クライム・マシン (晶文社ミステリ)

  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794927477

作品紹介・あらすじ

「この間、あなたが人を殺した時、わたし、現場にいたんですよ」-殺し屋リーヴズの前に現れた男は、自分はタイム・マシンであなたの犯行を目撃したと言った。最初は一笑に付したリーヴズだが、男が次々に示す証拠に次第に真剣になっていく。このマシンを手に入れれば、どんな犯罪も思いのままだ…。奇想天外なストーリーが巧みな話術で展開していく「クライム・マシン」、ありふれた"妻殺し"が思わぬ着地点に到達するMWA賞受賞作「エミリーがいない」をはじめ、迷探偵ヘンリー・ターンバックル部長刑事シリーズ、異常な怪力の持ち主で夜間しか仕事をしない私立探偵カーデュラの連作など、オフビートなユーモアとツイストに満ちた短篇の名手、ジャック・リッチーの傑作17篇を収録したオリジナル傑作集。

感想・レビュー・書評

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  • あと一冊になってしまったので、すぐには読まずに置いておこうと思っていた未読のジャック・リッチー本。病院で待たされる間何を読もうかと考えて、手に取ってしまったのがまずかった。どれだけ周りが騒がしくても、点けっぱなしのテレビから音が流れて来ても、一度読み始めたら話の中にぐいぐい引き込まれてしまうのがジャック・リッチー。待ち時間で三分の一読んでしまった。その後、仕事休みに一篇。就寝前に一篇、とついつい読みふけり、とうとう17編全部読み終えてしまった。

    表題作は、殺し屋の家に男が強請りに現れる。事件を新聞で読んで、その日その時間にタイム・マシンで移動して一部始終を目撃したのだという。初めは信じない殺し屋も何度も目撃されるうちに話を信じるようになる。星新一やフレドリック・ブラウンのショート・ショートを思わせる筆致にひょっとしてタイム・マシン物のSF?と思わせておいて、最後に見事に裏切ってみせる。何と本格派定番の密室トリックを使ったバリバリのミステリ。

    掲載される雑誌の読者層によって微妙に味わいの異なる作品を仕上げることのできる職人であったリッチー。17編の中には、ひと捻りも二捻りも工夫を凝らした作品が混じっている。暴走する推理力に物を言わせてありもしない謎を次々と生み出す迷探偵ターンバックルシリーズの一篇「縛り首の木」もその一つ。本来は本格探偵小説を知り抜いたリッチーが、ご都合主義的な謎やありえない殺害方法を揶揄するようなメタ・ミステリが持ち味だ。

    味気ない高速を回避して下道を走って帰ることにしたターンバックルと相棒のラルフ。車の故障で貧しい村に迷い込む。一夜の宿と決めたホテルの窓からは首吊り縄を垂らした縛り首の木が見える。魔女として殺された女の呪いで、毎年村にいる者の中から一人が吊るされることになっている、今夜がその晩と聞かされた二人。早々と寝てしまったラルフの隣で、夜通し騒ぎを聞いていたターンバックルの推理が開陳される。いつもならそれで一件落着となるのだが、今回は一味ちがう。ゴシック・ロマンス風のざわつく恐怖を纏った異色の一篇。

    350篇も書いてきたら、ネタにも詰まることだろう。ところが、リッチーはちがう。逆に自家薬籠中のネタを使いまわすことで、ファンの意表を突いてみせる。エドガー賞を受賞した「エミリーがいない」がその代表作。リッチーお得意のネタといえば、財産目当てで結婚した妻を殺す夫、という設定がある。しかも持論として、死体は自分の地所に埋める。家の庭なら掘り返しても怪しまれないというのが理由だが、果たして本当にそうなのか。

    二軒並んで建つ屋敷に暮らす姉妹の妹の方と結婚した男に、賢い姉が疑惑を抱く。妹が姿を消したからだ。男の前妻は泳げないのにヨットに乗って海に出て溺れ死に、男はその遺産を手にした。今度はエミリーの番か。姉は声色を使った電話や幽霊騒ぎで義弟を追い詰める。とうとうある晩スコップを手に庭を掘り出したところを捕まえてみれば。使い古された手を臆面もなく引っ張り出してきて、見事に打っちゃりを食わすあたり、さすがである。

