- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794211361
感想・レビュー・書評
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全ての事象に2面性以上あり。マスコミには注意を。
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利害関係のあるところ損をしたくないと思うのは人情であります。本音を言えば大した事ではない事も世の中には「ごね得」というものもあるわけで、それなら馬鹿正直に生きるのなんぞやってられないという話も御座います。これはとあるお金の無い町の方から聞いた話なんですがね、ある発電施設のアンケートなぞは賛成がちょっと上回るくらいが良い塩梅だそうで、何でもそうしますと、反対派にも配慮して補償金などの予算が余計につき、どちらのメンツも守れ、無事建設もされる。だから賛成派も反対運動がないと困る。なんて話をとある軍事施設のある町の方に話しましたら、その通りと甚く共感されていましたよ。
まさしく社会はこのように持ちつ持たれつ、なんと民主的でありましょう。 -
雑誌などで見かける「大人向け」の記事が、どのくらい「大人」を対象にしているのか、考えたことはあるだろうか? 私はどっかで「12歳にわかるように書け」というという心得を目にしたことがある。これは文章表現としての話にとどまらない。「わかりやすい文章」というのは、わかりやすい論理展開と、わかりやすい結論の提示が必要なのだ。それこそ12歳でも理解できるくらいに。
この本の著者は、その「わかりやすい結論」に、どうやら飽きが来た人らしい。もとテレビのADということが序で明らかにされるが、テレビの「わかりやすさ」指向は、雑誌の比じゃない。ストレスもたまろうというもんである。
諫早湾、沖縄、上九一色村……流行から2歩も3歩も出遅れて、話題のニュースの現場を訪れる著者。ところが目の前には、まことにわかりにくい構図がでーんとのさばっている。明確な悪者はいないし、善意の正義の味方もいない。欲と勘違いと思考停止がのさばっているばかり。その「わかりにくさ」を、著者はなるべく手触りを残しながら、ユーモアで包んでそっと差し出すように書いていて、それが本書の最大の特徴になっている。
たぶんテレビ・新聞・雑誌の記者にも同じように「わかりにくい現実」は現れたはずだ。しかし、報道の宿命として、彼らは目の前の現実を、12歳にもわかる構図にゆがめてしまう。昨日も今日も、そして明日も。
著者の感じた結論のでない違和感を、そのまま味わうのが本書の醍醐味。なげっぱなしジャーマンを素直に楽しめたのは、著者の見事な文章のおかげ。結論がすっきりしない話を読ませるほうが、単純明快な話よりよほど芸が必要である。
やっぱ、12歳じゃ大人とは言えないよな。このわかりにくい世界を、わかりにくいまま芸にした、著者にあっぱれである。 -
友人たちと開いた勉強会を通じて読んだ本、日本国内に存在する社会問題(っぽいもの)を取り上げ、その問題の近縁でたまたま生きる人々の意識と、マスメディアによって醸成された現地のイメージの間に亀裂を入れてくれる一冊だと思いました。実際そこの地域の人たちはその問題で困ってる(もしくは、困ってて欲しい)と思っている自身の思考に対して、実はその問題によって儲かっている現地の人々がいたり、その問題に対し想像以上に無関心でまったりしていたり、社会問題化することによって対立が生まれていたりする現状は、固定観念で固められそうになっている自分の頭に軽いヒビを入れてくれると同時に、「あ、やっぱりメディアが報道するような偏った現状じゃなかったんだ」というちょっぴりの安心感も与えてくれました。
本の取り上げている社会問題は多岐に渡り、倫理的に取り上げにくい内容もありますが、全体的にポップに、軽い笑いを交えて書かれているので、とても読みやすいです。あとがきにて、筆者が以下のように書いているのですが、私は以下の文章が本のメッセージそのものだと思いました。
"表からは見えにくいのですが、理想を語るということは、同時に、それがかなえられていない「みんな」をつくります。例えば「平等」。事情は人それぞれ、と思っていれば関係ありませんが、「平等であるべき」とされた途端、そう思っていた人も「不平等」な存在になります。人は不平等だから平等を求めるのではなく、「平等であるべき」だから「不平等」になり、ひるがえって「平等」を追い求めるようになるのです。こうして理想から逆算されて、「みんな」はつくられてゆきます。"
こうならないように配慮しながら、もしくはこういう状況になりそうになった際注意してくれる人と、何かしたり、生きていきたいし、誰かにとって自分もそうありたいと、思いました。 -
うつくしい理想の下で活動が行われていたり、対立や論争が起きている(起きていた)現場に高橋氏が出かけていったルポ集。
