なぜ公立高校はダメになったのか: 教育崩壊の真実

著者 :
  • 亜紀書房
3.80
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本棚登録 : 26
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750599038

作品紹介・あらすじ

週刊誌の『一流大学合格者ランキング』上位に公立高校の名前が見かけられなくなって久しい。その理由はいったい何なのか? 教育の荒廃、公立高校の凋落、さらには偏差値追放、いま教育が抱えるあらゆる問題の根は、戦後復興から高度成長期にかけて3大都市圏に2500万人が流れ込んだ“人口大移動”にあった。
鮮やかな切り口で高校教育迷走の正体を探る。

感想・レビュー・書評

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  •  ものすごく面白かった。ドンピシャリ。
    最後の偏差値廃止については「???」だけど、本当にためになる本でした。下記メモです。

    ①1960年代後半まで続いた地方から都市部への集団就職こそが公立高校凋落の原因。戦後復興に伴い技術革新による都市部での経済成長が始まると、都市部の人間がそこに就職し、都市部の人間が敬遠した仕事に、地方の人間(=集団就職上京組)が就くことになった。しばらくすると住み込みから賃貸に変わり、世帯数が増え耐久消費財が伸び、投資も進み好景気に。1970年代に入ると高度成長は安定成長へと変わり、次第に地方の人間が従事していた労働集約産業も鈍化。彼らは生活を切り拓いていかなければならなくなった。

    ②彼らの子どもに対する教育について。都市部の人間は自分の地位を子どもに継がせようと大学まで進めるように教育熱心になるが、地方の人間はそもそも大卒ではないので、子どもに望むのはたいてい高卒までであった。そのため都市部の高校には都市部と地方の上澄みがあつまり、都市部郊外の高校には残された一部の都市部のこどもと地方のこどもが集まり、なんらかの理由で、1970年代後半から1980年代にかけて郊外の高校を中心に校内暴力が社会問題となった。

    ③1970年代後半。この時期の変化としてはまずベビーブーム世代が高校に進むため学校数が絶対的に足りなくなったこと。私立が今後の人口動態を鑑みて大幅な定員増に足踏みしたため、普通科公立校を大量に作らざるを得なくなった(実業高校は建設に金がかかるという事情もある)
    また、地域に公立高校ができるというのはシンボルとしても機能すると考えたから、埼玉や神奈川でバンバン新設された。その新設校は、普通科なのだから大学進学を前提に話が進む。当然ながらメインは地方の子供達なので、大学進学の他にも就職と専門学校に進む子供たちもおり、いわゆる「多様化校」になる。多様化校ほど指導が困難なものはなく、険悪な雰囲気になるケースもままあった。学校としての評価が下がれば、次に入ってくる生徒も悪くなる。この悪循環に陥った。

    ④この間の私立が何をしたかというと、1970年代末期から1980年代にかけて高校生の数が増え、定員を減らした私大の偏差値が一気に上がった。すると柔軟なカリキュラムを組める私立は、授業数の構成を変えて私大特化型の授業を展開し、私大対応「特進コース」「理数コース」などを作り出し、実績を大きく伸ばしていった。公立は授業数を変えると人事異動が伴うことからそこの対応が遅れた。慌ててコース制を設けるも、泣かず飛ばずのケースも多かった。

    ⑤総合学科、単位制、中高一貫など多くの取り組みを公立校は実施しているが、まだまだ成功例は少ない。

    疑問としては
    (1) 近畿圏など他地域でも同様の事象が起きていたのか
    (2)③について、校内暴力が発生したエリアや属性と地方組の分布が本当に相関があるか?

    今でこそ公立が躍進しているけど、その理由も知りたいところ。子どもの数が減るってことが当時は予測できなかったんだろうな。中高一貫の成功について書かれたものがあるなら是非とも読んでみたい。

  • 興味深い本なのでブログに書きました。
    http://bullcat.cocolog-nifty.com/mitakau_r/2019/01/post-24ad.html
    校内暴力とか、「荒れた中学」とかって、1980年代の普遍的な出来事なのかと思っていたが、私の住んでいた神奈川県中央部は特に多かったのだと知って驚いた。
    それは、集団就職層と、戦前からの都市部住民層が、高度成長期に同時に郊外に移り住んで共存するようになったことに原因があると論じられる。
    また、「集団就職」と現在の「外国人労働者受け入れ」との間に相似を感じたので、その点でも興味深い。

  • 180円購入2012-10-05

  • 2011/12/31

  • 現代日本の「文化」に関心のある人、「格差社会」「ニート」といった論点に興味を持つ人に強く薦める。本書はいわゆる「教育論」の本ではない。戦後日本文化史を考える際の基軸たるべき必読書と言える。加瀬和俊『集団就職の時代』(青木書店、1997)も要併読。 (2010: 村松晋先生推薦)

  • (2008/7/17読了)高校教育に特化した内容であるかの書名だが、戦後の集団就職などで農村部から都市部への人口大移動が社会構造にどのような影響をもたらしたか、への考察が見事。もともと都市部(東京や大阪)に住んでいた人達が中流の上、農村から出て来た人達は中流の下で、実は同じ「中流」でももともと格差があった、という分析。その土台の上で、主に都市部の公立高校の凋落とは何なのかを示している。

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著者プロフィール

1952年 新潟県の農家に生まれる。
1977年 東京学芸大学教育学部卒業。東京都の小学校教員になる。
1983年 月刊『たのしい授業』創刊号(仮説社)で仮説実験授業を知る。同じころ八王子市の書店で偶然見つけた板倉聖宣『未来の科学教育』(国土社,現在は仮説社から刊)は〈人生を変える1冊〉となる。以後30年に渡って小学校で仮説実験授業の実践と普及につとめる。
2013年 退職。東京都の「新人育成教員」の職につき,現在に至る。
 『たのしい授業』誌に授業記録や論文などを多数発表。仮説実験授業研究会会員。

「2015年 『空 見上げて 「新人育成教員」日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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