戦争の法

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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784835440644

感想・レビュー・書評

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  • 佐藤氏の小説手法を垣間見た上で実作を読んでみる。氏の小説は「バルタザールの遍歴」に次いでこれが2作目。思えば作家への興味の持ち方としては随分ひねた曲折を経たもんだ(作家が作家だけに…げふんげふん)。日本の一部が分離独立する話は、井上ひさしの「吉里吉里人」はじめいくつも書かれてきたけれど、本作は氏の出身地である新潟県(作中では「N***」と表記される)がソ連の後ろ盾を得て共産政権を樹立させる設定ながら、共産主義批判や社会風刺、死の淵に立つ恐怖など、有事小説に当然予想される要素は後方へ引き、主人公である14才の醒めた少年の目から見たつかみ所のない戦争の姿が現場主義的に描かれる。ストーリーそのものより描写の妙に重きを置く氏の作品らしく、14才という小生意気な自我をもてあました少年による一人称の語り(回想部分では20代だが)で描出される戦争は何とも間の抜けた喜劇の様相を呈する。理知と皮肉のちりばめられた理屈っぽい文章は決して嫌いではないが、それが小賢しい男子中学生というキャラクター以上にそれを書いている当の佐藤氏の女性性を炙り出している感が拭えず、主人公が少年である事を示されても尚しばらく鼻持ちならない“少女”であるような錯覚につきまとわれた。良くも悪くも佐藤亜紀という作家を存分に楽しめる小説だ。

  • 自分の愛し方でないなら、「では、だれの?」と考えて行きついた結論がいいな、と思ったのです。
    親友だったんだなーと思って。

  • N***県がソヴィエトの後ろ盾を得て、突如日本から分離独立。<br>
    14歳だった主人公は友人の千秋と成り行きから街を脱走し、ゲリラの一員となる。<br>
    教養があり、オペラが好きで、小説を愛し、不敗の「伍長」。<br>
    芸術的で「モーツァルト的」な狙撃の腕前の美少年・千秋。<br>
    戦争前はぐうたらでロクデナシだったが、闇屋で身を立てた父親。<br>

    戦後の主人公の回想の形で物語りは進むが、淡々と語られることによって小気味よさが増す。
    <br>イデオロギーの衝突で始まった、彼らのイデオロギーとは無縁の戦争。

    一見、「ヤバイ作品」と捉えられそうだが登場人物の誰一人をとっても魅力的。<br>
    似たもの同士でありながらビジネスライクな父子関係がいい。


  • 「悪童日記」を思い出させる本。
    佐藤亜紀さんは意外とファンが多いのですよね。ちょっと抜けた存在だと思います。

  • 結局の所、誰しも跛を引きながら歩くものなのだ。

  • 射撃の天才な友達が好きだった。
    文字通りものが戦争なだけに重いは重いんですが、静かに染み入るようなところがある作品です。

  • 話の大筋としては、日本国内の某県が独立を行ったが故に始まった戦争の話です。
    非常にドライに事象を綴ったようなタッチで物語が進んでいくのですが、その根底にあるのは世の中に対する中傷?違う、蔑すんだような目線。

    しかしながら自らが愚弄した馬鹿馬鹿しいとさえ感じる世の中のルール、奢り、そんなものに徐々に染まっていくその滑稽さ。

    誰も侮辱する事が出来ないと思う。
    少なくても似たように世の中の馬鹿馬鹿しさと言うものを感じた人はいると思うし、そして染まっていく自らを滑稽と感じた人もいると思う。

    それでも頑なに内に秘める高潔さ。

    まるで、読者を置いてけぼりにするかのような独走的な世界観は、かなり凄い。
    ただ、ちょっと読み疲れました。苦笑

  •  1975年日本海側のN県が突如独立を宣言したその中に翻弄された一人の少年の話だ。この主人公の「自伝」のような形態を取り、回顧録的な内容になっている。正直、読む前は悪い意味での「ファンタジー・SF」のような話だと思っていたが、その考えは見事に裏切られた。「戦争」「ゲリラ」というものを通じての人間模様、恋愛、友情、師弟愛を描いている。読み終わった後にこれほど充足感が溢れる作品があるだろうか。復刊のため在庫切れになる可能性もあるが、必読。

  • 伍長と皮肉屋の主人公と、そして彼。忘れられない。


  • 新潮社との確執で長らく絶版でしたが、やったぜ。

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著者プロフィール

1962年、新潟に生まれる。1991年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。2002年『天使』で芸術選奨新人賞を、2007年刊行『ミノタウロス』は吉川英治文学新人賞を受賞した。著書に『鏡の影』『モンティニーの狼男爵』『雲雀』『激しく、速やかな死』『醜聞の作法』『金の仔牛』『吸血鬼』などがある。

「2022年 『吸血鬼』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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