偉大なる宇宙の物語 ―なぜ私たちはここにいるのか?―

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (378ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791770397

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  • 宇宙物理学者のローレンス・クラウス氏が綴る基礎物理学の歴史である。それはガリレオ・ガリレイ、ニュートン、マクスウェル、アインシュタイン、プランク、ハイゼンベルグ、ディラックなど科学者の歴史でもある。確立された世界の遠い過去の話の振り返りではなく、その歴史は直近のニュートリノの質量、ヒッグス粒子、重力波検出などと今もつながる。いまだ観測されない陽子崩壊や、いまだ果たせぬ重力を含めた大統一理論、新たな謎であるダークマターとダークエネルギーなど、今後も新しい歴史が紡ぎ出され、そこに関わる人とともに書き込まれることになる。偉大なる宇宙の物語はいまだ未完成である。

    著者がこの物語を書く資格があるのは、超一流の研究者として、実際にフェルミやファインマン、グラショウ、ワインバーグといった物語に主役級で登場する人物と直接交流をしている点だ。「宇宙の物語」は、その物語を紡ぐ人間の物語でもある。もちろん、著者が一流の科学者として持つ圧倒的に正しい知識に裏打ちされたものであることもとても重要だ。物語の中には、湯川秀樹や南部陽一郎、カミオカンデ実験など日本人や日本の関わる実験も多く登場する。この偉大なる宇宙の物語において、日本からも大きな貢献をしていると思えるのが、宇宙の物語に国という概念を持ち込むのは妥当ではないのかもしれないのだけれども、やはりうれしくなる。

    最初に持ち出されたプラトンの洞窟の話が象徴するように、われわれはわれわれの知覚の限界によって真の世界の現実が見ることが難しくなっているのではということだ。われわれの現実は、別の真実の影であるのかもしれない。量子力学や素粒子理論の直観的なわからなさはそのことを示している。それにも関わらず、われわれがわれわれの知覚を超えた真実に近づいている。「一見するとまったく異質ないくつかの現象も、じつは互いに関連した、ある統一された全体像の一部であるかもしれないのだ」ー 素粒子物理は謎である、それは「ある統一された全体像の一部」ではないかと科学者たちは夢見るのである。

    本書を読むと、あらためて「光」が世界の成り立ちにおいて鍵となっていて、特別な位置を占めていることがわかる。マクスウェルの方程式から光の速度が自然に出てくるのはやはり感動的である。相対性理論による光速度一定の法則がどうやら本当であるとわかったとき、自然を理解するということの意味が変わったのではないか。量子力学も黒体放射から始まった。光が波なのか粒子なのかという議論も量子論の発展に大きな影響を与えた。光子は素粒子のひとつであり、電磁力を媒介する。最初に神様に「光あれ」と言わせたのは、意外にセンスがよかったのかもしれない。またそれ以上にヤン=ミルズ理論やゲージ対称性といった抽象度の高いロジックが世界を記述する素粒子物理学の中で非常に重要な役割を占めていることも世界の不思議さと「優しさ」を表している。

    そう、LHCでのヒッグス粒子の発見に際して、「自然は優しかった」とローレンスは言った。われわれが構築する理論はそれが実験により確認されるまでは砂上の楼閣のようであり、多くの場合、自然は予期したようにはなってはいない。超弦理論やM理論、ダークマターをめぐる理論などについて著者は頭に思い浮かべているのだろう。

    ヒッグス粒子を見つけた欧州ジュネーブの地下に建設された全周27kmの大型ハドロン衝突型加速器LHCを記述するとき、著者はどこかとてもうれしそうで、少し興奮気味だ。超電導磁石の数、液体ヘリウムの重量と液体ヘリウムを冷やすための液体窒素の重量、パイプ内の真空度と抜かれた空気の体積、加速された陽子の速度、必要な計算機と記録装置、ビームの精度、超電導磁石に流れる電流、必要なコイルに使ったケーブルの長さ、必要な電力量、を記すときその筆が踊っている様子が目に見えるようだ。そして、その数はいずれも目もくらむ大きさだ。そこに関わる人の数も膨大だ。人類の情熱を注いだこの建造物を、過去の大聖堂に譬える。両者とも現実世界での実利ではないものに人類がかけることができる情熱を目に見える形でわれわれに残している。

