新書版 黒船前夜 (新書y 330)

著者 :
  • 洋泉社
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本棚登録 : 60
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800317469

作品紹介・あらすじ

ロシア・日本・アイヌの三者の関係をとおして、異文化との接触で生じる食い違いなどエピソードに満ちた、北方におけるセカンド・コンタクトの開始を世界史的視点でとらえた名著待望の新書版。

感想・レビュー・書評

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  • 蝦夷・樺太・千島列島いずれもロシア領でも日本領でもなかった頃からの歴史。アイヌ・日本人・ロシア人それぞれの動きと接触、結果や影響を追う。ふんだんに史料を用いて根拠を示すので安心して読める。しかし、読みやすいうえ面白さは小説級。
    こうした歴史ではアイヌのことが少ししか書かれないことが多いが、本書では3主役の1として扱われている。いろいろと面白く勉強になった。

  • むちゃくちゃ面白かった。これぞ歴史!

    ペリー来航の遥か1世紀前の江戸時代の鎖国日本と極東に進出しつつあったロシア、そしてアイヌ。
    民衆レベルで起こっていた繋がりが国の思惑に呑まれていく。

    そして日露通商を結ばなかったに江戸幕府が失ったものとは。

  • 【黒船前夜】 渡辺京二 著

    いつか読もうと積んであったのですが、「熱源」(川越宗一 著)でアイヌに触れ、ようやく「黒船前夜」を読了しました。元・上司が函館出身で、以前、熱烈に薦めてくれた本です。

    日本からの視点だけではなく、ロシア側の動きや視点も書かれていて興味深いです。ロシアは、オビ河にあるトボリスクからシベリアを開拓し、オホーツク海に至るまでわずか60年。その後、日本は、ペリー来航までにロシアから何度も接触を受け、日露同盟の一歩手前まで行っていたとは知りませんでした。また、当時の日本人は、海外事情にかなり精通していたこともわかります。

    最終章の「第十章 ゴローヴニンの幽囚」は圧巻で、日本とロシアの交渉経緯を詳述し、当時の日本人が儒教的素養を身につけ、気概を持つつつも、懐深く親切に、また時にはユーモアに富んで応対したことなどが書かれています。

    地図が随所に挿入されているものの、ロシアの地名や氏名は覚えるのが大変で、一覧できる地図や人名一覧があれば尚よしです。それにしても、これを上梓したのが著者79歳とは驚くばかりです。著者の誠実さがにじみ出るような丹念な調査・記述に敬意を表したくなる一冊です。

  • 川上宗一「熱源」つながりで。ロシア・アイヌ・日本の三国志とあるが、そこまでは言いすぎかな、と。/シャクシャインの戦いも、クナシリ・メナシの戦いも、前者は鎮圧に向かった松前藩兵600の少なさにシャクシャインのアイヌ民族全体のなかでの孤立を見、後者も、一部のものたちの誤認からの私怨が発端で、全和人、全場所請負商人の非道に対する全アイヌの蜂起とはとてもいえない、という研究があるとのこと。注にある岩崎奈緒子「日本近世のアイヌ社会」(校倉書房,1998)を読むとそのへんはもっと深堀りできるのではないかと思った。クナシリ・メナシの年にも、菅江真澄がアイヌと和人が平和に共存する様を著していたこと。現代の観点からすると松前藩のアイヌ不干渉政策が、アイヌの自立した社会を温存した点で評価に値すること。日本人は海浜についてもアイヌの領域用益権利を無視できなかったこと。などなど、悪逆な松前藩、一方的に虐げられたアイヌというステレオタイプの像を覆してくれる知見も興味深く。/もう一つの大きな論点は、歴史のifとなるけれど、18世紀後半のレザーノフ来航の際に幕府が開国していれば、のちの攘夷論などに惑わされず、幕府主導の開国という歴史もあったのではないかということ。/荒尾但馬守ら幕臣は儒学で培われた普遍主義的感覚のゆえに、また奉行所の下吏や民衆は共同体的な人情のせいで、ゴローヴニンらとの間に人間的共感の橋を架け渡すことができた。だが常陸国筑波郡の農民の子として育ち、強烈な上昇志向に促されて北方問題のスペシャリストとなった林蔵は、過激なナショナリストたることに自己の存在証明を求めるほかなかった。近代ナショナリズムはつねに、貴族と民衆の中間に位置する新興知識分子の属性である。(p.416)

