- Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
- / ISBN・EAN: 9784861827709
感想・レビュー・書評
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出てくる人出てくる人、謎だらけ。ずーっとモヤモヤが続く。
過去を振り返って述懐というのが、クックみたいだなあと思いながら読んだ前半。そして少しずつ謎がほどけていく後半。
美しい表現。
謎がほどけてもモヤモヤが完全に晴れるわけではないが、それこそが人生なのかも、と。
余韻が残る。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
まだ空襲の跡も生々しい終戦直後のロンドン。両親が14歳の<僕>と16歳の姉を置いて姿を消し、代わって風変りな大人たちが後見人となった。彼らのもとで<僕>たちは未知の世界に触れる……。母を始め、戦後の余波の中で多くを語らないまま去っていった人々の空白と欠落を埋めようとするかのように、<僕>は事実と空想を交えて回想する。はじめのほうこそ過去の出来事を思いつくまま並べているようにも見えるのだが、中盤から小さな記憶や語られなかった秘密が呼応して立ち上がってきて、何度も胸を衝かれる思いがした。
ナサニエルは過去を振り返りながらこう思う
“あれから何年も過ぎ、こうしてすべてを書き留めていると、ロウソクの光で書いているように感じることがある。この鉛筆の動きの向こうにある暗闇で何が起こっているのか分からない気がする。時の流れから抜け落ちたような瞬間に思える。”(p.34)
確かに彼の語る過去は、幾重にも重ねられたヴェールの向こうにある。しかしその中から甦るイメージの数々は息を呑むほど鮮やかだ。(藁ぶき屋根から転落する少年/深夜のタワー・クライミング/グレイハウンドに囲まれて眠る恋人たち/嵐の中のチェスゲーム等々)
精緻な構成と純度の高い文章が素晴らしかった。現時点で今年ベストの小説(2018)