彼女はもどらない (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

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  • 宝島社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800273789

感想・レビュー・書評

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  • 友人から勧められたので購入。二年前に出版とのことですが、店頭は在庫切れでした。非常に読みやすく、飽きることなく最後まで読み進められました。SNSの表現や、ネットストーカーの要素などが多数あり、全体的に雰囲気が現代風だと感じる物語でした。

    最初「私は綾野楓さんを殺しました。」という棚島悟の裁判での発言から始まります。以下詳しいネタバレです。

    綾野楓は、キャリアウーマンのサバサバした主人公の女性で、棚島悟と、籍は入れない事実婚をして一緒に暮らしていました。

    一方の棚島悟は、綾野楓と事実婚をしていながらも、別に妻子がいます。妻は転落事故で植物状態、子どもは実家に預け、妹と母が面倒を見ています。

    事実婚(不倫)を知った棚島悟の妹や、綾野楓にちょっとした恨みを持つ職場の同僚、楓とネットでいざこざがあった男などが、綾野楓に対していたずらや嫌がらせをし、綾野楓はどんどん精神的に病んでいきます。最後に、自分の旦那だと思っていた棚島悟が、本当は妻子持ちだということを知り、崩壊してしまいます。

    そこに、綾野楓を14歳の時にレイプしたピアノ教師が現れ、精神を病んでいた綾野は、今までの嫌がらせはその教師のせいと勘違いし、殺されると思い、殺害してしまいます。

    つまり、最初に棚島悟が"綾野楓を殺した"と発言しているのは、精神的に殺したという意味でミスリードになっています。その裁判は、ピアノ教師を殺害した綾野楓の裁判でした。

    と、いろいろ省きましたが、簡単にいうとこのような話でした。

    率直な感想は、登場人物が好きになれず、共感もできないので、読後感はあまりよくなかったです。ただただ綾野楓が悲惨で壮絶な人生を歩んでおり、悲しくなります。

    棚島悟は理由はいろいろあれどゴミのような人間で、イライラしました。世間の目を気にして植物状態の妻と離婚せず、自分の癒しの場、逃げの場として、騙して愛人を作り、新しい結婚生活を送るなんて…。

    植物状態の正妻と同じ指輪を、不倫相手にも渡すのはさすがにね。

    「深雪(植物状態の妻)は自分の経験や感情を、棚島にも共有してもらいたがった。交際中はもっと自立した女だったのに、結婚、出産、そのたびにより依存的になっていくようだった。退屈なのはわからないでもないが、聞かされる話のほとんどが棚島にとってはどうでもよかった。生返事でやり過ごしているうちに、深雪の口数はだんだん減っていった。頬の薔薇色が消えかかっていることに気付いたのは、いつ頃だろう。」という場面が強烈すぎて。夫婦ってこうやってすれ違っていくんだろうな…と、こういう風に思っている男の人って多そうだな~…と恐ろしくなりました。

    最後に棚島の親友の"利一"の視点で物語が終わります。利一は、植物状態になってしまった棚島の妻にずっと恋をしていて、だから棚島が浮気をしていることが許せず、楓に本当のことをばらそうと試行錯誤していました。

    利一の「自分の中の化け物がしでかしたしでかしたことを思えば~」という文がありますが、これはどういう意味なのかがわからず、すっきりしません。利一がしたことといえば、親友の嫁に恋をしたこと(しかも自分の胸に秘め、隠し通していた)と、棚島悟が既婚者だということを楓に伝えたこと、だけですよね。それって、普通の人間なら当たり前のことだと思うんです。

    以上、なんだか男女って、人間って怖いなあと思うお話でした。楓と美空が幸せになりますように。

著者プロフィール

(ふるた・てん)プロット担当の萩野瑛(はぎの・えい)と執筆担当の鮎川颯(あゆかわ・そう)による作家ユニット。少女小説作家として活躍後、「女王はかえらない」で第13回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、同名義でのデビューを果たす。「小説 野性時代」掲載の「偽りの春」で第71回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。同作を収録した短編集『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』を2019年に刊行した。他の著書に『匿名交叉』(文庫化に際して『彼女は戻らない』に改題)『すみれ屋敷の罪人』がある。

「2021年 『朝と夕の犯罪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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