街場のアメリカ論 NTT出版ライブラリーレゾナント017

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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757141193

作品紹介・あらすじ

日本はどうしてこんな国になったのか?150年前にかけられた「従者」の呪い-専門家では絶対にわからない、目から鱗の日米関係。

感想・レビュー・書評

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  • 日本は戦後、外交を含んだ政治的側面のみならず
    『ナショナル・アイデンティティ』そのものを、アメリカを真似る、あるいは相対化して見る、ということで築いてきた、ということを様々な側面からアプローチしたもの。

    そしてその『アメリカ』風の価値観ないしは歴史観のあれれ?な部分をトクヴィルの著書を多々借用しながら解説していく。

    ただそれにしても(面白く)気になったのは、現在のパックス・アメリカーナを崩すものが反ユダヤ主義ではないか、という議論。

    それから今や同盟的友好国となったかつてのカタキであるロシアとアメリカとのおそろしいまでの歴史的共通点(そこにもユダヤ人がからむ)。

    確かにアメリカ=外国という錯覚のもとに暮らしているのは事実であり、しらずとその価値観に染まってはいるのだろうけれど、それがまあここまで歪み切ったものだとは知らなんだ…。

    面白がりながら反省できる本でありまする。

  • 長めのまえがきが最も面白く、期待させる内容だったが、全体的には期待はずれ。内田樹は食べ物に関しては弱いようで、マクドナルドをおいしいと評価している。ファストフードの正当化をスローフードへの攻撃でのみ行っているが、最近マックが発表した原材料17種類のポテトでも食べたい、おいしいと言うだろうか…。また、アマゾンのジャングルがすさまじい勢いで進行しているが、そのほとんどがマック向けの安い牛の放牧地になっていることを考慮してほしい。世界中の人びとがハンバーガーを食べたがったら、環境負荷が大きすぎて食糧危機はさらに早まるのだ。
    アメリカは理念先行の国である。建国のときに既に理想を達成していたので、それ以上悪くならないようにするにはどうしたら良いかが独立宣言に書いてある。アメリカは「自分の運命は自分で決めることが標準」とした歴史上で最初の国である。アメリカはだんだんアメリカになったのではなく、最初からアメリカだった。どんな国でも「今ではこんなに堕落してしまったけど、黄金時代があった」という神話を持っているが、アメリカにはない。
    アメリカでは愚かな統治者を選んでしまう自分たちの愚かさも感情に入れて統治システムを作っている。公務員は一定期間在職すると必ず権力を濫用して私利私欲をはかるようになるという性悪説の上に官僚制度が作られている。そのような愚か者たちに権力が集中しないようにしている。そして、「多数の支配」を徹底している。アメリカは人間を有徳で賢明に育てることよりも、人間の愚かしさがもたらす災厄を最小化することを優先している。
    アメリカは遠からず没落するが、未来学者ローレンス・トーブは反ユダヤ主義暴動が起きると予測している。筆者はアメリカの最大集団がヒスパニック系になり、建国以来アメリカを支配してきた「ワスプ」(White Anglo-Saxon Protestant)は少数派になる。アメリカは多数派の支配をずっと続けてきたので、少数派が富と権力を支配するという事態を経験したことがない。ここから危機が始まる。
    日本では子どもは無垢でかわいいものというのが当たり前だが、欧米ではそうではない。むしろ邪悪で忌むべき野性だった。また、アメリカの独立宣言には革命権や抵抗権が明記されていて、自分の権利を侵すものは暴力を持って排除できるという考え方である。そのふたつが合わさると、深刻な児童虐待という形で現れる。

  • なんでアメリカ論?と思いながら読み始めたけど、まえがきにその理由が書かれている。
    わりとさくさく読める。

  • 根拠に乏しいところも感じられたが、あまり語られないアメリカの姿、暮す人々の考え方などはとても興味深いものでした。物事は現実よりもまず理想ありきと言う主張には納得。
    柔らかい言葉で書いてあるので、読みやすかった。

