文庫 良心をもたない人たち (草思社文庫 ス 1-1)

  • 草思社
3.63
  • (42)
  • (74)
  • (78)
  • (16)
  • (4)
本棚登録 : 1208
感想 : 102
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794219299

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • アメリカでは、サイコパス(良心をもたない人たち)は、全人口の4%いるという。日本は、それほどではないとのことだが、表面に表れていないだけらしい。この本では、サイコパスの実例をいくつかあげ、そういう人の発見法、対処法が書かれている。うーん、なんだか恐ろしい話が現実のものとして書かれているが、怖いもの見たさの興味で読んでしまった。こんな人たちには、出会いたくないものである。最後に良心とは何かということを論じている。良心とは、感情的愛着による義務感だという。サイコパスは、良心がないのでやりたいことをやりたい放題で、人をゲーム感覚で支配し、悩みもなく、人生の勝者?いや、サイコパスは、愛を知らず、良心も知らず、慢性的な退屈感に苛まれ、最後には哀れな最期を迎えるという。自分では、哀れとは思わないかもしれないがね。

  • いわゆるサイコパスやソシオパス、反社会性人格障害などと呼ばれ、分類される人たちがいます。本書の帯を写すと、「一見、魅力的だが、うそをついて人をあやつり、空涙をながして同情をひき、追いつめられると逆ギレする」ような人々です。本書はこのような人々を「良心のない人々」と定義し、その視座から彼らとはどういった人たちなのか、何者なのか、を明らかにしていきます。「良心をもたない人々」は良心がないがゆえに、この世界をゲームとしてとらえ、他者に勝利し支配する行動をとります。配偶者や子どもを支配する例が多いようです。

    僕は本書を読みながら、自分の親や自分自身がサイコパスに当てはまるかどうかを考えました。結論からいえば、まるまるすべてが当てはまりはしませんでした。ただ、部分部分で当てはまるものがあり、サイコパスの片鱗があるのかなと感じたりしました。しかしながら、その判断はとてもむずかしいです。いくつかの別角度で考えることを心がけたり、性格というものにたいしてズームイン・ズームアウトみたいに、近寄って考えたり鳥瞰的に考えたりなどして、かなり本気で向き合ってみても、霧がかかったまま明確に結論は出ません。

    90年代に発明されたサイコパス診断シートがあるのですが、むやみに自分自身や近しい人に用いてはならない、とされています。僕が「あるいは、」と考えたのは、本書の筆者が本書にあえてぼかしをいれることで、サイコパスの診断を素人がくだせないように仕向けたのではないか、というものでした。そういった仕掛けによって人権を保護したのかもしれない、と考えるのは、僕が「空想好きのお人好し」だからなのでしょうか?

    さて。欧米では25人に1人(100人に4人)はサイコパスだというデータがあるようです。サイコパスって珍しいタイプなのかと思ってたけど、統合失調症(100人に1人)より多い症例なんです。しかしながら、そう思いながら読んでいたら、東アジアではもっとずっと少ないと載っていました。集団主義的な文化的な背景、世間とかのしがらみが、単独行動とセットのサイコパスを生みにくくしているのかもしれません。

    良心は、寝不足や歯痛などの身体的な不調によって弱くもなるもので、サイコパスのような「良心をもたない」行動へその人の行動を近かせるようです。また、恐怖や不安によっても良心は弱くなる。それと、権威に服従するというもともとの性向を人間は持っているのですが、権威からの働きかけやプレッシャー、服従によっても良心は弱くなり、サイコパスのような行動をとりがちになる。サイコパスは自意識が希薄なことが決定的な特徴だとあるのですが、こういった外的な要因のために自意識が弱まり良心も弱くなるのだろうと考えられます。強迫症で寝不足でという状態だったらほぼ間違いなくその人の行動はサイコパス同等のものになるのでしょう。サイコパスは周囲を支配し他者の人格を壊してしまいます。たとえば、ある人がもともとサイコパスではなくとも、寝不足や不安を原因としてサイコパスと同等の行動をしてしまうのなら、その被害はサイコパスからのものと同等のものを周囲の人は受けてしまい、迷惑そして問題です。ほんとうのサイコパス自体は精神症状と判断すべきものなのか難しいものですが、寝不足や不安を原因としてサイコパスと同じ行動をとっているとわかったとするならば、その源の精神の問題をきちんと治療したほうがいいです。