    リッチーの上手さは、捻りのきいたプロットばかりじゃない。オチの鋭い切れ味だ。飽きさせない語り口で最後まで引っ張ってきておいて、ストンと切って落とす。唖然、茫然。そんな結末があったとは、と毎度のことながら驚かされる。本作の中でも最高なのが「日当22セント」。二人の信用できない目撃者の証言で、四年間を監獄で過ごしてきた男が釈放される。関係者は男の復讐を恐れる。まずは男の裁判で負けた弁護士。そして、二人の証言者だ。意外にも男は和解の提案を受け入れ、金で解決することを了承する。しかし、それで終わりではない。最後に鮮やかなオチが待っていた。

    余命あと四か月と宣告された男が見つけた意義ある行動とは、リボルバーの引鉄を引いて、世に蔓延る礼儀知らずたちを始末することだった。子どもの前で親に恥をかかせた移動遊園地のチケット係を手始めに、老婦人に手ひどい仕打ちをしたバス運転手、客を客とも思わないドラッグストア店主、と次々に殺してイニシャルを書いたメモを残して去る殺人者に、世間の目は好意的だった。なんだか前より礼儀正しい人が増えてきている、と。シニカルな視線が貫かれた「歳はいくつだ」を含む全17篇。

    アメリカでは短篇小説は長編に比べて評価されにくい、という話を聞いたことがある。短篇小説を中心とする作家で評価の高いアリス・マンローはカナダ人、ウィリアム・トレヴァーはアイルランド人だ。アメリカではいくら雑誌の常連でも単行本が出ないと評価されないらしい。生涯に350篇余りの短篇を書いたジャック・リッチーも例外ではない。マンローやトレヴァーとはジャンルがちがうと言われればそれまでだが、ミステリ界にしぼってみても、さほど有名とはいえない。

    しかし、日本では短篇は人気がある。ジャック・リッチーの短篇集は2005年に晶文社から出た本作を皮切りに、翌年は河出書房新社から、そして去年、一昨年と早川書房からもオリジナル短篇集が出されるなど、その人気に衰えは見えない。余分なものをそぎ落とせるだけそぎ落とした文体の名人芸が「縮み」志向の日本人に受けるのかもしれない。が、それだけでもないだろう。汲めども尽きないアイデア、鋭い人間観察、クールを気取りながら、ユーモアの裏打ちを忘れない心配り、と上げだせばきりがない。殺伐とした世界だからこそ、ジャック・リッチーが読みたくなる。まだまだ名品佳品が埋まっていそう。各出版社には、ぜひとも次の短篇集を企画してほしいものだ。

  •  晶文社ミステリシリーズの最終巻。いや恐れ入りました。珠玉のミステリ掌編が17編。驚くことにハズレが一つもない。思わずにやりとさせられるものばかり。短編ミステリの難しさは何度も何度も書いている通り。どんな手練れであっても越えられない困難さをこの名の知らぬ著者はいともやすやすと越えて見せる。350を超える作品があるらしいが他にも手に入るのだろうか。これは楽しみだ。

  • 「エミリーがいない」
    エミリーがいなくなった事を不審に思ういとこのミリセント。前妻を事故で亡くし、財産を手に入れたアルバートは、エミリーがいなくなった事について何か隠しているようだ。ますます怪しく思うミリセントはアルバートを罠にかける。
    騙し騙され、息詰まる駆け引き。それなのにエミリーはダイエットの為、断食道場に行っていただけなんて。愚かな、ミリセント。アルバートの愛は本物だったのは意外。