    難しい数式やグラフなどはない。過去と現在の科学と科学者に対するレスペクトと、自然に対する畏敬にあふれている。途中からさらに内容がとても難しくなるのだけれども、興味があるのであれば物語としても読めるし、よくまとまっているのでお勧め。


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    ローレンス・クラウスの前著『宇宙が始まる前には何があったのか?』は青木薫さんの翻訳だったが、今回は別の方の手による。特にこの翻訳が悪いというわけではないのだけれども青木さんの翻訳も読んでみたかった。ケネス・フォード『量子的世界像101の新知識 現代物理学の本質がわかる』では青木さんが翻訳監修を務める傍ら今回の翻訳者である塩原さんが翻訳を手掛けているので、青木さんがそうと認める翻訳家なのかもしれない。

    訳者あとがきで触れられている通り、原題の”The Greatest Story Ever Told - So Far”だが、”The Greatest Story Ever Told”は西欧圏においては新訳聖書のことを指す。本書は「So Far」- ここまでのところ、と付けることで、科学はさらに発展して知識は上書きされていくであろうことを示すとともに、常に正しいと聖書に書かれた字義通りの内容にこだわる人を皮肉るものである。第一部 創世記、第二部 出エジプト記、第三部 黙示録、各章の初めには聖書からの言葉を並べているところも挑発的である。『宇宙が始まる前には何があったのか?』でもそのことは明白であったが、本書でもリチャード・ドーキンスの名前を特別に謝辞の中で名前を出すように、著者ローレンスは反宗教の無神論者である。
    米国ではいまだに反進化論者が一定数いて議論になっていると言われるが、そういった状態が著者のような一流の科学者がこういった本を書くモティベーションとなっているのだとすると、それを読むことができるのはある意味では幸運である。もちろんアウトリーチ活動は日本でも最近は盛んであり、特に同じく宇宙論の領域では大栗さんや村山さんなど積極的に活動されている。幸せなことだ。

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    『宇宙が始まる前には何があったのか?』(ローレンス・クラウス)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/416376870X
    『もっとも美しい対称性』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4822283682
    『真空のからくり』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062578360
    『科学の発見』(スティーブン・ワインバーグ)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4163904573

  • 『宇宙が始まる前には何があったのか?』がベストセラーとなった物理学者ローレンス・クラウスによる、ファラデー以降の物理学史。3部構成の序盤は読みやすいが、量子力学が登場した辺りからは内容が難しくなる。エピソードや比喩を散りばめ、読者を突き放さないという努力の跡は見えるが、ある程度の物理学の素養や背景知識がないと読み進めづらい。第3部に至っては、著者自身、読者に何とか分かってもらおうとする努力を放棄しているようにも思えるが、これは私の理解力不足による穿った見方かも知れない。

    ところで、「これまでに書かれた物理学文献のほぼすべてを読んでいて、その情報を完全に吸収している」フランク・ウィルチェックという物理学者が登場するが、こんな人物が存在する事に驚いた。私も研究者の端くれとして、自分の専門とする狭い分野の文献には多く目を通すが、それでも文献を網羅する事はできない。ましてや、経済学全体の文献など不可能だ。1980年代はまだまだ論文数が少なかったのかもしれないが、俄には信じがたい。世の中は広い。

  • 素粒子物理学における標準模型構築までの物理学者たちの物語。観測·実験から得られるファクトとその背景を推測とロジックで解きほぐし理論化、そしてそれをまた観測と実験により検証していく。そんな過程を数式を使わず物語として語ってくれる展開をワクワクしながら読み進められた。
    内容が物理法則なだけに、時に「ん?どういうこと?」と読み返すこともあったが、全編を通じて「なるほど、そういうことか」「実におもしろい」と何度呟いたことか。
    本書は、知的好奇心を掻き立て満たしてくれる極上のエンターテイメント。

