戦国のコミュニケーション: 情報と通信 (歴史文化セレクション)

著者 :
  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642063760

作品紹介・あらすじ

「一刻も早く援軍を…」。戦国大名たちはどのようにして遠隔地まで自らの意思や情報を伝えようとしたのか。主君から口上を託された使者、密書をしのばせた脚力自慢の飛脚たちが、命をかけて、戦乱の世を駆け抜ける。

感想・レビュー・書評

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  • テーマ史

  • 現存する戦国時代の「書状」の往来の様子を丹念に追跡することで、当時の情報通信事情が垣間見える9件の事例を紹介している。情報の流れを通じて当時の社会文化を考察する研究はあまり行われていなかったが、著者によれば、1990年代から少しずつ注目を集めているとのことである。このようなマニアックな視点の歴史書が、一般人向けに書かれていることに驚かされたが、私としてはもちろん大歓迎である。

    ・使者と飛脚
    使者とは外交交渉のできる正式の部下。使者が書状を届ける場合は、書状には最低限の形式的なことしか書かれておらず、「詳しくは使者が口上にてお伝えします」という文句で締めくくられる。飛脚は、外交能力を持たない民間人であるが、悪路をものともしない脚力で、正式の使者よりもはるかに早く書状を届けることができた。戦国時代では、敵対する国同士の交通は完全に遮断されていたので、遠くの同盟国同士が連絡をとるには、道なき道を進むしかなかったという事情がある。ただし、飛脚は難しい内容の伝達・交渉はできないので、伝達内容をすべて書状に記す必要があり、情報漏えいの危険と隣り合わせであった。また、戦国時代の中盤以降になると、各国の政治状況が目まぐるしく変化するため、外交を担う正式の使者が払底する状況が続くことになり、飛脚派遣の頻度があがり、現存する書状の内容も具体的で切羽詰ったものになっている。また、兵役とは別に「飛脚役」を村々に要求する書状や、飛脚業務中に不慮の死を遂げた場合には「息子を取り立てる」ことを約束する書状など、飛脚に関する書状だけでもいろいろ残っているようで興味深い。

    ・書状の集積
    戦国大名同士の書状の交換は、通常、大名の部下や、信頼できる中立な人物などを経由して行われる。このようなルートで書状を送る場合、信頼性(途中で怪しい人物が紛れ込んだり、書状の内容が書き換わったり、情報が洩れたりしていないことの保証)を担保するために、書状が集積される現象が発生していた。たとえば、大名Aから大名Dへの書状を、仲介者Bと仲介者Cを経由して送る場合、まず大名Aは、
    ①大名Aから大名Dへの書状
    ②大名Aから仲介者Bへの書状
    ③大名Aから仲介者Cへの書状
    の3通を発行する。大名Aから書状①~書状③を受け取った仲介者Bは、
    ①大名Aから大名Dへの書状
    ③大名Aから仲介者Cへの書状
    に加えて、
    ④仲介者Bから仲介者Cへの書状
    ⑤仲介者Bから大名Dへの書状
    を新たに書き起こし、さらに、仲介者Bが大名Aの指示で動いていることを証明するために、
    ②大名Aから仲介者Bへの書状
    の原本または写しも仲介者Cに発送する。仲介者Cも同様の処理を行うので、
    ⑥仲介者Cから大名Dへの書状
    も含めて、合計6通の書状(原本または写し)が大名Dに届けられるのである。本当に必要なのは書状①だけなので、とてもご苦労なことであるが、よく考えてみると、現代の電子メールのCC爆発も似たような構図で発生していることがあり、「昔は効率が悪かった」で済ませられる問題でもないような気がする。

    ・読んだら返却
    当時の書状は、人事・軍事・外交に関する極秘事項を含んでいることが多く、送付相手以外の人目に触れないようにする仕組みは重要であった。「これを読んだら、すぐに火にくべよ」と書かれた書状が多く残存していることからも分かるように、現代と同様、当時もセキュリティに関する指示はなかなか遵守されなかったようである。そのような中で、毛利元就の書状には「読んだら返却せよ」と書かれていたそうで、実際、元就から発せられた書状の多くは、元就の遺品として現代に伝わっている。火にくべたかどうかは確認できないが、返却されたかどうかは容易に確認できるので、よりセキュアというわけである。(写しを取られたとしても、当時は書写しかできないので、元就の書状であるという決定的な証拠にはならない)

  • 密使、飛脚、書状、使者。
    戦国時代の情報通信は人。
    人は城。

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著者プロフィール

岡山県津山市出身。京都大学法科大学院を卒業後、スタートアップ向け法律事務所で弁護士として活動。知的財産や資金調達に関する契約業務などに従事。 その後エンターテイメント会社アカツキに初期からジョイン。管理部門の立ち上げ、IPO業務の主担当として、上場に貢献。自身が「創作」に救われたことから、クリエイターのパートナー事業を行う『しろしinc.』やクリエイター専門の『しろし法律事務所』を設立。“生まれるはずの「もう1作品」を創る。”をミッションに、情報で、体制で、企画でクリエイターと共に作品を創っている。

「2022年 『クリエイター1年目のビジネススキル図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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