といっても、問題の本質や真相に迫るといった一直線的なルポとはかなり様子が異なり、問題の構図からはみだしたり、タテマエにおさまらない部分にばかり注目してしまうのが、いかにもこの人らしい。少し間違えばかなり嫌味になりそうなところを、ユーモアある語り口でくすりと笑わせながら読ませる。
そうした持ち味がよく発揮されるのは、「小さな親切運動」や世界遺産になった白川郷、統一教会、上九一色村、自殺名所の青木が原などを扱った章。全体に漂うなんともトホホな感じと、意外に鋭い指摘とのバランスがよく生きている。文献調査もよくされていて、小さな親切運動の主唱者が教育勅語を賛美していたり、熱心なクエーカー教徒だった新渡戸稲造が「武士道」とともに「郷土」をプロモーションしていたという話など、とても興味深った。
一方、諫早湾干拓問題や沖縄の米軍基地、若狭湾の原発など、激しい対立が起きているテーマでは、いずれも、報道番組のように白黒はっきりつけられない、地域の中の複雑怪奇な関係が浮き彫りにされる。反対派がいてくれるからこそ利権が得られると推進派の人が堂々と言う、なんとも奇妙なもたれあい。だがこうした状況は、地域に対立を押し付けている巨大な国家権力があるからこそ起きていることだ。その点に注意して読まれなければ、「けっきょく、民主主義だとか人権なんてきれいごとを言っても、しょせん利権だろ」という、当該者ではないものたちの無責任さを上書きすることになってしまいかねないのではないか。その点にいささか危惧をおぼえなくもなく、さまざまなテーマを「からくり民主主義」とまとめてしまうことには、なんとなくすっきりしない感じも残る。 -
「みんなが主役で、みんなが平等」という民主主義のフィクション性を、丁寧なフィールドワークを重ねて、ゆるいタッチで描いていきます。
僕が知るなかでもっとも読みやすく、かつ本質をついた民主主義に関する本です。意外や意外、この本の解説はあの村上春樹。素晴らしい解説です。解説から読み始めると、著者との距離がぐっと近づくはず。
湘南OPAC : http://sopac.lib.bunkyo.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1357377 -
世の中の複雑さにため息が出る、そんなルポルタージュ集です。
沖縄米軍基地や福井の「原発銀座」、そして統一教会に上九一色村など、話題の土地に実際に行ってみた著者。勿論著者も、取材前は我々とほぼ同じく、メディアで報道されるような"対立軸"を頭に入っているわけで、その先入観を前提に取材を始めるわけです。
が、取材を進めるうちに、そこで意外な実情を知ります。
当事者は、賛成派も反対派も、外から(特にメディアを通して)見るよりずっと冷静で"普通"なのに気づきます。テレビで見るような激しい怒りも、イッちゃった感もなく、肩すかしを食らったような気分にさえなります。
逆に、メディアを通して「可哀想な被害者だ」と思っていた人の言い分が支離滅裂で訳がわからない、というのもあります。が、ともかく、丹念に当事者の話を聞けば聞くほど、思い描いていたイメージと当事者の像にズレが生じてくるのです。
そして、話を聞いているうちに、それぞれに言い分があり、それはどれもそれなりに正しく、それなりに変なところもあります。そういう「不完全な正しさ」と、様々な人々の利害得失により、紆余曲折を経た事実経緯。それらの絶妙に危ういバランスの上に組み上がった現状は、さながら崩壊寸前のジェンガのよう。下手に触ると崩れそうで、もう誰も手が付けられなくなっています。
そんな実情を目の当たりにした著者は、ただただそこで「困り果てる」…そんなルポルタージュです。
著者の、時にシニカルとさえ思える透徹した視点から描き出される事実の全体像は、確かに「こりゃどうしようもねぇなぁ…」と思わされる複雑さです(わかりやすい対立があって、白黒ハッキリ分かれるようならば、そもそも事態はそんなにこじれないわけですから)。
ものすごい抽象的な感想になっちゃいましたが、本書のルポは、どうしようもなく複雑な事情を、ある種の「トホホ感」をもって読んでもらいたい、そういう作品だと思います。
再稼働を巡って対立の激しい原発の問題についても、結論を出す前に是非一度本書の第7章をお読み頂きたいところです。
議論・討論という奴でとにかく白黒をはっきりつける態度に何かモヤモヤするモノを感じる、という方。本書を読んで一緒にモヤモヤしましょう(笑)。
でも、白黒キッパリつけるにせよつけないにせよ、心の何処かでモヤモヤを抱き続けるというのは大事なことだと思います。やっぱり、世の中はそんなに単純なのじゃないですから。 -
2012.3.4読了。
この世に結論はない。社会に答えはない。白黒はっきりさせずに、グレーの中を漂うのが大人なのかもしれん。 -
ななめ読み.情けないことに,私はここに取り上げられているほとんどの話題に興味がない(わかない)のだった.読む本を間違えた.