料理と科学のおいしい出会い: 分子調理が食の常識を変える (DOJIN選書)

著者 :
  • 化学同人
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759813593

感想・レビュー・書評

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  • 分子調理のやさしい解説書。


    「エル・ブリ」のフェラン・アドリアは分子ガストロノミーの代表格みたいに言われるが、演出は派手でもサイエンス的な要素は少ないらしい。むしろ、レシピの公開やチームによる料理、科学など他分野との連携といった21世紀的方法論の導入にインパクトがあったと。

    食材の成分に注目していたのが従来の食品科学で、調理のプロセスにおける科学的・物理的変化に注目するのが分子ガストロノミー。ただ分子ガストロノミーという言葉には手垢がついてしまった感がある。著者は分子調理という言葉を採用。

    科学と技術の相互作用。→むしろ技術から科学がはじまることが多いという話はあったよね。技術のwhyに言葉を与えるのが科学か。昆布だしのとり方で、科学的検証で通説を覆した事例もあるが(「菊乃井」村田吉弘)。

    カルシウム味や脂肪味の受容体らしきものが見つかっている。ただ第6、7の基本味となるかはまだ分からない。

    舌の味覚地図はどうも正しくなかったらしい。

    味覚の受容体が5種類かそこらしかないのに対し、嗅覚の受容体は約390種類もある。また鼻から入るアロマと、喉から入るフレーバーとで感じ方が違う。味覚と嗅覚は脳でも違う経路で処理されて第二次味覚野で統合されるみたい。

    うま味の相乗効果のメカニズムが分かったのは最近。核酸がグルタミン酸受容体のスイッチをオン、開きっぱなしの状態にするらしい。

    味覚・嗅覚のほかにテクスチャー(食感)と温度もある。甘味、うま味の細胞膜上で味分子を受け取る受容体は体温付近でもっとも敏感。アイスクリームに砂糖をたくさん入れるわけ。味噌汁も冷めるとうま味が弱まって、相対的に塩味がきつく感じられる。ただし果糖は冷やすと甘味が強くなる。

    水分子を制するもの料理を制する。→製パンでも聞いたなこれ。
    水分子がほかの食品成分と結合しているのが「結合水」、微生物に利用されにくい。一方、結合していないのが「自由水」。自由水が多い肉や野菜はみずみずしいが腐りやすい。ジャムや漬物は、砂糖や食塩の添加により自由水を結合水に変える技術。→水分活性ってこれか。

    水は氷になると三次元の結晶構造をとることで体積が増える。冷凍肉を解凍するとドリップが出るのも、高野豆腐を作るのもこれが原理。また水分子間の結合力は強いため、温めるには同重量の鉄の10倍のエネルギーがいる。気化熱、凝結熱が大きいわけ。

    脂肪酸の中に二重構造がない飽和脂肪酸はまっすぐな構造をしており、分子が凝集しやすい。よって脂(fat)になりやすい。二重構造を持つ不飽和脂肪酸は途中で折れ曲がった構造のため凝集しにくく油(oil)になりやすい。実際の脂質の性質は両者のブレンド具合に左右される。バターは飽和70:不飽和30、オリーブオイルは飽和15:不飽和85。

    水と油を混ぜ合わせる乳化剤。卵黄に含まれるレシチンはマヨネーズで活躍。

    糖質・タンパク質は低分子(単糖類・アミノ酸)のときは化学的なおいしさを持っており、高分子の時は物理的なテクスチャーを発揮する。そのバランスの妙。

    味の対比(甘味+塩味)、相殺(苦味+甘味)、相乗(うま味)、変調(ミラクルフルーツ)現象。メカニズムは分かっていないものが多い。

    香りや色も重要。鮎の香りはキュウリアルコール。

    タンパク質のアミノ基と糖のカルボニル基が熱で反応するメイラード反応。料理に色と香りを与えるほか、抗酸化作用がある色素分子メラノイジンを生成するが、リジンが減少したり(粉ミルクの製造過程で生じる)、肉や魚の焦げでは発がん性物質が生じたりも。

    酵素反応。「熟成」はだいたいこれ。もともと生体内にいる酵素が作用する。調理過程で利用する方法(パイナップルやキウイのすりおろしに肉をつけると柔らかくなる)もあるし、食品加工技術で利用することも研究されている(凍結含浸法。スプーンですくえる筍!)。

    他にも、おいしい料理を作る方法(調理道具、調理過程→和洋包丁の違い、IHの威力、アンチ鉄板、ゲル化など)や、究極のステーキ、おにぎり、オムレツに関する考察など。

  • 料理の世界がこんなに化学と近接しているものだとは知らなかった。今後どんな料理が出てくるのか楽しみ。

  • 化学が好きなので、全般に面白い内容だった。
    料理を式によってモデル化出来るっていうのは驚いた。勿論、完全に表現できる訳ではなく、新たな料理法や食材の組合せの発見の為の1つのアプローチとして、という前提付きだったけど。
    「分子調理」が著者の専門テーマだけど、どうやら自分的には受入れ難いらしくって、「面白い内容なのに、読んでいて眠くなる」という困った状態だったので、星3つ。

  • 想像以上に教科書ぽかった。栄養学の基礎的なところはすっ飛ばして、もっとhow-toな応用の具体例があれば、より興味深く読めたかなと思う、個人的には。

著者プロフィール

1973年、福島県生まれ。東北大学大学院農学研究科修了。宮城大学食産業学群 教授。専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。「調理によって料理のおいしさがどのくらい変わる?」といった料理の「なぜ」を分子レベルで調べる研究を行っている。また、エビデンス(科学的根拠)に基づいた新しい料理、よりおいしい料理の開発にも取り組んでいる。主な著書に、『「食べること」の進化史』(光文社)、『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、『分子調理の日本食』(オライリー・ジャパン)などがある。

「2022年 『未来の食べもの大研究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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