ビジネスモデル全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)
- ディスカヴァー・トゥエンティワン (2014年9月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
- / ISBN・EAN: 9784799315637
作品紹介・あらすじ
ビジネス書アワード2冠受賞『経営戦略全史』に第2弾登場
14世紀イタリア・メディチ家から2010年代のスタートアップまで
ビジネスモデルの先駆者たちの栄枯盛衰のダイナミクスを一気読み!
「ビジネス書大賞2014・大賞」「ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶベスト経営書2013・ 第1位」を受賞した
『経営戦略全史』の著者・三谷宏治の最新作。テーマは「ビジネスモデル革新の歴史」です。
14世紀イタリア・メディチ家、17世紀日本・三井越後屋にはじまり、2010年代のスタートアップまで、
約70余りのビジネスモデルを、その背景とともに紹介。
ビジネス史の先駆者たちの栄枯盛衰をストーリーで追いかけていきます。
感想・レビュー・書評
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前著の「経営戦略全史」と同様に読み物として良い本。ビジネスモデルの研究史の紹介が少なく、そのためにビジネスモデル同士を横串で比較する視点に乏しいので、そこが強化されればより良かったと思う。
ただ、「コースの定理」の説明を完全に間違えているのがすごく気になった(302ページ)。
R. コースの主要な業績は、The Nature of the Firm(1937)とThe Problem of Social Cost(1960)という2つ論文。この足しても60ページくらいの短い論文でコースはノーベル経済学賞を獲ってる。
このうち、「コースの定理」と呼ばれるのは、取引コストゼロの場合、所有権の配置に関わらず当事者間の交渉で社会的厚生が改善されるという命題で、1960年の論文(の前半部分)で主張されたもの。
ところが、本書では、企業境界の決定要因は企業内外での取引コストの多寡によるという1937年の論文をあげて、これをコースの定理と紹介している。
どちらも確かにコースの主張だけど、「コースの定理」が1960年の方ということは広くコンセンサスを得ており議論の余地はないはず。実際に、1937年を指してコースの定理と呼ぶ例に出会ったことは一度もない。だから、本書でのコースの定理の説明は間違いというほかないと思う。
企業理論や契約理論など経済学・経営学で広く使われる、ごくごく基本的かつ極めて重要な概念なのに、なんで間違っちゃったのだろう。著者は結構な経歴の人だけど、ずっと間違えたまま覚えているんだろうか。
本書の論旨に関わるものではないし、間違いをゼロにはできないけど、これくらいのベストセラーだと間違いがそのまま広まってしまいそうなのが気がかり。ネットで検索した限り、間違いをそのまま引用してる書評やレビューがちらほらある一方で、間違いを指摘しているものは見つけられなかった。もしかして、数千人、数万人単位で間違えて覚えてるかも。
最新の版では直ってて欲しいところです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
三谷氏の前作「経営戦略全史」が面白かったので、本書も読んでみた。本書ではビジネスモデルを「ビジネス要素(売り方、作り方、儲け方、調達)の組み合わせ」と定義している。前作が競争優位の源泉にフォーカスしていたのに対して、本書ではよりビジネスの仕組み自体を論じている。400ページにわたって古今東西の様々なケースを取り上げているが、平易な言葉で書かれているので読み易い。
前作では補章を設けて著者自身の考えが述べられていたが、本書には補章がない。三谷氏の考えとしては、「巨人たちの午後:番外編」の中で次のように述べられている。「協調や協力によって、相手にどれだけの価値を与えられるか、全体の価値をどれだけ増やせるか、が現代ビジネスモデル戦での勝負です。そしてそれは相手や競合との勝負でなく、自分たちがどれだけ高速に試行錯誤できるかの勝負なんです。」著者の見解には同意するが、できればフレームワークのような形でもう一歩踏み込んで抽象化してほしかったというのが率直な読後感。 -
☆2(付箋12枚/P422→割合2.84%)
経営戦略全史に続く本。内容はまったくリンクしていないのだけれど、似たようなビジネスの歴史なのに、見方によってこんなに異なるのだなあ。
このシリーズは好きです。
・ビジネスというものが、「誰に対してどんな価値を、何をどこから調達・創造して提供し、どう対価を得るのか」と表せるものであるならば、その組み合わせ(セット)が「ビジネスモデル」です。
・アクセンチュアの世界主要70社調査(2001)や、IBMの765社調査(2006)もそれを裏付けました。「産業構造か、利益構造か、企業構造を変えなくては、成功はない」のだ、と。
・アプリケーション・ソフトへの課金で儲ける世界同一プラットフォームを、この世で最初につくり上げたのは任天堂でしたが、そのためにハードやOSは原価割れで普及させる作戦をとりました。
