戦下の淡き光

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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861827709

感想・レビュー・書評

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  • 出てくる人出てくる人、謎だらけ。ずーっとモヤモヤが続く。
    過去を振り返って述懐というのが、クックみたいだなあと思いながら読んだ前半。そして少しずつ謎がほどけていく後半。
    美しい表現。

    謎がほどけてもモヤモヤが完全に晴れるわけではないが、それこそが人生なのかも、と。
    余韻が残る。

  • 主人公のナサニエルと姉のレイチェルは、海外へ赴任する父母にイギリスに残される。時は第二次大戦後すぐ。当初は寄宿舎に入るがなじめずにすぐ家に戻り、それからは彼らの世話役の男や奇妙な大人たちと共に生活する。どうやら父母は秘密の仕事をしているようでどこにいるのか、いつ帰ってくるのか、姉弟は何も知らされず不安なままだ。年齢は15歳くらいなのか、まだ子供のナサニエルの目を通して語られるので、世界は不安定で奇妙でわくわくする夢のようだ。周囲を魅力的な大人たちに囲まれ、普通の学生生活から逸脱して様々な経験をするのが前半。後半は、彼が大人になり、母が何故彼らを置いて姿を消したのか、姿を消している間に何をしていたのかを少しずつ探っていく。だが過去のオンダーチェ作品と同様すべては曖昧で、語り手も入れ替わるし何もかもがはっきりしないのがもどかしい。母が子供たちにした仕打ちはあまりにも残酷で、そこに大きな葛藤があったのだと思うがそこもはっきりとは書かれない。ただ思うように生き、後悔も苦しみも黙ってしまいこんだ母ローズをとても愛おしく思った。至る所に美しい場面がちりばめられていて、特にナサニエルと恋人アグネスが、夜中に誰もいない屋敷でグレイハウンドと戯れながら結ばれる場面がすごく印象的だった。

  • まだ空襲の跡も生々しい終戦直後のロンドン。両親が14歳の<僕>と16歳の姉を置いて姿を消し、代わって風変りな大人たちが後見人となった。彼らのもとで<僕>たちは未知の世界に触れる……。母を始め、戦後の余波の中で多くを語らないまま去っていった人々の空白と欠落を埋めようとするかのように、<僕>は事実と空想を交えて回想する。はじめのほうこそ過去の出来事を思いつくまま並べているようにも見えるのだが、中盤から小さな記憶や語られなかった秘密が呼応して立ち上がってきて、何度も胸を衝かれる思いがした。

    ナサニエルは過去を振り返りながらこう思う
    “あれから何年も過ぎ、こうしてすべてを書き留めていると、ロウソクの光で書いているように感じることがある。この鉛筆の動きの向こうにある暗闇で何が起こっているのか分からない気がする。時の流れから抜け落ちたような瞬間に思える。”(p.34)

    確かに彼の語る過去は、幾重にも重ねられたヴェールの向こうにある。しかしその中から甦るイメージの数々は息を呑むほど鮮やかだ。(藁ぶき屋根から転落する少年/深夜のタワー・クライミング/グレイハウンドに囲まれて眠る恋人たち/嵐の中のチェスゲーム等々)

    精緻な構成と純度の高い文章が素晴らしかった。現時点で今年ベストの小説(2018)

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著者プロフィール

マイケル・オンダーチェ(Michael Ondaatje)1943年、スリランカ(当時セイロン)のコロンボ生まれ。オランダ人、タミル人、シンハラ人の血を引く。54年に船でイギリスに渡り、62年にはカナダに移住。トロント大学、クイーンズ大学で学んだのち、ヨーク大学などで文学を教える。詩人として出発し、71年にカナダ総督文学賞を受賞した。『ビリー・ザ・キッド全仕事』ほか十数冊の詩集がある。76年に『バディ・ボールデンを覚えているか』で小説家デビュー。92年の『イギリス人の患者』は英国ブッカー賞を受賞(アカデミー賞9部門に輝いて話題を呼んだ映画『イングリッシュ・ペイシェント』の原作。2018年にブッカー賞の創立50周年を記念して行なわれた投票では、「ゴールデン・ブッカー賞」を受賞)。また『アニルの亡霊』はギラー賞、メディシス賞などを受賞。小説はほかに『ディビザデロ通り』、『家族を駆け抜けて』、『ライオンの皮をまとって』、『名もなき人たちのテーブル』がある。現在はトロント在住で、妻で作家のリンダ・スポルディングとともに文芸誌「Brick」を刊行。カナダでもっとも重要な現代作家のひとりである。

「2019年 『戦下の淡き光』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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