  • 請求記号 443.9/Kr 2

  • 「数学的な宇宙」Max Tegmark

    人間の尺度を超えて実在を覗き見るような高度な技術を使うと、人間の直観は必ず崩壊する。

    鋼鉄の質量の99.95%を占める原子核は非常に微小な球で、鋼鉄の体積のたった0.0000000000001%を占めているに過ぎない。殆ど真空に近い空間が硬く感じられるのは、原子核同士を一定の配置に固定している電磁気力が非常に強いから。

    非常に高温では、電子と陽電子が衝突するとZ粒子に変化する。

    経済学はその殆どが時の権力者が聞きたい事を言う事で報酬が得られるという知的売春の形をとっている。

    物理を通して見ると、周りの世界の美や不思議が大きくなり、物事がよりはっきり見えるようになる。

    宇宙をより遠くまで見る事が可能になるたび、人間は知っていた全てがもっと大きな何かの一部である事を発見してきた。

    コロンブスはアラブとイタリアの距離単位を混同し、東洋に着くまでの距離を正確な19,600キロから3,700キロと誤解していた為に、資金調達が可能となった。

    地球の自転は潮汐摩擦の為に減速している為、2億年後の1日は25時間になる。

    ガス雲は最初少しでも回転していると収縮するにつれて回転が早くなって、強くなった遠心力の為に雲が重力に押しつぶされるのが阻止される代わりにピザのように扁平する。この主原料は水素ガスとヘリウムガスだが、炭素や酸素、ケイ素などの重い元素も含まれていた場合、中心部分が星になる一方で周辺部分は凝集して惑星となる。

    なにものも空間を光速で超える速度で運動する事はできないが、空間自体はどんな速度でも膨張できる。

    水は熱し続けると水素ガスになるが、それをさらに熱し続けると原子が壊れ、陽子と電子が勝手に運動する水素プラズマになる。

    水素の約25%がヘリウムに変換された。

    水素とヘリウムのプラズマは冷却されて透明なガスになる。その後の数十億年、重力が密度ゆらぎを増幅する事で惑星、星、銀河を作った。

    一生の後期にある星は、ヘリウムを炭素、酸素など人間を作る殆どの原子に変換する。

    宇宙は最初の数分間にヘリウムと少量の重水素とリチウムが作られ、その後星によってほかの原子が作られた。

    幾何学は単なる数学ではなく物理でもある。空間は物質を多く含むほど曲がりが大きくなる。

    宇宙に存在する物質のうち、暗黒エネルギーが68%。暗黒物質が27%、普通の物質が5%。

    我々の宇宙年齢は、137億年か138億年。

    インフレーション物質は半重力を生み、この反重力がインフレーション物質を吹き飛ばし、宇宙を加速膨張させる。そしてインフレーション物質を引き伸ばす為にこの反重力が費やしたエネルギーの為にインフレーション物質の質量が増加し、そのせいで堆積が膨張してもインフレーション物質の密度は一定に保たれる。

    光は強度と色以外に偏光という性質を持つ。

    光子20億個当たり原子約1個が存在する。

    ミクロスケールの量子ゆらぎがインフレーションによってマクロスケールのゆらぎに引き伸ばされる。このゆらぎがさらに重力によって増幅され、今日の銀河や大規模構造に成長した。

    構造の種になるゆらぎの大きさは約0.002%。

    私たちの宇宙のサイズは現在、80億年毎に倍増している。

    宇宙はそのサイズが一定時間毎に二倍になる加速成長期から始まり、もっとゆっくりと成長する減速成長期が続いた。

    ビッグバンは宇宙の始まりではなく、空間の1領域でのインフレーションの終わりを表す。

    我々の空間は無限大。そこには銀河、恒星、惑星が無限個含まれ、それらを誕生させた初期条件は量子ゆらぎによってランダムに生成された。

    物理学とみなすか形而上学とみなすかの境界は、考えている理論が実験で検証可能かどうかで定義されるのであり、奇妙かどうかや観測できない対象物が含まれているかではない。