  • 金カム以前の日露アイヌの関係がよくわかってめちゃめちゃ面白い。小説ではなく、膨大な資料から丹念に歴史を紐解いていて、読んでいてワクワクする。

  • 「黒船」という語は、「遠い外国からやって来た可能性も認められる見慣れない大きな船」という一般名詞的な使い方をされていた用語であるようだが、現在では「幕末期に国交を開き、交易を行うための条約締結を目指して来航した外国艦船」という特定された意味、更に「国の体制や社会情勢を揺るがす外からの衝撃」という比喩的な意味も帯びているかもしれない。本書の『黒船前夜』という題名は、「幕末期に国交を開き、交易を行うための条約締結を目指して来航した外国艦船」という意味での「黒船」が「現れる以前?」という意味合いなのであろう。
    そして本書には『ロシア・アイヌ・日本の三国志』という副題も添えられた。「黒船」という話しの以前、現在の北海道や周辺の島々を舞台にロシア、アイヌ、日本の各々の人達の活動や交流が展開された経過が在って、18世紀末、19世紀初めには日ロ交流史上の幾つかの“事件”も発生している。本書が扱うのはそういう内容なのだ。
    ロシアはシベリアを東進し、清朝とぶつかり、他方でカムチャッカや周辺の島嶼、更にアラスカに進むのだが、そういう経過を本書は詳しく取り上げている。
    松前家は東北地方北部で蝦夷地との交易等に関わっていた人達の興亡の中から興って来た一族で、幕藩体制の中での“大名”となって行くが、やや変わった存在であった。そういう経過を本書では詳しく取り上げている。
    アイヌは、独自に色々な活動を展開し、やがて日本やロシアと出くわして係わりを持って行くことになるが、そういう経過を本書は詳しく取り上げている。
    本書の末尾の方は、ラクスマン来航、レザノフ来航、フヴォストフが引き起こした波紋、ゴロヴニーンの一件や高田屋嘉兵衛の活躍と非常に劇的な事柄を詳しく取り上げている。
    本書は然程顧みられていないかもしれない「(日本の)北方史」とでも呼ぶべきモノの、絶好の入門書であると思う。北海道に在って、または北海道を訪ねるに際して「あの地域の昔のこと?」とでも思えば、本書を読むべきだ。また、近年は「日ロ交流」に光を当てようとしている動きも在るような感だが、そういう中で「両国の交流の経過?」とでも思えば本書を紐解くべきだ。日本の漂着民が迎えられてというような話し等、古くからの交流(?)という経過が詳しい。
    書店で視掛けた時、「必読!!」と感じて入手した。そしてゆっくりと紐解き、読了に至ったのだが…「必読!!」と感じたとおりで、興味深い内容であった。広く薦めたい!!

  • 『逝きし世の面影』の続編として刊行された本書。
    以前から読みたかった。
    図書館に新書版として、昨年末に入ったので、
    期待して読んだ。
    千島、カムチャッカ、サハリン、西蝦夷と東蝦夷
    アイヌと松前藩、そして幕府。
    平和の世を平和に解決したい幕府と、
    ロシアとの交易を考える官僚。
    日本という国、日本人そしてアイヌへの渡辺京二の愛があふれている。
    吉村昭を超えた作品だと思う。

  • 有り S210/ワ/19 棚:13

  • 2019/11/16読了。

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著者プロフィール

1930年、京都市生まれ。
日本近代史家。2022年12月25日逝去。
主な著書『北一輝』(毎日出版文化賞、朝日新聞社)、『評伝宮崎滔天』(書肆心水)、『神風連とその時代』『なぜいま人類史か』『日本近世の起源』(以上、洋泉社)、『逝きし世の面影』(和辻哲郎文化賞、平凡社)、『新編・荒野に立つ虹』『近代をどう超えるか』『もうひとつのこの世―石牟礼道子の宇宙』『預言の哀しみ―石牟礼道子の宇宙Ⅱ』『死民と日常―私の水俣病闘争』『万象の訪れ―わが思索』『幻のえにし―渡辺京二発言集』『肩書のない人生―渡辺京二発言集2』『〈新装版〉黒船前夜―ロシア・アイヌ・日本の三国志』(大佛次郎賞) 『渡辺京二×武田修志・博幸往復書簡集1998~2022』(以上、弦書房)、『維新の夢』『民衆という幻像』(以上、ちくま学芸文庫)、『細部にやどる夢―私と西洋文学』(石風社)、『幻影の明治―名もなき人びとの肖像』(平凡社)、『バテレンの世紀』(読売文学賞、新潮社)、『原発とジャングル』(晶文社)、『夢ひらく彼方へ ファンタジーの周辺』上・下(亜紀書房)など。

「2024年 『小さきものの近代 〔第2巻〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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