる

    しかし自然の恐ろしさに関しては、残念ながら楽しいことは何一つない
    現代の登山装備があってさえも、ビビってしまう場所なのだが、戦後の時代の装備を考えると確かに亡くなる人は多かったのもわかる気がする(ゴアテックスの凄さを実感)
    また山を甘んじる無謀な登山者は今も昔も変わらないのは残念だ
    多くの命を救ったであろう伊藤氏の話は切に染みるものがある
    死と隣り合わせの登山の恐ろしさを改めてヒシヒシ感じ、身が引き締まった

    そして不思議な体験…
    死を誘う「オーイ」の呼び声はバケモノ、「ヤッホー」にしよう!
    カッパの正体や狸の擬音の巧みさ…
    摩訶不思議で恐ろしい体験話がいくつもある
    でも山だから…となんか妙に納得してしまうんだな、これが…
    他にも
    埋蔵金の話し、物資運搬の大変さ(歩荷賃とヘリを使った輸送費は大差ない⁉︎)動物との共存(食料欲しさに山小屋をノックする熊)、黒部(黒四)ダム建設(7年の年月と990万人の人力を費し、167人の尊い犠牲者を出した)など
    興味深い話が沢山ある

    山の怖さも魅力も全てを知り尽くした作者の著は、登山をするしないに関わらず、興味深く、人々のDNAに響く気がする
    そして所々にある写真を見ないと、とても昭和20年代の内容と感じないのも不思議なのである…
    そうか、時代が移り変わっても、山の真の姿みたいなものは不変なのか…⁉︎

    さて、果たして計画は立てたが行けるだろうか…

  • 黒部の山賊と共に過ごした著書の時間を綴った一冊。"山賊"という言葉、未知なる世界に好奇心を刺激され黒部の山奥へ。"山賊"とはつまり、山と共に生きる人ということなんだと強く実感した。数々の猟(これは読みながうちのうさぎの視線が痛かった)、数々の不思議話、山の生活で自然と身についた数々も興味深い。まさに山で命を燃やしているからこそ、山と一体化しているからこそ、の数々なんだろうな。山=ヤッホー、これは肝に銘じたい。一番最後の一番不思議だった話、こういうのはすごく好み。あっても不思議じゃない。まさに浄化だなぁ。

  • 伊藤正一『定本 黒部の山賊』ヤマケイ文庫。

    小泉武夫のエッセイか椎名誠の『あやしい探険隊シリーズ』のような雰囲気を持った面白くも、山の魅力が伝わる秀作。これが昭和30年代に出版された作品とはとても思えない。

    北アルプスの奥地の黒部源流で長らく山小屋を経営した伊藤正一が、終戦直後に『山賊』と呼ばれた 遠山富士弥、遠山林平、鬼窪善一郎、倉繁勝太郎らとの山での奇妙な生活と交流を描き、山の魅力を伝える。

    “定本”ということで、本編に『人物グラフィティ』、『黒部源流グラフィティ』を加え、再構成し、文庫化。

  • 私が生まれる前、私の父母が山を楽しんだ頃?の北アルプスの山賊達(笑)の話。
    母に買ってあげた本を読んでみた。
    時代、環境は変わったが黒部の風景は変わらず(先日テレビでこの本に出てくる沢をドローンで撮影しているのをを見た)、今でもこの本に出てくるエピソードに出て会うことができるのかもしれない。いつか出会ってみたいと思った(父母は見たのだと思う)。

  • 山岳書の決定版

  • 『黒部の太陽』……ならぬ『黒部の山賊』という、物凄いインパクトのあるタイトルに惹かれて購入。ヤマケイ文庫のタイトルはパワーワードが多すぎるぞ。
    戦後すぐの混乱期に始まり、黒四ダムの完成で終わる本書は、日本アルプス黎明期から黒部峡谷で山小屋を経営し、登山の発展に尽力した人物の半生記と言える。その渦中で出会った猟師(=山賊)との関わりが重要なテーマのひとつであり、それがこの、一度見たら忘れられないタイトルの元になっている。
    山賊騒動も、当時、実際に新聞紙面を賑わせていた……というところも現代人からすると面白いのだが、登場する『山賊たち』が皆、個性的で、一度会ったら忘れられないタイプだ。ホンマに人間か? と言いたくなるようなエピソードもあるし、長年、山で暮らすと、人間の限界値がかなり上に引き上げられるのだろうか?
    それ以外にも、実際に起きた遭難の実例、今で言う『実話怪談』めいたエピソード、そして黒四ダム完成に向けて変貌する黒部峡谷の姿など、読みどころは数多くあり、飽きることがない。
    しかし、幾ら大らかな時代だったとはいえ、『クマを餌付け』は当時でもNGだったような気がしてならないw フツーに危険だろうww

  • 著者は現三俣山荘オーナーの父、伊藤正一氏。昭和20〜30年代の北アルプス最奥を舞台にした話。
    出てくる男たちの脚力がとにかくすごい。本書で語られる山賊たちもそうだけど、伊藤氏も、朝4時に上高地の明神館を出て午前中に三俣山荘に着き、また引き返してその日のうちに上高地に戻ってくるなど常人ではない。私からすれば超人である。そんな超人たちが北アルプスを縦横無尽に駆け回る様を、楽しく読んだ。

  • とても生々しい山を開拓していく話
    実際にあったことだからこそ淡々と書かれているが環境に影響を受けバタバタと人が死んでいくのは衝撃。
    でも山の魅力もたくさん伝わってきて、私自身北アルプスに行きたいと強く思うようになりました。

  • 第二次大戦直後に黒部川源流の山小屋を買い取ったら、山賊たちが主人然としていたので彼らに宿料を払った。
    山賊たちは銃を持っており、山で行方不明になった人々がいるのは彼らのせいだという噂。

    仔細がわかってみると、山賊というよりはアルプスを熟知した猟師たちで、噂されていたことは誤解が多かった(もしくは立証できなかった)ので、彼らと5年ほど山小屋で生活を共にし、その後、昭和30年代半ばまでに山で経験したあれこれを書き記したという一冊。

    「アルプスの怪」というのは、山賊たちのこともそうだし、佐々成政の埋蔵金を目当てにやって来る山師たち、さまざまな遭難事件、動物に化かされる話、そして妖怪や幽霊の話に聞こえるような話(疲労や標高などの理由で幻覚を見やすくなるのかな)、といった事柄を総称したもので、適切なサブタイトルなのである。
    著者は工学者であって科学的な視点を持っていながらも、そういう内容になっているので「昭和の遠野物語」みたいな感じを受けた。

    第一版は昭和39年で、絶版となった時期を経て復刊し、現在はヤマケイ文庫で入手しやすくなった。
    それだけ根強い人気があるのは納得できる。とても面白い。

  • 山賊(猟師)、彼らとの山の生活、アルプスの怪異、怪異よりも怖い人の心、登山道の整備、山小屋の活動、どれも興味深く、巻頭の地図をひきながら読了。山や登山に興味のない人にも勧められる本。

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