公智と実学

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  • 慶應義塾大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766419689

作品紹介・あらすじ

福澤諭吉の精神に学びつつ、現代日本が直面する問題の本質を明快に論じる時論と、福澤の公共哲学の意義を鋭く説く論考を集成。現代に蔓延するペシミズムを回避し、深く考え行動する勇気が湧く、実践の書。

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  • 福澤諭吉の「私」に対する「公」の優越性の強調と「公」の尊重。すなわち「公共性」を重視する福澤の思想について重点を置き論じたもの。中身は新聞連載の時論と慶應関係の講演録で比較的読みやすい。
    時論の方は2008~2012年のものなので内容的に少々古く感じる部分はある。講演録の方は経済学が専門であり、福澤研究の専門家ではない著者によるものではあるが、元々福澤は経済学を重視した学者でもある。よって、西洋思想を受容する同じ経済学者として、日本政治思想史の専門家とは違った角度で共鳴する部分が感じられ、新たな視点を提供しているとも言える。

  • 経済学の専門家による、「公」と「私」に関する哲学論。福沢諭吉の研究から、「私智」「私徳」ではなく「公智」「公徳」を重んずるべきことを強調している。また、原理的な理論また二者択一的な極端な判断よりも、福沢諭吉の言う中庸的なバランスが重要だとする。この考え方に基づけば、現在直面している問題解決にも通ずると主張している。難解なところもあったが、同意できる意見が多かった。
    「(福沢諭吉の主張は)生きた思想であるからこそ、時として「矛盾」と映ることもある。その意味では、論理的整合性を貫徹する「思想」は観念的で、生きた現実への対応力はない」p6
    「現代の無理解は、過去の無知から生まれる(マルク・ブロック)」p14
    「(日本の政治家)さほど重要でない事項に配慮が行き過ぎる一方、優先すべき事項を引き延ばしにすることが多過ぎる」p17
    「わが国のデモクラシーが齢を重ねる間に、政治家たちが身につけた姿勢は、政治は「思想」ではなく、「性格」の勝負だということのようだ。理念や思想を前面に出すのではなく、「感じの良さ」にこそ自分の政治生命があると躍起になっているように見える。思想を隠してでも、表面的な謙虚さや、感じの良さを売りにすべきだと認識するようになった」p18
    「(普天間移設先送り)国と国との約定が遵守されない時、連盟も同盟もあり得ない。国と国との間を支える正義がもたらす平和と交易と相互援護は、国際社会の共存共栄の礎なのである」p19
    「両首脳(オバマ、鳩山)の性格上の類似点は「判断の遅さ」だけに留まらない。熟慮を経ない理想をすぐ口にするという点も似ている」p23
    「日本は自国の利益が他国の利益とどうかかわっているのか考えず、国際競争の過酷さ、冷徹さを認識できない点で(明治時代と今が)共通するものが見えるからだ」p25
    「夜に感情を吐露して書いた手紙は、封をせず、翌朝もう一度読み返してから投函せよ」p56
    「中国の「官立大学」の学生生活の特徴の一つは、原則「全寮制」となっていることだ。寮生活が若者の「他者と接触する力」を養い、自己主張のための社会的訓練の機会となる。日本のように、完全なプライバシーのあるワンルーム・マンションに住んで大学生活を送るのとの精神の発達に与える影響は異なるであろう」p71
    「(一般的な見解とは異なり)テロリストは、母国の人口全体から見て教育水準が高く、貧困家庭の出身者は少ない。国際テロリストは、市民的自由が抑圧され政治的権利が十分与えられていない国の出身者が多い」p79
    「(経済学の定理)①為替レートの安定、②自由な国際取引、③独立した金融政策 - の3つの政策目標のうち同時に達成できるのは2つ」p81
    「(トクヴィル)デモクラシーが進むと、個人主義的な考えが強くなり、もう利己主義以外の何ものでもないような行動を人々が取り出す」p116
    「(自分と他人を)比較することによって人間は自ら不満足と不幸を呼び寄せている」p134 