    構造の種となるゆらぎは量子ゆらぎから生成され、量子ゆらぎは事実上ランダムである為、殆どのレベル1並行宇宙は細かいところで異なっている。

    異なるレベル1並行宇宙の学生は、物理の授業では皆同じ内容を学ぶが、歴史の授業では異なる内容を学ぶ。

    レベル1多宇宙の性質として、起こる可能性がある事は全て起こる。

    永久インフレーションによって無限個のレベル1宇宙が作られたなら、そこには考えられる全ての可能性が実現されている。

    レベル2宇宙は光速よりも速い速度で膨張するインフレーションの先にあるので永遠に辿り着けない。レベル1宇宙であれば宇宙膨張が減速的である限り、十分時間をかければどれだけ離れた場所でも原理的には辿り着ける。

    真空は一種の媒体であるだけでなく、相の数は約10の5乗か無限に近い可能性がある。その結果、空間は曲がったり膨張したり振動したり凍ったり蒸発したりする可能性すらある。

    我々の宇宙は、物質を寄せ集めようとする暗黒物質と引き離そうとする暗黒エネルギーの綱引きの歴史。

    物理の基礎方程式(弦理論等)はレベル2多宇宙の異なる宇宙でも正しいが、観測者が発見するであろう見かけの物理法則はその中の宇宙ごとに異なっている。

    振動数の低いものから、電波、マイクロ波、赤外線、赤、オレンジ、黄、緑、青、紫、紫外線、X線、ガンマ線と呼ばれる。これらはいずれも光子からできている。物体から単位時間に放出される光子の数が多ければその物体は明るく見える。

    光電効果とは、金属に光を当てると金属中の電子がはじき出される現象。低振動数の光はエネルギーが足りないので光電効果を起こさない。

    携帯電話は電子をアンテナ内で揺り動かす事で電波を放射している。

    コペンハーゲン解釈は、小さなものは奇妙な振る舞いをするが、大きなものはしないと言っている。→間違い。

    波動関数は粒子にここまたはそこにあるという従来の粒子としての性質に加え、重ね合わせの状態として異なる複数の場所に同時に存在できるという波としての性質も与える。

    我々の宇宙の波動関数は観測が行われるか否かには関係なく、常にシュレーディンガー方程式に従って決定論的に変化する。

    脳のニューロンを一列に並べると地球を約4周する。

    ニューロンは帯電しているナトリウム原子とカリウム原子を輸送する事で電気信号を伝える。

    我々の主観的な意識は我々の脳を構成している粒子が驚くほど複雑な運動を行う結果として生じる。

    ニューロンでは情報が処理されるよりはるかに早くデコヒーレンスが起こる。その為に奇妙な重ね合わせを経験しない。

    物が見えるのは光子が物に跳ね返るからである為、見たい対象が光子に衝突されないように保ったまま物を見るのは不可能。そして光子が当たると量子的な重ね合わせの状態は壊れるので物が一つしか見えない。

    大きな対象物に関して量子力学的に許される全ての状態のうち、デコヒーレンスに対して最も頑強なのは古典的な状態であるからそれが最後まで残る。

    エントロピーは系に関する情報の欠如の度合いを測る尺度。系の量子状態を記述するのに何ビットの情報が必要かを表す。

    対象のエントロピーは、我々がそれを見ている間には減少し、見ていない間には増大する。

    我々は量子力学的な並行宇宙の実在を確かめようと繰り返し量子自殺を試み、その結果納得できるかもしれないが、それを他人に納得させる事は決してできない。

    世界は確かに奇妙であり、それと折り合いをつける方法を我々が学ばなければならない。

    重要な科学的発見は、最初は完全に無視され、次に激しい攻撃にあい、最後にそんなことは誰でも知っているとすげなく扱われる。

    量子論ではヒルベルト空間と呼ばれる無限次元の場所とその中にある波動関数が基本的な存在。

    我々は並行宇宙で数えきれない様々な人生を生きている。

    量子力学的な測定で見られる偶然性は、我々のコピーが量子的に作られる事によって生じる錯覚。

    量子論はデコヒーレンスと呼ばれる検閲効果の存在を予測する。

    デコヒーレンスは我々の脳で絶えず起きている。つまり、量子脳(意識)は存在しない。

    ある系の波動関数は空間上に存在するその系の無限個のコピーを記述する事になり、量子力学の不確定性は我々が観察しているコピーがそれらのいずれなのかを我々が知らないという事を反映した性質。

