福祉を変える経営~障害者の月給1万円からの脱出

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822243647

作品紹介・あらすじ

お役所任せじゃ、もうダメだ。障害者も、自分で稼いで社会に出よう!「クロネコヤマトの宅急便」の生みの親が挑むほんとうのノーマライゼーションの道。

感想・レビュー・書評

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  • この書籍の著者は小倉昌男さんといい、戦う経営者として有名なのだ。

    彼を(間接的だが)知らない日本人はいないだろう。そう、小倉昌男さんは宅急便の生みの親である。

    もともとヤマト運輸はそごう百貨店の下請けをやっていた。あんまりにもそごうの要求がキツイので、原価計算してみると宅急便事業を起こした方が儲かると分かり、宅急便事業を日本で初めて軌道に乗せたという天才経営者なのである。

    その小倉さん、ある日ヤマト運輸の取締役に「小倉会長、もう経営の一線からはお引きください。役員一同あなたのことが邪魔で、邪魔で仕方がないんです」と言われ、ヤマト運輸の経営の一線から退いた。

    その後、自身が持ってたヤマト運輸の株式(小倉さんはオーナー経営者)、とヤマト運輸からの出資で何かやろう!と考えていたところ、ふと障がい者の現状にたいそう立腹したのだ。

    なぜなら、障がい者の月収は一万円程度、いわゆる共同作業所に障がい者を集めて、ロクに市場価値もないものを専ら製造していたのを垣間見たからである。

    小倉さんは、それを目の当たりとして「許せない!」と激怒されたそうだ。これはそごうの庇護から離れるときにも同じ感情を抱いていたのだ。

    彼は「障がい者の自立」という概念を考えた。それは簡単に言うと、働いて、収入を得て生活することである、と定義づけた。

    そこで、どうすれば障がい者が自立できるだろうかを考えた時、障がい者に「市場価値の高いもの」を製造させることで実現できるのでは?と思いついたのである。

    小倉さんは、「市場価値のあるもの=毎日必要とするもの」とまず考え、パン屋さんを障がい者が健常者のヘルプの下、事業としたらいいのではないか?と思われたそうだ。

    そこで、天才経営者の小倉さん、障がい者でも美味しいパンを作れる方法として、広島のパン製造・販売の大手タカギベーカーリーの高木社長に同社の冷凍パン生地の提供を受け、それをパン屋さんで焼くだけという、パン作りの素人で美味くパンを作れる方法によって解決。

    またパン屋さんの経営テクニックも考えた。まず、パンの製造過程を顧客に見てもらい、陳列方法も「作り立て」にこだわり、ビニール袋に入れずにトレイにそのまま置くといった方法で、「売れるパン」の作り方を考えた。

    また、一部の店舗では喫茶店も併設。ここでもこだわりを見せ、圧倒的な同業他社であるスターバックスに負けないように、航空便でシアトルからコーヒー豆を輸入した。(スターバックスは船便)

    この方法で、知的障がい者が健常者のサポートの下、一店舗当たり日収20万円・一日当たり顧客数400人という大成功を収めたのである。

    この店舗の称号は「スワンベーカリー」といい、そこで働く障がい者は月収10万円以上収入を得ているそうだ。月収10万円プラス障害者年金で6万円強、障がい者は十分自立できるようになったのだ。

    このような障がい者には、私生活でも張りが出てきた。まずはピアノ教室に通ったり、空手道場に通ったり、自分自身に自信がついてきたそうである。

    ところがまだまだ難題はある。パン屋さんは田舎ではなかなかペイしない。そこで目をつけたのが、「木炭事業」。木炭のプロフェッショナルに指導を仰ぎ、田舎で樹木を伐採し、木炭にするといった事業を考案したのだ。

    木炭は実はかなりの需要のある商品で、一流高級ステーキ屋・焼き鳥屋・うなぎ屋、バーベキューに必須のものである。なぜなら、ガスは水分を含んでおり、その上事故防止のため臭いがつけられており、焼き魚とかの調理に向かない。