一方、マイクロソフトはハードを持たず、OSで勝負しました。OSの魅力を上げるためにブラウザ(IE)や音楽プレイヤーは無料で付けましたが、そのアプリケーション・ソフトであるMSオフィスでは大いに儲けてきました。
アップルの主たる収益源は未だ、粗利率50%超のハード自身です。
・三井高利:兄に疎まれ、江戸から郷里・松坂に戻されてからの24年間、ワシはずっと、考えておった。どうやったら江戸で呉服屋の革新ができるかを。…苦しい日々じゃった。しかし、遠く田舎にいたからこそ、既存の呉服屋のおかしさがわかった。なぜ、反物でしか売らない?切り売りすることで客も増え、小物にも使われよう。仕立て売りすることで至急の客も喜ぼう。なぜ、掛け売りしかしない?現金売りにすることで一見客も取り込めよう。なぜわざわざ江戸から京まで金を運び銀に変えて仕入れをする?両替商を兼ねれば、そこは要らんようになる。
ターマン(シリコンバレーの前身を創った):私もそうですな。東海岸のMITで学んで、また後年、ハーバード大学に招聘されて初めて、西海岸に足りないものがわかりましたよ。それが産官学の連携です。ただの象牙の塔だと思っていた大学が、あれほどに産業界・政界と結びついて、その発展に寄与していたとは。
・当時、江戸・大阪では金貨中心・銀貨中心と分れており、多くの問題が発生していました。江戸の呉服店としては、京の西陣で仕入れなければなりませんが、金貨・銀貨の両替コストもかかれば、その為替変動リスクにも晒されます。
同じ頃、かのバチカンと同じように江戸幕府も上納金の現金輸送に悩んでいました(バチカンにはメディチが食い込んだ)。大阪で集めた年貢米や産物を銀貨に換え、それを江戸まで数十日かけて現金輸送していたからです。
高利は自ら政府に「公金為替」の仕組みを提案し、受け容れられます。「幕府の大阪御用金蔵から公金を三井両替店が銀貨で受け取り、2~5ヶ月後に江戸城に金貨で納める」というものです。
三井両替店にとって、公金からの直接の収入はありませんが、巨額の資金を数か月間無利子で動かせること、そして、大阪で受け取った銀貨を越後屋の京都での仕入れに使い、江戸城への納金は江戸での売上金から行うことで、低コストでの仕入れが実現しました。大量の現金(銀)を東西に動かすコストもリスクもありません。
・競合よりも丈夫な上に何割も安く、しかも年々値下げして1925年には260ドルになりました。T型フォードはついに、世帯収入(2000ドル)の1/8で買える、大衆の足となったのです。
いや、少なくともアメリカでは、こういった安値で馬の10倍も走る足ができたからこそ、土地の安い郊外の一戸建てに住んで都市や工場に通うという、「豊かな大衆」が出現したのです。
・スローン(GM)は「なにを持っているかで、あなたの価値は語られる」と消費者にすり込むことに成功し、かつ、新しい価値(ファッション化したモデルチェンジ)を提供しつづける力を築き上げたのです。
そしてそれは80年後、形を少しだけ変えてりんごの上に降り立つのですが、それはまた後でのお話しです。
・王冠メーカーで営業担当として働いていたとき、ジレットは、自分が営業する商品が、一瞬だけ使われて捨てられていくさまを見て思いました。
「使い捨てだからこそ、顧客はまた買ってくれるのだ」と。
王冠を発明したのは、まさにその会社の社長でもあるウィリアム・ペインターでした。彼もジレットにアドバイスします。「君も、一度使ったら捨てられてしまうものを発明しろ。そうすれば客が安定するぞ」
・本格的な特許制度が生まれたのは17世紀のイギリスでした。イギリス議会は「専売条例」を制定し、発明や新規事業に対し最長14年の独占権を認めました。それまで国王が恣意的に与えていた不安定なものから安定的制度に変わったことで、イノベーションに向けた多くの投資がなされ、「産業革命」につながったと評価されています。
・Bussiness as a Service(BAAS)。彼はすべてのビジネスを、顧客への「サービス」(=相手に良い変化をもたらす活動)として捉えなおすべきだと説いたのです。
・大きなビジネスモデル革新は、決してひとつの領域の革新には留まりませんが、あえて「売り方」「つくり方」「決済・資金」「儲け方」の4つに分類したらどうなるでしょう。
20世紀になって、車が安くなり、ラジオやテレビができ、電話やコンピュータが世の中に拡がっていきました。1990年頃までに、基本的なビジネスモデルのほとんどは、すでに確立されていたのです。
「儲け方(収益モデル)」としての「替え刃モデル」「広告モデル」「従量課金制モデル」「プラット・フォームモデル」
「売り方」としての「種々の小売業態(チェーンストア、GMS、ディスカウントストア、CVSなど)」「ドミナント・モデル」「ダイレクト・モデル」「eマーケットプレイス・モデル」
「作り方」としての「大量生産モデル」「垂直統合モデル」「水平分業モデル」「系列モデル」「産業クラスターモデル」「リーン生産モデル」
「売り方」「作り方」の両方にまたがる「SPAモデル」
「決済・資金調達方法」としての「国際決済・為替ネットワーク」「トラベラーズ・チェック」「クレジットカード」「勧進帳」「マイクロ・クレジット」
インターネットの急激な成長とともに1990年代から21世紀初頭にかけて、新たなビジネスモデルが加わり、それらが自由に組み合わされて展開されていきます。情報(ビット)において、距離・コスト・売り場面積の壁をなくしたインターネットは、その特有の力でさまざまな新しいビジネスモデルを可能にしました。
