世界の辺境とハードボイルド室町時代

  • 集英社インターナショナル
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797673036

感想・レビュー・書評

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  • ソマリランドと日本の室町時代の共通点を軸に語られる対談本。世界の辺境であった室町時代の日本と現在における辺境であるソマリランドとは辺境同士似ている部分もあり、一方で異なっている部分も面白い。単に歴史だけでなく、文化、思想や他の国々の言及もあり、縦横無尽に語りつくすという形を相応しい。気軽に読めて、しかし他の本にはない新たな視点盛りだくさんで、知的好奇心を刺激される非常に素晴らしい1冊。

  • ・法慣習の重層化

    ・中世史面白さ : たくさんの人が集まり、何もないところから社会を組み立てていく過程を試験管のなかを覗くように見れること、例「仁義なき戦い」60

  •  方言の中に古語が残る。そんな日本語学の知識を思い出した。
     中世と、遥か遠くの地。

  • 辺境と中世日本史という、一見、交わらないようだが共通の渇望を抱く「ここ」ではない何処かを追い求める2名の研究者の対談。これだけがっちりかみ合う、正のスパイラルを感じる対談本も珍しい。

  • ソマリ本をオススメした読書仲間から逆オススメ?をいただき読みました。

    高野さんってものすごく学者肌なんだなーと思いました。ただの(?)探検部上がりじゃない。歴史一族?なんでしょうか。(私の母校にも探検部があったのですが印象は最悪…でも、この本によって多少美化されたかも?)
    清水さんは知らなかった歴史学者&作家さんですが、巻末の写真&プロフを見ると、予想より若い印象。世界観がわかりやすいのは庶民を扱っているからなのかな?

    この本の文章もですが、とても読みやすく、また内容もわかりやすくてオモシロイ。
    私は日本史にめっぽう弱いので、注記を読みながら何とかついてゆきましたが、詳しければもっとスイスイ読めるはず?(室町〜江戸時代辺り)
    あと、ソマリ本(特に1冊目)は必読です。先に読んでおかないと、楽しさ半減かな。

    対談中や巻末に気になる参考書籍がたくさんあり、読みたい本が一気に増えました…><

  • 中世日本社会と世界の辺境の意外な共通点を紹介されるだけでも、とても興味が持てた。また、それらを通じて、現在の日本を相対的に見ることもできる。


    ・未来が後ろにあった頃 p.75
     そもそも中世までの日本語は「アト」には「未来」の意味しかなくて、「サキ」には「過去」の意味しかなかったようなんです。(略)
     これは、勝俣鎭夫さんという日本中世史の先生が論文に書かれていることなんですが、戦国時代ぐらいまでの日本人にとっては、未来は「未だ来たらず」ですから、見えないものだったんです。過去は過ぎ去った景色として、目の前に見えるんです。当然、「サキ=前」の過去は手にとって見ることができるけど、「アト=後ろ」の未来は予測できない。
     つまり、中世までの人たちは、背中から後ろ向きに未来に向かって突っ込んでいく、未来に向かって後ろ向きのジェットコースターに乗って進んでいくような感覚で生きていたんじゃないかと思います。勝俣さんの論文によると、過去が前にあって未来は後ろにあるという認識は、世界各地の多くの民族がかつて共通してもっていたみたいなんです。

     ところが、日本では16世紀になると、「サキ」という言葉に「未来」、「アト」という言葉に「過去」の意味が加わるそうです。
     それは、その時代に、人々が未来は制御可能なものだという自信を得て、「未来は目の前に広がっている」という、今の僕たちがもっているのと同じ認識をもつようになったからではないかと考えられるんです。神が全てを支配していた社会から、人間が経験と技術によって未来を切り開ける社会に移行したことで、自分たちの時間の流れにそって前に進んでいくという認識に変わったのかなと思います。

    ・バック・トゥ・ザ・フューチャー p.77
     その勝俣先生の論文は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(『中世社会の基層をさぐる』山川出版社)というタイトルなんです。(略)
     有名な映画のタイトルと同じですよね。主人公がタイムマシンに乗って過去に行き、未来を変える。そのことをあの映画では「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と表現しているわけですが、これもただの言葉遊びではなくて、古代ギリシャなどでも、もともと未来は「後ろ」にあると認識されていたから、「未来にバックする」という言い方もあるんですって。それであのタイトルになっているだそうです。教養のある欧米人なら、未来へはゴーするんじゃなくて、バックするんだということがわかるみたいです。


