セクシュアリティの心理学 (1644 有斐閣選書)

著者 :
  • 有斐閣
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784641280526

作品紹介・あらすじ

本書ではジェンダーとセクシュアリティの混乱を整理した上で、現在のセクシュアリティ研究の最先端まで読者を導いていく。

感想・レビュー・書評

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  • 古本屋で見かけて購入。本日読了です。

    フェミニストの立場に立って書かれた心理学の本ですが、内容としては「セクシャリティをめぐる差別の心理学」(はしがき)でした。「心理学的にセクシャリティについて説明する」というよりは、むしろ「心理学における過去のセクシャリティに関する研究の試みが、いかにこれまで性差別に加担してきたか」を炙り出しています。
    第1章に出てくる、摂食障害の少女を自分の言うことを聞かないからと12回も電気ショックで強制的に「治療」しようとした医者の話。第2章に出てくる「ジェンダー」概念の生みの親ジョン・マネーがした自分の理論の正当化のために一人の人間のいのちを利用した「双子の症例」。この1章と2章の話は初めて知った内容ばかりでしたが、読んでいて気持ち悪くなりました。
    特に「双子の症例」に関しては、ジェンダーフリーに対する保守派のバックラッシュの根拠にもなっているようですね。しかし、「双子の症例」については、これはジョン・マネーが悪いとか、フェミニストが悪いとか、そういう問題じゃないと思います。ジョン・マネーも、彼の理論を支持したフェミニストも、更にはそれを批判する保守派でさえ、一人の人間のいのちを政治利用しているように思いますね。明らかに「論敵に負けないように」というためだけに、自分の理論を牽強付会するためだけに、一人の人間の人生がボロボロにされたんじゃないですか。自分の理論の正当化のためだけに、一人の人間の性のあり方をこれほどまでに玩べるものかと、私は読んでいて思いました。これについては『ブレンダと呼ばれた少年』という本もあるようなのでまた読んでみたいと思います。
    第3章以降はほとんど概説です。第3〜6章にかけては性差や結婚や母娘関係をフェミニズム的な視点から、第7章〜9章にかけてはバトラーやセジウィクなどを引用しつつクィアの視点からセクシャリティにまつわる議論ついてざっと解説しています。

    全体的に主観が多いような気がします。もっと厳密に言えば、フェミニズム特有の政治的な心情が濃厚に反映された、著者自身の願望で物を書いている部分が多々見受けられます。
    「男性社会に問題がある」ということはやはり言い切りたいんでしょうね。だからこそ、心理学も女性が主体である「フェミニスト心理学」が必要なのだと、そういう話に持っていきたいのも分かります。ただ、バトラーやセジウィク等の非常にラディカルな議論にまで首を突っ込んでしまったばっかりに、「『男性社会』『フェミニスト』というのもそもそも幻想じゃない?」というところに行き着いてしまって、そこで著者も困惑してしまったまま終了という感があります。

    世代としてもリブ運動を間近で見ていて、そこから大変勉強なさった、そして勉強したがゆえに大分混乱したのだろうことが想像されます。この本の出版は2001年、16年前ですか。その時期にもうこんな本が出て、こういう心理学者がいたということだけでも、すごいことじゃないかなと思います。この本をうけて、心理学が加担した差別の歴史をしっかり見据えつつ心理学の観点からセクシャリティを研究しようとする研究者が出てくることを私も願ってやみません。

    クィアに関する研究・運動は日進月歩。変化するスピードが早いです。実際読みながら、もうこの本は内容的にもOut of Dateかもなぁと思っていたところはありました。ところが、書いてある内容は古さを感じない。実に今日の問題にも通ずるトピックを扱った、よくまとまった論考だと思います。

  • 女性は一度は読むことを薦めたい本。もちろん男性でもいい。
    世間の常識って人類始まってからあるもんじゃないんだよね、と当たり前のことがわかる。
    頭脳が本当に大切な役割を果たしていることもわかる。
    意識する、思う、考えるということはすべてを左右するんだということも。

