ソングライン

  • めるくまーる
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  • Amazon.co.jp ・本 (500ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784839700782

感想・レビュー・書評

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  •  オーストラリア全土に延びる迷路のような目に見えない道のことを知ったのは、アルカディが教師になってからのことだった。ヨーロッパ人はそれを“夢の道”あるいは“ソングライン”と呼んだ。あぼリジニにとって、それは“先祖の足跡”であり“法の道”であった。 7ページ

    「それはもしかして光のせいではないのですか?」私は言ってみた。「オーストラリアのまばゆさが、人々に暗闇を求めさせるのでは?」
    「アルクが言ってました。あなたはいろいろなことについて、ありとあらゆる種類の興味深い理論をおもちだと。」 81ページ

    白人は、と彼は口火を切った。アボリジニが放浪者であるがゆえに、彼らに土地を保有する制度はないと誤解した。これはまちがっている。アボリジニは境界で区切られたひと塊りのものとしてではなく、ラインあるいは“道”の複雑なネットワークとして領地をとらえた、というのが本当のところなのだ。 97ページ

     私は自分の人生の“旅”の季節が終わりつつあることを予感していた。定住生活の重苦しさが覆いかぶさってくる前に、これらのノートをもう一度開いてみなければ、と思っていた。私を楽しませ、あるいは私の心をとらえた思想の断片や引用文、人々との出会いなどを書きとめておかなければならなかった。それらが私にとってのもっとも重要な問い、人間のなかに潜む放浪性について、光を投じてくれるのではないかと思ったからだ。 276ページ

     アルカディは、こうした考えが「人間はやがて土地になり、その場所になり、先祖になる」というアボリジニの観念によく似ていると言った。
     一生をかけて自分の先祖のたどったソングラインを歩き、歌うことによって、人は最後にはその道となり、先祖となり、歌そのものとなったのである。 307ページ

     人生は橋である。その橋を渡れ、しかしその上に家を建ててはならぬ。
     インドのことわざ 310ページ

     そのとおりだった。彼らは申し分なかった。ユーカリの木陰で死に向かって微笑みながら、彼らは、自分がどこへ行こうとしているのかを知っていた。 491ページ(最後の1文)

    本書のなかで彼は問う。なぜ人は放浪するのか。なぜ所有を嫌うのか。なぜ故国を捨てるのか。あるいはまた、人はなぜ都市をつくり、定住するのか。なぜピラミッドのような巨大建築物をつくるのか。なぜ戦争するのか。 494ページ(解説文)

  •  なんでこの本を再読しようかと思ったかというと、
    『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』
    著者 : スザンヌ・シマード

    を読んで感動したからなのでした。
    この二つの本は、なにか根底に共通するものがある気がします。

     以前読んだ時より感動はさすがにできなかったけど、やっぱり面白いですね。
     オーストラリアのエアーズロックは、立ち入り禁止になったそうで。観光客としては残念だけど、現地の人々の文化を考えると、それでよかったのかなと思ってます。

  • 旅行作家、イギリス生まれのブルース・チャトウィン。
    彼は「人はなぜ度をするのか」という問いを追求しながら世界各地を歩き、48歳で亡くなった。
    ソングラインは、オーストラリアの先住民アボリジニが、「先祖の足跡」とも呼んでいる、迷路のようにのびる道筋のこと。アボリジニの人々は、その道々で出会ったあらゆるものの名前を歌いあげながら、自分たちの地図、世界観を作っていった。

  • 放浪するアボリジニが代々受け継ぐ歌の道〈ソングライン〉に惹かれ、オーストラリアを訪れたチャトウィン。先住民の土地に関する調査をしているアルカディに導かれ中央オーストラリアを行きながら、これまでの旅を通じて育んできた彼自身のノマド理論と人間の本能をめぐる問いにのめり込んでいく。砂漠に生きる人びとにシンパシーを抱き続けた冒険家の集大成的小説。