    <つねに悪事を働いたりひどく不適切な行動をする相手が、くり返しあなたの同情を買おうとしたら、警戒を要する>(『良心をもたない人たち』p145)
    妻に暴力をふるいながら、俺はなんてダメで情けないんだ、といいはじめ、殴られた妻が同情し始める。サイコパスの常套手段らしいです。どうして同情を買おうとするのか。他者から哀れんでもらうことで、サイコパスは他者を無防備にします。哀れんでいる人間は無防備になるからです。そうやって、好き勝手にできる力を得る。……というように説明がなされていたのだけど、納得がいきます。また、ちょっと想像を膨らませて考えてみると、サイコパスの者がサイコパスだとばれたとき、自分がサイコパスにならざるを得なかった後天的な理由があることを、サイコパスの者は同情を引くように述べだすと思うんです。サイコパスにそう語られた人たちは、そこがほんとうのような気がしてしまってわからなくなりがちではないでしょうか。いちばんのやっかいな点ではないかと。

    <サイコパスは完全に自己中心なため、体のあらゆる小さな痛みや痙攣にたいして自意識が猛烈に強い。頭や胸に一瞬感じる痛みがいちいち気になり、ラジオやテレビで聞きかじった話は、トコジラミやリシン(トウゴマに含まれる毒性アルブミン)にいたるまで、すべて自分の身に置きかえて心配になる。その不安と警戒心はつねに例外なく自分自身に向けられるため、サイコパスは自分の健康を病的に不安がる心気症患者のようにもなる。彼らにくらべれば重症の不安神経症患者でさえ、理性的に見えるほどだ。>(p253)

    <一般的に彼らは努力を続けることや、組織的に計画された仕事は嫌がる。現実世界で手っ取り早い成功を好み、自分の役割を最小限にする。>(p254)

    <なにかに真剣に没頭することや、毎日訓練を重ねて美術や音楽その他の創造的な力を磨くことは、サイコパスにはまったく向いていない。(中略)結局のところ良心のない者は、人にたいするときとおなじように、自分の才能と接する。才能の面倒をみようとしないのだ。>(p255)

    また、サイコパスはほとんどつねに単独で活動する。(ここは僕自身、単独行動ばかりなので誤解されるなあと気になったのですが、僕の場合は若いころから自分で自分を閉じなきゃいけない理由があったからなのでした。家族の問題が頭の大半を占めているのに、それを語っちゃいけない、ということで、他者から離れていってそれが板についたのでした)

    なかなかわからなくなってくるところもあると思います。現在の資本主義の競争社会だと、ある意味、サイコパスが勝者になりやすいように見えるし、こういった社会の側から、勝者になるためにはサイコパス的行動を、と奨励されるような気配すらあるように感じられるからです。

    最後に。本書はサイコパス、つまり「良心をもたない人々」を詳しくみていくことで、反対に「良心」についても深く考えていく作りになっていました。良心とは、愛ゆえの義務感である、とされていました。さらに、良心は抑制を生みもします。僕は最近、自制心って実はとても大切なんじゃないか、と考えるようになりましたが、ここでいう良心による抑制は、僕の考える自制心とニアリーイコールなのでした。まあ、おそらく、サイコパスかどうかっていうところも、多くの人々にとっては0か1か、白か黒か、ではないのだと思います。きっとグラデーションの濃淡のある種類のものです。それも、その時々によっても変化しているのではないかな、と考えるところなのですが、実際、どうなんでしょう……。

  • お前には良心が無いとよく友達に言われたので読んでみました
    レベチで良心がない人について書かれていたので僕には良心があると自信がつきました

  • わかりやすい。
    自分の感じた恐怖を論理的に理解できた。

    自己愛との違いもわかりやすかった。

    ——

    サイコパシ ーとの比較において 、ナルシシズムはとりわけ興味深く示唆にとんでいる 。
    ナルシシズムは 、言ってみれば 、サイコパシ ーを半分にしたようなものだ 。
    病的な自己愛者も 、罪悪感から悲しみ 、絶望的な愛情から情熱まで 、ほかの人とおなじように強い感情をもつ 。
    欠けているのは 、ほかの人の気持ちを理解する能力である 。
    ナルシシズムには良心ではなく 、感情移入の能力 、つまり他人の気持ちを感じとって適切に反応する能力が欠けているのだ 。