    何年も前に買って積んでおいた本。初版ですから10年前。
    読み始めて、これは腰をすえてかからないと、と思って勿体つけてたんですが、これを今の私が読むからよかったのかもしれない。
    10年前に読んでさらに今読むと自分の変化がわかってよかったのにとも思う。
    若い頃と中年になってからと味わいが変ると思うがどうだろう。

  • 20年前だからしょうがないとは言え、思い込みが多すぎて滅入ります。論理で繋げば唯一解、ではないという事と、時代背景(当時の常識)を前提に語るべきでないという事を、身をもって教えてくれている、のか?

  • フェミニズムの視点から書かれた心理学の教科書、とのことだが、門外漢からすると内容は本格的。社会学とか構築主義とかの議論を踏まえながら論じられているので、以外と読めた。セックス/ジェンダー/セクシュアリティそれぞれの概念がどのような経緯で出てきたのかを論じた箇所はとても分かりやすかった。本論からは少しはずれた話(少女マンガと少年マンガとか)が鋭くて面白かった。社会学的観点を導入しながら心理学の話をされると、<女であること>に対して求められることが多すぎるしそれに応えることがそもそも不可能なこともたくさんあって、そりゃ病むよなと思った。

  • 凄い良かった。
    セックス、ジェンダー、性的指向を、適切に整理してくれていて、解りやすい。
    P195「ジェンダーが不快である場合、改変すべきは身体ではなく、ジェンダー社会の方ではないか」ってのが、もう同意しかない!!
    個人的に「ジェンダー」というものに苛立ちばっかりの私には最高の一冊

  • タイトルは「セクシュアリティの心理学」だが、冒頭のはしがきを読むと『フェミニストの視点に立った心理学の本を書いて欲しいという意向』を受けて書かれたものだという。単にセクシュアリティというよりも女性寄りな内容のように思う。

  •  こういうテーマは常にその内容が日進月歩である。自然科学の発見や新理論と直結しているようなところがあるからである。かつそれに合わせて新理論も飛び出してくる。それらを十分に網羅してのものならば、いくら保守的な部分が強い心理学の分野とて2001年の発行ではちと古いかもしれない。それでもあえて私が薦めたいのは、性的マイノリティの社会からの「見られ方」を時代ごとに定着させておきたいからである。従ってこの本は「心理学」と断ってあるが、実は思想理論の世界での著名な人物の纏めのような形を取っている。納得のいく理論もあって、「なるほど」と唸るところもあるのだが、多くの日本人なら、そのまえにまず、自らの無意識である「我が世間」を、心理学的に殺ぎとってからでなければ完全なる理解は無理であろう。フェミニストもどうしても理解してくれぬ「男」に苦労しているのは、案外なところで機能している男の「世間」にあるのだからね。それが女の「世間」とドッキングしたらもうお終い。いかなすばらしい理論もさっぱり歯がたたぬ状態になってしまう。世間ではまずこの理論そのものが否定されてしまうのだから。

  • univ

  • 面白い。半分くらい読んだところで返却期限になってしまったので、もう一回借りなきゃ。

  • 未読

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著者プロフィール

1952年、大阪生まれ。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程修了。大阪成蹊女子短期大学、愛知淑徳大学文化創造学部教授をへて、執筆・講演活動に入る。本業のジェンダー・セクシュアリティ論からテレビドラマ、日本の晩婚化・少子化現象まで、幅広く分析を続けている。現在は認定こども園を運営し、幼稚園と保育所の連携についても関心を深めている。
主な著書に『醬油と薔薇の日々』『シュレーディンガーの猫』(いそっぷ社)、『増補版・松田聖子論』『結婚の条件』(朝日文庫)など。

「2020年 『草むらにハイヒール──内から外への欲求』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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