    網膜に記録された情報は、極めて複雑なやり方で処理され、脳内に保存されている外の世界のモデルがその情報に基づいて絶えず更新されている。

    脳は実在モデルを利用可能なあらゆる有用な情報(音、触覚、匂い、味等)を使って絶えず更新している。

    我々の心は外の世界を見ているように感じているが、実際には我々の頭の中にある実在モデルを見ているだけ。

    茶色は外的実在としては存在せず、くらいオレンジの色をもっと暗い色をバックに見た時に見える内的実在。

    人間の視覚系が認識するのは波長が400-700ナノメートルという狭い範囲の光だけ。

    外的実在、、物理的世界、人が存在しなくても存在する。
    合意的実在、、物理的世界に関する記述、説明のうち、意識を持つ観測者が合意し共有するもの。
    内的実在、、外的実在の主観的な認識
    実在モデル、、脳によって作られる外的実在のモデル。これを内的実在として認識する。

    実在とは何かという探求は、合意的実在を内的実在と結びつける認知科学と、合意的実在を外的実在と結びつける物理学の二つの取り組みがある。

    我々の脳で作られる内的実在は、外的実在に関する情報のほんの一部が我々の感覚器官によって採取、伝達された情報に基づいている。

    外的実在の数学的記述は、我々が外的実在を認識する仕方と非常に異なっている。

    内的実在と外的実在の中間に合意的実在がある。意識を持つすべての観測者が同意するような物理的世界の記述。

    哲学は宇宙という大書物に書かれており、それを見ようとする者にはいつも開かれている。しかし理解する為にはまずそこで使われている言語と文字を学ばなければならない。この書物は数学という言語で書かれ、使われている文字は三角形や円などの幾何学的図形。それらがなければこの書物は人間の能力では一語も理解できず、人は暗い迷宮の中を彷徨っているのみ。-ガリレオガリレイ

    空間は、次元、曲率、トポロジーなどの数学的性質しか持たない。

    全ての「モノ」は素粒子からできており、その素粒子も電荷、スピン、レプトン数などの数のみであり数学的な対象物。

    我々が住む三次元空間とその中の素粒子よりさらに基本的と考えられる存在として、波動関数およびそれが住むヒルベルト空間と呼ばれる無限次元の空間がある。粒子は生成も消滅も可能で、さらに複数の場所に同時に存在することもできるが、波動関数は現在過去未来いずれにおいても一つで、ヒルベルト空間中をシュレーディンガー方程式に従って発展する。

    数学とは、数学的構造の形式的研究。

    物理学で最も重要な発見の一つは物理的実在には、回転対称性や並進対称性等、様々な対称性が組み込まれている事。

    我々人間は、巨大な数学的構造の一部をなす意識を持つ存在。

    数学的構造は要素間に関係が定義された抽象的集合の事。対称性の性質を持つ。

    自然の性質はその究極の構成要素の性質から生じるのではなく、構成要素間の関係から生じる。
    構成要素自体は何の性質も持たない。

    時間は幻想ではないが、時間の流れや時間変化時は幻想。時空内では全て同時に存在している。

    光は電磁場に出来たさざ波。宇宙に存在する全ての光は時空の各点に割り付けられた六つの数値(位置三成分、速度三成分)に対応し、マックスウェル方程式に従う。

    人の体重の3/4は水分子で、一ヶ月毎に入れ替わる。皮膚細胞と赤血球細胞は数ヶ月毎に入れ替わる。

    一生を表す時空パターンは時間方向に有限の広がりを持ち、両端では生地がほつれてチリチリに広がったようになっている。

    時間が流れているという主観的感覚は脳内の記憶同士の関係から来ている。

    我々は脳内に存在する編集された映画を最初から最後までいっぺんに見ているので、現在と過去の事象を同時に認識している。そして1秒後には脳内のニュース映画をまたいっぺんに見ているが、末尾に1秒分加えられ、それ以外の部分が短縮されたものを観ている。時間が流れているように感じられるのはこの為。