「オープン・イノベーション」「クラウド・システム&サービス」「クラウド・ソーシング&ファンディング」「フリーミアム」「ロングテール」。
・それでも当初、組織はなかなか変わりませんでした。外様のガースナーに反抗したからではありません。逆に役員たちはみな、即座にシャツの色をガースナーと同じにするくらい上司には従順で、現場ではどんどんトップセールスを仕掛ける腕力を持ち、でも手続きはしっかり守る「優秀な」人材たちでした。だから、ダメでした。そういった上意下達の官僚型リーダーシップでは「サービス業」にはなれなかったのです。
ガースナーはIBM社内を調べ、ソリューション・ビジネスに適応し成果を上げていたリーダーたちのやり方を調べ上げました。
・スタイル:率先垂範ではなく、「チームの力を引き出す」ことを重視。自分は前面に出ない。
・意思決定:手続き重視の階層型ではなく、「即断即決のフラット型」。
・モチベーション:業績目標達成だけでなく、「他者をよく変えること」自体に喜びを見いだす。
結局、ビジネスのサービス化(BAAS)実現には、「自律分散型のリーダーシップ態勢(多くのマネージャーが自律的に動けること)」が必要でした。
・wikipediaをつくり上げるのに世界中で費やされた時間が、2010年までで約1億時間。でもアメリカ人だけで年間その2000倍、テレビを見てますもんね。そのたった1%を振り向ければ、wikipedia級のサイトがなんと毎年新たに20個つくれる(笑)。 -
10年近く前のものですが、色褪せていません。
どこの企業も変革になったときに攻め切れるかが重要なのかもしれません。 -
引き出しとして
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ビジネスモデルについて論じた本。古今東西様々なビジネスモデルが分かりやすく書かれていて読みやすかった。
・ビジネスモデル=誰にどんな価値を、何をどこから調達・創造して提供し、どう対価を得るのか
・外部との連携やパートナーシップに熱心な企業の業績が高い
・ジレットの替え刃モデル
本体は安く、替え刃は高く。
一度使ったら捨てるものを売れば客が安定する。
・今後も企業内に残り得るのは、非定型で創造的な一部の業務だけ
・サウスウェスト航空
組織がチャレンジできるのは、各自が本当の自分を曝け出せるユーモア精神溢れてこそ
・スタートアップに必要なチームは商品開発と顧客開発のみ。
・リーンスタートアップ
戦略は軸足を変えながら改善し続け、固まるまで大勝負しない
作業は提供価値の向上とアイデアの検証につながることだけ
これらの改善・検証を超高速で行う -
『経営戦略全史』が最高によかった三谷さんの新作。「ビジネスモデル」に着目して、金融(為替商からクレジットカード、Square)、物流 (メイシーズ、ウォルマート、Amazon、アリババ、テンセント)、消耗品ビジネス(ジレット、リコー、キャノン)、SPA(Zara、ユニクロ)、マスメディア(広告モデル)大量生産(フォード、GM、トヨタ)、IT知財 (IBM、インテル、クァルコム、ARM)などなど、特に近年のネットビジネスを中心にたくさんの例が網羅されている。70モデル、200社をカバーし、140名の起業家やビジネスリーダーをカバーしているとのこと。外資系コンサルティングの実務を通して得られたのであろうこの網羅性が、著者の強みだろう。その著作を読んでみようと思う所以でもある。
もちろん事例だけでなく、第二章で皆が気になる、そもそも「ビジネスモデル」の定義とはなんぞや、という問いに対する答えをこれもまた多くの経営学者の論を引いて紹介している。そして著者の考えとしては「ビジネスモデルとは、旧来の戦略的フレームワークを拡張するためのコンセプト・セットであり、その目的は多様化・複雑化・ネットワーク化への対応である」と定義している。もう少し落とし込むと、経営戦略フレームワークにおいては、「顧客セグメント」「製品・サービス」「プライシング」「プロセス」を対象とするのに対して、近年のビジネスモデルフレームワークでは、「ステークホルダー」「トータルバリュークリエーション」「収益方程式」「バリューネットワーク」といったものを対象として対置することでその違いを説明している。そして、これらの要素を柔軟に動かして価値を生み出していくものだと。
意地悪でマイナスなことを言うと、『経営戦略全史』の二番煎じの出涸らし感が若干見えなくもないと言えるし、事例自体の網羅性は素晴らしいが、それぞれは新しくも深くもないと言えるが、それでも興味がある人にとってはとても面白い本だと思う。
『経営戦略全史』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4799313134 -
ビジネスに限らずどんな革新も、既存のモデルのうち何かしらの変数が変わって生み出されていることが多いということは大きな学びである。
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有名な会社のビジネスモデルの成長の軌跡をまとめている。ピンポイントだけど、村田製作所の自社にとって大事なセグメントを支える技術の特許をあえて取らないことで、技術の外部流出を防ぐというのは、どういうことなのだろうと思った。