美術は地域をひらく: 大地の芸術祭10の思想 Echigo-Tsumari Art Triennale Concept Book

著者 :
  • 現代企画室
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784773813180

作品紹介・あらすじ

「アートによる地域づくり」のパイオニアとして、
日本のみならず、世界に影響を与えてきた「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の全貌

瀬戸内国際芸術祭の総合ディレクターとしても知られる北川フラムがその原点、大地の芸術祭の構想から現在まで17年に及ぶプロジェクトの軌跡、手法を過去5回の芸術祭で生み出された膨大な作品のヴィジュアルと共に、多面的に開示する決定版! 安齊重男、森山大道らによる作品写真を多数収録!

<本書について>
90 年代後半、なにも前例のない構想に地域でとりかかったときの生みの苦しみから、一定の成果を収めたうえでの新たな展開の模索、さらに社会の意識や経済状況の変化、自然災害などさまざまな追い風、逆風にもまれながらプロジェクトが拓いてきた現時点の展望まで、豊富なアート作品写真、実践の紹介とともにディレクター自ら縦横無尽に語り尽くします。

本書目次
グローバリゼーション時代の美術

作品編
Concept 01 アートを道しるべに里山をめぐる旅
Concept 02 他者の土地にものをつくる
Concept 03 人間は自然に内包される
Concept 04 アートは地域を発見する
Concept 05 あるものを活かし新しい価値をつくる
Concept 06 地域・世代・ジャンルを超えた協働
Concept 07 公共事業のアート化
Concept 08 ユニークな拠点施設
Concept 09 生活芸術
Concept 10 グローバル/ローカル

ドキュメント編

アーティストインデックス


<大地の芸術祭受賞歴>
2001年、ふるさとイベント大賞(総務大臣表彰)/2002年、東京クリエイション大賞アートシーン創造賞/2005年、地域づくり総務大臣表彰/2007年、第2回JTB交流文化賞優秀賞/2009年、第7回オーライ!ニッポン大賞グランプリ(内閣総理大臣賞)/2009年、ニューツーリズム開発部門賞及び審査員特別賞(日本旅行業協会)/2010年、「地域づくり表彰」国土交通大臣賞

東の「大地の芸術祭」、西の「瀬戸内国際芸術祭」は、現代美術による地域再生の方程式だ! ―福武總一郎

大地の芸術祭は、アートを通じて未来の“希望のムラ”を構想する社会運動である。一昔前であれば、それは“革命”と呼ばれたものかもしれない。 ―太下義之(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センター)

創造力の挑戦、野心的な試みの国際展 ―ガーディアン(イギリス)

越後妻有に匹敵する美術展は世界にない。 ―ル・モンド(フランス)

美術は終わったという声は小さくないが、私は妻有で、そんなことはないでしょうという声を聞いたような気がする。 ―中原佑介(美術評論家)

感想・レビュー・書評

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  • 2000年から新潟県の十日町市・津南町で3年に1度開催されている「大地の芸術祭〜越後妻有アートトリエンナーレ」その総合ディレクター、北川フラム氏が自ら紐解く芸術祭のこと。
    第5回(2012年)までに至る、アートという異質なものを、高齢化が進む中山間地に届けるまでのエピソードが興味深い。
    先日終わった、第6回の名残を惜しむのと、縁あって1回目から足を運び、今では地元住民となった自分にとっての、今の地域の積み上げた風土の理解として手に取る。
    知り得る限り、これだけでは語り尽くせないことも多いだろう。だけど、今度この越後妻有を訪れる時には、一読していただけると、きっともう少しアートとこの土地が素敵に見えると思う。そう、アートの向こうに地域と集落があり、そこには来る人や作家を楽しみに待つ地域の人がいる。

  • 夢の家は芸術祭のために作った作品。それが10年たち集落の人々によって維持されていた。
    自分の作品がアートのコンテクストを離れ、現実の生活に入って行ったことは、私には初めての体験だった ーマリーナ・アブラモヴィッチ85

    批判、反対から始まったプロジェクトが、地域住民との「協働」により、形を成していく。この「協働」という耳慣れない言葉が実感を持って使われるようになったのは、國安の作った巨大な竜神の作品が契機だった。
    國安は間伐材とレンガを組み、一人で黙々と制作したが、作業はなかなか進まない。最初は冷ややかな目で見ていた地域の老人たちが、みかねて作業協力し始める。そのチームワークはすごかった。もともと作家ひとりの手では実現不可能な規模の作品が、地域が手を差しのべる事によって初めて完成が見えてきた。おそらくその瞬間、竜神は作家の手をはなれ、地域の人たちの作品になった。
    そしてこの仮設の作品は「撤去要請」がなぜか行われず第二回の芸術祭でも展示された。しかし豪雪地帯の自然の力は作品を侵食した。すると、第三回に向けて大規模に改修(ほぼ作り直し)することになった。地域の老人はもとより消防団まで参加して「再生」する。そして老人たちは、訪れた観客に完成した作品を案内し、解説し、アーティストとの交流を語り、ついには自分の集落から家族の話まで語ってくれた。
    アートは赤ちゃんに似ている。面倒で、やっかいで、生産性が無くて、放っておけば壊れてしまう。だから思わず周りの人たちが協力して支え、育てていくなではないか。竜神はそんなアートの姿を体現していた。125