    我々はこの空間と時間を「ここ」と「今」から観察しているように感じているが、実際には脳内の実在モデルの一部に過ぎない。

    意識は実在モデルそのものだから傍観者は必要ない。あなたが私と呼んでいる主観的な視点は、赤や緑と言った主観的知覚と同じクオリア。

    意識にも多くの種類があるだろうが、液体同様に我々が探求したいと思うような共通の特性があるだろう。

    目的を持って進化あるいは作り出されたSASは全て、世界と自己についての内的モデルを持つ事の副産物として意識を持つ事になったかもしれない。

    世界の全ての側面を認識するのは有益でなく、むしろ安定性と規則性が十分高くて、それらに関する情報が未来の予測に役立つ側面だけを認識する方が有益。同様に、SASにとって自分自身を局在した唯一の存在と認識する事も有益。

    人類は最良の選択を行いたい為に意識を進化させてきた。

    全ての数学的構造は変化のない恒久的な存在。それは時空中に存在するのではく、時空が特定の数学的構造の中にある。宇宙の歴史を映画に例えると、数学的構造はその映画のDVD。

    時間の流れと時間変化は幻想。

    今あなたが認識している主観的実在は、脳の実在モデルの一部としてあなたの頭の中にだけ存在している。この実在モデルには「ここ」や「今」に関する情報から特に目につくものが切り取られているだけでなく、以前に記録された離れた場所や過去の出来事も含まれている。そしてそれにより時間が流れているという錯覚が作り出されている。

    あなたが外の世界だけでなく、自己も認識しているのは、脳の実在モデルの中に「あなた自身のモデル」と「あなたと外の世界の関係」が組み込まれているから。あなたが「私」と呼んでいる特別な主観的視点の感覚は「赤い」とか「甘い」と言った主観的知覚と同じクオリア。

    数学的構造と物理的構造は等価であり、数学的に存在する構造は全て物理的にも存在する。

    レベル3までは同じ数学的構造。

    数学的構造は、我々の外的実在を単に記述しているのではなく、我々の外的実在そのもの。数学的存在と物理的存在が等価という事は、ある数学的構造に意識を持つ下部構造が含まれていたら、それは自分を「物理的に存在する宇宙に住んでいる」と認識してしまう。

    数学的構造は宇宙を記述しているのではなく、宇宙そのもの。数学的構造は作れないので宇宙を「作る」必要もない。それは単に存在するだけ。時空間の中に存在するのではなく、時空間がその中に存在する。

    数学的に存在する構造は全て存在論的には同じ状況にあるので、どれが物理的に存在するかではなく(どれも存在するから)、どれに生命が含まれるかである。

    レベル4多宇宙では、多様な数学的構造が含まれる。光や重力が存在しない数学的構造もあるだろう。時間と空間の次元数が別の一般相対性理論も可能。

    1組の基礎物理法則を持つある数学的構造において、インフレーションは異なる空間領域に異なる実効的物理法則の組を実現し、その結果レベル2多宇宙を作り出している。レベル4多宇宙では、基礎物理法則さえ異なる、例えば量子力学が存在しない並行宇宙さえある。

    他の数学的構造の中には、我々が想像すらできないようなタイプの並行宇宙を持つものもあるだろう。

    数学的存在と物理的存在は同じ。

    古典数理物理学の連続体モデル(波動、拡散、流体を記述する方程式)の多くは、微視的には原子の離散的集合体であるものを単に近似として連続体のように扱っているにすぎない。

    物理学では量子場など連続なものから結晶格子など離散的な解が得られる事があり、しかもその離散的な解が大きなスケールでは連続媒体のように見え、さらにその振動が離散的な粒子(フォノン)のように振る舞う事がある。