  • この間読んで、とっても好きになったジャック・リッチー

    日本ではさほど有名ではなく、
    出されている本も少ない…と聞いていたので
    まだ読んでいないこの本をみて、ハッ、ドキッ

    さっそく手にしたがこれがまた、傑作揃い

    クライム・マシン

    主人公は殺し屋、訪ねてきた知らない男に
    発明したタイムマシンで殺しの現場を見ていたと言われる。
    口止め料としてお金を要求されるが…

    エミリーがいない

    「どうやら奥さんを殺したらしい」、と疑われている主人公、
    読者の私からみてもわざとらしく怪しい様子なのだが…

    旅は道づれ

    旅行の飛行機に隣り合わせたまあまあ若い女同士
    お互いが相手をなんとなく見下しながら
    自分のことばっかり話していたが
    だんだん旦那の話になってきたら…

    その他全17篇収録

    今回も名(迷)刑事ターンバックルシリーズと
    探偵カーデュラシリーズも収められている。

    カーデュラははっきりと言及されていないのだが
    十字架が苦手で、夜しか動けず…とつまり…。

    いままで読んだ本ではカーデュラシリーズについて
    「きっとこういうの大好きな人いるなあ」と
    他人事であったが、今回はたいそう楽しめた。

    軽妙洒脱という言葉がぴったり。

    ダールやウッドハウスが好きな方は
    きっと気に入るはずである。

  • これは面白かった!
    短編の魅力をここまで知らしめてくれる作品集は珍しいのではないかと思いました。もっともっと読みたいです。
    特に「部長刑事」「探偵社」シリーズもは続きものなのでなおさら読んでみたい! 探してみようかな。これはオススメです。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「これは面白かった!」
      ホント面白いですよね!私は文庫で「クライム・マシン」と「カーデュラ探偵社」しか読んでないので、早く他も文庫化して欲し...
      「これは面白かった!」
      ホント面白いですよね!私は文庫で「クライム・マシン」と「カーデュラ探偵社」しか読んでないので、早く他も文庫化して欲しいです。。。
      2012/11/07
  • 洒落の効いたミステリ短編集。
    ジャック・リッチーという名前に覚えはなかったけれど、MWA最優秀短編賞を受賞したという「エミリーがいないは」既読だった。
    しかしそのときに名前が印象に残らなかったのは、あまりにも巧くまとまりすぎていたせいかも。作家の個性を感じられなくて素通りになってしまった様な気がする。
    この短編集も巧くまとめられた話が収録されてるのだけれど、やはりオチは想像の範囲を出ないあたりが残念というか勿体無いというか。
    それでもどの作品も十分に平均点は超えているし、読んでいて面白いのだけど。
    個人的に気に入ったのはカーデュラ探偵モノ。そしてやはり「エミリーがいない」は群を抜いてよくできていると思う。

  • 一行目:「この間、あなたが人を殺した時、わたし、現場にいたんですよ」とヘンリーは言った。

    どこかで薦められていたのだと思う。
    起承転結がはっきりしていて、星新一風の文体で皮肉も効いていて、大変面白かった。

    海外短編の中ではかなり好み。
    不思議な後味の…というのは得意でないので。

    他の作品も読んでみたい。

  • 絶対言わないでちょうだいよ

    エミリーの話が面白かった。

  • カーデュラ探偵社シリーズだけで本が一冊できるな

  •  ノンシリーズの短編中心ですが、カーデュラ探偵社のも入ってますね。
     ヘンリー・ターンバックルさんのも2話収録されてますが、これもシリーズなんでしょうか。あらすじにはそんなふうに書かれてた。もっと読みたいな、このシリーズ。

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著者プロフィール

1922‐1983。ウィスコンシン州ミルウォーキー生まれ。1950年代から80年代にかけて《ヒッチコック・マガジン》《マンハント》《EQMM》などの雑誌に、350篇もの作品を発表した短篇ミステリの名手。軽妙なユーモアとツイスト、無駄をそぎ落とした簡潔なスタイルには定評がある。「エミリーがいない」でMWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀短篇賞を受賞。邦訳短篇集に『クライム・マシン』(晶文社)がある。

「2010年 『カーデュラ探偵社』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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