  •  歴史学的思考が、過去から未来に向かって、一直線に進む「鉄の法則性に貫徹された」歴史の流れを想定するとしたら、系譜学的思考はその逆に、現在から過去に向かって遡行しながら、そのつど「分岐点」をチェックして「どうしてこの出来事は起きなかったのだろう?」というふうに考えてみる事です。「起きてもよかったのに起きなかったこと」について「それがなぜ起きなかったのか?」というような問いを問いを立てる習慣が重要である(p56)

     私たちが「伝統」とか「固有の」とか思っているもののかなりの部分は伝統的でもオリジナルでもなく、ちょっと前にどこかから入ってきたものです。その歴史的経緯を忘れてか、知らないふりをしてか、社会集団の純血性とか文化のオリジナリティとかを言い立てるのは、あまり品のいいことではないように思います。(p68)

    アメリカのような国はアメリカ以前には存在しなかった。これはアメリカを論じるときに忘れてはならない基礎的事実です、・・・アメリカという国の特徴はまさにこの「理念先行」「完成型先行」という順逆の狂った在りかたに存すると言っていいでしょう。(P100)

    基本的な事実として、現状日本という国のアイデンティティはアメリカについて考えるということなしには立ちいかない。つまり必須な知の一つであるということだ。
    他、魅力ある卓見が敷衍されているので一読の価値あり。

  • 日本とアメリカの関係性のねじれとその病識を示した一書。
    樹先生の本はいつも非常に知的興奮を覚えます。

    中身を僕なりに要約すると、
    「アメリカ人は、あたま筋肉」で、「日本人はその愛人」といったところでしょうか。
    日本を占領したマッカーサーは、アメリカを大人とし、民主主義的に未熟な日本を「12歳の子ども」と呼んだことは有名です。しかし、自分が熱いコーヒーを股にはさんで、蓋を開け、こぼしたことを、お店のせいにするくらい、甘ったれの「涙の訴訟社会」なわけです。

    裁判で勝ったから正しいじゃんって言う人いますが、そりゃどうですか。

    でも、こんな人周りに増えてやしませんか。
    やっぱりアメリカ化(あたま筋肉化)しているのかもしれません。
    自分も含め(笑)

  • 私はわりと好きです。ちょっと理屈っぽかったり、まわりくどかったりする文章が(笑)まえがきのアメリカはなぜ靖国参拝を抗議しないのか?いつも中韓ばかり気になってて考えたこともなかったな。あと何気に辛口なところもいい!

  • いつも通りうんうんとうなずきつつ読む。

  • 図書館で借りる
    内田さんの文章は理路整然としていて本当に読みやすい かんなりいい
    ===================
    「原因とはうまくいかないものにしかない。これはジャックラカンの至言です。原因が何かという問いを立てるのは原因がわからない時だけ。例えば殴られてなぜ殴るは聴くがなぜ痛いとは聴かない」(33)
    「ドイツイデオロギー、フランスにおける階級闘争、ヘーゲル法哲学批判序論」(82)
    「国民の大多数がカラスは白いと言ったらそれでいいんじゃないかという、ある意味クールでシニックな統治システム」
    「ユダヤ人陰謀説」
    「『福音派』と呼ばれるキリスト教徒は一般に、キリストによって生まれ変わったという自覚、すなわち『ボーンアゲイン』体験を有し、主として新約聖書の言葉を文字通りに解釈し、その教えと権威を強調して、積極的に福音を説き、迷える人々の魂を救うとともに、社会全体の救済にも関心を寄せる人々を指す」(221)

  • アメリカに伏流する様々なエートスを分析している。特に「子ども嫌いの文化」「被害者意識の強い文化」など、日本にとっては自動的に海外の代表とされるアメリカと言う国が、実に特殊な国であることを論述しており、知的な興奮に満ちている。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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