グローバリゼーションと人間の安全保障

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784818528406

作品紹介・あらすじ

グローバリゼーションは決して新しい現象でもなければ西洋的価値の普遍化でもないことを明らかにし、グローバリゼーションがもたらす果実と潜在機会のより公正で平等な分配による、弱者の生存と尊厳を守る「人間の安全保障」(ヒューマン・セキュリティー)概念を分かりやすく説く。グローバリゼーションによって地上の人々の格差が拡大するのを防ぎ、あらゆる人々の基本的自由と地球公共財の拡大が期待できる社会システムと国際秩序の構築が急務であることを、世界の知性と良心が冷静に訴える。

感想・レビュー・書評

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  • 第13回石坂記念講演「グローバリゼーションと人間の安全保障」Globalization and Human Securities(2002)を柱とし、これに日本における他の講演と『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』誌に発表された論文「東洋と西洋―論理のたどり着くところ」East and West: The Reach of Reasonを加え、さらに全体について山脇直司・東京大学教授(哲学思想史)による「解題」を付して一冊にまとめたものである。

    全般的に、論点は、前作と変わらない。
    グローバリゼーションそのものを否定すべきではなく(グローバリゼーションは「西洋化」でもない。)、グローバリゼーションの結果、現在の制度の欠陥によってもたらされている不平等を如何に是正していくべきかを考えるべきである、と。
    また、彼の気にしている点は、「貧困国の輸出を抑制する結果をもたらしている非効率で不公平な貿易規制」だったり、「エイズなどのような感染症の治療に欠かせない医薬品の使用を制限している特許法」だったり。このあたりも前作と同じ。あとは、「貧困層の惨めな状態をつくり出し、貧困を恒久化する原因となっているもう一つの既存グローバル・システムの問題は、大国によるグローバル規模での武器輸出です。」

    そして、文明の衝突 への反論。文明によって衝突しているのではないばかりか、文明によって衝突しているか否か、の問い自体が危険なものであり、人類はそんな風に「分類」できるものではない。→特定の分類をすること自体が紛争を招く。「世界の調和にむけた最も大きな希望は、たった一つの排他的な分割の境界線が作り出す明確な区分とは反対に、互いに越境するわれわれのアイデンティティーの複数性にあると論じたいのです。」p. 75 人間はとにかく多様なものである、と。

  • 貧困と開発の経済学的分析、グローバリゼーションの人類史の中への位置づけ、サミュエル・ハンチントン氏の『文明の衝突』への徹底した反駁。これらアマルティア・セン氏の思考の入門的位置づけとして、本書はもっとも良い書籍だと思います。過去に何回かセン氏が登壇されたシンポジウムには参加したことがありますが、世界への認識の広さと人種や国籍、民族にしばられない「人間」という私たちの共通項から何事をも出発させていく姿勢には聴くものを勇気でみなぎらせる力さえあるように思えるのです。

    特にこの本で印象的なのは、ハンチントン氏の『文明の衝突』のメディアの取り上げられ方が9/11のショックとリンクしてゆがめられてイメージが広がったことに対する危機感を基にして、セン氏が文明の多様性を自身の分析と来歴に裏打ちされたゆるぎない批判精神が展開されている第三章でした。特にハンチントン氏が宗教を基に世界を8つの地域に分割した上でその境界線をフォルト・ラインと呼んで対立が紛争として具現化することを論じました。

    一方でこのセン氏が、この宗教に過剰に焦点を当てているハンチントン氏の分析姿勢への批判が強烈です。数千年かけて人類は地域間で交換しながら文明をハイブリッドさせてきたものであること。この文明間の交流を通じた文化の借用の積み重ねによって現代における各文明には共通点が見られることから、人類が対立を克服できる可能性とそれを信じて行動し続けることの大切さを語ります。

    この本は、日本経済新聞に書評が掲載されていたものです。著者が貧困を経済学的分析からその原因が構造的でしかも理論を用いて解説したことをでノーベル経済学賞を受賞して世界的に注目を浴びた時の日本での講演録が中心ですので、新しいものではありません。しかしながら、今でも読めば新鮮さと新たな気付きがあると思わされるのは著者の発見がどれだけ本質的で、本質が明かされながら解決することの出来ない難しさを再認識できることにあるのだと思えるのです。

    わずか160ページほどの本なのでもう少しお手頃な価格でも良いのでは?と思いますが再確認をする意味でもこうしたいろはの「い」に位置する書籍を久しぶりに手に取って充実したあっという間の読書を楽しめました。やっぱりこういう分野を考えるのは性に合ってるのかもしれません。

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著者プロフィール

1933年、インドのベンガル州シャンティニケタンに生まれる。カルカッタのプレジデンシー・カレッジからケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに進み、1959年に経済学博士号を取得。デリー・スクール・オブ・エコノミクス、オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、ハーバード大学などで教鞭をとり、1998年から2004年にかけて、トリニティ・カレッジの学寮長を務める。1998年には、厚生経済学と社会的選択の理論への多大な貢献によってノーベル経済学賞を受賞。2004年以降、ハーバード大学教授。主な邦訳書に、『福祉の経済学』(岩波書店、1988年)、『貧困と飢饉』(岩波書店、2000年)、『不平等の経済学』(東洋経済新報社、2000年)、『議論好きなインド人』(明石書店、2008年)、『正義のアイデア』(明石書店、2011年)、『アイデンティティと暴力』(勁草書房、2011年)などがある。

「2015年 『開発なき成長の限界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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