- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784750348858
作品紹介・あらすじ
「在野研究者」とは、大学に属さない、民間の研究者のことだ。だれでもいつでも、学問はできる。現役で活躍するさまざまな在野研究者たちによる研究方法・生活を紹介する、実践的実例集。
感想・レビュー・書評
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「研究者」というと、大学や研究機関に所属し、自分の研究分野に関連する学会や学術雑誌で研究成果を発表する人というイメージだろうか。
もちろん、そうした研究者は多いが、本書で扱うのは、いわゆる「在野」の研究者である。つまり、「職業」としての研究ではない、どこにも「所属」しない研究である。
編著者を含めて、さまざまな分野で、己の興味の対象を探求する総勢18名。
さて彼らがどのように今の研究スタイルにたどり着き、どのように研究を推し進め、どのように発表の場を持っているのか、研究者自身の執筆により、または対談形式でその姿に迫る。
大学などの「在朝」研究者に比較して、「在野」の研究者のハンディとなるのは、研究に充てる時間また費用であろう。しかし一方で、カリキュラムやしがらみに捕らわれることなく、己の興味の向くままに、突き詰めて1つのことに取り組みことができるのが利点である。
「在野」の性質上、大掛かりな研究設備や機械が必要な分野には関与しにくい。したがって、本書で取り上げられる研究者は多くは人文系であるのは無理のないところだろう(例外は博物学的な生物研究者。この分野は古くから在野研究者の多いところでもある)。
現代ではインターネットの発展で、在野でも多くの資料に触れることが可能となってきている。非常に恵まれているともいえるが、それだけにどこに目を付け、どのように展開していくのか、「切り口」が大切になってくるともいえよう。
政治学、AI、視覚文化、活字史、妖怪、哲学。さまざまな研究者の姿から見えてくるのは、在野といえども閉じこもるのではなく、他の研究者とつながり、視野を広げていくことの大切さである。
在野としての自由度をどのように最大限に使っていくのか、キーはそのあたりにあるのかもしれない。
個人的には、青空文庫に関与し、また翻訳研究者でもある大久保ゆう氏の話をとてもおもしろく読んだ。
「研究」というと堅苦しいが、趣味の延長のように始まる「研究」があってもよいのではないか。もちろん、それを追究し、何らかのレベルに到達するのは難しいことなのではあるが。
多くの「在野」研究者の姿から、興味を惹かれる研究分野、あるいは研究スタイルが見つかりそうな、刺激に満ちた1冊である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大学などの研究機関に属さず、在野で研究をつづける各分野の研究者15人が、自らの研究生活について綴った文章を集めたもの。
私は、一般の「知的生活の技術」本を読むような気持ちで、「ライター仕事に役立つノウハウが書かれているかも」と考えて手を伸ばした。
が、その点ではやや肩透かし。そういうタイプの本ではないのだ。
ただし、一部には参考になる点もあった。
とくに、「市井の人物の聞き取り調査」をおもな研究手法としている内田真木による第8章は、人物ノンフィクションを書こうと思っているライターにとっては参考になると思う。
また、私はライターだから「あまり参考にならなかった」と思ったが、研究者を目指す人、とくに在野で研究をつづけようと思っている人にとっては有意義な実用書になるだろう。
私にとっての実用性はとりあえず脇に置くとして、本書は読み物として大変面白い本だった。
第一に、在野研究という、私がよく知らない分野について知る面白さ。
第二に、各寄稿者が生活と研究の両立に悪戦苦闘している様子などが赤裸々に綴られる、〝ホンネの文章〟のみが放つリアリティの輝き。
第三に、「研究とは何か?」「学問とは何か?」という、根源的な問いが通奏低音として流れているゆえの、重い読み応え。
以上三つがすべての寄稿に感じられ、全体としてとても切実な印象の本であった。
言い換えれば、仕事の片手間に書いた本というより、各執筆者が「書かずにはいられないこと」を書いている……という感じなのだ。
とくに、編者でもある荒木優太の文章がとてもよい。
「早朝の清掃労働のパート」をして最低生活費を稼ぎながら研究をつづけているという荒木は、本書全体に流れるスピリットの体現者という印象だ。
《実家に住んでいるので金欠になったとしても簡単に死ぬことはないだろう。非正規雇用に従事していたり、社会人になって実家住みをつづけていると、かなりの確率で人々に馬鹿にされるが、馬鹿にされることを恐れて研究者などできない。使えるものはなんでも使う。見栄を張っている余裕がどこにあるというのか。馬鹿にされる、上等である。》(荒木優太「貧しい出版私史」)172ページ
とはいえ、荒木の在野研究のありようは一類型にすぎず、全編がこういうタッチであるわけではない。
著者の一人が在野研究を(マンガなどの)同人作家になぞらえていたが、私が本書全体から受けた印象も「同人作家みたいだなァ」というものであった。
コミケ等を舞台に創作活動をつづける同人作家は、プロのマンガ家・作家を目指しているとは限らない。
じっさい、商業マンガ誌の編集者が同人作家に「うちでデビューしないか?」と誘っても、「プロになる気はないので」とあっさり断ってしまう人が少なくないと聞く。
同人作家はプロ予備軍・プロの二軍ではない。それとは似て非なる別の世界なのである。そして、彼ら彼女らはプロではないかもしれないが、アマチュアとも言い切れない。
それと同様に、在野研究者たちも「大学に就職できなかった人たち」というより、大学教員とは〝別カテゴリー〟なのだと思う。
少子化などにつれて、大学教員になることが今後ますます狭き門になっていくであろういま、研究者としてのオルタナティブを提示する本書は、時宜を得た刊行といえよう。 -
ドチャクソ面白かった オススメです
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大学や研究機関に属さない色々な分野の研究者の方々が、自身の研究の動機・内容・スタイルなどを綴った本です。
研究とは何か広く考えるきっかけにもなるし、様々な分野の研究の特徴を知ることができるし(在野の研究者の方ゆえの事情が加味されてはいると思うけど)、職業としてでなくても研究を続けている方々だからこそなのか研究対象への熱意があふれてるし、いろんな意味で面白かった。
在野の研究者の方の困難の1つとして文献へのアクセスが挙げられていたが、オープンアクセスにより少しそれが緩和されたとも複数の方が書かれていた。
みなさん、苦労されてるのは、仕事との両立(物理的にも精神的にも)というかんじはしたが、適度なところで意識的に折り合いをつけつつ楽しんで研究されてるように思った。
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本当によくこれだけ集めましたね。
研究と飯の種を分けること「も」できるでしょうけど、実際には難しいのでしょう。 -
大学人ですけれど十分面白い内容というか初心に立ち返らせてくれる内容でした。これから大学に進む人も卒業した人もまさに卒論に取り組もうとしている人も、一読することをお勧めいたします。研究は面白がってやる、ことが大切です。