ホワイト・ノイズ (フィクションの楽しみ)

  • 水声社
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (337ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784801006812

作品紹介・あらすじ

知れば知るほど、死は育っていく。

甚大な空中汚染事故、消費社会の猛威、情報メディアの氾濫、オカルトの蔓延、謎の新薬〈ダイラー〉の魔手、いびつな家族関係、愛の失墜、そして、来るべき《死》に対する底なしの恐怖……。
日常を引き裂くこの混沌を、不安を、哀切を、はたして人々は乗り越えられるのか?
現代アメリカ文学の鬼才ドン・デリーロの代表作にして問題作、そして今なお人間の実存を穿つポストモダン文学随一の傑作が、より深く胸を打つ魅力的な〈新訳〉として装いも新たに登場!

ついに映画化!!
2022年12月、全国劇場&Netflixにて公開!
監督:ノア・バームバック/主演:アダム・ドライバー

感想・レビュー・書評

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  • 先月オハイオ州で起きた列車事故のモデル? って言われる映画の原作ってことで借りてきました。40年前の小説なんですが新訳が去年の12月に出ていて綺麗な本で良かった。

    その問題(?)の列車事故場面ですが、これがなかなか出て来ない! 2章からなんですね。まず1章は100ページくらい風変わりな家族のお話を読まされる。主人公がドイツ語の分からないヒトラー学の権威ある大学教授って?

    で、2章。それは不意にきます。ヒトラー学者の息子ちゃんが窓から双眼鏡で操車場を見ている。「なんか事故が起きたみたい」に「問題ない」とヒトラー学者。ヘリコプターが出動しても、サイレンが鳴り響いても、有毒ガスの流出がわかり避難の町内放送に対しても「問題ない」ときっぱり。そしてテレビでの臨時ニュースが流れパニックになる家族をなだめるようにいう。

    「私は大学教授だ。テレビのなかの洪水の映像で、自宅の前の道路に浮かべたボートを漕いでいる大学教授なんて見たことがあるか?」

    災害に遭うのは決まって貧困者だというんですね。そのヒトラー学者ったらあっさり有毒ガスを浴びてさぁどうする? っていうのが本題なのですが、もうここまでで私はお腹いっぱい。

    オハイオの小さな街をアウシュヴィッツのガス室に見立てると自らそのなかに進んでいくドイツ語を解さないヒトラー学者ってなに? 我々は歴史からなにを学ぶの? という感じよね。だからこの表紙がシュールな観覧車!

    これって本当に40年前の小説? いやいや翻訳の都甲さんも書いてますが「コロナ禍」「ロシア禍」を経た翻訳であり、まったく今の小説なんですね。つまりは知的エリートとされる『専門家』の正体を暴く預言の書なんです。思えば「大学教授」に振り回される3年間でした。気づいたらあらぬ場所に連れてこられていたという。まぁそういうシナリオだったのでしょう。

    最後の最後、主人公は「宗教」にすがるのですが、それがまぁなんといいますか、40年前の小説なのでポストモダンといいますか、見事に「ハズし」てくれるんです、はい、最高(?)の結末が待っています。

    にしてもリアル・オハイオのその後ってどうなってるんだろう? 隣の州で謎の灰が降り積もったというニュースもありましたが……。

    ブクログさん表紙ないんかい!

  • 死の恐怖。それ以外にどんな帰結があるのか。知覚できるあらゆるものが私の死と繋がっている。死の恐怖自体が私の死を育て、死をより恐怖すべきものたらしめる。家にいると電子機器の音が聴こえてくる。食品のパッケージにびっしりと記載されている化学物質が、目に見えなくてもリアルにそこにあるように感じられる。デマやフェイクニュースに我々が求めているのは真実性の復帰ではなく、畏怖を伴うほどの強い刺激だ。まるで狂ってるみたいにネットで喚き散らす人間。その隣りの投稿には死ぬ人間。人を殺しかねない激しい衝動。通りがかりの妊婦を殴る人間。良い効果があるらしい薬も我々にとってその物質が作用するメカニズムは正体不明。RNAワクチンは安全だが短期間で打ち過ぎない方がいいとはどういう意味なのか。まともに読まれないあらゆる注意書き。安全な範囲らしい放射能流出。ハザードマップ上危険かもしれないエリアにある家。30年以内にほとんど必ず起こるらしい地震。いつ大噴火してもおかしくない山。備蓄の量はどれだけあれば安心なのか。いっそ何の準備もしないで忘れていることが安心の正体なのか。スマホのアラートが鳴ったらどう行動すればいい。うまく行動すればミサイルは避けられるのか。核戦争のシミュレーションと核の冬による餓死人口。低く見える食料自給率に問題ないという人間。ウクライナで殺し合う映像。戦争の情報を楽しむ軍事オタク。新興宗教と共存する生活。新興宗教が引き起こす殺人。何をどう言い訳すれば死の恐怖がないといえるのか。それ以外のことを考えることなど本来できるはずもないのではないか。

  • 年末から読み始めて、2023年読了1冊目。

    印象的なフレーズや会話が多く、特に第一部は物語がなかなか進まないように感じつつもページをめくる手を止めずに済んだ。



    「大部分の人々にとって、世界には二つの場所しかない。住んでいるところかテレビの中だけだ。テレビのなかで何かが起こっていれば、それが何であれ魅力的に思うのは当たり前だよ」


    1985年の作品だけれど昨年書かれていてもおかしくないと思った。

    話の本筋については、自分は読み切れていない部分が多々あるようで残念だ。文学の読み解き方についてきちんと勉強したことがないからなのかもしれない。

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著者プロフィール

1936年、ニューヨークに生まれる。アメリカ合衆国を代表する小説家、劇作家の一人。1971年、『アメリカーナ』で小説家デビュー。代表作に、本書『ホワイトノイズ』(1985年)の他、『リブラ――時の秤』(1988年/邦訳=文藝春秋、1991年)、『マオⅡ』(1991年/邦訳=本の友社、2000年)、『アンダーワールド』(1997年/邦訳=新潮社、2002年)、『堕ちてゆく男』(2007年/邦訳=新潮社、2009年)、『ポイント・オメガ』(2010年/邦訳=水声社、2019年)、『ゼロ・K』(2016年)、『沈黙』(2020年/邦訳=水声社、2021年)などがある。

「2022年 『ホワイト・ノイズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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