    そんな時、木炭を使うと焼き魚などはパリッと仕上がるし、電気調理器と比べても火力が高く、非常に魅力ある消費財である。

    これをまずは九州は福岡県嘉穂郡頴田町で重度の自閉症の障がい者が入所する「カリスタの家」という厚生施設で、清水建設の請負の下かまどを作り、全国で展開した。

    このように、名経営者である小倉さんは、数々の障がい者事業を軌道に乗せ(詳しくは本書を)、障がい者のノーマライゼーションに尽力されたのである。

    小倉さんが一番本書で言いたいのは、障がい者が十分自立するための賃金を得て、地域社会と共存できるようにしたいということだ。

    本書を読んで、障がい者の皆さん、及び近親者の方々ぜひ小倉さん(故人)の事業に参加して欲しい。以上私からのお願い。

  • 良書。

    福祉関係者、福祉に興味ある人ならばぜひ読んでもらいたい一冊である。

    そういった方には、少し耳の痛い話が随所に出てくるかもしれないが、

    僕自身思い当たる所があるだけにぜひ読んでもらいたい。

    重要な部分が何度も繰り返し書いてあるので、きっちり頭に入り、また読みやすい。

    ただ、小倉昌男氏自身にかなりの資金力があったからこそ、このような事が出来たのだろうとは思う。

  • 【ノーマライゼーション】

     本書の著者、小倉昌男さんのことを知っていますか? 彼の父は大和運輸(現ヤマト運輸)を創業した人である。そのヤマト運輸の経営に危機が訪れた時に、宅急便の案を取り上げた。その宅急便こそが、誰もが知る「クロネコヤマトの宅急便」であり、彼はその生みの親である。ヤマト運輸では会長を務めていたようだが、その後、ヤマト福祉財団の理事長となっている。
     ヤマト福祉財団とは、障害者の援助を行う財団である。皆さんは、障害者の自立とは何だと思いますか?これが、この財団を設立した一つの課題である。障害者の方は、家族が面倒をみていることが多い。自立させたいと思ってはいても、心配でなかなか自立させることができない親御さんが多いのではないか。私も街で、両親と買い物をしたり、散歩をしたりしている障害者を見かけることがある。家族がついていれば安心だし、何かあってもすぐに対応することができる。だが、それでは自立とはかけ離れてしまう。
    そこで、障害者のための「共同作業所」という就労施設がある。それは、障害を持った子供たちに、実際に職業を教えて、お金を稼いでいるものだ。それは、自立に繋がる第一歩のように感じる。だが、その作業所では障害を持った人たちに、毎日朝から晩まで働いたとしても「月給一万円」しか払っていないという。それに対し、著者は「経営する概念」が欠けていると述べている。「経営」と聞くと、企業が必要とするものと捉える人が多いのではないか。私もそのように捉える。だが、それは障害者のための共同作業所にも必要だという。そのように著者が考えるのは、自分がヤマト運輸で経験した「経営」の苦労があったからである。
    だが、日本では「ノーマライゼーション」とは遠いものとなっている。社会では、障害者に対する差別があり、外に出ることができない人もいたという。今では、バリアフリーというものがあり、障害のある人でも暮らしやすいような工夫がされているのを見る。私は、障害者が自立するのには、差別をなくし、満足してもらうことが「ノーマライゼーション」につながるものだと考える。
    著者は、自分だけではなく、相手の立場を考えて、挑戦してみる。その熱意があったからこそ、行動に移すことができたのである。本書は、あとがきで著者も述べていたが、障害福祉の関係者の方はぜひ読んでもらいたい。また、経営について興味がある者も一度読んでもらいたい本である。

  • 障害者の月給1万円からの脱出、その一番良い方法は?
    まず給与を一定金額渡す、それからその金額を払うにはどうする事が必要かを考える。
    この考えは我々が仕事をしていく上でとても重要な考え方だと思う。つまり、まずあるべき姿があり、それに向かって行動をする。我々の仕事に関していえば、大事な事はそのあるべき姿の確立だ。

  • 副題は『障害者の月給1万円からの脱出』。ヤマト運輸の経営者として、かつて宅急便で物流業界に革命を起こした小倉昌男氏が、障害者の方々が置かれた状況を変えるべく、考え実行した内容が綴られている。福祉にとどまらず、企業のあり方についても考えさせられる1冊である。

    第1章 障害者の自立を目指そう!私の福祉革命
    第2章 福祉を変える経済学
    第3章 福祉を変える経営学
    第4章 先進共同作業所の経営に学ぼう

  • 369.27

  • クロネコヤマトの会長が引退後障害者福祉財団で取り組んでいる話。
    おしぼりのタオルはやくざが絡んでいることが多い。
    月給一万円で働かせているのは搾取。
    スワンベーカリーは冷凍生地を焼くのみ。

    給料は成果の対価という部分と反するのではないかと思った。

  • 重複が多いのが難点ですが、理念や主張が素晴らしい。

    宅急便でおなじみの小倉さんですが、
    今回は福祉の本ですね。

    まず、欠点は何度も同じ話が出てくること。
    内容がいいから我慢出来ますが、結構酷いレベルです。

    それは目をつぶるとして、理念と主張と行いは最高です。

    小倉さんレベルなら福祉施設に寄附して終了でもおかしくないのに、福祉施設に「お金を儲けろ!」というのが只者じゃない。

    ・いいものを作ることより、売ることが大事
    ・障害者の給料を一万円から三万円に上げるには、明日から払えばいい
    ・障害者だから月給一万円でもいいなんておかしい。お金を儲けることを考えろ

    つまり、つまらないものを作って、バザーで善意の人に買ってもらって、申し訳なく生きるのではなく、売れそうなものを作り、お金を稼ぎ、それを堂々と好きなことに使うのが真の障害者の幸せだろう、という主張です。

    この人は、みんなが見過ごしている本質を見抜く目を持っているのでしょうね。

    障害者だから可哀想、助けてあげようではなく、一般企業に就職させるのが真のノーマライゼーションってなかなか言えないと思う。

    理論や効率は追求しつつも、人の弱さや感情をないがしろにしない。
    まさに真の経営者の理想像を見た気がします。

    また、理想を語るのではなく、試して、失敗して、またチャレンジして、結果を出してと、実践している人だからこそ言葉にも重みがあり、心に響きます。

    重複が多いので買うのは薦めませんが、図書館で借りてでも一度に読むべき本です。

    学者や評論家のビジネス本より余程タメになります。

    かなりオススメです。

  • わたしの夢とミッションと作りたい世界がつながった!続きはスマノで。

  • 著者紹介はするまでもないと思いますが、ヤマト運輸の社長・会長を歴任された、故小倉昌男さんのご著書です。2003年10月が初版ですから、いまから11年前の本ということになります。

    ヤマト運輸の会長を退任後、ヤマト福祉財団を設立されました。そこで行われてきた、障害者就労施設の施設長や職員向け「経営パワーアップセミナー」の内容を中心にまとめられたご本です。

    <目次 >
    第1章 障害者の自立を目指そう!私の福祉革命
    第2章 福祉を変える経済学
    第3章 福祉を変える経営学
    第4章 先進共同作業所の経営に学ぼう

    福祉について書かれた本であると同時に、あるいはそれ以上に、「経営の入門書」と捉えたほうがいいと思います。
    http://amba.to/1oKTV6G

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