- Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
- / ISBN・EAN: 9784861829567
作品紹介・あらすじ
ミダック横町が過ぎ去りし時代の偉大なる遺産で、かつてはカイロの街に真珠のごとく光り輝いたであろうことは間違いない。
カイロの下町に生きる個性豊かな人々の姿を軽妙に描く、
ノーベル文学賞作家による円熟の傑作長編、本邦初訳!
カフェ店主、理髪師、女衒、寡婦、政治家、詩人、物乞い。1940年代エジプト・カイロの下町に生きる人間群像、近代庶民の「千夜一夜」をノーベル賞作家ナギーブ・マフフーズの円熟のペンが鮮やかに描き出す。
『ミダック横丁』がこのたびアラビア語の文語・口語いずれにも精通した翻訳者の手により成った。この翻訳が日本の読書界を潤すことを願ってやまない。
藤井章吾(元大阪大学外国語学部アラビア語専攻准教授)
感想・レビュー・書評
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1940年代、エジプト・カイロの下町に生きる人間群像をノーベル賞作家ナギーブ・マフフーズの円熟のペンが鮮やかに描き出す。
エジプト文学を読むのは、おそらく初めて。
カイロの下町、ミダック横町を舞台に、そこに生きる多彩な登場人物の豊かな描写が魅力的。気性が激しく俗物的という印象が強い。そして、戦争の影響。起こってしまった悲劇。
時代を感じる部分もありつつ。とんでもないなと思いつつ。(特にキルシャ氏よ。)おもしろかった。アフィーフィ夫人とハミーダの母の応酬?がすごかったな。
登場人物の中では、やはり、人々に愛されるさすらい人のダルウィーシュ先生が一番印象的だった。
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エジプトの首都カイロの1944年~45年ごろを舞台にした長編小説。金持ちが乗る交通手段は馬車、家には電気が届いていないという生活が描かれる。ミダック横丁に住む若者は刺激を求めて外の世界へ巣立つことを夢見ており、大人たちはそれぞれの持つ怠惰な欲望と戯れている。
イギリス軍の駐留がもたらす外貨、風習などの異世界的価値観がミダック横丁を揺さぶることになるのだが、外国の軍隊は直接的に語られるわけではなく、<見えないが在るもの>として描かれる。このあたりは、作者の考え方が顕れているのかもしれない。外に求めるのではなく内に問う、そのような態度があるのではないか。
章ごとに描かれる登場人物が変わり、それぞれの章の人間描写の奥深さに、読書の至福を味わう思い。心理を描写するわけではないのだが「手に取るように心理が分かる」式の小説で、おそらく翻訳も良いのだと感じる。
割と牧歌的な前半から中盤を過ごすと、悲劇に向かって一直線の終末が待っており、読ませる。映画化・ドラマ化には最適だろうなと思わせる展開。
しかし一方で、映像では表現しにくいだろうと思われる「悲劇も喜劇も飲み込んで泰然とした横丁」だという、文字の芸術でなければ味わい得ない表現も散りばめられていて、深い満足感がある。 -
エジプトの作家さんの本は初めて読んだかもしれない。第二次世界大戦中のエジプトの下町(?)に生きる庶民の生活が描かれていて、面白かった。ここに描かれるエジプト人の性質や生活は、やっぱり、日本人のそれとは全然違った。この小説に登場するエジプト人は激しい人が多くて、なかなか共感はできにくい感じだったけれど、興味深かった。今もエジプト人はこういう感じなのだろうか?
あと、図書館で借りたこの本、まだとてもきれいで新品のような状態だったのだけれど、紙に油の匂いが染み込んでいると思うくらい油臭くて(以前に借りた人が揚げ物のお店の人だったのか?)、それがなんとなくエジプトのイメージに合うというか…エキゾチックな気分を盛り上げてくれて印象的だった。 -
アラーの神を信じる人達の本を読んだのは
初めてかも知れない。横丁の人達の人間模様や
心のうちは理解出来るが不具を作ったり、死人の金歯を抜いたり、壮絶なラストの直情的なところは一日本人の感覚からみると驚く事ばかり。
ユダヤ人との関わり方や先の大戦での
エジプトの立ち位置に関しては事実と思われるので今のガザ紛争の問題を知る上でも良い本だった。
何より翻訳が上手い! -
原著が1947年、英語版が1966年、日本語版が2023年に出版されて読む。第二次世界大戦中のエジプトはカイロのとある横町に暮らす庶民が織りなす様々な人生模様が興味深い、著者は実話を参考に物語を語っているのであろう。
あまり馴染みのないイスラム教の国の人々の暮らしでも、どの国の人にでも当てはまる様な普遍的な諺や教えに共鳴する、忍耐こそが喜びの扉を開く鍵となる、神は自らを助く者を助ける、最終章の死を恐れる愛など本当の愛ではない、など心に響く。
ハミーダへのアッバースの純愛の関係だけでなく横町に住み関わる人々の本音と建前が伝わり印象深い本となり、著者がノーベル文学賞受賞者としてなるほどと感じた。 -
本から臭いが立ち昇るかのように描かれるエジプトはカイロのうらぶれた横町の生活。
朝に何が起ころうと夕方にはすべて忘れられてしまうのだ。 -
ミダック横丁に生きる雑多な人達。皆それぞれに自分の欲望に可笑しいくらい忠実に生きている。
老舗の喫茶店を営むキルシャ氏は本業の他にハッシ-シを売りさばき、自分も仲間と楽しむ。時々悪い虫が出て、若い男にうつつを抜かす。養母に愛されて育ったが、美しい顔と自慢の容姿を着飾る為の、富への憧れがきわめて強いハミ-ダ。激しい気性をしており、相手が男であろうと言いたい放題で体当たりでぶつかり、思いのままにしようとする。理髪店のオ-ナ-、アッバ-ス。ハミ-ダに首ったけ。イギリス軍の基地で稼いでくるからとハミ-ダとの婚約に漕ぎ着ける。生真面目で温厚で、疑うことを知らなくて、一途で。自分が稼ぎに出ている間にとんでもないことになっているとも知らずに。五十歳近くになって、再婚願望の熱が高まった、スナイヤ.アフィ-フィ夫人。仲人のプロが生業のハミ-ダ母の紹介で無事に結婚まで話は進むが、たっぷりお礼をしてもらうわよとハミ-ダ母に随分とむしられる。スナイヤ自身も花嫁になるために溜め込んだお金を使っていく。ドクター.ブゥシ-に歯の治療を頼み、金の入れ歯を入れる。ブゥシ-は正式な歯医者ではないが破格の治療費で人気がある。さて、その金歯はどこから来るのか。ミダック横丁のパン屋のおかみさんのホスニ-ヤは豊満な肉体を持ち、何かと亭主を殴る。それが趣味みたいに。パン屋の奥にある小部屋に住むザイタは、人工的に不具者を作り出す悪魔のような汚い男だが、密かにホスニ-ヤに欲望を抱く。いやはや全て書ききれぬ。皆んな己れの本能のままに、生きて行くのだ、どこまでも。 -
初めて読むエジプト文学
カイロの下町、ミダック横町に住む人物の多彩さ
同時に進行するそのひとたちの物語が魅力にあふれている
特に激しい気性の女性たちに目がくぎ付けだった
著者はノーベル賞受賞作家