- Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784818528406
作品紹介・あらすじ
グローバリゼーションは決して新しい現象でもなければ西洋的価値の普遍化でもないことを明らかにし、グローバリゼーションがもたらす果実と潜在機会のより公正で平等な分配による、弱者の生存と尊厳を守る「人間の安全保障」(ヒューマン・セキュリティー)概念を分かりやすく説く。グローバリゼーションによって地上の人々の格差が拡大するのを防ぎ、あらゆる人々の基本的自由と地球公共財の拡大が期待できる社会システムと国際秩序の構築が急務であることを、世界の知性と良心が冷静に訴える。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
貧困と開発の経済学的分析、グローバリゼーションの人類史の中への位置づけ、サミュエル・ハンチントン氏の『文明の衝突』への徹底した反駁。これらアマルティア・セン氏の思考の入門的位置づけとして、本書はもっとも良い書籍だと思います。過去に何回かセン氏が登壇されたシンポジウムには参加したことがありますが、世界への認識の広さと人種や国籍、民族にしばられない「人間」という私たちの共通項から何事をも出発させていく姿勢には聴くものを勇気でみなぎらせる力さえあるように思えるのです。
特にこの本で印象的なのは、ハンチントン氏の『文明の衝突』のメディアの取り上げられ方が9/11のショックとリンクしてゆがめられてイメージが広がったことに対する危機感を基にして、セン氏が文明の多様性を自身の分析と来歴に裏打ちされたゆるぎない批判精神が展開されている第三章でした。特にハンチントン氏が宗教を基に世界を8つの地域に分割した上でその境界線をフォルト・ラインと呼んで対立が紛争として具現化することを論じました。
一方でこのセン氏が、この宗教に過剰に焦点を当てているハンチントン氏の分析姿勢への批判が強烈です。数千年かけて人類は地域間で交換しながら文明をハイブリッドさせてきたものであること。この文明間の交流を通じた文化の借用の積み重ねによって現代における各文明には共通点が見られることから、人類が対立を克服できる可能性とそれを信じて行動し続けることの大切さを語ります。
この本は、日本経済新聞に書評が掲載されていたものです。著者が貧困を経済学的分析からその原因が構造的でしかも理論を用いて解説したことをでノーベル経済学賞を受賞して世界的に注目を浴びた時の日本での講演録が中心ですので、新しいものではありません。しかしながら、今でも読めば新鮮さと新たな気付きがあると思わされるのは著者の発見がどれだけ本質的で、本質が明かされながら解決することの出来ない難しさを再認識できることにあるのだと思えるのです。
わずか160ページほどの本なのでもう少しお手頃な価格でも良いのでは?と思いますが再確認をする意味でもこうしたいろはの「い」に位置する書籍を久しぶりに手に取って充実したあっという間の読書を楽しめました。やっぱりこういう分野を考えるのは性に合ってるのかもしれません。