    下条集落の休耕田に砦のような巨大な土壁を作る古郡は、会期3週間前なのに作品は半分も出来ていなかった。「ぜひうちの集落にスケールの大きな作品を」と手を挙げていた下条の長老たちは困った。そこで長老たちは下条地区におふれを出した。
    「大人たちは開幕まで、可能な限り有給休暇を消化して制作現場に入るべし。子どもたちは学校が終わり次第現場に急行すべし」
    その3週間は雨続きで、泥の中みんなが作業した。作品は当初の計画規模を超えた大きさで完成した。
    農村の伝統である労働を尊ぶ心と、アーティストが作品を手でつくり上げていく作業との根源的なつながりは、こうして幸運な化学反応を起こした127

    こへび隊が結成され、「つまり訪問」で散々な目に合い、そこで「正義の戦い」などまったく意味のないことが、だんだんわかってきた228

    大地の芸術祭を作る過程はデスマッチだった。あちらで反発され、こちらで失敗し、改善をはかり、粘って続けて、やっと糸口が見えてくるありさま。しかしこうして形にしていかなければ何も意味がない。新しいことを根づかせていくことは、とにかくぶつかって形をつくっていくしかないのだ245

  • 2022. 15

  • 当時画期的だった里山風景とアートの融合。
    ここに至る考え。
    年月を経て、地域との関わりも熟していく中、これからどのように展開していくか。長い会期でより日常化する中で、ケハレの境界は。

  • 新潟は越後妻有で開催される「大地の芸術祭」の作品選定の考え方にフォーカスを当て、その考え方や背景にある思想を説明する一冊。カラーの豊富な図版が掲載されており、2000年の第1回から2012年の第5回までの主要な作品のダイジェストとしても楽しむことができる。

    5月の連休を利用して過去の作品を巡るプレイバックツアーに参加してきて、常設されている主要な作品を楽しむことができた。2日間という短い間ではあったが、その間、実際に触れた作品は延べ50くらいに上るだろうか。しかし、本書を読むと、「大地の芸術祭」の期間中のみの展示作品や、様々なプロジェクトなど、実際にそのタイミングでそこに行かないと楽しめない作品が多数あることに気づく。

    例えば、美術館で唐突にパッタイを調理して観客に振る舞うことで、作者と観客の関係性自体を作品とする「パッタイ」で知られるタイ人のアーティスト、リクリット・ティラバーニャは同じコンセプトでタイ・カレーを民家にて調理して観客に振舞っている。かつ、越後妻有の主婦が作ったカレーも合わせて振舞うことで、タイ風カレーと日本風カレーの2つを同時に味わえる本プロジェクトは、現地でしか体験できない。

    次回の「大地の芸術祭」の開催は2021年。定期的に過去作品を巡るツアーなどで訪問しつつ、2021年を楽しみに待ちたい。

  • 巻末のドキュメント編(始まり)と他人の土地にものを作る編を読んだ、参考になった。

  • 先日ファーレの記念イベントでアートディレクターをつとめた北川フラムさんの話を聞いて、興味を持って読んでみた一冊。大地の芸術祭のコンセプトブックとして越後妻有アートトリエンナーレの作品それぞれの紹介や背景、注目すべきポイントなんかが書かれていてとても興味深く読めました。パブリックアートの先駆けとなったファーレ立川アートのことも書いていて、立川から越後妻有に持ち込まれた思いがあることを初めて知って、こういった本が一冊ファーレ立川を題材にしてあったりすると、興味を持ってくれる人はいるんじゃなかろうかと思えたり、なにはともあれ大地の芸術祭に出掛けてみたいと思えた一冊でもありました。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784773813180

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著者プロフィール

1946年、新潟県高田市(現上越市)生まれ。東京藝術大学美術学部卒業(仏教彫刻史)。
1971年、東京藝術大学の学生・卒業生を中心に「ゆりあ・ぺむぺる工房」を設立(渋谷区桜丘町)。展覧会やコンサート、演劇の企画・制作に関わる。1982年、株式会社アートフロントギャラリーを設立。

主なプロデュースとして、ガウディブームの下地をつくった「アントニオ・ガウディ展」(1978-79)、全国80校で開催された「子どものための版画展」(1980-82)、全国194か所でアパルトヘイトに反対する動きを草の根的に展開し、38万人が訪れた「アパルトヘイト否! 国際美術展」(1988-90)、米軍基地跡地を文化の街に変えた「ファーレ立川アートプロジェクト」(1994)など。

アートによる地域づくりの実践として「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(2000-)、「瀬戸内国際芸術祭」(2010-)、「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス」(2014、2021)、「北アルプス国際芸術祭」(2017-)、「奥能登国際芸術祭」(2017-)で総合ディレクターを務める。

主著に『希望の美術・協働の夢 北川フラムの40年 1965-2004 』(角川学芸出版、2005年)、『美術は地域をひらく 大地の芸術祭10の思想』(現代企画室、2014年/アメリカ、台湾、中国、韓国で翻訳出版)、『ひらく美術 地域と人間のつながりを取り戻す』(ちくま新書、2015年)、『直島から瀬戸内国際芸術祭へ─美術が地域を変えた』(福武總一郎との共著/現代企画室、2016年/中国、台湾で翻訳出版)など。

「2023年 『越後妻有里山美術紀行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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