    我々の住む数学的構造では、その中にどんな種類の「もの」が存在できるかが対称性を研究する事で明らかになる。

    全体の情報量は部分が持つ情報量の和より少ない事があり、場合によってはある一部分が持つ情報量より少ない事さえある。

    数学的構造にランダムはなく、観測者にとってランダムに見える事があったとしてもそれは錯覚。
    見かけの偶然性は、複数のあなたの存在に由来する。

    数学的に存在する全ての構造は物理的にも存在し、それらは全体としてレベル4多宇宙を形成している事を意味する。

    様々な並行宇宙は入れ子になった4段階の階層構造。
    レベル1:観測できなほど遠方の空間領域
    レベル2:インフレーションの終了した異なる領域
    レベル3:ヒルベルト空間の別の場所
    レベル4:別の数学的構造
    と高レベルほど多様性が高くなる。

    レベル1,2,4多宇宙のほとんどの領域は生命が存在できる条件を満たさず、これらの多宇宙で知的生命体はまれ。

    数学的宇宙仮説が正しいならば、自然の基礎に偶然性は組み込まれていない。偶然性は単に観測者がクローン化される時に観測者が感じる主観的な感じ方に過ぎない。

    数学的宇宙仮説が正しいなら、我々が観測する複雑性のほとんどは見せかけ。それは単に多宇宙における我々の住所情報。

    全体は部分より簡単に記述できる事がある。

    我々の多宇宙は我々の宇宙より単純。特にレベル4多宇宙は最も単純であり、記述するのに本質的に何も情報を必要としない。

    我々はシミュレーションではない。

    数学的宇宙仮説は原理的には検証・反証可能。

    進化の過程で得た我々の直観は、我々の祖先が生存する上で価値のあった物理の日常的側面に関してのみ有効。

    地球では、過去5億年の間に、全動物種の50%がいちどきに絶滅する事象が5回起きている。

    互いに近くに存在するAIの集団は蜂のような集団意識を持つ単一の生物のように感じるかもしれない。

    複雑な系を変化させる最も簡単な方法は不安定性を見つける事。小さな力で大きな変化をもたらす。地球をよりよい場所にする為の最も簡単な不安定性の多くは正しい情報を広める事。

    私たちの宇宙が生命に意味を与えているのではなく、生命が私たちの宇宙に意味を与えている。

    生きる事の意味
    トップダウン:今ここでの人生には充足していないとしても、もっと大きなより意味のある何かの一部である事によって意味を持つ。家族、組織、社会などそこに属する個人が個人を超越したより大きな意味のあるものの一部であるように感じられる事も同じ。
    ボトムアップ:充足感は今周囲で起きている小さな事からもたらされる。多数の粒子の集団が意識を持てるという事実自体がこの上もない感謝。

    140億年の宇宙の歴史を一年とすると、10万年の人類の歴史はわずか4分、百年の寿命は0.2秒。

    進化した生物の細胞は、リボソームを作るために別のリボソームを必要とする。その為進化の過程で一番最初に現れたリボソームがもっと単純な何かから徐々に進化してリボソームになれたのは自明ではない。

    最大と最小のスケールまで行くと、実在が数学的構造で織られている事が解るが、この事実は私たち人間が通常認識している中間スケールでは見過ごされやすい。

    究極の実在が数学的だとすると、実在の全ての側面は原理的に理解可能であり、私たちの理解に限界を与えるのは、私たち自身の想像力だけ。

    レベル4多宇宙は恒久的な存在だが、私たちの宇宙はビッグチル、ビッグクランチ、ビッグリップ、ビッグスナップ、死の泡のいずれかの形で終わりを迎えるかもしれない。

    人類ほど進んだ知的生命体は私たちの宇宙には他に存在しないかもしれない。その理由は、生命の宇宙進出は物理的に可能であり、必要な技術開発の為の期間が100万年もあれば容易にこれを遂行できる。我々の銀河系には生命が生存可能な惑星が何十億個とあり、その多くは地球より数十億年も早く形成された。宇宙に出て他の惑星を植民地化できるようになった文明は、その無視できない割合が実際にそうする。

    自分の心に従って自分が本当に情熱的になれる事に取り組む事。

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