  •  本書の第一部には産経新聞の「正論」や日経新聞の「経済教室」に掲載された時論が、第二部には慶應での講演などを編集したものが収められている。

    【書誌情報+内容紹介】
    四六判/上製/226頁
    初版年月日:2012/10/31
    ISBN:978-4-7664-1968-9
    Cコード:C1030
    定価 2,592円(本体 2,400円)
    ▼失われた20年と大震災、この危機を乗り越えるために。
    ▼福澤諭吉の精神に学びつつ、現代日本が直面する問題の本質を明快に論じる時論と、福澤の公共哲学の現代的意義を鋭く説く論考を集成。現代に蔓延するペシミズムを回避し、深く考え行動する勇気が湧く実践の書。
    ▼第1部は、2008~2012年にわたり『産経新聞』、『日経新聞』に掲載された時論。第2部は、福澤諭吉を主題とする講演録を中心に編集。
    http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766419689/


    【目次】
    目次 [001-003]
    はじめに [005-014]

    第1部 議論の本位を定める――時論 二〇〇八-一二
     金融・経済危機とその行方――歴史的考察(2008/12/03) 003
     政権交代に期待する(2009/09/28) 009
     共同体構想を性急に語るなかれ(2009/11/19) 013
     リーダーは明晰に語るべし(2010/01/13) 017
     「対等な日米関係」の行方(2010/01/27) 021
     地方分権の本位は人材にあり(2010/02/19) 027
     若い研究者を育てる意志はあるか(2010/04/05) 031
     政治の言葉にいのちを吹き込め(2010/05/07) 035
     「ヨーロッパ人」のような覚悟はあるか(2010/06/10) 039
     中庸の難しさ(2010/08/05) 043
     外交と地方自治の弱さは同じ原因(2010/11/25) 047
     「後生、畏る可し」という実感(2011/01/13) 051
     週単位のニュース報道に期待する(2011/03/14) 055
     この犠牲から何を学ぶのか(2011/04/27) 059
     大震災後の日本の針路(2011/05/13) 063
     中国のホンネとタテマエを見分けること(2011/06/28) 069
     公益の尊重と責任倫理が必要だ(2011/08/11) 073
     徹底して記録し、徹底して究明する(2011/09/19) 077
     ギリシャ危機から学ぶこと(2011/11/25) 081
     保守政党不在の危うさ(2012/01/09) 085
     震災一年に思う(2012/03/12) 089

    第2部 福澤諭吉の「公智」
     福澤諭吉の公共性の哲学 095
     経済学における厚生概念と人間の幸福――「所得」と「比較」について 121
     公と私の平衡――高橋誠一郎の福澤観から 143
     伝統の再解釈としての明治思想史――坂本多加雄『市場・道徳・秩序』解説 165
     大阪慶應義塾が福澤諭吉と金玉均を結びつけたのか 177
     デモクラシーの危機を乗り越えるために――国法と道徳 207

  • 経済学者が福澤諭吉の考え方の意義を掘り起こすユニークな視点で真っ当な議論を展開する。
    福沢諭吉は公と私を分けて考え、公を私の上位においている。例えば忠臣蔵の美談的扱いを批判し、当該事件はあくまで私的な憤りを晴らしたもので、公的なルール(法)にを無視した咎をその美談は乗り越えることはできないとする。
    またその公私を徳と智で分け、公徳/私徳、公智/私智としている。公徳は社会全体のことを考えた徳であり、個々人が金銭的に清廉だとかするのを私徳として日本人は前者の方が大事な局面も多々ありながら、後者をあまりに重視しているとする(最近も度々政治家がこれで失脚するように)。
    公智/私智は、まさに経済学的なものの見方につながり一人一人の効用最大化の技術=私智が、必ずしも公的な効用改善につながらないケースがあるとしており、新古典派的な考え方と対峙する(福澤がそこまで議論を進めている訳では当然ないが)。

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著者プロフィール

猪木 武徳(いのき・たけのり):1945年生まれ。経済学者。京都大学経済学部卒業。米国マサチューセッツ工科大学大学院修了。大阪大学経済学部長を経て、2002年より国際日本文化研究センター教授。2008年、同所長。2007年から2008年まで、日本経済学会会長。2012年4月から2016年3月まで青山学院大学特任教授。主な著書に、『経済思想』(岩波書店、サントリー学芸賞・日経・経済図書文化賞)、『自由と秩序』(中公叢書、読売・吉野作造賞)、『文芸にあらわれた日本の近代』(有斐閣、桑原武夫学芸賞)、『戦後世界経済史』(中公新書)などがある。

「2023年 『地霊を訪ねる もうひとつの日本近代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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