    ・伊達政宗のイタい恋 p.159
     同性愛は戦国の文化。戦国になると過酷な社会を生き抜くには、女をはべらせてなんかいられない。信頼できる男だけで周囲を固めておく方がいい。
     だから、平和な時代になっても愚連隊をやっていたかぶき者には、同性愛文化が残った。それが社会的に見てみっともないことだと考えられるようになったのが元禄頃で、ひげの文化も同性愛の文化もなくなっていく。

     伊達政宗が、恋人である男の子にあてた手紙も残っている。
    「俺は浮気はしてない。お前だけなんだ」ということを女々しく書き連ねていて、「愛の証のために、今すぐ腕に刀を立ててもいい」と言っている。だけど、「俺ももう孫がいる年齢だし、行水を浴びるときに小姓たちに見られて笑われてしまうとみっともないので、やりたいけどできない」とかいって(佐藤憲一『伊達政宗の手紙」新潮選書)。

    ・網野義彦という研究者 p.177
     網野義彦は、中世のイメージを革命的に変えた人。それ以前は、日本の中世は武士と農民の時代で、荘園は閉鎖的な村落で、人々はみな自給的な暮らしをしていたというイメージでとらえられていた。網野は、そうじゃなくて、非農業民を含む様々な人たちがうごめいていた社会だったんだというオリジナルな着想を持ち込んで、注目された。

     網野の研究はスケールも大きくて、ミクロな庶民群像や偽文書なんかを取り上げる一方で、その中で人類の歴史が大きく転換するというマクロな議論もしている。鎌倉時代とか、室町時代とか、そういうちまちました話じゃなくて。


    ・多数決は暴力的な手続き(清水) p.201
     学生によく「多数決は暴力的な手続きなんだ」って言うと、キョトンとする。小学生の頃から、多数決は民主主義の基本だって習っているから。でも、多数決は実は非民主的で、それをやってしまうことによって少数意見が切り捨てられる。
     中世の人も滅多なことでは多数決をやらない。だらだら話し合うことによって、白黒つけない。白黒つけちゃうと、少数派のメンツをつぶしちゃうことになるから。だから中を取るというか、ストレートな対立を生まないようにするというか。
     根回しですよね。それってたぶん、狭い世界の中で生きていくための一つの知恵なんですよね。前近代社会の意思決定の仕方としては、一番ポピュラーな形かもしれない。

  •  ソマリランドで一躍脚光を浴びた高野秀行と日本中世史の研究者である清水教授との対談で、現代ソマリランドと室町時代が似ているとのキャッチコピーに興味を引かれたのだが、それは全体の1/6でしかなかった。
     残りは、日本の歴史の話しが多く、それも庶民の生活や社会や風習に関するもので、それらが現在のソマリランド、ミャンマー、アジアやイスラム諸国など途上国と似ているところがあるとかないとか、話が盛り上がるといった内容である。 ついには、お互いの仕事というか活動についてまで話が及んでいる。
     まあ、それなりに読んでいておもしろく、へ~!と新たな気付きもあるが、作者どおしがこの対談を楽しんでいるほどのおもしろさは感じられなかった。

  • 現代日本と中世、それから世界の辺境といろんな方向にいろんな次元に話は広がっていきつつ、妙に納得させられる。面白い。

  • どちらも日本を客観視しているのが面白い。
    辺境と室町日本の話なのだが、結局は現代日本との比較であり、現代日本論になっている。
    肩の力を抜いて読めます。

  • 小説で過去と未来だけでなく、地理的な広がりのあるような縦にも横にも大きな話が好きなんだけど、まさにそうゆう対談本。辺境の民族の話が室町時代の日本人に似てますねってゆってくださったから始まったこの素晴らしい対談。しかも似てますねってツイッター発信だったってゆう現代感。似てるところもあって似てないところもあるってゆうのは、全ての物事に対する普通のことなんだけど、何事にも似て非なる!と思ってたことが何かに似ているって知ったらココロオドルだろうなあ。

    有名な論文『バックトゥーザフューチャー』の話も出てきて感激。先日、この先、後日、この後は、過去、未来、未来、未来、ってゆう未来へはゴーするのかバックするのかってゆうこの話すきだなあ。未来へバックってゆうのは映画における洒落だと思ってたんだけど、古代ギリシアの考え方からきている熟語なんだって。面白い話。

    また、古米か新米かの話も出てきて興味深い。かつては古米の方が値段が高かった記録があるらしい。その考察が面白い。

    辺境にも室町時代にも興味の湧く一冊。他人事だからストレスフリーで読めるのがいいところ、らしい。確かに確かに。歴史学科の大学生のうちに読みたかったけど、今年の夏に出た新作面白本です!!!

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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