    ナルシシストは感情的に自分以外のものは目に入らず 、ピルズベリ ー社のキャラクタ ー 、ドゥ ーボ ーイのように 、外からのものはすべて跳ね返して受けつけない 。
    そしてサイコパスとちがってナルシシストは心理的に苦痛を負い 、セラピ ーを求めることが多い 。
    ナルシシストが抱える問題の一つは 、感情移入の能力を欠いているため 、本人の知らないあいだに人との関係がこじれ 、見捨てられて困惑し 、孤独を感じることだ 。
    愛する相手がいなくなったのを嘆くが 、どうすれば取りもどせるかわからない 。
    ———

    同居していた祖母はサイコパスで、それに家族は苦しめられていたなと思う。
    過去のひどい目にあわせられた上司やクライアントは自己愛だな。

    良心につけこまれないように、気をつけよう。
    はじめは気づけない、被害にあった人以外気づけないのがやっかいなんだよね…。

    彼らに罪悪感は感じなくていい、そう再認識しました。

  • 「サイコパス」について臨床心理学者が書いた一冊なのだが、その病的な面ではなく良心という道具立てで「社会道徳とサイコパスの関係」を探りつつ「良心の正体」を明らかにしていく。
    内容が良いだけではなく、とにかく書籍としての出来が抜群にいい。多くの記載がされたナイスな一冊でした。中野信子『サイコパス』やロバートヘアの書籍では物足りないのが正直なところ。

    サイコパスを単にモンスターとして捉えるのではなく「自分がサイコパスだったら?」という問いかけと答えとしての考察が素晴らしい。そしてサイコパスに自由意志はあるのか?(=我々に自由意志はあるのか)の問いへの答えもこの本にあると感じた。

  • 読了。
    サイコパスが学術的にきちんとカテゴライズされ、且つそれが広く認知されたのはごく最近なので、世間から単なるエゴイスト?として看過され、それによって生まれた被害者は無数だろう。
    その発現率が想像よりも遥かに多い事には驚きを隠せないが、あの人とかあの人はそうだったかもな…というのは市井の私でも数件思い浮かぶ(笑)。
    太古よりその様な人が一定数存在し、現在に至るまで淘汰されることなく、寧ろ社会的に成功している人も多いという現実に鑑みると、人類の生存戦略としては正しいのかもしれない。
    意図的にサイコパスを避けることは難しいのかもしれないが、かなりの割合でそういうカテゴリーの人間が存在する、という事実を知っているか否かはやはり大きい。

  • 今までの人生で関わりあった人たちを思い返し
    やはり数人 該当する人はいました。
    が、同時に '自分はどうなのか?' を深く考える
    にも及びました。

  • サイコパスとはどういう人達か? どう対処すればいいのか? 幸い日本人には比較的少ないみたいだけど、やっぱり素因のある人はいますよね。 とにかく、近づかない・・でしょうか。

  • 間違いなくサイコパスは恐ろしい人種。しかし、身近にいることも事実。
    サイコパスに傷つくという感情はない。こんなに怖いことはない。

  • サイコパスは自分にしか関心がない。人の心の動きを理解する能力が欠けているのだ。
    彼らは愛も道徳も持たず、慢性的に退屈している。
    サイコパスは共通して、病的に嘘をつき、人をだます。
    口の達者さと、表面的な魅力。
    その愛情は底が浅く、長続きせず、ぞっとするほどの冷たさを感じさせる。
    ---
    サイコパスである人の特徴と
    対処法が分かりやすく書かれていた。

    違和感の理由はこれだったのか、と
    もやもやが解消された。

    かすり傷程度ですんで良かったし
    そんな人から離れることができて良かった

    相手の『言葉』ではなく、『行動』を見ようと思った

著者プロフィール

マーサ・スタウト(Martha Stout)
1953年生まれ。米国のマクリーン精神病院で研修、ストーニーブルック大学で博士号取得。ハーバード・メディカルスクール精神医学部で、心理セラピストとして25年以上患者の治療続ける。現在はボストンで開業、臨床心理学者として心的外傷、心的外傷後ストレス障害、自殺念慮を専門にカウンセリングを行っている。前著『良心をもたない人たち』(草思社)は「ベターライフ・アワード」を受賞

「2020年 『良心をもたない人たちへの対処法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マーサ・スタウトの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×