ことばワークショップ: 言語を再発見する (開拓社言語・文化選書 26)

制作 : 大津 由紀雄 
  • (株)開拓社
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  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758925266

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  •  「2009年8月14日から16日までの3日間、東京言語研究所の主催で実施された『教師のためのことばワークショップ』での講演とワークショップをもとに各講師が書き下ろしたもの」(p.v)で、「言語研究のおもしろさ」、「ことばの曖昧性と方言」、「文の成り立ちを探る」、「曖昧表現からことばの科学を垣間見る」の4つの章から成っている。
     言語や言語研究の魅力を個別の例から垣間見る、という部分が多く、「『ああ、そうだったんだ』という想いと共に、悟りの開けたような気持ち」(p.6)を体験させる要素が強い。体験的に学ぶ「ワークショップ」的な要素は、大津先生の「句構造の階層性を利用した曖昧性」と「埋め込みを利用した詩」の部分だけじゃないかなあ、と思い、中高生相手に楽しく出来る(「知的に面白い講義」ということではなく)活動、みたいなものが紹介されていればいいなあ、とか思ったが、そういうことはこの本を読んだ中高教師がやれということなのだろうか。あるいは、語学の教師として言語に対する感覚を研ぎ澄ます、ということが主眼なのだろうか。
     ということで、本全体の趣旨がイマイチよく分からず、大枠はあるものの基本的に4つの章が独立して存在している感じだが、個別に面白い部分はもちろんたくさんあったので、その部分をメモしておこうと思う。
     まずは「偶然性の中の必然性」という話の中での、蛤の漢字について。「貝が<むし>とはどういうことなのか?」(p.9)の答えは面白かった。それから「多数の言語を横断して調べてみると、本来は単純に<未来>を表すのではないさまざまな意味合いの言語形式が<未来>の表現に転用されているという事実」(p.21)というのも、改めて面白い。<所有>を表す語句が<未来>になっているというラテン語、というのも面白いなあ。それからこれも昔どこかで読んだか聞いたかしたことあるけど、日本語の<主客同一>(subject-object merger)と、英語や中国語の<主客対立>(subject-object contrast)というのも、本当かどうか分からないけど、分かりやすい概念で、そこから「<人称制限>という名称でしばしば取り上げられてきた問題」(p.34)も説明できるらしい。やっぱり日本語って面白いなあ。さらに「海は広いな大きいな」という歌詞について、「中国の大学で日本語を学習してすでに十分に高いレベルに達している学生、院生にこの歌詞を見せても特に感動など示さないとのこと。むしろ、『当たり前でしょう』といった反応が返ってくるそうである。」(p.38)って、これは言語の問題なのか文化の問題なのか認知の問題なのか。どれが最初に来るんだろうか。逆に日本人にはちっとも感動しないけど、英語や中国語のネイティブは感動する表現とか、そういうものはあるのだろうか。次に「ことばの曖昧性と方言」は主に音声にフォーカスを当てたものだった。こういう方言の話の時におれは関西人で良かったよなあと思う。「関西の人が標準語の『わかる?』を聞くと、子ども扱いされているという印象を受けることが多いようです。中には、『こんなこともわからないのか』と言われているように聞こえると憤慨する人もいます。」(pp.84-5)そうかあ。確かに、おれが関西弁を話すことはまずないのだけれど、授業で「分かった?」「分かる?」と言う時に、確かに関西弁的になっているかもしれない。少なくとも中高(なかだか)?では発音しないなあ。抵抗がある言い回しは身につかないのか。マクドを未だマックというのは意識して言わないけど、「分かる?」は無意識的かも。いや、標準語になってるかな。鹿児島弁の発音というのも興味深い。必ずしも疑問文が上昇調にならない、という。「自分に馴染みのないイントネーションを聞いて、そこに話者が意図しなかったニュアンスを感じ取ることがあるのです。」(p.85)ということだから、こういうのをそれこを「ワークショップ」形式で生徒に体感させてやりたいなあと思う。あとは文の曖昧性の話で、「因果関係のbecauseと推論のbecause」(pp.159-65)は、恥ずかしながら今まで気づかなかった。英語のbecauseもだが、日本語だって「『カラ』は因果関係と推論関係の意味をもつが、『ノデ』は因果関係の意味しかもたない」(p.165)という全く初耳の話で、やっぱりもっと日本語を(英語を対照させて)勉強してみたいという気持ちになった。「地面がぬれているので、昨夜、雨が降ったんだ。」(p.165)という文をどれくらい不自然と感じるか、というのは考えてしまった。言われてみれば不自然かもしれないけど、そこまで気にならないなあ。「結果 because 原因」で多くの英和辞書は説明されているが、「『ジーニアス英和辞典』は数少ない例外です」(p.160)とあるから、いや本当にジーニアスだなあと思う。
     各章ごとに「読書案内」のコーナーもあるので、ぜひこれを参考にいくつか読んでみたい。(21/10/17)

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