    『パタゴニア』との違いに驚いた。あのエネルギッシュで活動的なチャトウィンの姿はアルカディに乗り移ったようで、本書の後半では遊牧民の思想に深く入れ込みながら絶対的に同化できない彼のメランコリックな表情が前面にでてくる。最後のページに至って、彼は生涯に渡って「死に場所を知り、いよいよ死ぬというときにしっかりそこに辿り着ける生き方」に憧れていたのだということがわかる。
    チャトウィン自身の人懐っこさは鳴りを潜めているが、本書にもおかしな人はたくさんでてくる。聡明なアボリジニと滑稽な白人の対比が、ちょっとわざとらしく感じられるくらい。前半に登場する画商のレーシー夫人と後半にでてくるアボリジニ美術局のヒューストン夫人はかなりマンガっぽくて、きっとサザビーズ時代の経験も盛り込まれているのだろう。砂漠地帯で一人暮らしをしている老人ジム・ハンロンは、有害な男性性と共に孤独に老いてゆくマッドマックス世界のキャラクターのようだ。
    案内役のアルカディはコサック地方からの移民2世で、鉄道会社に雇われ、"伝統的な土地所有者"の先住民を訪ねる仕事をしている。上橋菜穂子『隣のアボリジニ』で読んだばかりだが、一旦は生来の土地と関係ない居留地に押し込めた先住民に"土地所有者"の証明を求めることをやったわけである。チャトウィンが出会ったのは上橋さんが親しくなったアボリジニの親・祖父母世代かな。
    オーストラリア先住民は、生涯のどこかで一族の先祖にあたる〈夢〉(トーテム)の足跡を辿るため、放浪の旅にでるという。歌の道〈ソングライン〉とは、普段の居住地から遠く離れた場所に共同体が受け継いできた山や岩があることを示す、道しるべのようなもの。西洋とは異なるアボリジニの"土地所有"のあり方に感じ入ったチャトウィンは、それまでの旅で培った見識と豊かな教養でパンパンに膨らんだ何冊ものノートを通し、人類の根源的な欲求とは〈闘争〉ではなく〈放浪〉なのではないかと問いかける。
    訳者の芹沢さんが「彼はつねに好奇心旺盛な旅人であり、傍観者だった」「そういう意味で私は、彼はまさしく旅するイギリス人だったと思うのである」と書いている通り、チャトウィンの本は白人男性が書いた本だし白人男性の生き方だと思う。彼の旅と遊牧民の生き方は全く違う。もちろんチャトウィンはそこに自覚的な書き手だけれども。
    本書でチャトウィンが描きだした〈ソングライン〉がどのくらい芯を食っているのか、アボリジニにまだまだ無知な私にはわからない。彼が「世界をめぐる道を見つけ出すためのメモリーバンク」を持つ人びとに憧れ続けたのはたしかだったのだろう。本書を読んで、チャトウィンって私のイメージよりずっとブッキッシュな人だったんだなと思った。『パタゴニア』も大量の引用からなるコラージュ小説だが、『ソングライン』の〈ノート〉はそれ以上に剥きだしの〈読み、書く人〉チャトウィンが表現されている。歌の道の終着地で死を待つ先住民の姿を描いたラストシーン含め、はじめて澁澤の『高丘親王航海記』を読んだときのような余韻を残す一冊だった。

  • とてもおもしろかった。知らないことを知るおもしろさ。
    小説風な部分より後半の思考メモ的な部分が良い。

    なるほどなぁとひたすら感心するし、知識も増える。

    物知りな恋人の話を楽しく聞いている気分になった。

  • オーストラリアに広がる、祖先の生きた“夢の時代”を歌った先住民族の歌。
    それは今も残る大地を歌った歌。

    その歌に引き付けられるようにチャトウィンはオーストラリアに足を踏み入れる。

    彼の手帳モレスキンから、オーストラリアから、この本から、“放浪すること”が浮かび上がる。

  • アボリジニの人々はヨーロッパ人たちがオーストラリアに住みつくずっと前に住んでいた。彼らは歌を持ってして、彼らの世界を構築する。

    ストロースは世界のどこの人々には、似たような神話構造があるとのべていたが、チャトウィンはアボリジニの神話構造(ソングライン)をおってゆく。

    彼らの内部世界をみるのも面白いが、ほかに関連する白人とその関係もおもしろい。

  • 2009/9/28購入
    2018/3/18読了

  • 未読

  • 生きること=旅=物語(フィクション/ノンフィクションの枠を超えた)になっていく。それにしてもソングラインってすごくよい言葉だよね。

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著者プロフィール

1940年イングランド生まれ。美術品鑑定や記者として働いたのち、77年本書を発表し、20世紀後半の新しい紀行文として高い評価を得る。ほかに『ソングライン』『ウィダの総督』『ウッツ男爵』など。

「2017年 『パタゴニア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ブルース・チャトウィンの作品

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