ゼウスの檻

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 120
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758410403

感想・レビュー・書評

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  • 人類は地球から火星へ、そしてさらに木星へと活動範囲を拡げていた。
    過酷な環境下に適応できる新しい人種として生みだされた「ラウンド」と呼ばれる雌雄同体の人々を敵視する組織〈生命の器〉がテロリストを送り込んだとの情報を受け、火星警察の特殊警備部門に所属する城崎たちは、木星の宇宙ステーションに赴く。


    物語はテロリストとの対決を中心に進むのだけれど、それよりも大きな流れとして、男性/女性の性差がどうなってゆくのかを示唆する設定そのものが、SFならではの面白さ。
    そうか、雌雄同体なら、心と身体の不一致はないのか!性的嗜好も、どっちも満たされるのか!

    ゲノム解読が安上がりになった現在、遺伝子も細胞も操作できるようになり、環境に適応するために人体を改造するのが当たり前になる未来は、すぐそこまで来ているのかも。
    2004年の作品だけれど、まったく古びていないどころか、LGBTという言葉が知られるようになってきた現在、改めて違う読み方が出来るのではないか。
    今からでも文庫化しようよ!

    城崎とカリナの、遠い過去の出会いを大切に扱いながら、安直に結びつけなかったところが、またストイックでいい。

  • 26:性遺伝子に「II(ダブル・アイ)」という人工遺伝子を選択することで作られた、まったく新しい性をもつ人種「ラウンド」たちは木星軌道の宇宙ステーションで生命科学実験に従事していた。「ラウンド」を認めないテロリスト集団「生命の器」がステーションに向かっているという情報を得た警備班の城崎は、先任の警備班と協力して「ラウンド」とステーションを守ろうとするが……。
    上田さんの作品は「華竜の宮」をはじめ硬派なSF作品が多いのですが、文にくせがないので読みやすく、嫌みのないキャラクター造形も世界観に合っていて私は好きなのですが、この「ゼウスの檻」もきっぱりと二分された勧善懲悪ではないところが、多少もやっと残りつつもすごく良かったです。
    身体の性、心の性、性的嗜好。ジェンダーとセクシュアリティ、性と生命。テーマも仕掛けも伏線もとても魅力的で、一気読みしてしまいました。舞台、ジャンルこそ「SF」ですが、登場人物たちが、みんなそれぞれの理由があるにせよ、「いきもの(いのち)」を大切にしているという信念を抱いているせいで、身近に感じられるのかもしれません。
    ウェリタスとハーディングのシーンはぐっときた……。派手さはありませんが、堅実で硬派に読ませます。

  • テロの標的になった木星を守るお話。
    と見せかけて問題は性にまつわるお話。

    モノラルとラウンド。
    広義で区切っても、最小単位である個人の集まり。
    ラウンドが実際に居たら、確かに気になるしビビると思う。

    火星ダークバラードと同じ世界なのかと思っていたら、あとがきで否定されていました。

  • はるか昔読んだ両性具有者を取り扱った小説。
    本を読む事が苦手だったあの頃にしては興味を持って読破できていたもの。

    表紙も素敵。

  • 地元在住の作家さんだったのかあ。
    SFとジェンダーの問題をテーマにした作品。
    エンターテインメント性にはあまり期待しないほうが良いが、自分とは違う者達とどう関わって行くのかを考えさせられる。
    ただし、火遊びしちゃったハーディングには同情の余地なし( ー`дー´)キリッ

  • 惜しい!
    扱うテーマが大きすぎてページ数が足りてない気がします。
    テロリストから木星のコロニーを守る話、
    と云うだけでかなり大きな話なのに、
    300頁じゃそりゃ説明だらけになってしまいます…。
    なので、上田作品の魅力の一つである
    登場人物の細やかな描写や、其処から伝わる
    人物の魅力が半減してしまっていて、
    どの人物にも移入できない。
    でもって、パキッとした繊細な文体も、
    説明文に押されてしまって際立っていないのが
    本当に残念です…。
    でも、全体的には面白かったです。
    (ハーディングとウェリタスが若干ラブコメっぽい…)

    ジェンダーを扱う割には、
    ドロドロとした個人の関係描写が少なくさばさばしている気がします。
    女性がジェンダーを扱う作品てゲンナリしがちなのですが、
    この作品はそういう「どっちが得してるのか」的な
    苛々させる思惑が感じられないので読みやすかったです。

    娯楽小説は読了後「面白かったな~」で済めば良いと
    思うのですが、これは後々まで色々考えてしまいます。そう云う点も評価できる作品だとは思いますが、
    …もっと長くても良かったんじゃないかな…。

  • ラウンド

    未知なるものにはどうしても惹かれるのか

    面白かった

  • 性別をなくしたら、争いは減るのではないか?という期待は結局半分裏切られた感じでしょうか。
    キリスト教原理主義と進化論・中絶の問題なんかも作者の頭の中には合ったのでしょう。しかしそれを遙かに上回るスケールには圧倒・困惑しました。

    いろんな意味で問題作だと思います。

  • 幾つか読んだ上田作品の中で、今の所この作品が一番面白く好きです。医術が劇的に進化した世の中でもたらされる人類のジェンダー・セクシュアリティの諸問題が、こんなにも複雑化するとは、考えれば考えるほど迷路に迷い込むようでした。そこに合わせて起こるテロの息も付かせぬアクションシーンと、登場人物たちそれぞれの背負う人生も読み応えありました。SFに慣れない私でもメカや科学技術が想像しにくいものでなく入り易かったです。

  • 対テロリストのどたばた劇かと思ったら、性とジェンダーに関する話だった。説明が多く、あまり物語に入り込めなかった。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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